軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

139:脱出と白豚令嬢の決意

「ブリトニー!!」

振り返ったリカルドの顔は、真っ青だった。

背負っていた私から離れた彼は、必死に私を引っ張って通路の向こう側へ連れて行こうとする。

しかし、壁に挟まって停止している私の体は、なかなか抜けない。

「くそっ! 間に合わない!」

徐々に追っ手の姿が迫って来る。

知らない相手なので誰だかわからないが、宮廷貴族の護衛やお抱え兵士のように見えた。

そんな戦闘のプロっぽい相手が、壁に挟まった私をめがけて走ってくるのだ。

(ひぇ〜! 直接の関係者はノーラやメリルだけど、コレ絶対にヤバいやつだよ!)

私は、もぞもぞと精一杯体を動かす。

リカルドが引っ張ってくれたおかげで微妙に通路の出口に近づいてはいるが、あと一歩だというところで止まってしまっている。

「リカルド、あなただけでも逃げて!」

「あんまり馬鹿なことを言うと怒るぞ? 俺がなんとかするに決まっているだろ!」

「でも、今のリカルドは丸腰じゃ……」

「護身用の短剣なら持ち歩いている。ちょっと頼りないが、ないよりマシだ」

挟まっている私の下をくぐり抜け、リカルドは敵と対峙した。

太い首だけを動かし、私は必死で背後の様子を窺う。

(ぐぬぬぬ、抜けろ、私の体!)

挟まっているのは、上半身の二の腕と尻の部分だ。

(もう少し体を横にすれば抜けそうなんだけど、そのあと一歩が……ぐぬぬ、ぐぬぬぬ)

奮闘していると、リカルドが追ってきた男たちと戦い始めた。

「リカルド!」

悲鳴を上げつつ体をひねっていると、同時に体がスポンと横向きになった。

(おお、抜けた!)

これなら、横歩きで壁の間を通って外に出られる。片足で動かなきゃいけないけれど……

急いで東の庭を抜けきった私は、細い通路の向こうにいるリカルドに声を掛けた。

「無事に脱出できたよ! リカルド、あなたも早く逃げ……って、ええええっ!?」

見ると、通路の向こう側では、既にリカルドが敵を倒した後だった。瞬殺である。

(強っ……!? リカルドって、こんなに強かったっけ?)

彼はするすると壁の間を通り、私の方までやって来た。

「ブリトニー、怪我はないか?」

「いや、それ、私のセリフ……私は壁に挟まっただけだし、この通り元気だよ。リカルドこそ、大丈夫なの?」

「ああ、まあ、あれくらいなら」

「いや、相手、戦闘のプロっぽかったよね!?」

「剣は毎日鍛錬しているんだ。今回は、たまたま相手が弱かっただけだろ。それに、新手が来るかもしれないから油断できない」

短期間で、リカルドはどんどん強くなっているようだ。恐ろしい速度である。

(そのうち、リュゼお兄様クラスになるかもしれない……)

話をしていると、マッチョ小隊のメンバー、そしてアンジェラとエミーリャが走ってやってきた。

(いやいやいや、危ないし、王族の二人は来ちゃ駄目なんじゃ……)

ノーラとメリルは、無事に保護されたようだった。

「ブリトニー、リカルド、大丈夫だったかい? 襲ってきた相手というのは……」

「あれです、エミーリャ殿下」

エミーリャの言葉に、リカルドは背後で伸びている男たちを指した。

アンジェラが小隊メンバーに彼らを拘束するよう命令する。

「後のことは、私たちにお任せになって。王宮で起きた事件ですもの、こちらできちんと処理しますわ」

「あ、ありがとうございます。アンジェラ様……あの、このことで少しお話がしたいのですが」

「何かしら?」

「ノーラとメリル殿下が、見てはいけないものを見てしまったと言っています。そのせいで追われたと……この先、彼女たちが危険にさらされないか心配なので、まずは、二人から正確な情報を聞きたいのですが」

「ええ、そうですわね。マーロウお兄様も呼びましょう。巻き込まれたブリトニーやリカルドも同席しなさい。今後狙われる恐れがあるのは、二人も同じですからね」

「はい……」

今回の事件で、メリルが目撃したものが何なのかはわからない。

だが、もしかすると、マーロウが死亡する事件につながるものを見たのではないだろうか。

原作でマーロウが殺されるのは数ヶ月先だけれど、悪党たちの計画は早くから進んでいたはず。

(メリルが目撃するのが、少し早くなってしまっただけかも……私とリカルドの転倒現場を見て、東の庭を逃げ出してしまったせいで)

王太子殺害事件について、いよいよ本腰を入れなければならない時が来た。

(少女漫画のことを話すのは気が引けるけれど、この際、言っておいた方が安全だよね。そのことを話せる相手は、私の過去について知っている人物……この国の中では、リュゼお兄様とリカルドとエミーリャ殿下)

迷った末、私は三人に真実を打ち明けることにした。味方は多い方がいい。

(エミーリャ殿下は、兄のセルーニャ殿下経由で真実を知っている可能性が高いし)

馬鹿にされるかもしれないが、彼らなら動いてくれるかもしれない。

そんなことを考えつつ、私はノーラとメリルの避難している部屋へ向かった。