軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

130:白豚に王太子妃は無理だった

「そういえば、マーロウ様。最近護身術は極めていらっしゃいますか?」

「ああ、結構前にブリトニーに教えてもらったアレか。一通りは問題なくできるようになったぞ」

「不審者には、くれぐれも気をつけてくださいね。それから……」

そこまで言いかけで私は口をつぐんだ。

本当は、「他人を庇ったりしないで自分を守って」と言おうとしたのだが、それだと少女漫画ではメリルが死んでしまう。難しい問題だ。

(私がその場にいれば……いや、私も身を犠牲にして彼らを助けることくらいしかできないな。リュゼお兄様を召喚するしかない?)

私の祖父や従兄は、戦闘面でかなり頼りになる。

少女漫画で王太子が殺されるのは冬頃で、今は夏が始まったところだ。

王都は早くも猛暑になりそうな様相を見せており、城内もデブには辛い気温である。

(……そういえば、どうしてメリルは殺されそうになったんだっけ?)

少女漫画で事件が起こった状況をよくよく思い返してみると、一連の街道問題事件にメリルが絡んでいたという事実が浮かび上がる。

(そうだ! 悪い貴族のしていることに気づいたメリルが、単独で調査に乗り出すんだ!)

普通なら、その貴族の怪しい行動を誰かに知らせるところだが、街道問題の詳細を知らない上に好奇心旺盛なメリルは一人で敵を探るという無謀な行動をしてしまうのである。

その途中で相手に勘づかれ、証拠隠滅とばかりに暗殺者を送り込まれてしまう。

普通は王女をいきなり殺そうなんてことはしない。するかもしれないが、なるべく避けると思う。

だが、メリルの場合は、もと平民ということで貴族から嘗められがちなのだ。

(今のこの世界は、少女漫画と全く同じ状態じゃない。でも、少女漫画と同じ事件が起こる可能性はある)

現に、私が十二歳の頃にはアンジェラの話し相手になる打診が来ていたし、北の国が攻めてきたときにはリュゼが少しだけピンチだったし。リカルドはマーロウの取り巻きだ。

(メリルだって、ちゃんと王女として現れた)

油断できない状況だし、マーロウを守るだけでは足りない。

街道の話が出ているということは、やっぱり少女漫画通りに事が運んでいる。

(マーロウ様を守ることも大事だけど、メリルを止めることがもっと大事だよね……もし、あの子が危険なことに首を突っ込めば、芋づる式に他の人も危険な目に遭ってしまうかもしれない)

一人で考え込む私を、マーロウが不思議そうに見つめている。

「ブリトニー、どうしたんだ? 具合が悪いのか?」

「いいえ、大丈夫です。少し休んだし、部屋に戻りますね」

苦労して立ち上がろうとする私に手を貸そうとして、マーロウがよろける。

華奢な彼は、私の重さを支えきれなかったのだ。

(……なんか、申し訳ない)

やりきれない気持ちになった私は、彼にすみませんと謝ると、そそくさと……いやフウフウと醜態をさらしながらその場を去ることしかできなかった。

「ブリトニー」

去り際、ふとマーロウが私に声をかける。

「さっき言ったこと、私は割と本気だからな」

「へ、本気って?」

「だから、婚約のことだ。私から強引なことはしない。だが、ブリトニーの返答次第では動くつもりだ」

「……っ!」

思わず言葉を失った私を見るマーロウの顔は、真剣なものだった。

「とはいえ……残念ながら猶予はあまりない。大臣から逃げ回るのもそろそろ無理だろうしな」

「……マーロウ様の事情はわかりました。ですが、私に王太子妃は務まりません」

「ブリトニーの仕事能力は、リュゼも買っているが?」

「いや、私がやっているのは、王太子妃業務とは全く別物というか……リュゼお兄様のフォローがあって初めて成り立つものというか」

「こういうことはあまり言いたくないが、愛妾なら?」

「……いや、正直それも微妙です。せっかくの良いお話ですが、申し訳ありません」

マーロウと一緒になる未来は、現実的に思えない。

彼は、しばし私を見つめると「そうか」と言って悩むそぶりを見せる。

「ブリトニーの答えはわかった。少し考えることができたのでまたな!」

「は、はい!」

本人からの婚約の提案を面と向かって、お断りしてしまった。

マーロウとメリルを守ろう大作戦を実行に移したいのだが……ちょっと気まずい。

(冬までになんとかせねば、なんとか……! とりあえず、マーロウ様は後回し。先に元凶となるメリルの対策をしよう!)

そう決めた私は、フウフウ言いながらメリルのもとへ向かう。

活動的なメリルは城内よりも外を好む。ついでに、お気に入りの場所は城の前庭、一番大きくて華やかな庭だ。うん、彼女らしい。

「あ、いたいた! メリル殿……」

彼女に駆け寄ろうとした私は、そのまま進もうとして歩みを止めた。

「あ、あれ?」

明るい光に照らされる、色とりどりの花々に囲まれた庭の中央で、可憐な金髪の美しい王女は…………凶悪な表情の令嬢軍団に詰め寄られている最中だった。