軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

115:誤解と二人きり

午後の中庭は、穏やかな空気に包まれていた。

しかし、私の心の中では季節外れの大嵐が吹き荒れている。

エミーリャに連れられ、私は、リカルドたちの元に到着した。

リュゼのこともあり、彼と顔をあわせるのは気まずい。

(挙動不審にならないように気をつけよう。リカルドは、リュゼお兄様との間にあった話を知らない)

ただでさえ心労の多い彼に、余計な心配はかけたくなかった。

エミーリャ王子が、談笑中の三人に声をかける。

「やあ、楽しそうに何を話しているんだい?」

すると、三人が同時に振り返った。

「エミーリャ王子にブリトニーじゃないですか。こんにちは」

人の良さそうな笑みを浮かべたルーカスが、私たち二人を歓迎する。

私を見て柔らかな笑みを浮かべたリカルドの反応に、心臓の鼓動が自然と早くなる。

私も、彼に小さく微笑みかけた。

「こんにちは。偶然窓から三人が見えたもので」

話し出すと、横からエミーリャも加わる。

「そうそう。それで、思わず来ちゃった。本当はアンジェラ王女と話をしようと思ったのだけれど、また怒らせちゃって……締め出されてしまったんだ」

肩をすくめるエミーリャに向けて、ルーカスが静かに笑った。

「またですか。あなたも懲りない人ですね、どうせ彼女をからかったのでしょう?」

「そんなことはしていないよ。今日も美しいねと褒めただけなのに。真っ赤になって怒ってくるんだから」

……と言いつつも、エミーリャ王子は、アンジェラの反応を楽しんでいるようだ。彼の飴色の瞳は笑っている。

話を聞いたルーカスは、呆れた表情を浮かべ口を開いた。

「ほら、そういうところが駄目なのです」

「これでも進歩しているのになぁ。前は二十秒で追い出されたけれど、最近では二分程度一緒にいられるんだよ?」

「……それは、進歩というのでしょうか?」

この二人は、なかなか仲が良いようだ。漫画の中でも、仲良しな良きライバルという関係だったので、もともと気が合うのかもしれない。

「ところで、楽しそうになんの話をしていたのかな?」

エミーリャの質問には、メリルが得意げに答えた。

「ふふ、国王の直轄領の運営についてよ。アスタール伯爵領が、どんなことをしていたのか、リカルドに聞いてみたら、すごく面白くて!」

それでメリルは興奮していたらしい。

(……嫉妬していたのが、バカらしくなってきたわ)

しかし、彼女はその後に微妙な言葉を続ける。

「リカルドってば、なんでも詳しく教えてくれて。とっても誠実で素敵よね!」

メリルの言葉を聞いて、モヤモヤが再発した。しかし、横から声をかけられ、それらは霧散する。

「しばらくぶりだな、ブリトニー。最近変わりはないか?」

話しかけてきたのは、リカルドだった。

彼と会えて嬉しいが、胸のうちには複雑な思いがある。

「うん、元気だよ、リカルド。特に……変わりはないかな?」

私は、曖昧な笑みを浮かべて返事をした。

(駄目だ、かなり気まずい……!)

リカルドのことは好きだし、一緒に話ができて嬉しいのに、頭のどこかで彼との婚約反対という現実が浮かんでくる。

「……どうした、ブリトニー? 様子がおかしいが」

「なんでもない。ぐふふ」

不自然な笑いを見抜いたのか、リカルドの緑色の目が細まる。

「どう見ても、なんでもないという態度じゃないだろ。何があったか知らないが、遠慮せずに言え」

「いや、あの……」

うまく取り繕えずに焦っていると、リカルドが強引に私の手を引いた。

「申し訳ありません。ブリトニーと話があるので少し外します」

馬鹿正直なリカルドの言葉に、ルーカスが頷いた。

「お好きなだけどうぞ。僕らはここにいますから、まだまだ話したいこともありますし」

「すまない、すぐ戻る」

私の手を握ったままのリカルドは、中庭を抜けた先にある回廊に私を連れ出した。

回廊の柱に背を預け、二人並んで立つと、リカルドが気まずげに切り出す。

「俺が、なにか気に触ることをしたのか?」

予想外の反応に、私は慌ててそれを否定した。

「ち、違う! そうじゃない、リカルドは何も悪くないよ!? 無実です!」

「だが……」

これ以上隠し立てすれば、リカルドがあらぬ方向に誤解しそうで困る。

(黙っているつもりだったけど)

動揺をうまく隠せない私は、誤解を避けるために洗いざらい全てを話す他なかった。

「実はね……」

私は、リュゼとの間にあったことを告げる。

「ごめんね、リカルド」

こんな話を聞かせて、さぞ傷つけてしまっただろうと申し訳なく思ったが、その話を聞いたリカルドは案外落ち着いていた。

「やっぱり、そうだったか。少しだが、リュゼがブリトニーを想っている気がしていた。本人は否定していたが」

「……えっ、いつの話?」

「十四歳の夏のことだ。あれは、婚約保留の話が出た時だった」

「そんなに前から!?」

「確信はなかったが。一緒に暮らしていたのに、全く悟らせないリュゼはすごいな。俺には、できそうにない……思い切り態度に出てしまいそうだ」

素直さが、リカルドの良いところだと思う。

「でも、そうか。嫌われたわけじゃなくて安心した」

微笑むリカルドだが、安心できる状況ではない。

リュゼは、私たちの婚約をなかったことにしようとしている。というか、してしまった。

心の中で、焦りだけが募る。

「さっき、他言無用ということで、エミーリャ王子に相談したのだけれど。一度、広い世界を見たほうがいいと言われたわ。詳しく聞いていないけれど、彼なりの考えがあるみたい。私は、その話に乗りたいと思っている……お兄様の許可が出れば」

「話からすると、エミーリャ殿下は、ブリトニーをどこかへ向かわせるつもりだろうか。だとすれば、俺も同行したい。彼に言ってみるか」

「でも、いいの?」

「ブリトニーが心配なのもあるし、俺もお前と一緒にいたい。ブリトニーは無自覚だが、結構男に人気がある」

「いや、それは勘違いだから」

確かに、一時期痩せた時は化粧詐欺効果も相まって、男性から注目を浴びた時期がある。

しかし、その後リバウンドして真相が広がり、当時私に関心を持っていた男性陣は、白豚令嬢にすっかり興味をなくした。ルーカスが良い例だ。

「だが、リュゼだって、マーロウ殿下だって、ブリトニーを気に入っている」

「……マーロウ様は、単にデブ専なだけだと思う。リュゼお兄様は……まあ、驚いたけれど」

「リュゼには、なんと言ったんだ?」

「まだ、何も。リカルドとの婚約を否定されたことで、私が動揺しちゃったから、少し考えて欲しいって……お兄様にも悪いし、ちゃんと向き合わなきゃと思ってはいるのだけれど」

「そのことも含め、エミーリャ王子の提案に乗ってみるのもいいかもな」

「うん……」

「俺も、もう一度リュゼに会って直接話をしようと思う」

「ありがとう、リカルド」

誤解が解け、結論が出たところで、二人揃ってルーカスたちのところへ戻る。

少女漫画の主役メンバーたちは、まだ楽しそうに会話を続けていた。