軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

113:意外な相談相手

リュゼから婚約話を持ち出された私は、悩みの尽きない日々を送っていた。

毎日、自室で悶々と仕事をしている。

(誰にも相談できないところが地味に辛い)

リカルドにこんなことを言えないし、私を溺愛している祖父に言えば大賛成されそうだ。マリアもおそらく賛成するだろう。

祖父は私が他所に嫁入りすると寂しがるし、マリアたちメイドは、リュゼ信奉者が多い。

普通の悩み事なら相談できるノーラだが、彼女に婚約のことを言うのは怖すぎる。リリーも同じだ。

なにしろ、二人とも、リュゼに惚れている。

かといって、マーロウ王太子やアンジェラに相談なんて無理だ。

王族相手に、何を言っているのだという話である。

(自分で考え抜いて結論を出すしかなさそう)

唸りながら、卓上に置かれたドーナツをつまむ。

これは、先日リュゼに会いに来たマーロウ王太子の土産だ。なぜか笑顔で手渡されたので、そのまま部屋に持ち帰っていた。

彼は、やたらと私に甘い食べ物を渡したがる。

(とはいえ、自分のことばかり考えていられないな。他にも、考えなければならないことが出てきたし……)

その筆頭は、少女漫画の主人公の行動である。

王女メリルの言動は、早くも王宮内に数々の波紋を呼び起こしていた。

男性ウケは非常に良いのだが、そのぶん多くの女性の反感を買っている。同性の敵を作りやすい性格なのだ。

「アンジェラ殿下がおかわいそうですわ。あんなに、苦労をされて」

「あの方の態度には、我慢なりませんわ!」

「アンジェラ様のために、私たちが動くべきじゃないかしら。一度、王宮で暮らす者のあり方というものを知らしめてやったほうが……」

城内では、そんなことを言う令嬢も出て来ている。

そういう話を聞かされるたび、私はやんわりと彼女らを押しとどめた。

下手を打つと、アンジェラ様の責任になるかもしれないと。

今も、アンジェラは、一生懸命メリルを指導している。効果は今ひとつのようだが……

現状、メリルは着々と敵を増やしており、第二王女に反感を抱く令嬢たちは、手っ取り早い対抗馬のアンジェラに擦り寄り、無意識に彼女を担ぎ上げようとしている。

(まったく、アンジェラの名前を勝手に使わないでよね)

これでは、まるで第一王女自身が彼女たちを誘導し、妹をいじめているように見えてしまう。

(城でよく会うメンバーは平気だと思うけれど、他の令嬢の行動はわからない)

早まってメリルに喧嘩を売るものが出なければ良いが、すでに行動に出ている者がいるかもしれない。

(これじゃあ、原作みたいなイジメ展開になってしまうかも……)

そして、最悪の場合、アンジェラは断罪されてしまう。彼女と親しい私やノーラも危うい。

そんなことを考えると、私の手はまた無意識にドーナツへ伸びるのだった。

(い、いかん! またリバウンドしてしまう!)

胸の内にうずまくモヤモヤを断ち切るため、私は昼過ぎに城内へ向かった。

仕事もひと段落したし、リュゼと会っても、どう接すれば良いのかわからない。

いや、向き合わなければならないと頭では理解しているのだが、そのために考える時間が欲しかった。

城の東側に足を踏み入れた私は、すぐ知った声に話しかけられる。

「お、ブリトニーじゃん! いいところへ来たね!」

声のする方を見ると、笑顔のエミーリャ王子が立っていた。

「こんにちは、エミーリャ殿下も東の建物に用事ですか?」

「ああ、うん。アンジェラ王女に会いに来たんだけど……また締め出されちゃった」

「……そうですか」

南の第三王子エミーリャは、アンジェラの婚約者候補だ。

彼は第一王女アンジェラに好意を持っており、アンジェラもまんざらではない様子なのだが、素直でない彼女は、意地を張ってエミーリャに度々心にもない言葉をぶつけている。

もっとも、寛容な赤髪の王子は全てをお見通しなので、大きな問題は起きていないのだが。

今日も、彼はアンジェラにちょっかいをかけて追い出されたらしい。

エミーリャは、それすら楽しんでいる節がある。

「ところで、ブリトニー。交易の件、君の従兄に頼んでくれたのだね、感謝するよ。君自身が動くのかと思っていたけれど」

「私が表立って動くより、従兄に頼んだ方が早いので」

「……この国も、大変だね。ブリトニーは、南の地で生活する方が向いていそうだな」

外国へ行くよりも、ここでのんべんだらりと生きている方が性に合う。

そう言おうとして、私は気がついた。

そんな生活を続けるためには、リュゼと婚約するのが一番だということに。

(よそへ嫁に行っても、今の生活を続けられるかわからない)

リカルドと結婚しても、その先にあるのは今とは違う世界だ。

宮廷貴族の妻はどんなもので、自分は何をすれば良いのか、将来像が見えず甚だ不安である。

(でも、リカルドのことは好きだし……)

こちらが思い悩む様子を悟ったのか、エミーリャが気遣わしげな視線を向けてきた。

「どうしたんだ、ブリトニー? 悩み事か?」

「いいえ、大したことではないです」

「俺でよければ聞くよ。ちょうど暇をしていたところだし、こういうのは全く関わりのない第三者に話すと楽になるだろ?」

「……いや、でも」

「えっ、もしかして、俺に関わりのある話!?」

「ち、違います! エミーリャ殿下は全く無関係です!」

「なら、話せるよね?」

結局、追い詰められた私は、他言無用を条件に彼に悩みを打ち明けたのだった。