軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

105:春先の庭と暖かな抱擁

アンジェラは、会場を回らなければならないので、すぐに離脱した。

「くっ……まだまだ、話し足りませんわ! 後日、城へいらしてくださる? 絶対ですわよ!」

アンジェラが去ると、彼女を追うように慌ただしくマーロウが移動する。

「ブリトニー、また城で会おう! それはそうと、最近の君は少し痩せ気味なのではないかな?」

言いたいことを言い残し、嵐のように去っていく兄妹だった。

二人がいなくなると同時に、リカルドに声をかけられる。

「ブリトニー、少し外へ出ないか?」

「そうだね。リュゼお兄様は、ダンスが終わらないみたいだし」

大人気のリュゼは、次々に令嬢の相手をしていた。現在の相手はノーラだ。

私の方は特に申し込みがないので、リカルドと二人、隅でまったりしている。

ダンスが苦手だという話を、リュゼがさりげなく広めてくれたからかもしれない。

(社交デビュー直後の舞踏会で、怪我人を出したくないものね)

私たちは、リリーの父親にリュゼへの伝言を頼み、会場につながる庭へ出た。

ちなみに、美少女リリーには、他の男性からお声がかかったようだ。

彼女は会場の中央でくるくる舞っていた。

「春先だから、少し寒かったか。悪い」

庭に出た私に、リカルドが上着を掛けてくれる。

(この世界のドレスは、意外とノースリーブだったりするんだよね。まあ、少女漫画のファンタジーだからなんでもありだけど)

私の服も、ノースリーブの白いドレス。

デビューしたての令嬢たちは、白を着ていることが多いので無難な選択だった。

「それだと、リカルドが寒いんじゃ……」

「俺は長袖だから大丈夫。ブリトニー、手を」

リカルドが照れ臭そうに差し出した左手をそっと握る。その状態で庭を散歩した。

まだ、城の名物であるバラの季節には早いが、目覚めたばかりの春の花々が道の脇の花壇を彩っている。

ダンスに熱中している者が多いのか、庭が広すぎるのか。周囲に人はいない。

「ハークス伯爵領では、元気にしていたのか?」

「うん、事件の処理に追われたり、新しい事業の手伝いをして忙しかったんだ。リカルドは、元気にしていた?」

「ああ、俺もアスタール伯爵領の諸々を手伝ったり、リリーの親たちに引き継いだり忙しかった。そのあとは、王都の学園の卒業試験を受けて無事合格した」

「すごいね。あそこの学園って、卒業が難しいんでしょう? 入ったものの出られずに辞めた人がたくさんいるって聞いたよ」

「ブリトニーに見合う人間になるには、それくらいできなきゃな。俺はこれから城で出世する。領主への道は閉ざされたから、リュゼとは再交渉だけどな」

「私も、お兄様に訴えてみるよ。リカルドと一緒でもお得だってことを、わかってもらえれば良いんだよね。できることを考えてみる」

「そうだな。そう言ってくれるのなら、俺も将来的にブリトニーの良い部分が活かせるように、領地が手に入るよう頑張ろうと思う」

「リカルドは騎士になるの?」

「いや、最初はそう思っていたが……ただ城に雇われて騎士をしているだけでは、ブリトニーを妻にできないだろう。俺は、別の道――宮廷貴族として一定の地位を築けたらと考えている。騎士で功績を立てて爵位や領地をもらう方法もあるが、平和な今の国では難しいからな。むしろ、戦争などが起こっては困る」

この少女漫画の世界では、領地ではなく王都に住まう宮廷貴族というものがある。

一般的には領地に住まず王都で生活し、城に出入りする貴族たちのことを指していた。

これからアンジェラの取り巻きになる私も、そういう括りになる。

過去には、宮廷貴族で王や王子の優秀な側近になり、いい感じに出世して小さな土地を手に入れた者が数人いた。リカルドは、それを狙うつもりらしい。

暗躍して戦を起こし、騎士として手柄を立てて領地を……などと考えない、まっすぐな彼の今の境遇が気の毒でたまらない。

「まずは、リュゼに認められないとな」

「そうだね」

手強すぎる従兄のことを考えた私とリカルドは、どちらともなく深いため息を吐いた。

難しいし、遠い道のりだ。

「ブリトニーから離れたほうがいいと何度も決意したけれど。こうして会うと、瞬時にそれが崩れてしまうな……我ながら情けない」

「いや、勝手に離れられたら、私はショックだから!」

「確かに、逆だと俺も辛い」

「そんな悲観的なことを考えるより、一緒に頑張ろう」

「ああ。その前に、少し頼みたいことがあるのだが」

「え、なに? なんでも言って?」

「これから頑張るにあたって、少しだけ後押しして欲しい。その……」

緑色の視線をウロウロさ迷わせたリカルドは、遠慮がちに私に告げる。

「……今ここで、ブリトニーを抱きしめてもいいだろうか?」

「え、ええっ!?」

「やっぱり、駄目か。まだ、婚約したわけではないからな。無理にとは言わない」

「だ、駄目じゃない! むしろ、う、嬉しいというか、その」

恥ずかしくて言葉を濁した私を、リカルドの緑の双眸がじっと見つめる。

「いいのか?」

「……も、もちろん」

微笑みを浮かべると、彼の腕がぎこちなく伸びてきて、優しく私を包み込んだ。

(……暖かい)

少し離れた会場からは、相変わらずダンスの音楽が流れて来る。

そんな中、私もリカルドの腰にそっと両腕を回してみた。