軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

最終話 きっと彼女は側妃にならない。

「正気ですか?」

パブロは側近の声で我に返った。

「本気でスサナ様を側妃としてお迎えになるおつもりなのですか?」

側近が続けた言葉に愕然とする。

パブロは公爵が去った後、王宮内の礼拝所で守護女神に祈りを捧げていたのだ。

女神の声が聞こえたような気もするが、自分に対してかけられた言葉ではないように感じたことも覚えている。

「……もう公爵家へ書状を送っている」

なぜなのかはわからないけれど、パブロは過去に戻ってきたようだ。

学園在学時、エスタトゥアと体を重ねる前なら良かったのに、残念ながら今はスサナに側妃入りを勧告する書状を送った後だった。

戻る前と同じ言葉で側近に答えたが、パブロの声は以前と違って震えていた。スサナを側妃にしても不幸な結末しか与えられないとわかっているからだ。

「長年の婚約を解消した上に側妃入りの要請だなんて、王家と公爵家が戦争になっても不思議はありませんよ?」

「ああ、そうだな。だが……」

一瞬守護女神が自分を救ってくれたのかと考えたものの、そんな上手い話はないと心のどこかで気づいていた。

守護女神が救うとしたら婚約の誓いを破り、側妃にしてさえ非道な扱いをしたパブロではない。

女神が救うのはスサナのほうだ。パブロに聞こえなかった女神の声は、おそらくスサナに語りかけていたものだったのだろう。

前のときのパブロは、この後自信に満ちた言葉を側近に返した。

王子を出産したエスタトゥアとしばらく体を重ねていなかったことで、パブロは魅了から解放されていた。

自覚のないままスサナへの愛に浮かされ、公爵令嬢からの愛を確信していたのだ。でも今は違う。前とは逆の言葉を側近へと返す。

「きっと彼女は側妃にならない」

「……そうですね。殿下に婚約を解消されたスサナ様が、国の犠牲になる必要はありませんからね」

殿下と呼ばれて、パブロは父王の生存に気づいた。

時間が戻ったのではなく 未来視(さきみ) だったのだろうか。

このままパブロの思うままに進んでもだれも幸せにならないと、女神が教えてくれたのかもしれない。

どう足掻いてもスサナを幸せにすることは出来ないのだ。

魅了のことを暴いて王妃を排除しても、時間が戻る前の公爵と同じようにスサナはエスタトゥアの産んだ子どものことを案じる。

王妃を排除した自分が、なに食わぬ顔でスサナと再婚することも出来はしない。

未来視(さきみ) だったとしても時間が戻ったのだとしても、スサナにははっきりとした未来の記憶はないのではないかと、パブロは思った。

あんな記憶、スサナにとっては悪夢でしかない。

だから女神は彼女に言葉で忠告していたのだろう。

(しかし寒波に備えることで父王なら救える。罪深い私には過剰なほどの女神様の慈悲だな。……なぜ)

考えても仕方がないとわかっているのに、パブロは考えずにはいられなかった。

なぜ自分はエスタトゥアを抱いてしまったのだろう。

なぜ側妃に迎えたスサナのことを忘れてしまったのだろう。なぜ学園でエスタトゥアに恋をしたりしたのだろう。

(なぜだ、なぜだ、なぜなんだ……っ!)

答えは出ない。出てもどうしようもない。

ただひとつわかっているのは、きっと 彼女(スサナ) は側妃にならない。

そしてパブロ以外のだれかと幸せになるのだ。

★ ★ ★ ★ ★

神殿で祈っていたら、女神様の声が聞こえたような気がしました。

私がパブロ殿下の側妃となっても、だれも幸せにはなれないと言われたような気がします。

そうかもしれません。王妃であるエスタトゥア様は良い気がしないでしょうし、成長なさった王子殿下も 側妃(私) の存在を不快に思われることでしょう。

私が側妃入りすることで公爵家が王家を支援し、それによって国が安定するのではないかと父を説得しようとも考えていましたが……国全体のことを考えるのは公爵令嬢の役目ではありません。

公爵令嬢スサナはもう、王太子殿下の婚約者ではないのです。

こんなことで悩んでいること自体、こんな私を望んでくれた新しい縁談相手の方に失礼なことです。

──スサナ。離れの庭園は季節と異国を主題にして造られている。王宮にいるだけで世界中を回れるんだ。この小さな世界を君にあげる。

そう言ってすべての離れの庭園で摘んだ花で作った花冠をくれた王子様のことは、これを最後に忘れてしまいましょう。

殿下も私との想い出などお忘れになったはずです。

忘れた記憶の代わりに、新しい縁談相手の方のお顔を思い浮かべます。

彼を愛したいと思いました。

彼に愛されたいと思いました。

恋に落ちることは出来なくても、時を経た未来に愛し愛されているふたりになれると良いと思いました。私は幸せになりたいのです。私を選んでくださる方を幸せにしたいのです。

だから……私は側妃にはなりません。

そう思いながら立ち上がると、守護女神様の像が微笑んでくださったような気がしました。