軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

検品される人々

エンダルジアの都は、中心部に王城が位置しており、王城の周りをぐるりと城壁が囲んでいた。城壁の周囲は大通り並みに幅の広い道路が整備され、王城を中心に十字に4本の大通りが、大通りの間に複数の中小の通りが放射線状に施工された、計画的に整備された都市だった。街並みは変わってしまったが、道路はそのまま使用されているらしい。

エンダルジアの王都の何処からでも見ることができた王城は跡形も無く、今では迷宮の入り口が口を開けているらしい。かつて王族を護った城壁は修復され、今では迷宮から溢れる魔物から住民を護っているそうだ。

穀倉地帯に面していた迷宮都市の北西部は、魔の森の侵食によって規模が縮小されたとはいえ、今でも穀倉地帯が広がっており、迷宮都市内部の北西地区は一般の市民が多く住んでいる地区になっている。ちなみにスタンピードの被害が最も大きかったのはこの北西地域で、魔物の進行を阻むものがない広大な穀倉地帯は、あっという間に魔物の群れに飲まれ、外壁が最初に壊された。王都内部の建築物もことごとく壊されたそうだ。

反対側の南東部は、エンダルジア王国時代と変わらず貴族街で、迷宮都市を治める辺境伯家の城も建立されているそうだ。南西部は山脈との距離が最も近い。山脈を抜ける峠道は険しく大人数での通行や、商隊の往来には向かないが、距離が短いため、万一の場合に逃げ延びやすい区域である。

黒鉄輸送隊の装甲馬車は、都市の南西に位置する防衛都市跡地側の大門を抜け、大通りを王城跡地へと進んだ後、王城前の大通りを西側に回って北東部の山脈側に抜ける。

北東部も山脈に面した区画だ。こちらの山脈からは豊富な鉱山資源が産出される。山脈を抜ける街道は、やはり険しく、馬車での通行はできないが、南東部の峠道よりは安全に通行できるため、魔物にあわずに他国へ渡れる街道として最も利用されているそうだ。

おかげで、迷宮や鉱山からの産出品を扱う商人が集まり、迷宮都市で最も栄えているそうだ。半壊したエンダルジア様式の建物は取り壊され、都市の外周側、山脈に近い方には大型の倉庫を備えた商会が建ち並んでいる。中央部の迷宮側には様々な商店や飲食店、宿泊施設や冒険者ギルドといった、冒険者を相手とする商業施設で賑わっている。

どの建物も、スタンピード以降に建て直されたのだろう、どれも防御性を重視した砦の様な造りで物々しい。

積荷の届け先は、迷宮近くの比較的立地の良い場所にあるらしく、1本裏の通りから裏口に回った。裏口と言っても正面よりも門扉が広く、2重の門扉のなかは3台の馬車が十分に入って荷降ろしできる程度の中庭になっている。

中庭の前面には商会らしき建物が、左右には壁を隔てて獣舎と馬車の置き場、洗い場などがあるようだ。

3台の装甲馬車ごと中に案内され、横並びに止める。

商会の裏口から、責任者らしき、身なりも肉付きも良い男が、2人の部下と数名の下男や警備の男を従えて出てきて、ディック隊長とマルロー副隊長が、帳面を片手に何やら話し始めた。

黒鉄輸送隊の御者台から5人の男達が降りてきて、ラプトルを馬車から外している。中でも年若い少年が隊長の乗っていたラプトルの轡をとると、ヒュイと、口笛のような音をだし、獣舎の方へ歩き出す。

気性が荒いはずのラプトルは、大人しく少年に引かれて行き、馬車から解放された他のラプトルもその後をゾロゾロと付いて行った。

「ユーリケは調教師なんだ。すごいだろ。俺らも行こうぜ。」

リンクスに連れられて、ラプトルの後をついていくと、やはり獣舎になっていて、商会の世話係と思われる男が餌や水を準備して待っていた。魔の森を不眠不休で走り抜けたラプトルに、餌や水を接待してくれるのだとリンクスが教えてくれた。

「餌まで用意してくれるとこは少ないけどな。レイモンドさんは気前がいいぜ。」

客用の獣舎で他の騎獣はいなかった。ユーリケはなれた様子でラプトルを獣舎に繋いでいくと、準備されていた肉と水を与えていった。

逆に世話係の男はおっかなびっくりと言った様子で、餌箱を遠くから押しやるようにして与えている。

『ゲギャギャ』

「ひいっ」

水を零されたラプトルが文句を言うように吠え、世話係の男が悲鳴をあげる。

「よーしよし、そう怒んなー?おかわり入れてやっからー?

そこのアンタ、水たんねーよ?」

ラプトルの鼻ヅラを撫でつつ、ちょっと訛のある喋りで、ユーリケが言うと、ラプトルは途端に大人しくなる。水を要求された世話係の男は慌てて桶に手をかざした。

《ウォーター》

生活魔法で桶になみなみと水が注がれる。どうせなら、ラプトルの水桶に注いでくれたらいいのに。そんな不満は口に出さず、ユーリケは桶を運んでラプトルの水桶に水を足す。

「リンクス兄も、手伝ってくれよー?」

「ほいよ」

ユーリケは14、5歳、リンクスは16、7歳位だろうか。歳が近い2人は仲が良いらしい。リンクスも、まだ餌にあり付いていないラプトルに肉を配っていく。

「マリエラもやってみる?ガッツいてるけど、噛んだりしないぜ」

「当然だし?僕の躾はカンペキだし?」

おっかない肉食獣だけれど、ひたむきに肉を喰らう様子は愛嬌があるし、仲良くなったらつやつやした皮を撫でさせてくれるかもしれない。

(世話係の人も使ってたし、生活魔法は使っても問題なさそうね)

まだ水を貰っていないラプトルの水桶に手をかざす。ラプトルは手の動きを目で追うだけで、大人しいものだ。本当にきちんと躾られている。

《ウォーター》

水を注いでやると、ガフガフと一気に飲んでくれた。

「そんなに喉が渇いてたの?」

問いかけると、

『グギャ』

と返事が返ってきた。

「おかわりってさー?アンタの魔力美味いってさ?」

ちょっと嬉しくなっておかわりを注ぐと、

『グギャ』『グギャ』『グギャ』

我も我もと要求された。

水と餌が行き渡ると、ユーリケとリンクスはラプトルの身体を拭き始める。

マリエラが拭くと『グギュ』とそっぽを向かれた。ユーリケの通訳によると、

「ふにゃふにゃこそばいって?」

お気に召さなかったようだ。代わりに頭は撫でさせてくれた。

思ったよりもさらさらとした手触りで気持ちが良かった。

それにしても、ラプトルはよく喋る。

何を言っているのかは、ユーリケにしかわからないが、そこがかゆいだの、この餌は新鮮じゃないだの、ユーリケの水が一番うまいがマリエラの水もなかなかいけるだのと、口々に騒いでいるらしい。こんなに愛嬌がある生き物だとは思わなかった。

「宿に着いたらたっぷり寝させてやっからなー?もうちょっと頑張れー?」

リンクスとユーリケはせっせとラプトルを拭いており、世話係の男も怖くないと分かったのか、洗い水を替えたり、鞍や鐙を磨いたり忙しく動き回っている。

やることが無くなってしまった。そろそろ荷下しは済んだろうか。何気なく中庭を覗くと、

(え……)

鉄馬車の横に、たくさんの人間が並んでいた。

黒鉄輸送隊の荷物は人間だった。

二台の馬車を挟んでこちら側に男性が、反対には女性が並んでいる。

男達は腰布だけ、女達は貫頭衣だけの姿で、両手は前で縛られている。

(奴隷だ……)

防衛都市にも奴隷はいたし、マリエラが避妊薬を卸していた娼館の娼婦達は皆、借金奴隷か、奴隷上がりの女達だった。

商店の丁稚や冒険者の荷運び人、掃除夫、魔物の解体業など、なり手の少ない重労働に、借金の金額に応じた期間従事するのがマリエラの知る借金奴隷で、身体が資本の仕事に従事させる為、最低限の衣食住を保証することが義務付けられていたし、任期が明けた時のために、小遣い程度の額ではあったが、賃金の積み立て制度さえあった。

マリエラの知る奴隷とはそういうもので、身なりで奴隷とわかるほど、ひどい仕打ちを受けてはいなかったのだが……

そこに並ぶ男達は、皆痩せ細っており、髪も髭も伸び放題で、身体はひどく汚れていた。

商会の下男らしき者が、順番に生活魔法で水をかけ、その場で身体を洗わせ、洗浄が済んだ者を帳面を携えた店員が、家畜を検品するかのようにチェックしていく。

それも、汚い物に触れるように、手指を使わず棒でつつくのだ。

反抗的な者は後ろに控えた警備員が容赦なく引き倒す。

僅かでも反抗したなら、数人がかりで押さえつけ、一層屈辱的な体勢で念入りにチェックをし、終わってからも背中側で手足を縛って、海老反り状態で転がされていた。

それを見た者たちは、口の中に棒を突っ込まれようと、腰布の中を検められようと、皆おとなしく、なすがままとなっていた。

最後尾の男など、怪我をしているのか、立っているだけでフラフラと覚束なく、棒で突かれた反動で前のめりに倒れていた。警備員は、容赦なく髪を掴んで顔を上げさせ、半ば倒れた体勢のまま、全身を棒で小突き回している。

「ひどい……」

思わず声が出る。

「犯罪奴隷や終身奴隷を見るのははじめてかい?」

リンクスに声をかけられてビクリとする。

近付かれたことにも気がつかなかった。

「迷宮都市に送られて、生きて出られる奴隷はいないからな。

輸送中に馬車ごと魔物に殺られる事だってある。

ここはいつだって人手不足だけど、借金奴隷の権利は守られてっから、まっとうな奴隷は連れてこれねーよ。」

犯罪奴隷は殺人や強盗など重罪を犯した者に科せられる刑罰で、終身奴隷は死ぬまで働いても返せないほどの負債を抱えた者がなる。

どちらも人権など無いようなもので、討伐隊の最前列、いわゆる肉壁や、鉱山労働などの、非常に危険で過酷な労働を科せられると聞いた事がある。

「あなた達は、奴隷商人なの?」

思わず聞いてしまった。気にする風もなくリンクスは、

「俺たちは注文を受ければ何だって運ぶぜ。

今回は奴隷だったけど、酒やタバコ、砂糖や香辛料の時もあるし、布地や本、楽器なんかを運んだ事もあったな。迷宮都市はいろんな物が足りてない。騎士隊の定期便か山脈経由のヤグーの商隊だけじゃ、運びきれねーからな。」

と答えた。

「僕は奴隷を運ぶのは一番嫌いだな?

アイツら臭いから、ラプトル達も嫌がるし?」

「垂れ流しだもんな。荷台掃除する身にもなれっつーの。」

まるで家畜を運ぶような感覚の2人に、マリエラは軽く目眩を覚えた。