軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

開店

いよいよ今日は薬屋『木漏れ日』の開店日だ。

陳列棚には、様々な軟膏や飲み薬と言った一般的な薬のほか、洗濯用、食器用、お風呂用と用途ごとに粉にしたり液体にした石鹸や、化粧品などの雑貨類、魔除けの香、虫除けの香、煙玉に眠り玉と言った迷宮探索に使われる消耗品なども取り揃えた。どれだけ売れるか分からないけれど、在庫もリビングにたくさん置いてある。

来てくれたお客さんがくつろげるように、様々な効能のあるハーブティーを中心に、メルル薬味草店で茶葉もたくさん買い揃えた。喫茶店じゃないけれど、コップの数も十分だ。

ジークが店の外壁に、薬屋を示す垂れ幕をかけ、開店を表す立て看板を出す。

アンバーさん達『ヤグーの跳ね橋亭』の皆がチラシと試供品を配ってくれたおかげで、冒険者らしき人たちがやってきて、傷薬が良く効いたと、薬や香、煙玉等をたくさん買っていってくれた。アンバーさんやガーク爺もやってきては、日当たりの良いテーブルでお茶を楽しんでから、薬を買って帰っていった。ゴードン、ヨハン、ルダンのドワーフ3人組も入れ替わり立ち代り様子を見に来ては、いつもの席でまったりしてから何かしら買っていく。

大盛況で大忙しとは行かないけれど、お客が切れない和やかな雰囲気のお店になった。

素敵なお店になったとニコニコ笑うマリエラの傍には、ジークが控えている。その腰には、新しい片手剣が吊るしてあった。

5回の実技講習の最終日に、マリエラがプレゼントしたものだ。

ジークはとても良くがんばったと思う。2日に一度ハゲ…ハーゲイに師事し、立てなくなるまで打ち合う。最初はかすりもしなかったのに、最後は1本とるまでに成長していた。ガリガリだった身体も、 リジェネ(再生) 薬の効果もあってか肉がついて、出会った頃とは別人のようだ。

日々、筋肉をつけて逞しくなっていくジークを見ながら、ゴリマッチョになったらどうしよう、重すぎてヤグーに乗れなくなるかもと、内心心配したマリエラだったが、ジークの成長は程よいところで止まってくれた。

後で話すと、「筋肉をつけすぎたら速度が落ちる。戦闘スタイルに適した体型がある」と説明してくれた。なるほど合理的だ。

ジークはリンクスから借りた短剣しか武器を持っていなかったから、実技講習の最終日に片手剣を用意した。

5日間の実技講習を終え、深く頭を下げて礼を言うジークに、ハーゲイはいくつかアドバイスを与えた後、

「ナイスガッツだったぜ!精進すりゃ、まだまだ伸びるぜ!

嬢ちゃんから卒業記念があるそうだ!そいつでキッチリ守ってやるんだぜ!」

と、講習の修了を伝えた。

「ジーク、講習会お疲れ様。記念に用意したの。使って。」

マリエラがこっそりと用意しておいた片手剣をジークに手渡す。

「マリエラ……。これはミスリルか?こんな良いものを俺に。手にしっくりくる。まるで専用に設えたみたいだ。マリエラが俺に選んでくれた剣だ。大切にする。本当にありがとう。」

ジークは感動した様子で恭しく剣を受け取ると、その刀身を見つめ、跪いてマリエラに剣を捧げる。

「俺の剣は、貴女のために。」

まるで物語のワンシーンのようだ。ジークはマリエラが選んでくれた剣を手に、忠誠を誓う。昂揚したように頬を染め、決意に潤む青い瞳を見てマリエラは、

(言えない……。その剣、ハーゲイに選んでもらったって、言えないよ!)

あいまいに笑って誤魔化した。

剣自体は良いものだ。と言ってもハーゲイの受け売りなのだが、Bランクでもなかなか持てない代物らしい。3回目の講習でいつものようにジークが意識を失った後に、マリエラはハーゲイに相談していた。

マリエラに万一のことがあった場合、奴隷のジークが身を立てるにはどうすればいいか、何か残せるものは無いのだろうか、と。

ハーゲイは講習の最初に鑑定紙でジークの身分を知っているから、相談するには丁度よかった。暑苦しい外見と性格で分かりづらいが、3回の講習を見る限り、只者ではないように思える。

ハーゲイは歯を光らせずに、穏やかにマリエラを、気絶して動けないジークを見ると、しばらく瞑目した後、

「戦闘力のある奴隷は、迷宮都市じゃ貴重だぜ! 何か残してやるんなら、武器を与えてやればいい。手に馴染んだ武器ってのは、奴隷とセットで扱われるもんさ。アイツは立ち振る舞いも悪くねえから、取り上げられることもねえだろうぜ!」

いつもの調子で、ニカっと笑ってそう言った。

どんな武器がいいか分からないと言うマリエラに、いくつか心当たりがあるとハーゲイが答えた。マリエラが全財産の約半分に当たる金貨10枚を提示すると、

「……ジークも苦労するな。嬢ちゃん、そんな大金、ほいほい出すモンじゃねえぜ。」

と呆れながらも、ジークがずっと使い続けられる物を見つけてくると約束してくれた。ハーゲイは、思ったとおりの親切な男だった。

ジークが手にした剣はミスリル製。鑑定紙の結果、ジークには様々な武器、魔法の才能があった。先天的なスキルは弓だが、戦闘を続けていれば剣術スキルも身につくだろう。ただし片目であること、戦えないマリエラの護衛を主とすることから、身体強化を中心とした、魔法を併用する戦闘スタイルで訓練を行ってきたらしい。

「ミスリルは魔力の伝導が良い金属だから、ジークの戦闘スタイルにあっているぜ。しかもコイツは一度魔力を流したら、他人の魔力は流せない。ジーク専用の装備になるぜ。」

ジークに渡したミスリルの剣はハーゲイ一押しの一品だ。手入れをしてくれる鍛冶師も紹介してくれた。至れり尽くせりだ。

マリエラと向かい合い、ミスリルの剣を押し頂くジークの背後で、ハーゲイがずびし!とサムズアップをかましてくる。ニカっと笑って去っていく眩しいハゲ…いやハーゲイ。眩しいのは笑顔だけじゃ、ないんだぜ。

冒険者ギルドの建物に戻ったハーゲイに、一人のギルド職員が近づく。

「ずいぶんとご機嫌ですね。」

「おう、久々に骨のある生徒だったぜ。初め見たときは、あれだけの才能でこの体たらくとは、どんだけぬるい野郎かと思ったが。丁寧に撫でてやってもちゃんと喰らいついてきやがった。きっと嬢ちゃんの躾がいいんだぜ。」

「はぁ。新人教育もいいですが、我々に仕事を投げすぎでは?」

「お前らだけでもやれてるぜ? 新人育成、戦力増強。ここじゃ一番大事だぜ。」

「我々もずいぶんと丁寧に『撫でて』頂きましたからね。でも今回は迷宮討伐軍からの救援要請ですよ。ギルドマスター」

ハーゲイの眉がピクリと上がる。迷宮討伐軍から救援要請?迷宮都市の最強戦力から?まさか。

「直ぐに出る。お前らも準備しろ。留守の守りは『雷帝エルシー』に依頼しろ。」

コイツは厄介なことになりそうだぜ、と冒険者ギルドのギルドマスター『破限のハーゲイ』はつぶやいた。

ジークとマリエラは、冒険者ギルドの売店で鑑定紙を買って帰った。5日間の実技講習でのジークの成長ぶりと、マリエラが200年眠っていた影響を確認しておきたい。

鑑定紙は、決まった項目が薄い魔法のインクで書かれた用紙で、血を垂らして発動させると、対応した項目のインクの色が変わって、対象者の状態を示してくれる。

鑑定可能な能力は、体力、魔力、力、賢さ、器用さ、素早さ、運の7項目で、評価は5段階。体力が1なら、薄いインクでかかれた5個の□の一つが黒い■に変わる。上限を超えると、最後の■は赤くなる、という簡易的なものだ。

スキル欄に関しても、保有者の多いスキル名が羅列してあり、適性があれば黒く、スキルを保有していれば赤くスキル名が変わる。掲載されていないスキルや才能を持っている場合は、『その他』の欄が変色する。

鑑定紙を超える情報は、人物鑑定のスキル保有者に大金を払ってみてもらう必要があるが、職業選択や成長戦略の指針として使うには、鑑定紙で十分だ。

マリエラの魔力は5段階目を振り切っていた。魔力や体力はある程度成長が止まるとあまり変動しない値で、成長が止まると生死の境を乗り越えた時などにいくらか上昇する程度だ。

200年も仮死状態でいた結果だろう。目覚めて以来、魔力が増加した自覚はあったが、4段階だった魔力は鑑定紙の上限を超えていた。正確な値は分からないが、板ガラスを作ったときの魔力切れで大体の感覚はつかめている。地味に嬉しいのは、1段階しかなかった体力が2段階目に上がっていたことだ。一撃即死から一撃瀕死に成長している。やったね。

しかし他の項目に変化は無かった。スキルも錬金術一つだけでかろうじて生活魔法に適正があるだけだ。

ジークはマリエラの魔力を見て驚いてくれたが、マリエラのほうはジークの鑑定紙を見てはるかに驚いた。

ジークは全項目が3段階か4段階だった。5段階評価だが3段階目が平均というわけではない。1段階目が日常生活レベルで、3段階まであればその特性を利用した職業に就くことができる。マリエラは力と素早さが1段階しかなく、錬金術師でありながら賢さと器用さは3段階目だ。なぜか運だけ4段階で唯一ジークより勝っていたが。

錬金術師なのに、ジークのほうが賢いってどういうことだ。

マリエラはこそこそっと自分の鑑定紙を折りたたむと、寝室の箪笥の奥にしまいこんだ。