軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

09.南東の塔

(……夢? 随分、リアルだったな)

マリエラが目を覚ました場所は、眠った時と同じ荷物に埋もれた南東の塔の3階の部屋だった。

「……懐かしい夢を見たし。どうして忘れていたんだろ……?」

ユーリケも同時に目が覚めたようで、目をこすりながら体を起こしている。

ユーリケが見たという”懐かしい夢”。

それは、マリエラが先ほど見た夢ではないのだろうか?

なんととなくそんな気がしたマリエラは、話を聞こうと体を起こす。いつの間に開いていたのか、腰のポーチの蓋が開いていて、中身が幾つか飛び出している。

手ぬぐいにポーション瓶に入れなおした薬晶、調理に使うような小さな折り畳みナイフ。

そんなこまごまとした物と一緒に、茶金の珠がころころと転がっている。

「あれ……?」

白地に朱の珠がない。

何処に転がっていったのだろうとあたりを探してみたけれど、まるで消えてしまったように見つけることができなかった。

「マリエラ? どうしたし?」

「う、うん。白の珠がね……」

そこまで言ってマリエラは、ユーリケの顔をまじまじと見る。

白い肌に白い髪。そんな薄い色合いの中、朱色の瞳だけが輝いているさまは、一種異様であるとも見える。マリエラはとてもきれいだと思うのだけれど、その色合いがもたらす印象は野生生物のそれに近い。

これが調教師の色彩だ。

まるで、白地に朱が混じった、あの珠のようではないか。

「……ねぇ、ユーリケ。ユーリケが見た夢って、帝都でフランツさんと出会った時の?」

マリエラは確信を得るために、その質問を口にする。

「うん。寝言でも言ってたし?」

あぁ、やはり。

ユーリケは「黒い魔物に張り付かれると大切な何かを吸われる気がする」と言っていた。

そして、倒した黒い魔物からはユーリケを思わせる白地に朱色の珠が得られた。

今その珠は無くなって、マリエラはユーリケの過去を夢に見た。

ユーリケ自身が、「忘れていた」という、過去の夢を。

「この珠は、黒い魔物に盗られた記憶だ……」

黒い魔物に張り付かれると、過去の記憶を吸い取られる。盗られた記憶は黒い魔物の中で珠になり、倒すことでマリエラたちの手元に戻る。

珠になった記憶は眠っている間に戻るけれど、ユーリケ本人だけでなくそばで眠ったマリエラも見てしまう。

「うーん、こんな世界だから何でもアリなんだろうけど、にわかには信じがたいし?」

マリエラの説明を聞いたユーリケは、複雑そうな顔で茶金の珠を見つめている。

「うん。ゴメンね、勝手に過去を覗いちゃって……。次に珠が手に入ったら、別の部屋で寝ることにするね」

謝るマリエラに、「それは別にいいし? 驚いただけだし。」とユーリケが手を振る。

「でも、だったら、この珠は何で残ってるし? そもそも、これ、誰の珠だし?」

「うーん。色合いからすれば、エドガンさんの珠だと思う。残っている理由は、近くで寝ていなかったから……かなぁ?」

色々分かったことはあるけれど、不明な点がまだ多い。

マリエラがユーリケと出会う前、サラマンダーが倒してくれた魔物からは珠が得られなかったのだ。単に珠を持っていなかったのか、それとも珠の入手にも何か条件があるのだろうか。

「とにかく、これからは黒い魔物は積極的に倒していくし! 火炎瓶、たくさん作ってよかったし!」

火炎瓶をぎゅっと握りしめるユーリケ。どうやらファイヤーがお気に召したらしい。

後ろでクーも「ギャウ!」と尻尾を振り上げていて、サラマンダーまで「キャウ!」と口から炎を吹きだしている。

全員やる気満々だ。ここはマリエラが冷静に火炎瓶の残数管理をせねばなるまい。

クールに見えて血気盛んで超毒舌。

今までならそんなユーリケを見て、黒鉄輸送隊の隊員なだけあるなぁと思ったのだろうけれど、今なら少し可愛らしくも見えてしまう。

「……私も驚いたよ。ユーリケ、女の子だったんだね」

夢で見なければ気付かなかっただろう。

確かにユーリケは細身で華奢だけれど、毒舌と凶暴なラプトルたちを自在に操る様子から、少年だとばかり思っていたのだ。

「ナイショだし?」

今では人差し指を立てて口元にあて、ナイショという仕草すら可愛らしく映る。

「黒鉄輸送隊のみんなは知っているの?」

「……たぶん? 一人を除いては?」

ずっと一緒に旅をしているのだ。気が付くのが普通だろう。

いや、普通だったら気が付くはずだ。気が付かないヤツは、目か脳が腐っているに違いない。

「……エドガンさんは?」

「……。クー、ほーら、餌だしー!」

餌だと聞いてカパっと開けたクーの口に、エドガンの記憶の珠を放り込もうとしたユーリケを、マリエラは慌てて止めて何とかエドガンの珠をポーチにしまいなおした。

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「北の魔物はエドガンに任して、西側に行くし!」

「うん。まずはユーリケのいた南西の塔だね」

3度目の夜が訪れて、外の水が霧に変わるなりマリエラとユーリケ、そして頭にサラマンダーを乗せたラプトルのクーが4階の南の通路へと飛び出した。

最初の夜に黒い魔物に襲われて、この南東の塔に逃げてきた道だが今はユーリケもマリエラもサラマンダーだって乗っている。クーは意気揚々と夜の外壁へと駆け出していく。

途中小さな黒い魔物が壁を伝って登って来るが、飛び越せるものは躱してやり過ごしていく。魔物を倒せば記憶の珠が手に入るかもしれないけれど、火炎瓶は有限なのだ。いちいち倒していたのでは、すぐに尽きてしまうだろうし、その度に作り直していたのでは北東の塔で魔物を抑えてくれているエドガンの方がもたないだろう。

南西の塔が近づくにつて、黒い魔物の数が増す。

ユーリケの目覚めた南西の塔は、3階は壁がこわれて黒い魔物が入り込み、4階は松明の灯りがまばらだったといっていた。安全地帯とはいいがたい。

南西の塔の直前にわだかまっていた黒い魔物を火炎瓶でファイヤーすると、予想通り珠が得られた。得られた珠は二つあって、一つはエドガンの物と思しき茶金地で、もう一つは青地に金の物だった。

これは誰の物だろう?

その球の色合いにユーリケは心当たりがあったのか、「マリエラ、急ぐし!」と、焼け切らぬ黒の魔物を鞭で叩き飛ばしながら南西の塔4階へとクーを走らせた。

飛び込んだ南西の塔4階は、ユーリケの話した通り松明はまばらで、3階からはマリエラたちに気付いた数匹の黒い魔物で這い出そうと蠢いている。下はもう、黒い魔物の巣窟だろう。

今は火炎瓶があるし、炎からはサラマンダーが守ってくれるから飛び込めないことは無い。

まだ会えていないのは、フランツに、グランドルにドニーノ。行っていない塔はあと2本だから、移動して、行き違ってしまった人がいるのかもしれない。行き違っていなくても、もう2回も夜が過ぎたのだ。エドガンのように魔物を食い止めるような目的が無いならば、移動してしまったと考えた方が無難だろう。

南西の塔から先に進むには3つのルートがあるだろう。

黒い魔物が行き来する4階の外壁上の通路を通って、西の塔へ行くルート。黒い魔物に遭遇する可能性は高いが、恐らく最短で西の塔に辿り着ける。

西の塔へ行くのならば、いったん3階に下りた後、3階の廊下を通るルートもある。こちらなら室内だし、松明が灯っていれば黒い魔物に出会わず進んでいけるかもしれない。けれど、3階の部屋にはだいたい木箱や棚が置いてあって、この南東の部屋のように扉を塞いでいる場合があるから、必ず入れるとは限らない。だから、西の塔を目指すなら、このルートは無しだろう。

そして最後に、西や北西の塔へは寄らずに2階を目指すルートである。

西や北西の塔に行ったとして、そこに仲間がいるとは限らない。いたとしてもエドガンのように先に進めと言われるかもしれない。けれど火炎瓶を差し入れられれば、戦況はよくなるだろう。

逆に誰もいなかったならば、そこは黒い魔物が渦巻く危険地帯だ。火炎瓶があったとしても、基本的な身体能力が低いマリエラと、そんなマリエラを引き連れた調教師のユーリケでは逃げられるかも分からない。

「マリエラ、どうするし!?」

ユーリケの焦りが伝わって来る。恐らくさっきの青い球はフランツの物なのだろう。

同時に見つかったエドガンの珠が見えてもいない辺り、今なお北東の塔でフィーバーしているエドガンがほんのちょっぴり可哀そうになる。

「うん。そうだね……」

ここはやはり。マリエラは、心の底から湧き上がるような考えに身を任せるように、進むべき道をユーリケに伝えた。