軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エドガン、もてる

迷宮討伐軍とジークの苛烈な攻撃に、迷宮第59階層の主、『創造の魔手』は大きく体を震わせた。

ぶるぶると、まるで痙攣するように、空を掴み、大地を掴む。

その手が空を、恐らくはこの階層に満ちる魔力を掴む度、地面は盛り上がり、魔物たちは誕生する。

けれどその造形は、通常の魔物に比べて首が長かったり細かったり、手足の数や長さが違ったりと、明らかに雑なものに変貌していた。

「もう少しだ……!!」

レオンハルトらの踏み込む脚に力が篭る。

数ばかり生み出される奇形の魔物に、そうまでしてこの場を死守しようとする階層主に、もう少しで止めが刺せる。

何度も何度も突き出したこの切っ先が、もう少しで階層主の木の根を止める。

頑張れと背を押す想いがきっと届かせてくれる。

レオンハルトは迷宮討伐軍を率いて魔物たちに守られた階層主へと突撃していった。

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「急に負傷者が増えましたね、どうしたというのです」

迷宮第20階層で治療に当たっていたロバートは、急に増えだした負傷者に冷静な口調で状況を聞いた。

「変な魔物が急に増えて……、って、いってぇ!」

「痛いですか。ふむ、良かった。生きている証拠です。はい、治りましたよ」

冒険者の傷を確実に、けれど丁寧とはいいがたい手つきでテキパキと治していくロバート。急増する怪我人に対応するためには、多少手荒くなっても仕方ないのだろうが、口から出て来る言葉がどこかの治療技師を思わせる。長く共に治療活動を行ってきたため似て来たのか、それともこういった職種に共通する特徴なのか。

「たっ、助けてぇ!」

ロバートがいる場所は迷宮の20階層に設けられた仮設の診療所だ。とはいえ治療に当たっているのはロバートと手伝いを申し出てくれた治癒魔法が使える冒険者数名で、本来ここはポーションの配給場所だ。

配布されたポーションを使い果たし、怪我を負った兵士や冒険者たちが集まって来るのは当然で、中には魔物を引き連れたまま逃げて来る者もいる。通常ならば完全にマナー違反とされる行為だ。

「くっ、またか! しかもワイバーンだと!?」

20階層を守る迷宮討伐軍の2軍兵は、駆け込んできた冒険者を追う魔物に向かって駆け出していく。2軍兵はCランクの者が多いからBランクのワイバーンは些か手に余る魔物ではあるが、そんなことを言ってはいられない。

このポーション配給場所は、階層階段付近が安全でなくなった迷宮において、数少ない安全地帯として守らなければならない。ポーションを配給し、ロバートらにより怪我人の治療も行われている。いざとなれば転移陣で移動もできる場所だから、なんとしてでも死守しなければ。

20階層付近にはDランク付近の、若手から中堅の冒険者たちが集っている。子供や老人といった非戦闘員層を除けば、迷宮都市の人口はこのレベル帯が最も多い。だから、20階の戦況が覆されれば多数の犠牲者が出るともいえる。

「ギョキョキョキョキャッ」

ワイバーンなど一体だけでもここを守備する兵士にとっては厄介なのに、鳥のように 嘶(いなな) くワイバーンに呼び寄せられるかのようにさらに2体が乱立する柱を縫って飛翔してきた。

新たに現れた片方は、他の魔物かあるいは人を喰らったのだろう。体表は明らかに黒ずみ口からは血のような唾液を垂らしている。通常個体より凶暴で厄介な個体だと一目でわかるほどだ。

「ロバート様、ここは危険です。退避ください」

状況は不利だと判断したロバートの護衛が、周りに聞こえぬようにロバートに避難を促す。けれどロバートは静かに首を横に振ると、治療の手を休めずに護衛の兵士に応えた。

「私はね、彼らに、あの冒険者たちに、生きてさえいれば助けてやると約束したのです。

いや、これは、私自身への約束だ。

もう、誰も救えないのはごめんなのですよ。

これは、迷宮の反撃か、それとも最後のあがきでしょう。まぁ、何だろうと構いませんがね。

私はここで見届けます。君たちだけ先に避難するといい」

そんなロバートの様子に、護衛の兵士たちは顔を見合わせたのち、剣を抜いて、冒険者たちをなぎ倒しているワイバーンに向き直る。

「俺たちも、生きていれば助けて下さいよ」

「頼みます、ロバート先生」

「君たち……」

ロバートは顔をあげて護衛の兵士たちを見る。周囲の冒険者たちを見渡す。

あたりは酷い惨状で、たった3匹のワイバーンに幾人もの冒険者たちが吹き飛ばされている。冒険者の中にはロバートの見知った顔が何人もいた。ポーションによって、ロバートの治療によってスラムから抜け出し冒険者に戻れた人々だ。

誰も彼もが血まみれで、けれど誰も逃げ出さない。

この場所が、死守すべき要地と分かっているのだ。

ワイバーンの一撃で壁にたたきつけられた冒険者は、ロバートが脚を治してやった者ではないか。折角治してやった脚があらぬ方向に曲がっていて、意識もないのか自らが流した血溜まりに倒れ伏している。

ぴくぴくと動いているから死んではいないようだが、ワイバーンが 跋扈(ばっこ) するあんな場所へロバートは行くことができない。ここまで戻ってきてくれなければ、ロバートにはどうしてやることもできないのだ。

(死ぬな、誰も死ぬな。どうか、誰か、彼らを助けてやってくれ……)

そんなロバートの祈りが届いたのか。

「《我が左腕は 焔(ほむら) の座、我が右腕は 疾風(しっぷう) の座 宿れ 双属性剣(デュアル・エレメンツ・ソード) !」

ワイバーンたちは放たれた炎で焼かれ、風の刃でその首を次々に飛ばされていった。

「すごい……」

Aランカーの実力を目にした若い冒険者が思わず声をもらす。

その声にこたえるように、皆のピンチに現れた男、エドガンは冒険者たちを振り返り爽やかな笑みを浮かべてみせた。

ヒーローは遅れて登場するもんだぜ! とばかりにド派手な演出と共に登場するエドガン。

「ヒーローは遅れて登場するもんだぜ!」

口に出して言っていた。なんでわざわざ言うのだろうか。台無しだ。

「ね……、ねぇ、あの人、誰? ちょっとカッコ良くない?」

「うん。ちょっと、ううん、結構かっこいいかも。誰かしら?」

だがしかし、皆の窮地にさっそうと現れた若きAランカー、エドガンは吊り橋効果的なアレで、格好よく見えてしまったらしい。

そう、ここには若手の冒険者たちが多く集まっているのだ。つまり、若い女性冒険者だって多くいる。エドガンはたった今倒したワイバーンに死ぬほど感謝をするべきだ。

「ちょっと? エドガン先走り過ぎだし?」

「そうですぞ。集団行動は大切ですぞ」

後からぞろぞろと出て来るユーリケにグランドル、黒鉄輸送隊のメンバーたち。

「うわっ、エドガン小鼻膨らんでるし? キモイし?」

「こら、ユーリケ、仮にも隊長に向かってキモイ言うな!」

どうやらエドガンは、女性冒険者たちの黄色い声に気分を良くして鼻をひくひくさせていたらしい。猿か? 猿か。

ユーリケが引き連れているラプトルたちは、大量の負傷者を積み重ねるように載せていて、現在進行形で、ワイバーンにやられた冒険者たちを回収していっている。

黒鉄輸送隊の面々は、腕を組み片足でワイバーンを踏みつけて不自然なポーズを決めるエドガンをマルっと無視して、負傷者をロバートの近くにおろしていく。

「良かった、まだ息がある……。怪我人の救助、感謝する」

手早く怪我人を確認しながら、ロバートはエドガン以外の黒鉄輸送隊の面々に感謝を述べた。

「応急処置はしている。我々は先を急ぐため、あとはお任せする」

治癒魔法使いのフランツが簡単な引継ぎをすませると、負傷者を下ろした黒鉄輸送隊はラプトルを引き連れて下階へ続く階段に向かっていった。

「さー、次の階層にいきますぞ」

迷宮の中だというのに、いつもと変わらぬ軽装で傘をステッキ代わりに歩いていくグランドル。彼の軽装さと巨大なハンマーを担いで歩くドニーノが対照的だ。

二人の後ろにはヌイとニコが傘の行商人かというほど大量の傘を背負っているから、傘より重い盾を持てないグランドルは、質より量の使い捨て作戦で盾職として参戦したようだ。

魔法剣士に重量戦士、治癒魔法使いに調教師。遠距離攻撃が少々心もとないが、でんせつのゆうしゃグランドルのパーティーはそれなりにバランスの取れたメンバーと言える。

いや違った。彼らは黒鉄輸送隊だった。隊長の貫禄不足でどうにもでんせつのゆうしゃパーティーに思えてしまう。

「黒鉄輸送隊、迷宮都市に来てたのか……」

「あの人、黒鉄輸送隊のエドガンさんっていうのね」

「新しい隊長さんなの?」

ひそひそとエドガンの 査(・) 定(・) を行う女性冒険者たち。

彼女らなど興味ないとばかりに背を向けるエドガンは、興味津々で彼女らの声に耳を傾けている。その証拠に耳がぴくぴく動いていて、彼女らから背けた顔は実にだらしない表情だ。猿か? 猿か。

そんなエドガンの猿っぷりに気付いているのかいないのか、自分たちが及びもつかないワイバーンを軽くいなしたエドガンの高い戦闘力や、黙っていれば悪くないルックス、職業や役職を鑑みて、「これは買い」だと定めたらしい。

「あのっ、ありがとうございました」

「アタシは、アーニャ。後でお礼させてよ」

「抜け駆けズルイ。私はミルケよ」

魔物の出る迷宮の中だから、ほんの短い時間だけれど、女性冒険者たちはエドガンに駆け寄ってお礼を言ったり、名を名乗ったり、手を握って自分を印象付けている。

この迷宮から魔物が溢れる状況を見事打破し、無事に地上に戻れた暁には、エドガンにはこの世の春が待っているのかもしれない。

「ほら、エドガン? さっさと来るし?」

「ギャウ! ガウ!」

「わ、こら、ラプトル、噛みつくな。ケツはよせ、ケツは~!!」

あくまで、無事に地上に戻れたら、である。

頑張れ、エドガン。

(……ばかばかしい……)

先ほど、真摯な願いを口にしかけたロバートは、エドガンたちの有様に、まったくとんだ茶番だと山積みにされた冒険者たちの治療を黙って再開していた。

貴族然とした振舞いながら、危険な戦場に残り怪我人を分け隔てなく治療していくロバートは、実はエドガン以上にその場にいる冒険者たちの評価を上げていたのだが、本人は全く気付いていない。

そんな近い未来の話さえ、今の彼らには縁遠い。

すべては、無事に地上に戻れたら。

彼らの明日は迷宮を斃した先にこそあるのだ。