軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔の森のたたかい

『あたし炎災。今、焦土にいるの』

3匹の地竜を倒したと思ったら、別の地竜が現れた。うっとうしいたりゃありゃしない。とりあえず開けた口の中に爆炎魔法をぶち込んで頭を吹っ飛ばす。

これはうまくいった。首から下は肉が焼けずに生のまま残っている。獲物は倒したら血抜きをしないといけないのだが、面倒くさいのでそのまま運ぼう。

うん。運ぼうと思ったのに、でかいから重たい。無理だ。一番美味しい背中の部分だけ風の刃で切り裂いて、その辺の葉っぱで包んで持っていく。

残りはもったいないが焼却処分だ。魔物は地竜のような強い魔物の肉を食うと進化することがあるから、亡骸は燃やし尽くして魔力ごと地脈に還すのがマナーというものだ。

食べる分だけ頂いて、残りは地脈にリリースだ。

模範的な行動と自画自賛したものだが、どうやらこれがいけなかったようだ。

うまい焼肉の臭いに誘われて、わんさか魔の森の雑魚どもがやってきた。

なにこれ、増えすぎじゃね? 最近、狩りサボってんの?

「我、糧を与える。我に歯向かう数多の敵を、喰らいて燃えよ。《火柱乱生》」

ファイヤー!

向かってきた雑魚どもが片っ端から発火して火柱を吹き上げる。

おー、燃える燃える。 魔物(コイツ) らいいモン食ってんだな。脂が乗ってるから良く燃えるわー。

こんだけ火柱上げたんだから、誰かお迎えにきてくんねーかな。歩くのめんどくさいわ。

***

「申し上げます! 魔の森南西部およそ10km地点に強い魔力を確認!」

城壁守護の兵士の報告を受けた都市防衛隊の隊長カイトが、上司である大佐に報告する。

「何者だ? 本日出立した冒険者か!?」

「いえ。本日出立したBランク以上の冒険者はおりません!」

カイト隊長が門を出入りした冒険者について報告している間に、別の伝令が飛び込んできた。

「申し上げます! 魔の森南西部およそ9km地点に再び強い魔力反応を確認いたしました!」

「なんだと! 近づいてきていると言うのか……。観測を続けろ。私は迷宮討伐軍へ報告に行く。カイト隊長は南西門の守りを固めたまえ」

「はっ」

ピシッと敬礼をして、部下を引き連れ南西門へと向かうカイト隊長。

迷宮都市の戦力は迷宮討伐軍に集約されていて、都市防衛隊の戦力は弱い。迷宮都市をぐるりと覆う外壁の維持・管理、門の警備、魔の森の開拓と農地に侵入した弱い魔物の撃退、街中の 警邏(けいら) や犯罪行為の取り締まりなどが主な業務だ。比較的安全な仕事が多いので、家柄がよく戦力に欠ける者が多く集められているが、“弱いから都市防衛隊”という構図が明確になると配属者の意欲もモラルも低下してしまうから“品性と知性が要求される部隊”という位置づけになっている。

『ものは言いよう』と言えば聞こえが悪いが、“品性と知性が要求される”というのはある意味真実だ。テルーテルの後任である現大佐は『市民の盾たれ』という方針を打ち出していて、平民や冒険者に対しても丁寧で模範的な行動を徹底させた。すると、驚くほど都市防衛隊の人気が上がってしまった。

もともと、大規模遠征のパレードや大事が起きたときしか民衆の前に現れず、あとは人知れず地下から迷宮に潜りっぱなしの迷宮討伐軍に比べて都市防衛隊は民衆との接点が多い。読み書きもままならない者が多い中、育ちが良い都市防衛隊の隊員が礼儀正しく接してくれるのだ。人気が出ないはずはない。

特に若い娘さん連中は気がついてしまったのだ。迷宮討伐軍に比べれば給料は安いが、危険が少ない分、安定している。誓約まみれ秘密まみれで会話にすら困る迷宮討伐軍に比べて話題も豊富で紳士的。すごいお買い得物件ではないかと。若い娘の人気が集まれば話は早い。人気の秘訣が紳士的振る舞いならばそれに磨きがかかろうというものだ。

迷宮都市へと近づいてくる正体不明の強力な魔力によって、都市防衛隊の詰め所は常にない緊急事態に騒然となったが、それも一時の事。意識高い系紳士集団に変貌を遂げた都市防衛隊は、今回の有事にも市民の盾として活躍すべくカイト隊長の指揮の下、南西門の守りを固め、近づいてくる何者かの動向を逐次逃さず観測するのであった。

それに対して、テルーテル相談役はというと。

「迷宮討伐軍? レオンハルト将軍閣下のところかねっ? ワッ、ワシも連れてってくれ!」

「……テルーテル相談役、非常事態ですがお分かりですか?」

憧れの金獅子将軍に会えるチャンスに食いつくテルーテル相談役。

テルーテルの強者好きはこんな時にも健在だ。あまりの空気の読まなさに、一周まわって冷静さを取り戻した都市防衛隊の大佐は、テルーテル相談役を伴って迷宮討伐軍の基地へと向かっていった。

***

『あたし炎災。今、川にでたの』

この川は見覚えがある。エンダルジア王国の地下大水道の支流の一つで、南側の河川へと流れ込んでいる。確か橋があったはずだが綺麗サッパリ見当たらない。

どうやらこの辺に人は入っていないようだ。何たる怠慢。この辺で取れる果物はものすごく美味しい酒になると言うのに、採取しに来る人はいないらしい。うまい酒を放棄するなんて! ムカついたので、近くの大木を数本切り倒して橋代わりにかけておく。倒してから気付いたが、この辺川の向こうとこっちで魔物の強さが違うんだった。強い魔物が川向こうのエンダルジア王国側に流れちゃうかもしれないけれど、ま、いっか。うまい酒になる果物が採取できるほうがきっと大事だろう。

うまい酒とうまい肴。アイツの作るアテはなかなかだ。と思ったところで気がついた。

強い魔物がエンダルジア王国側に流れてきたら、アイツ、めっちゃ怒る。人に迷惑かけちゃいけませんとか、ケツの青いガキの頃から言ってたし。

またカタツムリもどきの肉オンリーでメシ作られたらどうしよう。あれはあれで旨かったけど、3食ダイダラマイマイを連日おみマイマイされたら、てんてこマイマイだ。

あの時は、このギャグで許してもらったけど。次はなさそうだし。

そんな事を考えていたら、またもや魔物が集まってきた。焦土よりもだいぶ弱い魔物だけれど、Bランクが結構いるな。フレンジーグリズリーとか。肝臓とかいい素材になるんだけど一匹ずつ倒すとか時間かかるし、土産は地竜の肉があるしな。うん。まとめて焼いとこう。

《火柱乱生》

ファイヤー!

そろそろ王国からでも火柱見えると思うんだけどなー。お迎えまだかなー。

***

「都市防衛隊、相談役のテルーテルです。急ぎ申し上げたい儀あり、非公式ながら大佐と共に参上いたしました。将軍閣下にお取次ぎ願いたい!」

迷宮討伐軍の基地で声を張り上げるテルーテル相談役。何時から報告係りになったのだろうか。彼のスキル《同調》がまた勝手に働いているのか、緊急感が出ているからよしとしよう。

直ちに会議室へと通された大佐とテルーテルは現れたレオンハルト、ウェイスハルトに報告する。

「正体不明のものが高度な魔法を乱発しながら迷宮都市へ向かっていると?」

「はっ。正体につきましては現在観測を続けているところでして」

都市防衛隊大佐が報告をしている最中、カイト配下の伝令兵が進捗の報告に訪れた。

「申し上げます! 魔の森の高魔力反応が迷宮都市南西5km地点の河川付近で確認されました! また防壁上部の見張り台から河川付近で大量の火柱が立ち上るのが確認されました!」

「大量とはどれほどだ?」

「それが、数え切れないほどでして。数十は下らないかと」

通常、複数の敵を魔法で攻撃するには、火魔法であればファイヤー・ウォールのように攻撃範囲を線で指定するか、ファイヤー・ストームのように面で指定し空間に魔法を放つ。そうでなければ当たらないからだ。

動く的に石を投げて、同時に幾つ当てられるかと考えるとわかりやすい。勿論範囲が広くなるほど多くの魔力を必要とするし、対象以外の余計なものも燃やしてしまうから、魔力に対して攻撃力は低くなる。森で使えば木々を燃やして被害を大きくするともいえる。

だから敵だけをピンポイントで攻撃するというのは模範的な攻撃方法といえるのだが。

「数十の火柱を同時だと!?」

ウェイスハルトは驚愕する。同時に数十の魔物に石を投げつけられる冒険者がいたとして、そのランクはいかほどか。まして使ったのは火柱だ。ファイヤー・ボールであっても火という事象を具現化して放出する分、石を投げるよりはよほど難易度が高いのに『火柱』。火力ははるかに高く、しかも座標を固定して発動する必要があるはずなのだ。

それを同時に数十。

たった一人の仕業であるとすれば、Aランクで済む能力ではない。しかし、炎を操るSランカーなど、帝国はおろか周辺諸国でも聞いた事のない話だった。

「何者だ……、そもそも、人なのか……」

恐るべき力を持った何者かが迷宮都市に向かってきている事だけは間違いない。

「まだ敵と決まったわけではない。蟲使いを呼べ。蟲ならば気取られずに正体を探れよう。迷宮討伐軍を南西門に集めよ。万一に備えてだ。気配を完璧に消して潜伏させておけ。南西門には都市防衛隊の詰め所の方が近い。我々も移動するぞ」

レオンハルトの命令に即座に動き出す迷宮討伐軍。流石の対応と言えよう。

都市防衛隊の拠点は南門傍にあり、迷宮討伐軍の基地よりも南西門に近い。レオンハルトのスキル《獅子咆哮》による兵力の増強効果を考慮してもレオンハルトの前線への移動は必要なものだ。

それは、レオンハルトが常に危険に身をさらすということに他ならないのであるが。

将軍の来訪の報を伝えるため、先に帰ろうとする伝令をテルーテルが捕まえる。

「部屋の整理整頓は出来ているかねっ? トイレや手洗いもチェックしておきたまえよ! あと、いい臭いがするように花も飾って! それからそれから……、! わしの部屋に取って置きの茶があるから、それを準備しておきたまえっ!」

「……、了解でアリマス」

彼氏を初めて部屋に呼ぶ女子か。そんな心の声をひた隠しにして伝令兵は駆け足で都市防衛隊の詰め所へと戻っていった。

***

『あたし炎災。今、城壁が見えたの』

こんだけ歩いてきたのに、お迎えどころか冒険者にすら出会わない。どうなってんの? と思ってたら防壁を見て納得した。 魔の森の氾濫(スタンピード) で滅んでんじゃん。エンダルジア王国。

キレーな白亜の壁はその辺の石材で補修されてるし、デイジスの蔦がうじゃうじゃしてるし。

まぁ、見ためばっかこだわった白壁よりこっちのほうが人間が生きてるって感じがしていいと思うけどね。

そんな事を考えていたら、ぷぃーんと羽虫がこっちに飛んできた。

魔蟲だ。

こんな目と鼻の先まで来てようやくお迎えが来たと思ったら、魔蟲。

ナメてんの? いくらなんでも失礼だろ? ちょっと焼き殺してやろうかとも思ったけど、ここは大人の対応だ。平常心、平常心。

敵だと思われて防壁の中に入れてもらえなくなったら困る。

たぶんアイツはあの中にいるだろうから。

防壁くらい吹き飛ばせるけど、その後がめんどーだし、早いとこ地竜の肉を渡さないと晩飯に間に合わなくなるし。あいつどんくせーから、腕はあるのに搾取されまくりの貧乏暮らしでスッゴイ貧相なメシ食ってるかもしれん。肉食いてー。

だから、魔蟲だろうがお迎えには友好的に挨拶だ。フレンドリーを総動員してにっこり笑って、蟲風情に話しかけてやる。

「お迎え頂き恐縮だ。さぁ、案内頂こう」

だと言うのに、魔蟲はぷぃーんと再び天高く飛び立ってしまった。

ぐぅ、何たる無礼! 範囲一体火の海に変えて焼き殺してやろうかと周囲をみると、フォレストウルフが大集結していた。わんわん。

あー、だからかー。

つーか、街からこんなに近いっつーのに、なんでワンコでてくるかねー? 定期的に魔除けポーション撒いとけよ。アイツ仕事サボってんじゃね? オシオキだ、オシオキ。

とりあえず、ワンコがワンワンうるさいので焼いておく。

《火柱乱生》

ファイヤー!

さーて。街まであとちょっとだ。

***

「っ!!」

「蟲使いよ、どうした」

冷や汗をたらし、びくりと体を硬直させる蟲使いにウェイスハルトが尋ねる。

「気取られました……」

「なんだと?」

蟲使いの放った魔蟲は魔物が蠢く迷宮の探索に用いられるもの。一見すると普通の虫のようだし、羽音は僅かで周囲の景観に溶け込んで行動できる隠密性に優れたものだ。そうでなければ50階層を超える迷宮の探索などできはしない。それが初見で見破られたなどと……。

「気のせいではないのか?」

「恐れながら……、私の蟲に向かって案内せよと言っておりましたので間違いないかと」

「して、どのような者なのだ?」

まさかといぶかしみながら問うウェイスハルトに蟲使いは、「直接ごらんになったほうが早いかと」と応えた。