軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

進級式と親睦会

貴族院は講堂で行われる進級式から始まります。

進級式に向けてダンケルフェルガーは一番乗りで講堂へ入ることにしました。ラオフェレーグが誰彼構わずにディッターを申し込もうとしていることを側近の一人が教えてくれたからです。一番に講堂に入り、順位通りの一番前に整列していれば他領との接触を限りなく少なくできるでしょう。

「アウブと第二夫人の許可は取りました。貴族院でラオフェレーグが粗相をしないように、あの魔術具をラオフェレーグに付けてください」

ラオフェレーグの側近達に命じて、確実に「ディッターの誘い」を止めるための魔術具も付けさせます。ディッターの申し込みをさせないように強制的に声を奪う魔術具です。他領へ迷惑をかけそうなディッター狂いをこれで今まで何人止めてきたかわかりません。ダンケルフェルガーになくてはならない魔術具なのです。

「……わたくしはもちろん、ラオフェレーグにも第一位の領主候補生として恥ずかしくない言動が求められています。新入生とはいえ、あまりにも相応しくないと判断できる言動があった時は、アウブからそれなりの処分を受けることになるでしょう」

側近達に釘を刺すと、彼等は表情を引き締めてコクリと頷きました。

「では、参りましょう」

わたくしがそう言って多目的ホールに集まっている学生達を見回します。青いマントが二百人近くずらりと並ぶ様は壮観です。その中からケントリプスとラザンタルクが出てくると、わたくしに向かって手を差し伸べました。

「エスコートは婚約者の役目ですから」

「……二人とも、まだ婚約者ではありませんけれど」

二人に手を差し出されると、今すぐにどちらかを選べと選択を迫られているようで落ち着きません。じりじりと後退していきたい気持ちを抑えてニコリと微笑むと、「おや?」とケントリプスがからかうように眉を上げました。

「ラオフェレーグ様が不躾な行動に及んだ時、すぐに対応できる者が近くに控えていることは重要だと思いませんか?」

「思います」

反射的に答えると、ケントリプスがわたくしの左手を、ラザンタルクがわたくしの右手を取って歩き始めました。

……あの、これは、もしかして……少々目立つのではないでしょうか?

周囲の目が気になって何だか不安になったのですが、わたくしの予想は少し外れました。

少々ではなく、とても目立っているのです。

……わたくしの右手を取って歩くラザンタルクのせいで!

「私はハンネローレ様をお守りするために騎士になったのです。レスティラウト様から守ってくれるような騎士に憧れるとおっしゃったでしょう?」

「ラザンタルク、そのような昔のことを……今、ここで言うのですか?」

周囲にいる側近達はもちろん、学生達に筒抜けですからものすごくいたたまれない気分です。

「騎士見習いになるまでは計画通りでしたが、まさかハンネローレ様がディッターにのめり込み、本物のディッターに参加するようになるとは思いませんでした。仕方がないので、計画は修正して共にディッターを楽しめるようになろうと考えたのです」

……わたくしが本物のディッターに参加したのが悪かったことはわかりましたから、そのくらいで勘弁してくださいませ!

「ラザンタルク、そのくらいにしておけ。ハンネローレ様が泣きかねない」

「……え? 感動で?」

「いや、羞恥で」

……ケントリプスもそのように平然と指摘しないでください! もっと視線が集まったではありませんか!

今すぐにでも隠し部屋へ逃げ込みたい気分ですが、予定通りにダンケルフェルガーが一番乗りで講堂に入りました。整列して前へ向いていても、次々と他領の学生達が入ってきていることが足音や会話でわかります。

「こうして並んでしまうと、進級式前に友人達と挨拶さえできないことが残念ですね」

「けれど、親睦会も講義も社交の時間もあります。他領との違いを理解していない新入生に煩わされずにお話しする方が良いでしょう?」

「そうですね。落ち着きませんもの」

不意に講堂のざわめきが大きくなりました。新しくできた領地の学生達が入ってきたようです。ダンケルフェルガーが並んでいる場所の隣に、二位であるブルーメフェルトの学生達が灰色のマントを揺らしながら整列し始めたのが横目で確認できました。

ブルーメフェルトのアウブはトラオクヴァール様で、領主候補生は新入生のヒルデブラント様です。わたくしはラオフェレーグの監視のために周囲を学生達に囲まれていますし、一年生のヒルデブラント様も周囲を側近達に囲まれているため、お顔は見えませんでしたが、親睦会でお会いできるでしょう。

「ブルーメフェルトは大きく二つに分かれているな。あまり良い雰囲気ではない」

「旧中央と旧アーレンスバッハだと思います。旧アーレンスバッハは旧ベルケシュトックなので、トラオクヴァール様への反発が大きいせいでしょう」

ケントリプスとわたくしの側近である文官見習いのルイポルトがブルーメフェルトの学生達を見ながら小声で会話をしています。ハッとしたようにラザンタルクが後ろを振り返りました。

「ハンネローレ様、コリンツダウムもやってきました。不審人物がいないか、よく見張っておきます。ご安心ください」

……わたくしにはわたくしの護衛騎士がいるのですけれど。

そう思いましたが、わざわざ口に出してラザンタルクのやる気を潰す必要はないでしょう。苦笑する護衛騎士見習いのハイルリーゼと目配せを交わし合い、わたくしはラザンタルクに監視を任せることにしました。

ダンケルフェルガーの後ろに整列するのは三位であるコリンツダウムの学生達で、柔らかな色合いの赤茶色のマントを付けています。領主候補生が不在のせいでしょうか。三位という順位に少し思い上がった発言が聞こえ、ラザンタルクやハイルリーゼを始めとしたダンケルフェルガーの騎士見習い達が少し警戒するように空気を尖らせました。

「アウブやレスティラウト様がおっしゃったようにコリンツダウムには警戒が必要かも知れません」

「下位領地を守る必要がありそうですね」

ラザンタルクとハイルリーゼの言葉にわたくしはコクリと頷きました。アウブであるジギスヴァルト様がどのように貴族達に言い聞かせているのか存じませんが、上位領地には何もしなくても、下位領地には無理難題を押しつけるのではないかと少し不安になります。

……ダンケルフェルガーはブルーメフェルトやコリンツダウムに睨みをきかせるよりも、ラオフェレーグがディッター勝負を他領へ仕掛けないように抑える方を優先しなければならないのですけれど。

そんなことを考えていると、講堂の扉の方から前の方へ一際大きなざわめきの声が押し寄せてきました。ひそひそとした会話や思わず口から零れた呟きの一つ一つは大きくないけれど、大人数が呟けば意外と大きなざわめきになるのです。

「新しい領地のマントだが、あれがローゼマイン様!? まさか」

「わたくし達が知っている姿と違うとはアウブから伺いましたが、これほどとは……」

学生達の驚きは当然でしょう。去年の貴族院でローゼマイン様は十日と経たずに臥せって姿を消しました。春に行われたエグランティーヌ様の戴冠式に出席していたのは領主候補生の一部ですから、実際に成長したローゼマイン様の姿を見ていない学生の方が大多数なのです。

「ハンネローレ様、ローゼマイン様に紹介してください」

「ラオフェレーグ、騒ぐのではありません。親睦会で紹介するのでおとなしくしていてくださいませ」

「アレキサンドリアとぜひディッ……」

ディッターと言う前に魔術具が作動したようで、ラオフェレーグが「ぐっ」と呻きました。魔術具は問題なく作動しているようです。これで大きな問題は起きないでしょう。ホッとしました。

進級式では貴族院の先生の一人から挨拶がありました。ツェントがグルトリスハイトを得たことでユルゲンシュミットの魔力には少し余裕が生まれたこと。シュタープの取得年齢を成人に戻す案が上がっていること。

「魔術具の武器ではディッ……ぐっ」

文句を言いかけたラオフェレーグが喉を押さえました。言葉にはなりませんでしたが、言いたいことはわかりました。シュタープで作り出す自分の武器より使いにくいため、魔術具の武器では不利だと言いたいのでしょう。

「……より強力なシュタープを得られるのですから、在学中の不利など大した問題ではありません、ラオフェレーグ様」

「えぇ。ケントリプスの言う通りです」

……真の狙いは未成年アウブが出現することを防ぐことでしょうね。

自分で治めることもできない状態で礎を得る可能性があるというのは非常に危険なことです。ツェントがシュタープの取得年齢を上げようとするのは当然のことでしょう。

同時に、貴族院のカリキュラムも昔の物に戻していくことになりました。貴族の間では段階的に戻したいという意向も強いようですが、あまり時間が経つと昔の講義内容や手法を覚えている先生方が減るという切実な一面もあるそうです。

シュタープ取得年齢が三年生から最終学年に上げられそうになっていることに低学年の者達が不満そうな声を上げる中、進級式は終わりました。忌々しそうに魔術具を触っているラオフェレーグやその側近達と共に、わたくしは自分の側近から側仕え見習いのアンドレア、文官見習いのルイポルト、護衛騎士見習いのハイルリーゼを伴って小広間へ移動します。

講堂から退場する時にアレキサンドリアの学生達が整列しているところが見えました。新しい色のマントに身を包み、アウブと共に並ぶ姿は誇らしそうです。ローゼマイン様がしっかりと領地の学生達の心をつかんでいることが伝わってきて安堵しました。

「一位ダンケルフェルガーより、ハンネローレ様とラオフェレーグ様がいらっしゃいました」

扉の前に立っているのは白いマントをつけた中央の文官です。わたくし達が小広間へ入ると、正面には例年通り王族の席がありました。ツェント夫妻、それから、二人と並んでローゼマイン様がすでに席に着いています。

第六位であるアレキサンドリアの席は別に準備されているので、ローゼマイン様だけがアウブとして特別扱いになっているようです。ツェントにグルトリスハイトをもたらした女神の化身で、前代未聞の未成年アウブなのですから当然でしょう。

正直なところ、親睦会の間にローゼマイン様が上位領地へ挨拶に回ってそれぞれの領主候補生達を跪かせることになるよりは、一目で上位者とわかる壇上にいてくださる方が安心できます。アウブと領主候補生では立場が全く違うことが新入生にもわかりやすいですし、妙な勘違いをした領地が出てくることを防ぐこともできるでしょう。

……もしかすると、この配置を決めたのはフェルディナンド様でしょうか? いいえ、気のせいでしょう。フェルディナンド様がツェント夫妻に対して、それほどの影響力があるなんて考えたくありません。

二位、三位、と各領地の領主候補生や上級貴族が次々に入ってきます。全員が席に着くと、わたくしはラオフェレーグと側近達を連れて挨拶に向かいました。

エグランティーヌ様はツェントの重責のせいか、少しやつれたように見えます。けれど、その美しさを損なうことはなく、むしろ、より美しくなったように思えました。アナスタージウス様も少し顔付きが変わったように思えます。グルトリスハイトを得たツェントを支えるため、苦労されているのでしょう。

わたくしはお二人と並んで座っているローゼマイン様に視線を移しました。新しくまとっているのは、夜空のような黒に近い紺色のマントで、ローゼマイン様の髪の色と同じです。アウブとなり、新しい領地に移ったのだから当然だと頭では理解できているのですが、エーレンフェストの色ではないローゼマイン様が何だか不思議な感じです。

……それにしてもこうして間近で見ると、驚くような細工ですね。

ローゼマイン様の胸元には誓いの魔石を交わし合った婚約者がいることを示すネックレスが大きく存在を主張しています。魔石を覆い隠すように金属の繊細な飾りがあるのですが、婚約の魔術具は自分の魔力で作成した金属を使うはずです。フェルディナンド様はずいぶんと手が込んでいる魔術具を作ったようです。

……婚約の魔術具だけではありませんでした。

ローゼマイン様の手の甲には細い鎖と小さな虹色魔石の連なりが見えました。今は光っていませんが、継承の儀式でつけていた腕の飾りと同じ物のようです。

……まさかこちらもフェルディナンド様の魔力で作られた魔術具でしょうか?

腕に絡みつくような魔力の鎖をフェルディナンド様の独占欲や執着心の発露だと考えても怖いですが、ただのお守りだったとしてもフェルディナンド様が何か起こると警戒している証拠のようで怖いです。本当に大事になりそうではありませんか。

けれど、ローゼマイン様ご自身は特に何も感じていないようで、ニコニコと柔らかな笑みを浮かべています。わたくしは三人の前に跪いて、胸の前で両手を交差させました。後ろで側近達も跪くのがわかります。

「今年も時の女神 ドレッファングーアの糸は交わり、こうしてお目見えすることが叶いましたことを嬉しく思います。こちらはラオフェレーグ。アウブ・ダンケルフェルガーの第二夫人の子です」

わたくしはラオフェレーグを紹介すると、初対面の挨拶をするようにラオフェレーグに向かって目配せしました。

「エグランティーヌ様、アナスタージウス様、ローゼマイン様。命の神 エーヴィリーベの厳しき選別を受けた類稀なる出会いに、祝福を祈ることをお許しください」

「許します」

「お初にお目にかかります。ダンケルフェルガーより、ユルゲンシュミットに相応しき貴族としての在り方を学ぶため、この場に参上いたしました。ラオフェレーグと申します。以後、お見知り置きを」

わたくしとラオフェレーグの挨拶が済むと、エグランティーヌ様が「ラオフェレーグはレスティラウトによく似ていますね」と懐かしそうに微笑みました。呼称の違いで、本当にツェントになられたことを実感します。

「ハンネローレ様」

エグランティーヌ様が声をかけ終わるまでじっと待っていたように、ローゼマイン様がわたくしに笑いかけました。

「図書館に上級司書が増えたそうです。ソランジュ先生に余裕ができたそうですから、図書館のお茶会をいたしましょうね。わたくし、毎年楽しみにしているのです。アレキサンドリアの新しい本もできたのですよ。まだ一冊しか作れていないのですけれど」

ローゼマイン様の大人びた顔立ちと、去年と同じ無邪気な笑みが何だかちぐはぐな印象なのですが、妙に色っぽく見えて目を引く雰囲気になっています。

「まぁ、アレキサンドリアでも本が作られたのですか? わたくし、とても楽しみです」

「其方等……。貴族院やツェントを取り巻く中央のあり方さえ手探りの現状で、余計なことをしでかしてくれるなよ」

わたくしとローゼマイン様の会話にアナスタージウス様が嫌な顔をして呟きました。

……そのように怖いお顔をしないでくださいませ。わたくしは余計なことなどするつもりはないのです。

アナスタージウス様からのお叱りにわたくしがキリキリとしてくる胃の辺りを押さえていると、ローゼマイン様がおっとりと頬に手を当ててアナスタージウス様の方を向きました。

「フェルディナンド様にも注意されていますし、これでも毎年気を付けてはいるのですけれど、不思議と事が大きくなるのです。困ったことですね」

ローゼマイン様が横に向いたことで、いつもつけている虹色魔石の髪飾りが変わっていることに気付きました。揺れている石の数は変わらないのですけれど、デザインが違います。魔石の周囲を取り巻いていた金属の部分が多くなり、簪部分にもいくつか魔石が埋め込まれているように見えました。明らかに以前の物を超えています。

ヴィルフリート様が贈った虹色魔石の髪飾りより豪華な物を贈る方など、フェルディナンド様以外に思いつきません。

……ローゼマイン様、疑う余地もなく溺愛されていらっしゃいますね。

魔力の鎖を使った装飾品は相手の魔力によっては不快に感じることも多いそうです。全ての装飾品がフェルディナンド様の魔力で作られた物だと仮定すれば、これほど多くの装飾品を受け入れているローゼマイン様はフェルディナンド様の魔力を受け入れているようにしか周囲の者には見られません。

……ローゼマイン様、これだけ殿方の魔力をまとえば、さすがに自覚されましたよね? まさかまだ「家族同然」と言い張っているのではありませんよね?

頑なに「家族同然」と言い張っている姿しか思い浮かばないまま、わたくしは自席へ戻りました。すぐにブルーメフェルトのヒルデブラント様が挨拶にやってきます。以前ダンケルフェルガーへ挨拶に来た時と側近の顔ぶれが変わっているのは、ヒルデブラント様に失態を犯させたことで側近が処分を受けたからでしょうか。それとも、中央からブルーメフェルトへ移動する側近が少なかったからでしょうか。

元王族のヒルデブラント様がわたくし達の前に跪き、両腕を交差させます。何だか落ち着きません。そして、その手首にはちらりとシュタープを封じる魔術具が見えました。事情を知らない他の者には装飾品にしか見えないでしょう。

「ハンネローレ様、今年も時の女神 ドレッファングーアの糸は交わり、こうしてお目見えすることが叶いました」

「お久しぶりですね、ヒルデブラント様。お元気そうな姿を見られて嬉しいです」

同じ図書委員として少し気にかけてほしいとマグダレーナ様から頼まれています。ですが、上級司書が増えたらしい今年も図書委員のお仕事は続くのかわかりません。

……ヒルデブラント様は殿方ですから、女性に比べるとお茶会で会える機会が減るので、ブルーメフェルトや元王族に関する情報収集のためには図書委員で会えると助かるのですけれど。

アウブであるローゼマイン様も同じように情報収集の機会は逃さないでしょう。何より、図書室の地下に領主候補生にしか入れない書庫があることが領主会議で発表されたのです。領主候補生が騒動を起こさないように監視できる上位領地の図書委員は必須になると思います。

ヒルデブラント様が去ると、次にやってきたのは三位コリンツダウムの上級貴族です。普通に初対面の挨拶をしました。講堂では順位に浮かれた発言が聞こえたのですけれど、まとめる上級貴族は分別のない者ではなさそうです。コリンツダウムは元王族達によって治められていたので、土地の魔力にも余裕があるせいでしょう。ブルーメフェルトよりよほど余裕がある顔付きをしているように思えました。

四位はクラッセンブルクで、ジャンシアーヌ様が側近と共に挨拶へやってきました。跪くジャンシアーヌ様を見下ろせば、去年と立場が変わっていることがわかります。

「どうか仲良くしてくださいませ」

ほわっと微笑んだジャンシアーヌ様が去ると、ラオフェレーグがその後ろ姿をじっと見つめているのがわかりました。

「どうかしましたか?」

「いいえ。ローゼマイン様やジャンシアーヌ様は今まで周囲にいない感じの女性だったので、不思議な感じがしただけです」

……エグランティーヌ様に見惚れていたお兄様のようなものでしょうか?

ダンケルフェルガーとクラッセンブルクでは女性の雰囲気がずいぶんと違うので、クラッセンブルクが気になる殿方は多いようです。

……このまま他の女性に興味を持って、先日の求婚は忘れてくれれば良いのですけれど。

そんなことを考えていると、五位のドレヴァンヒェルのオルトヴィーン様が領主候補生を四人率いてやってきました。どなたかが卒業したと思えば、新しい領主候補生が増えるのですから相変わらず領主候補生の多い領地です。オルトヴィーン様によると、魔力が多くて優秀であれば領主と養子縁組し、領主候補生コースを治めさせた上でギーベに任じるそうです。その方がギーベの館の守りや魔術具などをより理解して利用することができるから、ということでした。

六位アレキサンドリアの領主候補生はレティーツィア様です。旧アーレンスバッハの領主候補生がアレキサンドリアの領主候補生として残っているのですから、非常に周囲からは注目されています。進級式の退場時に講堂でちらりと見た限りではローゼマイン様が可愛がっているように見えました。

レティーツィア様がちらりとローゼマイン様の方を振り返ると、ローゼマイン様が力づけるように微笑んで頷いています。わたくしはランツェナーヴェ戦の時にアーレンスバッハの城で初対面の挨拶を受けたので、初対面の挨拶を交わすのはラオフェレーグだけです。レティーツィア様が跪きました。

「ラオフェレーグ様、命の神 エーヴィリーベの厳しき選別を受けた類稀なる出会いに、祝福を祈ることをお許しください」

「許します」

「アレキサンドリアの領主候補生レティーツィアと申します。以後、お見知りおきを。……ハンネローレ様、わたくしも図書委員に加えてくださるそうです。仲良くしてくださいませ」

レティーツィア様が少し不安そうにそう言ったので、わたくしは「えぇ、仲良くしてくださいませ」とできるだけ優しく微笑みました。

七位のハウフレッツェがやってきます。今年三年生になる殿方の領主候補生が二人の女の子をエスコートしていました。そういえば、わたくしはラオフェレーグにエスコートされていません。指摘することも忘れていました。

ハウフレッツェの次は八位のエーレンフェストです。ヴィルフリート様とシャルロッテ様がやってきます。神殿長に就いていたメルヒオール様はまだ入学されないようです。エーレンフェストでお会いしたメルヒオール様は、とてもしっかりしておられ、神殿長職を務めているように見えました。何となくラオフェレーグと比べてしまい、ダンケルフェルガーの教育の至らなさが恥ずかしくなりました。

……ダンケルフェルガーもディッターばかりしている場合ではないと思うのです!

「今年も時の女神 ドレッファングーアの糸は交わり、こうしてお目見えすることが叶いました。ローゼマイン……あ、いや、ローゼマイン様がアウブに就任されたことで、ダンケルフェルガーやエーレンフェストは翻弄されることも多いと思いますが、どうぞよろしくお願いいたします」

ローゼマイン様がアウブになったことで兄妹間でも公の場では呼び方が変わります。星結びの後で戸惑う者達はよく見るのですが、貴族院で呼称が変わることはないのでヴィルフリート様達の戸惑いもわかります。

……ローゼマイン様がアウブになり、フェルディナンド様と婚約されたわけですけれど、ヴィルフリート様は大丈夫でしょうか?

婚約者を奪われた形になったのです。口さがない者はいるでしょう。けれど、ヴィルフリート様は全く表情には出されません。

「エーレンフェストの新しい本もお持ちしています。エルヴィーラがぜひハンネローレ様に、と」

「お姉……ローゼマイン様も楽しみにしていました。皆でお茶会をしたいですね」

お茶会に誘ってくださるシャルロッテ様の首に、エーレンフェスト本のいくつかで見たことのある紋章のネックレスがかかっています。

「シャルロッテ様、そのネックレスは本の……?」

「えぇ。ローゼマイン工房で作られた本に付いている紋章と同じです。けれど、これはお姉……ローゼマイン様個人の紋章で、領地が離れても繋がりがあることを示す記念のネックレスなのです」

「私はもっとカッコいい物をデザインしたのだ」

ヴィルフリート様が見せてくださったネックレスは全く意匠が違うので、繋がりがあるようにも見えませんでしたが、記念の品を贈り合う仲の良さがとても微笑ましく思えました。

「今年も仲良くしてくださいませ」

ヴィルフリート様達が隣のヒルデブラント様の席へ向かうのを見送ります。

「あれがエーレンフェストの無責任で卑劣な……」

「ダメですよ、ラオフェレーグ。ここはそのような物言いをする場ではありません。それに、ダンケルフェルガーと他領は違うのです。それをよく覚えておかなければ、貴方も失敗しますよ、ラオフェレーグ」

わたくしはニコリと微笑んでラオフェレーグを見つめる目に力を込めました。ラオフェレーグが一度口を引き結んだ後、「……大変失礼いたしました」と口を閉ざします。

……ダンケルフェルガーとエーレンフェストは違うのです。

胸に刺さる痛みを感じながら、わたくしは挨拶を受け続けました。