作品タイトル不明
167 老いも若きも男も女も、猫と狼も
更に翌日以降も当然の様にワイバーン狩りを続けた。
とは言え初日にやりすぎたのか、二日目は12匹、三日目は6匹、四日目は2匹と成果は日々下がっていった。流石に警戒されたらしい。でも合計50匹か……ちょっと多すぎでは? と言うかあんまり倒せなくなったのって、もしかして警戒されたんじゃなくて狩りすぎた所為で減りすぎちゃっただけ?
そんな感じだったので四日目の途中でジョージ爺さんがワイバーン狩りはもう切り上げて薬草とか採ろう、といくつかの群生地に連れて行ってくれる事になった。
最初の群生地は薄っすらと光る白い茸だ。
「この茸は色々な癒しの効果がある。一般的には最上級ポーションの素材として知られているが、エリクサーの材料にも使われる。採れるだけ採っておけ」
……あれ? エリクサーって作れるの?
「エリクサーのレシピはわかってるぞ。と言ってもダンジョン産のモノに匹敵する効果のモノを作るには相応にスキルレベルが高くないと駄目だが」
ちなみにエリクサーにもいくつか種類があって、最も多く見つかっているのは回復のエリクサーだそうだ。回復のエリクサーは文字通り傷を癒すモノで、服用するか患部に掛けると見る見るうちに傷が治っていくらしい。あとちょっとだけ再生効果もあるとの事。指先くらいの欠損なら生えてくるんだとか。
次が癒しのエリクサー。これは病気を治すものらしい。ついでに怪我もある程度治るそうな。
そして再生のエリクサー。これは部位欠損を治す。冒険者に大人気らしいけど、その所為か冒険者達の間では高値で取引される。というか手に入れた冒険者が秘蔵するのが普通で、流通にはまず乗らないとの事。ちなみにこれを飲むと傷も治るし癒しのエリクサー同様に病気も治る、上位互換っぽい。
他には魔力を完全に回復させ、ついでに地力の魔力量を大きく伸ばす生命のエリクサー。後は文字通りに肉体を若返らせる若返りのエリクサーというのがあるらしい。若返りの奴は王侯貴族に大人気で、これは再生のエリクサー以上に流通しないとの事。大体の場合は王族とかに献上されちゃうらしい。
そしてそんなエリクサーを調合するのに必要なスキルが【霊薬調合】スキルとなる。これは何度もエリクサー調合に挑戦していればそのうち自然に覚えられるらしい。レベル上げも【調合】と同じで兎に角回数を熟せばいいとの事。
という話を聞きながら数か所の群生地を回ってそれぞれ8割ぐらいずつ茸を回収した。
「次は霊草だな。これもさっきの茸と同様で一般的には最上級ポーションの素材として知られているが、同じ様にエリクサーの材料になる」
ちなみにエリクサーの調合に必要な霊草は数種類あって、そのほぼ全てがここで採取できるとの事。……この森、マジで素材の宝庫なのね。
「取り敢えず全種類確保しておけ、何があるかわからんからな」
そう言って数種類の霊草の群生地を何か所も回っていく。茸同様に各群生地毎に8割ずつ回収。全部採ると次に来た時に採れなくなっちゃうからね。
一通り周り終わるとそこには山盛りの素材が! いやはや豊作豊作。
「これで基本になる材料はほぼ揃ったな。あと必要な物は竜の血か」
「……竜の血ですか」
「ああ、一応亜竜の血で代用は出来るが、それで作れるのは低品質までだ。だが持っていて損はない、素材はほぼ揃ってるんだ、練習して作っておくといい」
そうだね、備えは必要だもんね。やってやるぜ! ……とは言っても作りたいものが多すぎて圧倒的に時間が足りないんだけど。
エリクサーの基本的な材料は数種類の霊草と強い魔力を秘めた茸、竜の血、高品質の魔石、そして世界樹の葉、もしくは種。魔石は飽和するほど魔力を込めると粉末状に崩れてしまうので、その粉末状になったものを使うらしい。世界樹の葉か種は一般的にはダンジョンで入手するしかないそうだ。他にはエルフの里に行って分けてもらうという方法もあるにはあるけど、エルフの里は排他的な場合が多いので、まず分けて貰えない。一応代用になる霊草はここにも生えていて、それを使えば回復のエリクサーを作る分には問題ないらしい。大丈夫、それもちゃんと確保済だ。
また、より高品質のものを作る場合は竜の血よりも内臓を使う方がいいとの事だった。そして竜の血は亜竜の物で代用可能だけど、その場合は最低品質~低品質のものしか作れない。傷を治すだけならこれで十分らしいけど。
そして回復以外のエリクサーはそれらに加えて別の素材を加えると作りやすくなるそうだ。基本的には方向性を定める素材なら何でもいいという事らしく、魔力回復の生命のエリクサーなら粉末魔石を多めに入れるとか、病気を治す癒しのエリクサーなら身体に良い漢方薬系の素材を足すとか……。
再生と若返りには世界樹の葉か種が必須。というかどちらかを多めに加えれば回復に加えて再生か若返りの効果が追加される感じらしい。作り分ける時は作りたい方をイメージしながら魔力を込めるとかなんとか? というか回復以外は基本的にはイメージだけでも大体何とかなるとの事。思ったよりもレシピ雑じゃね?
っていうかそんな事よりも、爺さん色々と詳しすぎない!?
「ちょっと詳しすぎません? 錬金術は使えないって言ってませんでした?」
「ああ、俺は使えない。だが若い頃の連れにそういうのが得意な奴がいてな。そいつはやたらと説明好きで、作業を横から眺めながら駄弁ってるうちに色々覚えた」
なんでも、酒を飲みながら絡んでよく作業の邪魔をしていたらしい。よく怒られなかったな……。それなら【錬金術】スキルの覚え方とか知りませんかね?
「……なんだか違和感があると思ったら、そういう事か。……なるほど、となると嬢ちゃんがあれこれやってたのは 固有(ユニーク) スキルか……」
あー、やっぱり見る人が見れば私がスキルで色々作ってる姿には違和感があるのか。尚、ジョージ爺さんは【錬金術】の習得方法は知らないとの事。またも不発、残念。
「……まあ詳しくは聞かんが、現状では一応最低限は困ってないんだろう? なら気長に構えておくしかないんじゃないか?」
やっぱり現状維持のままか……多分だけど【錬金術】を覚えれば作業効率が良くなったりとか付与可能になる種類が色々増える気がするんだよね。あとゴーレムの精度というか、一々命令しないでも勝手に自己判断で動くようになったりする気がする。
「そういえば思い出したんだが、嬢ちゃんの魔剣を拾われても勝手に使われない様にする方法、あるぞ」
えっ、マジで!?
「【使用制限】を掛ければいい。強力な聖剣や魔剣は使い手を選ぶという話を聞いた事はないか? その話は本当の話でな、強い力を持つ武具は自分の意思で自らの使い手を選ぶ時があるんだ。まあそういう武具は大抵は神授の物か、ダンジョン産でも極一握りの物になるが……。【使用制限】はそれに近い効果を疑似的に再現したものでな、製作者の望まない相手が手にしても武器としてはまともに使えなくする事が出来る」
そんな便利な付与が……!
ちなみに使用許可がない人がその武器を手にした場合、剣は鞘から抜けなくなり、抜身の状態で手にしても見た目は滅茶苦茶鋭いのに全く切れないなまくらになるらしい。それはただの鈍器では……?
防具の場合は付与が全く効果を発揮しなくなって素材そのままの防具としてしか使えなくなるそうだ。防具の方はまだマシなんだな。
ちなみに試してみたけど【使用制限】は付与出来ませんでした! もしかしなくてもやっぱり【錬金術】が無いから!? くそったれええええええ!
「……なんというか、さっきも言ったが気長にな……一応は対処は出来てるわけだしな。だからそう落ち込むな」
「はい……」
そうだね、一応は対処出来てるからね! ……大丈夫、武器としても凄い有用だし! だから別に落ち込んでないよ! ちょっとだけしか!
一通り素材採取が終わり、拠点に戻るとリリーさん達が完全に暇を持て余していたのでワイバーン狩りも終了して撤収する事になった。今から戻れば夕方には温泉まで戻れるので、晩ご飯の時間には間に合う。
この数日、私と爺さんとノルンが狩りに出掛けてる間はずっと拠点警備をしていた3人と一匹はかなりストレスが溜まっていたようで、かなり足早に移動していた。結果だけ見れば特に問題も起きなかったものの、一応警戒中という事で拠点周辺から離れる事も、気晴らしに身体を動かす事も出来ずにただただじっと周囲を見ていたそうな……。特にアリサさんは爺さんとの摸擬戦に味を占めていたので猶更イライラしていた模様。ちなみにリリーさんは黙って瞑想したり魔力制御の訓練をしていたそうです。クロ? クロはベルと一緒にずっと昼寝してたってさ。
爺さんの家に戻ると全会一致で最初に全員温泉に入った。狩りの間、私の『洗浄』を使っていたので身体の汚れ自体は何も問題はなかったんだけど、ここのところ全員がずっと毎日温泉に入っていたのでお風呂に入らないとなんだか気持ち悪くて落ち着かないってね……。わかる、凄くよくわかる。汚れてないならいいってものじゃないんだよ! 風呂上りに使ったバスタオルもちゃんと毎回洗えよ!
お風呂を上がったら晩ご飯の準備。お米を炊いて、ワイバーンのお肉を薄切りにしていく。味見の為に1枚焼いて食べてみたところ、なんというか……高級霜降り牛肉の凄い奴? 口の中で蕩けるような感じではないんだけど、かといって脂がしつこくなく、何枚でも食べられそうな不思議な感じ。
個人的にはもっと筋っぽいか、鶏っぽいんじゃないかと予想してたんだけど、肉自体にも脂とは違った旨味も感じる。ただ、運動量が多いからなのか食感はそれなりに硬い感じ。
……ワイバーンでこれってなると、竜の肉はどれだけ美味いんだろう? 本物のドラゴンステーキ……いつかは食べてみたいな。
それはそうと、ある程度の量の肉を切り終わったら次は【創造魔法】を使って熟成肉に変化させた肉も切っていく。絶対こっちの方が美味い筈だしね。……ちなみにこの世界、肉の熟成なんて知識は一般的には知られていないっぽい。貴族でも知ってるか微妙な気がするけど、この間滞在した村でご馳走になった肉料理、あれは村に伝わる方法で熟成させてたものだったみたいなので、一部では秘匿してる感じなのかもしれない。なお、ワイバーンの肉は熟成させると口の中で溶けるくらいに柔らかくなったし、旨味も更に強くなった。やばいなワイバーン。
ああ、焼肉と言えば塩胡椒と、後は焼肉のタレも用意せねば! おろしにんにくをたっぷり利かせた奴を作ろう。
……かなりの量を用意したけど、食べきれるか……? いや、むしろ足りるかどうかを気にした方がいいのか……?
うーん、野菜はどうするかな? いや、焼肉って言ってるんだから肉だけ食べればいいんだよ。そうなんだよ、焼いた野菜が食べたい時は焼き野菜を食べればいいんだ。何を言ってるのかわからないと思うが私も自分が何を言ってるかもうよくわからない。……一応葉野菜くらいは用意しておこう。
ああ、そうだ、忘れちゃいけないノルンとベルの分! ……え、生のままがいいの? それを塊肉のままで? そっか、じゃあ塊肉のままで、はい。あ、先に食べてていいよ。……凄い美味しそうに食べてるね。よし、続きをやろう。
さて、食材は揃ったので次は肉を焼く為の網と火鉢を用意。火鉢は1人一つで、火は炭火だ。よし、準備完了、後は各々好きに食え!
そうして始まった焼肉パーティーは阿鼻叫喚の大騒ぎ! にはならず、意外とみんな黙々と食べていた。時折美味いと聞こえるけど、ほぼ無言、ちょっと怖い。
「うまっ、うまーっ!」
「なにこれ、口の中で溶ける…」
「うー!」
「嬢ちゃん、後生だ。ビールをくれ、頼む」
……まあ爺さんはそうなるよね。仕方ないのでお酒も出してあげた。リリーさんとアリサさんにもレモンサワーを出してあげた。私は麦茶。烏龍茶欲しいなあ……茶葉……いや、チャノキが見つかれば色々な茶葉が作れるか。次はチャノキも探そう。
そしてリリーさんとアリサさんはへべれけになってしまわれた。こっちに絡んでこないでね? ああ、それにしてもワイバーンの肉、マジで美味いなあ……滅茶苦茶ご飯が進む。クロと私は肉肉ご飯、肉ご飯、肉肉肉肉肉ご飯、と言った感じだ。老若男女も猫獣人も狼もまっしぐらのワイバーン肉、マジヤバイ。
爺さんもある程度まではご飯もちゃんと食べてたけど、途中からはほぼ肉オンリーでガンガンビールを飲みまくっていた。うーん、ほどほどにね……? 後で街に寄ったら大麦を仕入れないと……。
うん、いい肉はシンプルに焼くのが一番良さげ。後で部位毎に肉質とか脂の乗りに差があるのか調べておこう、ロースやカルビもいいけど私は赤身が食べたい。ローストビーフならぬローストワイバーンもありかもしれない。
お腹いっぱいになった後はもう一度お風呂に入って身体を洗ってから就寝。焼き肉の煙で臭いがね……。
そして翌朝、アリサさんとリリーさんは死んでいた。飲みすぎだよ、君達。いい経験だからそのまま苦しんでなさい。爺さん? 爺さんは既に朝風呂に入ってました。
そういう状態だったので朝食はあっさり目にした。白米、味噌汁、焼いた川魚、だし巻き卵。箸休めにキャベツの浅漬け。朝食後はまた訓練……ではなく、私は物作り。リリーさんとアリサさんはまだ頭が痛いらしく、午前中は休むらしい。爺さんは暇を持て余して釣りに出掛けて行った。クロも爺さんに付いて行った。……これはまた食材が増えるパターンだな?
さて、今日からは色々と作って行こう。竜を除けばほぼ最上位の亜竜の素材が山盛り、魔石も高品質で使い道は選り取り見取り。うーん……。
まずはワイバーンの魔石を使って魔導甲冑のバッテリーを交換でしょ、次に魔導甲冑用の遠距離攻撃用の武装として銃器、ネタ装備としての私用の火薬を使った火器、後は火薬を使った手投げ爆弾もありかもしれない。【操剣魔法】用の弾頭も形状の種類を増やしたいし、ああそうだエリクサーも作ってみないと。
魔石は色々使い道があるからなあ……。むしろ余るのは素材の方? 私用の武器は間に合ってるし、防具もミスリル装備で服も外套もミスリルメッシュ。一応小手や脚甲の偽装にかぶせてある革素材はワイバーンに張り替えておくとして、あー、リリーさん達の革防具も今使ってる奴と同じデザインで作り変えるか。
作りたいものが多すぎてどうしたものかな、これは。