作品タイトル不明
161 温泉! 入らずにはいられない!
そんな訳でえっちらおっちらと山登り中である。
山道は狭く、一人が歩く程度の道幅しかないので自然と一列に並んで進む事になった。順番はベル・アリサ・リリー・クロ・私・ノルンの順で、警戒しつつもそれなりの速度で進んでいく。
まあ山登りとは言え、地面の傾斜が緩やかなのできつい事はきついけどそこまできついというほどではないのが救い。と、いいつつ私は隊列の最後尾でノルンに乗せてもらっていたりするんだけど。
いや、最初は自分で歩いてたんだけど、ベルの訓練も兼ねてノルンは見守りモードとの事で、ぼんやり見てるのもなんだから、と珍しく自発的に私を乗せてくれたのだ。その訓練の為、ベルは一番前で警戒しながら進んでいる。私は楽だからいいけど、なんだかみんなに悪い気もしなくもない。
それなりにある程度進んだところで若干開けたように見えなくもない場所に出た。丁度いいという事で、一旦ここで休憩する事にする。まああくまでも『開けたように見えなくもない』程度に少し広く踏み均されてるだけの場所なので、全員が座ると大分狭い。多分だけどここを踏み均した人も一時休憩用の場所、という感じで整えたんじゃないだろうか?
うーん、今後、またここの温泉に来る時の事を考えるとここを整備してしまいたい気もするけど、折角の穴場に大勢人が来るようになってしまったら私がゆっくり温泉に入れなくなるしなあ……取り敢えず保留にしておこう。
ストレージから冷えた果実水を出してみんなに渡していく。うーん、火照った身体に染みる……美味い!
一息ついてみんなの様子を窺う。アリサさんはまだまだ余裕、リリーさんはやや疲れた感じ、一番ぐったりしてるのはクロで、ノルンとベルは全然普通、最後に私はノルンに乗ってたので超余裕。クロは最年少だし、これは仕方ないか……。
そんなことを考えているとふと違和感に気付いた。山道沿いに流れてる小川が、なんだか……? 気になって近付いて手を入れてみる…… 温(ぬる) い。いや、温いって言うか普通に温かい。
あー、やっぱりこの道の先に源泉があるのは間違いないな、これ。多分だけど源泉から湧いたお湯が溢れて、自然に流れたのがこの小川かな……? いや、よく見てみるとこの小川、手で掘ったっぽいかも? そもそも周辺の一部の地元民には知られてるわけだし、過去の利用者達が手を入れたのかもしれない。そう考えるとこの休憩場所もそういった過去の利用者の誰かが作ったのかも?
休憩がてら軽食も食べ、全員が落ち着いたところで移動再開。んー、結構歩くなあ……。
結局、途中に数か所あった休憩場所で休憩を挟みつつ、なんだかんだと三~四時間ほど歩き続けて森を抜けた先、岩壁に近い所開けた一帯にそれは有った。
大き目の石で囲われたやや広めの水溜まり。というか温泉。傍には掘っ立て小屋というか廃屋というか……まあ、寝泊まりする分には最低限問題は無さげな建物。
なるほど、日帰りするには最寄りの村からでも距離がありすぎるし、しばらく逗留してゆっくりする為に過去の利用者の誰かが建てたのかな。ハンケンで情報を仕入れた割にはあの町からも結構離れてるし、あの町の住民の利用者となると遠方まで狩りに出た猟師とか、遠出した地元で活動する冒険者とか……?
「はー、やっとついたあ~~」
「結構歩いたねー」
「うー、疲れたー……」
リリーさん達2人は兎も角、温泉を発見して早々クロは疲れ果てて大の字になってしまった。うん、まあ、何をするにしてもまずは休憩か……。
クロはそのまま休ませるとして、あの小屋を勝手に使うのはちょっと微妙かな? と考えていると、リリーさん達が少し離れたところにテントを張り始めた。それならと私も2人のテントの近くにストレージから張った状態のテントを出して設置、後はクロの分も出しておく。ついでに調理台とテーブルセット。そうして準備しているとノルンとベルが周辺の様子を見に駆けて行った。……ついでに色々狩って安全確保もしてくるんだろう、多分。
その後も野営準備をする2人を他所に、私は温泉の様子を見に行く。
んー、湯溜まりを囲うように雑に組まれた石。これは後できっちり組み直そう。お湯に手を入れる、結構熱め。もう少し温い方が入りやすいかな?
周囲を見ると、湯溜まりに流れ込む水の流れが二つ。一つは岩壁の溝を伝って流れてくるお湯。もう一つは左の方から流れ込んでくる水。
本当の源泉は崖の上か、これ。で、横から来てる水の方は多分、街道と並走してた川の上流辺りから引いて来てるのかな?
これは手を入れるのはかなり大変かもしれない……ふっふっふっ、腕がなるぜ……!
などと一人盛り上がっていたら、掘っ立て小屋から人が出てきた。おおう、先客がいたとは……! って言うか、あれ? あの人、どこかで見たような……?
「おお? 湯に浸かりにきた連中か? 変に汚したりしなけりゃ好きに入っていって構わんぞー」
「あ、あの! ここにお住いの方ですか?」
「あー、そんな感じのもんだー」
リリーさんが声をかけるものの、なんだか雑に返事をしながら私が居る湯溜まりの方に歩いてくる……全裸にサンダルで。あと手には手ぬぐい。
「おお? 何だ、前に森で馳走になった嬢ちゃんか、久しぶりだなあ」
「あー、はい。お久しぶりです」
うん、前に冬の主討伐の一件の時に会った事があるドラゴンスレイヤーの爺さんだった。でも丸出しで登場するのはどうなの? もう少しこう、隠すとかですね……? ほら、リリーさんがちらちら見てるし。
「さっきも言ったが好きに入って行って構わんぞー」
「あ、はい……」
そういいながらサンダルを脱いで湯溜まりに浸かる爺さん。相変わらずマイペースだな、この爺さん。
それはそうとして、うーん……割とどうでもいいやと感じてる私は兎も角、リリーさん達はどうなんだろう? ほら、年齢的に……。
「あー……」
「どうしましょう?」
リリーさんが私のところまで寄って来て聞いてきた。いや、うーん? 私に聞かれてもなあ……? 取り敢えず爺さんの方をチラ見してみる。
「ん? どうした?」
「あー、なんと言いますか……」
「んん……? ああ、そういう事か。安心しろ、嬢ちゃんたちは俺の守備範囲外だ、まったく食指が動かん! だから気にしないでいいぞ!」
だってさ。って訳でリリーさんに視線を戻す。
「いや、うーん……?」
うむ、悩んでおられる。
「レンさんはどうします……?」
「私は色々やってから後で入りますよ。それにほら、祖父母の年齢の方々と一緒に入るのとそう変わらないのでは?」
「それはそうなんですが……」
「あー、じゃあ私が先に入ってくるよー。クロちゃんはどうするー?」
「わたしも入る」
「よーし、じゃあ一緒に入ろうー」
「むいー」
思い切りがいいというかなんというか、アリサさんがポンポンと服を脱いで湯溜まりに入っていった。それに追従するクロ。いや、せめて脱いだ服はちゃんと畳もう……? というか装備類も放り出してからに。
仕方ないので湯溜まりから少し離れたところに大き目のシーツを敷き、回収した二人の服を畳んでそこに置く。ついでに身体を拭くタオルも人数分用意。装備の類は回収してそれぞれのテントに仕舞っておく。あとは爺さんの真似をして湯溜まりを囲う石の傍に2人の分のサンダルも用意。折角お風呂に入ったのに上がった後に足の裏を汚しても仕方ないからね。ああ、リリーさんと自分の分のサンダルもシーツの傍に用意しておこうかな。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛~……」
「ん゛な゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛~……」
……うん、どうやらいいお湯の様子。2人ともいい顔をしておられる。
「……私も入ってきます」
「行ってらっしゃい」
そんな2人をみてリリーさんも入る事にした模様。ゆっくり煮えてきてね!
「嬢ちゃんは入らんのか?」
「私はちょっとこの辺りを整備しようかなと……色々弄りたいんですけど、構いませんか?」
「おー、構わん構わん。使いやすくなるなら大歓迎だ」
「……というか、この辺りの地主の方だったりします?」
「おー、そんなもんだ。ただまあ折角の温泉だからな、独占するつもりもないし変に汚さなきゃ自由に使って行って構わんぞ。ここに来る途中に看板が無かったか?」
「看板……ちょっと見てませんね……」
「……いや、すまん。確かぶっ壊れてて、立て直そうと思ってそのままだった。取り敢えずそこに個人所有地だが湯は自由に使って構わないって書いておいたんだ」
「なるほど、そうなんですね」
「うむ……ああ、何ならあの小屋も建て直してもらっても構わんぞ」
「いいんですか?」
「おう。嬢ちゃん達も折角湯に浸かったのにテントで寝泊まりでは疲れが取れんだろうし、多分しばらくここに逗留するつもりだろう? なら自分達が寝泊まりする場所も作ってしまえばいい、好きにやってくれ」
「なるほど、そういう事なら有り難く好きにさせてもらいます」
「おう」
よし、家主(のような人)の許可も得た事だし、好き勝手にやらかす事にしよう。幸いここは人目にも付かないし、自重は少し残して後は全部放り投げる勢いでやってしまおう。
っと、その前に水分補給用に氷水入りのピッチャーと人数分の木のコップを湯溜まりの傍に用意。
……さて、先ずはどこから手を付けるか。
最初は源泉の位置を確認してくるかな? 湯溜まりから少し離れた辺りの岩壁沿いで地面に手を付けて土魔法発動。足元の地面をモリモリと持ち上げていき、そのまま崖の上を目指す。
うーん、結構距離があるな……10メートルくらいかな? 崖の上は岩棚になっていて広く開けていた。んーと、源泉は……更に上の方か。
次の岩壁にも手を当てて同じ要領で更に上を目指す……上の岩棚に到着。えーと……源泉はあれか。二つ目の岩棚の奥の岩壁からゴボゴボとお湯が湧いているのが見える。結構熱そう……普通に入るのは無理なレベルの温度っぽい。さてここからは……よし。
まずは二段目から一段目の岩棚への移動用に崖寄りの地面に円柱状に縦穴を掘り、その壁面に階段を掘る。ちゃんと手すり付きね。で、その手すりの外側というか穴の中心の吹き抜けの方に螺旋階段と並走して一緒にぐるぐる降っていく水路を作る。
一段目の岩棚と同じ高さまで下ったところで横穴をあけて岩棚に出ると、先ほどと同じ要領で崖寄りの位置に縦穴を掘り、下までの通路を完成させる。その後は上まで戻って源泉の近くまで水路というか採湯路を掘ってしっかり形状も整える。ついでに地面も歩きやすいように縁石も作って石を敷き詰めた感じで整地。一段目の岩棚も同じように整える。
下に戻ったら次に採湯路を少し伸ばして、その先の地面に湯を溜める穴を掘る。ここに水を引いて来て、お湯と混ぜて温度調整してから湯船の方に引くようにするのだ。いきなり入るところで混ぜるのも火傷しそうなのでワンクッション置くのである。
温度調整用の湯溜まり穴……調整槽の壁面と地面、その周辺の地面を現代地球の温泉宿の風呂場のようにしっかりと整え、一時的に水路を繋げる。
さてその次は水路を遡って川を目指す……あかん、結構距離がありそう。ノルンさん! ノルンさんはいませんか! という訳で急遽ノルンに戻ってきてもらって、水路を辿って上流まで移動。
そこそこの速度で暫く移動すると水源の川に到着。なるほど、結構大きい川……というか岩壁の方に滝もあるし、魚も見えるな……。後で釣りに来るのもいいかも? えーと、ここから温泉地迄上の採湯路と同じように新しい水路を整備しながら戻る……ちなみに新しい水路と川はまだ繋いでいない。
そこそこの時間を掛けながら温泉地迄戻って来た。よし、次はみんなが入ってる湯溜まりの整備だ。という訳でみんなに上がって貰おうかな、と思ったら既に全員湯から上がってシーツの上に座り込んで涼んでいた。
「おー、弄るのに邪魔だろうと思って先に上がっておいたぞー」
「あー、はい、助かります?」
なるほど、気を利かせてくれたのか。よし、ガンガン作業を進めて早く終わらせよう。
という事で湯溜まり……ここはもう湯船と呼ぼう、湯船のお湯を【ストレージ】に全回収し、穴を広げてやや深くして、穴の壁面と床を整備して、周囲を囲むように小岩も配置。更に周辺の地面も整地して洗い場のようにする。調整槽と繋いで、次は排水路を整備するためにノルンに跨り、街道方向に移動しながらきっちり整備していく。
……枯れ葉とかで埋まらないように石の蓋もしておくか。街道迄の道は途中に3か所の休憩場所があるので、二つ目と三つ目の休憩場所までは道も舗装整備。休憩場所も広げて地面を整地する。二つ目の休憩場所から一つ目の休憩場所までの道と、一つ目の休憩場所から先には手は入れない。穴場的な場所なので今まで通り目立たないようにしておくのだ。そこまで終わらせると温泉地まで戻り、水路先の川まで行って水路と川を繋げ、水路に石蓋をしながら戻る。次に上の源泉と採湯路も繋ぐ。そして最後に先ほど回収したお湯を湯船に戻す。
ここまで終わらせたところでもう夕方近くになってしまった。残りの作業は明日かな? でもまあ一応入れる状態にはなったし、後はもうお湯に浸かって休むとしよう……。
ちなみにリリーさん達が晩ご飯の用意は済ませてました、ありがてえ……。