作品タイトル不明
157 渡る世間は思ったよりもずっと狭い
そんな訳でタイミングよく帰って来ていたアリサさん達と合流して、村長に話を聞く事にしたんだけど……。
「いやはや、申し訳ない。このようなご迷惑をおかけするつもりではなかったんですが……」
「ああ、いえいえ! お気になさらず!」
「この件に関しては代官様を通してもう既に領主様にも嘆願済みでして、対応してもらえる事になってましてな……申し訳ないのですが、その……」
「いえいえ、大丈夫ですよ! その、ミーナちゃんが泣きそうな顔をしていたので一応話だけでも聞こうという事になった感じだったので! それに、その……こういった依頼を直接受けるとですね、その……揉める事になる場合も多いですから……」
「ああ……まあ、そうですね……こちらとしてもそういう事になると困るといいますか……」
「で、ですよね? はは……」
うん、既に対応済みだったらしい。そしてリリーさんと村長、お互いにトラブルは嫌だから受けたくないし受けないでくれと言う視線でのやり取りをしながらの微妙な感じの応対。どうするのこの微妙な空気。
「では、そういう事で……ミーナ! 全くお前は余計な事をして!」
「だって~……」
「だってじゃない! お前はもうあっちに行ってなさい!」
「はーい……」
「はぁ……全く、あの子にも困ったものです」
「いえいえ、それだけお母さんの事が心配だったという事でしょうから、そんなに怒らないで上げてください」
「そう言って頂けると助かります。……しかし、そうですな……先ほど言いました通り、魔獣の件は既に対応して貰える事になっているのですが、代官様に話を聞いてみるというのはどうでしょうか? 我々で皆様を雇うとなると色々と問題にもなりかねませんが、代官様であれば何かいい案をお持ちかもしれません。こう言っては何ですが、戦力は多い方がいいでしょうし……」
「え? あー、いやー……ちょっと相談してもいいですか? ……はい、それじゃあ……レンさん、アリサ、どうしよう?」
流石に独断で決めるのはどうかと思ったのか、リリーさんは私達に相談する事にしたようだ。
「私はどっちでもいいですよ」
「あー、私は行ってみたいかなー? もし可能なら見学させてもらうのも経験になるし、予備役で雇って貰えればお駄賃くらいは貰えるかもしれないしねー」
いつもと逆で私がどっちでもOKでアリサさんが前向きに受けるという意見になった。いや本当に珍しいな?
ちなみにクロはと言うと……。
「むいー」
半分寝てて聞いてないっぽい。でもまあクロの性格だとどっちでもいいって言うだろうから、私と同意見って事でいいかな。
「うーん……それなら取り敢えず話を聞きに行ってみるって事にしようか」
そういう事になったのだった。で、代官様に話を聞きに行った結果。
「ふむ、では私の方で予備戦力として雇うとしよう。いざという時の備えはあった方がいいからな」
あっさりと雇って貰える事になったのであった。
とは言っても基本的に後方待機で、戦闘を眺めてるだけでいいらしい。あくまでも予備戦力という扱いだそうだ。
今回の魔獣討伐には領軍の騎士団から一部の部隊が来る事になっているそうで、既に作戦も立ててある為に下手に組み込むと連携が乱れるという事らしい。とは言っても戦闘に参加しなくてもお手当は戴けるとの事。ありがたいね。
後は一応、戦闘後にリリーさんの回復魔法で怪我人の治療を担当してほしいとの事だった。ポーションなどの物資も用意はしてあるけど、そういった軍事物資の備蓄消耗は少ない方が助かるとの事だそうだ。ちなみに明後日には騎士団が到着するとの事で、出陣はその翌日の予定になっていた。
そして代官様の強い押しにより、私達の宿泊先は代官屋敷へと移動する事になった。なんでも色々と冒険の話を聞きたいそうだ。
それもその筈、村長さん曰くこの代官様は騎士という触れ込みだったけど正確には陪臣騎士、つまり領主に仕える私兵であって正式に騎士爵の受勲をしている訳ではない、元冒険者なんだそうだ。なので領主様と一緒に王都とかに行った時のそちらでの扱いは平民の従者という事になるそうな。領内なら本当の騎士と同等かそれ以上の扱いと権限らしいけどね。
代官様、現在三十代で名前はジャンというらしい。様付けで呼んだら微妙な顔をされたので、さん付け呼ぶ事になったんだけど、素は凄い気さくな人だった。
この領地の領主様は領民思いのいい領主様らしく、ジャンさんは子供の頃から将来は領主様の力になりたいと思っていたそうで、成長してからは冒険者として色々頑張ってたらしい。そんな努力の甲斐もあってか、無事登用して貰えたとかなんとか。
ちなみに村が魔物や魔獣の被害に遭った場合の対応なんだけど、基本は村から近くの大きい都市に人を出して冒険者ギルドに討伐依頼を出す場合が多いらしい。そして討伐報酬は基本的に村が出す事になる。でも実際の魔獣被害の対応は村を統治する領主次第である部分が大きいらしく、大半の領主は討伐後に村が出した報酬の一部ないし全額補填をして終わり、となるそうだ。
領軍や私兵などから討伐隊を出す領主は少ないらしく、ここの領主はその少数派という事になる。他にも領主ごとに色々な対応というか魔獣被害への対策などはしているらしいんだけど、それこそ領主次第なので他領についての詳しいところはジャンさんにもわからないらしい。
そんな話を夕食をご馳走になりながらつらつらとしていたんだけど、ここで意外な事実が判明した。
「なんと! アリサはグスタフの姪なのか! あいつは元気か?」
「あー、やー、最近会ってないの分かりませんが、多分元気だと思いますー?」
「そうかそうか、あいつの血縁、しかもハミルトン流の本家の娘か……! これは実に頼りになる後詰めだな!」
うん、なんかよくわからないけど、ジャンさんはアリサさんの叔父にあたる人と知り合いだったらしい。というか冒険者時代に剣術を教えてもらったり、同じパーティーで一緒に活動していた時期もあったりしたとかなんとか?
ちなみにこのアリサさんの叔父のグスタフという人、なんと元Aランク冒険者で色々と活躍していた凄い人らしい。しかも当時の仲間はリリーさんの伯母に当たる人と、もう一人は聞いてびっくり、ハルーラのギルドマスター! そんなギルマスの名前はウォーゼルさんと言うそうで、リリーさん達がハルーラに居たのはその縁故もあっての事だったらしい。世間は狭いなあ……。
「これはガブラスの奴に教えたら悔しがるだろうなぁ」
なんかジャンさんはニコニコしながらそんな事を言い出した。ガブラスって誰? どこかで聞いた事あるようなないような……?
と思ったらこれも即解決、なんとアリサさんが知っていた。というか私も聞いてた。ラッドさんに剣術を教えた人だった。
このガブラスさんというのは領主様の一族の傍系にあたる人だそうで、ジャンさんが剣術を教えたらしい。その教えが更にラッドさんに、と言うアリサさんからすると凄い遠縁にあたる同門の系譜だったりしたわけだ。うん、ややこしいな!
でもってガブラスさん、ジャンさんから色々な話を聞いてグスタフさんに憧れているらしい。将来的に領主様に仕える事になってるんだけど、現在は武者修行も兼ねて冒険者活動中との事だ。
とは言えそんな感じの歓談ばかりではなく、一応問題の魔獣の詳細などの話もした。
件の魔獣は大型の蛇の魔獣で、ブラックバイパーと呼ばれる種類のモノらしい。リリーさん曰く成長すれば見上げた頭の位置が5~6mを超えるほどの高さで、胴回りは両手を回しても届かないほど太さのかなりやばい大きさになるらしい。そして名前の通りに毒持ち。
幸い今回の相手はそこまでの大きさではなく、見上げた高さは3~4mほどで胴回りは成人男性が抱き着けば腕が届くくらいだとか。いやいや、それでも普通にデカイよね、それ! ……そういえば大量の山羊を襲ってたんだっけ……丸呑みか……こわ……。
そんなブラックバイパー討伐作戦は、ロープを括った投槍やフック付きロープを大量に投げかけて身動きを取れなくしてからタコ殴りにするという、実に分かり易いものだった。
村長が居る時にジャンさんが言っていた『作戦や連携の邪魔になる』というのは実はただの建前で、討伐隊が危なそうな時は全力で攻撃参加してもらうつもりだったらしい。
私達の今までの冒険談を聞いて、ゴブリンロード率いるレギオンを討伐した話を聞いたジャンさんはそんな腹積もりが間違ってなかったと安心し、これで全力で戦える、と大変いい笑顔だった。
ジャンさんの見立てでは、討伐隊の練度的にそれなりの数の怪我人は出るだろうけど重傷者は多分出ないだろうし、死亡者も出ないだろう、との事。なので私達の出番もないまま終わると思う、らしい?
まあ何もしないでお金貰えるならそれが一番いいけどね、楽だし。
なお、翌日は朝食前からジャンさんとアリサさんが激しい摸擬戦を繰り広げていましたとさ。
……うん、なんなら朝食後も摸擬戦、昼食の後は少し休んで夕方までまた摸擬戦。ずっとやってました。うーん、修羅の国の人達かな?
いやいや、この人達元気すぎでしょ!?
ちなみに戦績はジャンさんの圧倒的勝ち越し。アリサさんは三回くらい勝ってたけど、後はコテンパンで惨敗。勝った試合は全部フェザーを使ってのかろうじての勝利だった。うーん、ジャンさん滅茶苦茶強い……。
クロも少し混ざってたけど、勝負にならなくて途中で切り上げてノルンと一緒に周辺の散策に行ってたよ。今のクロでは流石にレベルが違いすぎて鍛錬にならない感じだったし、それならアリサさんの戦闘経験を積む方に集中しよう、と話し合った結果でもあるんだけど。
そのお陰でアリサさんはラッドさんとの摸擬戦で習得していた【鷹の目】のレベルが一気に3まで上がり、更に【剛力】スキルもLV1で習得したのだ! 一挙パワーアップ! 凄い!
ちなみにアリサさん、実は【鷹の目】の上位スキルである【見切り】を既に習得していたんだけど、その【見切り】に目の方が追い付いていなかったらしい。それが【鷹の目】のレベルアップで一気に差が埋まり、摸擬戦の最後の一戦は攻撃を避けるのがかなり楽になったとの事だった。
「いやー、きつかったけど、やってよかったよー。ジャンさんありがとー」
「こちらとしても久しぶりに手応えのある相手と戦えて大分戦闘勘が取り戻せた。助かったよ」
うーん、このバトルジャンキー達め。
でもジャンさん、アリサさんに付き合って丸一日潰してしまう事になった訳だけど、問題はなかったらしい。諸々の準備はもう大体終わっているそうで、既に物資の大半もこの代官屋敷に届いていて残りは討伐隊と一緒に明日持ってくるそうな。
むしろ時間を持て余していたので、その時間を潰せた上に戦闘勘も戻せて万々歳、だってさ。流石代官様、抜け目が無いね。
ちなみにノルンとベルは別行動。ここに居ても身体が鈍るとの事なので、ベルに訓練を付けてくると出かけて行ってしまった。一応こちらの気配が分かる距離には居るとの事で、討伐が終わって私達がここから離れる時には合流するつもりらしい。
そんな感じで過ごした翌日に討伐隊が到着。
到着した討伐隊は騎士十名に従士十名、更に兵士三十名の計五十名というなかなかの大所帯だった。ちなみにこの騎士十名の中にジャンさんは含まれない。ジャンさんは総指揮官という扱いらしい。ついでに最大戦力なので温存するという意味合いもあるそうだ。あ、五十名に更にジャンさんの従士一人と直下の兵士三人も加わって最終的に討伐隊は五十五名+私達四人と二匹ね。
でもって残っていた細かい準備作業を終わらせた後は早々に休息をとって明日に備える事になった。
そして翌日には遂に魔獣討伐に出撃だ。