軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

116 こんなのやってられるかボケェ!

……一体何の冗談だ、これは。

巨人種。それは亜竜種と同格か、下手すればそれ以上に危険な魔物だ。とは言え本来は山奥に生息しており、人里には滅多に出てこない。

新たに現れた巨人は身の丈10mはあるように見える……まともに戦っても勝てる気がしない。私、なにか悪い事したっけ? これは一体なんの罰ゲームだ。

私が軽く現実逃避している間にも巨人は歩みを進め、完全に森を抜ける。そしてその後を追従するように大量のゴブリンとオークも森から現れた。

巨人に加えて大量のゴブリンとオーク。

劣勢だった防衛戦に勝利したと思った直後に、あんまりにもあんまりな敵の増援。いや、本隊か。

そんな状況に呆然としてしまったのは私だけではなく、防衛戦力の冒険者達もだったようだ。冒険者達は茫然自失と言った様子で、全員が巨人を見上げていた。

戦場に居る全員の注目を浴びながら巨人は両腕を掲げると、その両手の間に氷の塊が現れた。それは徐々に体積を増して行き、やがて巨人が抱えるほどの大きさへと変わる。

そして……巨人は、大きく振りかぶってそれを放り投げた。

投げ放たれた巨大な氷塊は轟音と共に城壁に命中。

氷塊が城壁にぶち当たり砕け散った後には、頑強な筈の城壁に巨大な亀裂が走っていた。

氷塊が砕け散る際の轟音に、防衛部隊も含めた場の全員が正気を取り戻す。

騒ぎ立てながら何やら走り出したり、巨人に向って弓を射掛けたり……効果があるようには思えないけど、かと言って彼らも何もしないわけにはいかない。

私も何か動かないと……でも先ずは。

「トリエラ、皆を連れて城壁の中に戻って下さい。ここは危ないので」

「それは……そうだね。うん、わかった! 皆、行くよ!」

「待ってよトリエラ! レンちゃんを残していくの!?」

「私達が居ると邪魔になるんだよ!」

「……! ……分かった、行く」

リコには悪いけどトリエラの言う通りなので口は挟まない。皆を守りながらあんなの相手にするとか、普通に無理。と言うかあんな化け物、どうやって相手をしろというのか。無理ゲーどころかクソゲーすぎる。

トリエラ達が城門の方へと走って行って暫くもしないうちに、再び巨人が氷塊を放り投げた。

幾ら頑丈な城壁とは言えあんな攻撃を何発も耐えられる筈が無いし、それを黙って見過ごすほど私は甘くない。巨人の手から放たれた巨大な氷塊に向って数十発の石礫を打ち込み、破壊を試みる。

さながらガトリングガンの如き連射で打ち込まれた石礫だったけど、氷塊の表面を多少削った程度で然程効果もなく、二発目の氷塊も城壁へ命中。亀裂は更に大きくなり、城壁の上部が少し崩れてしまった。

幾らなんでもあれでは三発目は耐えられそうに無い……そんな事を考える暇も無く、巨人は三度氷塊を作り始めた。

流石に三度目を許すほど防衛部隊も馬鹿じゃない。群がるように巨人に突撃して行くけど、巨人と共に現れた取り巻きのゴブリンやオーク、また残っていたアイスウルフ達が邪魔をして巨人に近づかせてくれない。

防衛部隊が取り巻き相手に梃子摺るうちに氷塊は育ちきり、巨人の手から放たれた。

さて、幾らなんでも好き勝手やりすぎじゃない? いい加減にしなよ?

一切の躊躇も無く 炸裂弾(バーストダガー) を打ち込み、『ファイナルストライク』を発動させる。

氷塊が城壁にぶち当たった時以上の爆音が響き、氷塊は粉々に砕け散った。

……さっきは何発石礫を打ち込んでも効果がなかったからこっちにしたけど、想像以上の破壊力に私自身がびっくりだよ!

自分で使っておきながらその威力にびびってると、ふと影が落ちて私の周囲が暗くなる。なんだ? と上を見上げると巨人が腕を振り上げ、拳を打ち下ろそうとしてる所だった。

……あ、私、死んだ。

スコットランド民謡が原曲の例のメロディと共に頭の中を走馬灯の様なものが駆け巡り、迫り来る巨大な拳を前に思わず目を瞑った。

拳の着弾に併せて轟音が鳴り響く。

あっけない最期だったなあ……でも、痛くなかったのが幸いかな。

あんな大きな拳で殴り潰されたお陰か、痛みを感じる暇も無くぺしゃんこになってしまったのだろう。痛くなかったのはいいけど、死体が無残な押し花になってしまった事だけは残念だ。

折角生まれ変わったのに、短い人生だったなあ……と人生を振り返っていた所、冷たい風が顔に当たる感覚がある。

おそるおそる目を開けてみれば、高速で流れる景色がそこに。

「あれ? ノルン?」

首を回して確認してみると、ノルンが私の襟首を咥えて疾走してるらしい……どうやらノルンが飛び込んで間一髪で助け出してくれていたみたいだ。

変に感心していると、顔に当たる冷たい風に生の実感を感じ始め、恐怖で身体が震えだした。

いやいやいやいやいや、無理! 無理無理無理! 無理! 死ぬから! あんなの相手に戦うとか無理!

失禁しそうになる位の恐怖で全身がガクガクと震え、カチカチと歯が鳴る。そのまま暫く走っていると不意にノルンが立ち止まって私を地面に下ろした。その場でしゃがみ込み、膝を抱えて小さく丸まって震える。

暫くそのままでいると不自然な位に急速に心が落ち着いてくる……ああ、【精神耐性】か。便利なんだか風情が無いんだか……そんなくだらない事を考える余裕まで出てくる。

立ち上がり、大きく一つ深呼吸……うん、落ち着いた。

「ごめんノルン、もう大丈夫……それと、助けてくれてありがとう」

「わふっ」

ノルンに頬をべろんと一舐めされた。慰めてくれてる? 不甲斐なくてごめんね? しっかし……はー、命懸けの戦闘とか、性に合わないわー……漏らすかと思った。いや、幸い今回は漏らしてないけどね。でもやっぱり近接戦闘は私には無理だ。チキンの私には遠くからちまちまやるのがお似合いだよ……

少し落ち着いてちょっと調子も戻ってきたかな、と言う訳で改めて周囲を確認。そこそこ離れた所に巨人が見える。

巨人の足元では冒険者達と……あれは、ベル? が、動きを邪魔してる様に見える……うーん、足元だけをチマチマ攻撃してるだけで、あまり効果的にダメージを与えてるようには見えないなあ。むしろベルの攻撃魔法が一番効いてるようにも見える。

寧ろ折角下から攻撃してるんだから、急所狙えばいいんじゃない? 竿とかタマとか? ……あ、なんだかかつて存在していた股間の一物がキューっとなったような気がする。うん、この案は無しで。

っと、ぼんやり考え事してないで私も参戦しないと。ベルが怪我でもしたら嫌だし。と言う訳でノルンに騎乗し、戦線復帰だ!

そして戦場目指して移動しながら色々なスキルを使って巨人を観察。

この巨人はさっきから氷属性魔法を使ってる所から分かるように、ただの巨人ではなく氷属性の『フロストジャイアント』だ。あれだけ巨大な氷塊をぽんぽん作って城壁を攻撃してる所を見るに、魔力も高く氷魔法が得意で知性も高いようだ。

また、自身の周囲や体の表面に氷の魔力を纏って防御力を上げてるらしい……【解析】便利だなぁ。

さて、防御が厚いとなるとさっきまでの石礫では守りは抜けないか。となると岩石サイズの弾丸を……って、さっきからやたらと巨人と視線が合う気がする。なんだか私の事を警戒してる? あ、もしかしてさっきの対空迎撃で脅威と認識された? うわ、止めてよマジで……

げんなりしながらも巨人の近くまで近寄り、早速1mサイズの岩石の弾を飛ばして攻撃開始。先程まで使ってたのが『 石弾(ストーンバレット) 』なら、今度は差し詰め『 岩石砲(ロックキャノン) 』って所かな? 見た目だけなら『球』魔法に見えなくも無い。爆発しないけど。

時計回りに大きく弧を描き移動しながら撃つ、撃つ、撃つ。が、あまり効果は見られない。

どうやら魔力障壁の濃度を上げているらしく、最初の一発以降は防御を抜けていないようだ……なら、弾速を上げてみるか。

更に速度を増した弾丸は見事魔力障壁を抜いて着弾、巨人の腕に怪我を負わせる事に成功! でもそれで怒らせてしまったらしく、巨人は大暴れし始めた。

暴れる巨人の近くは流石に危ない為、冒険者達も距離を取って遠距離攻撃に切り替える。当然私もそれに倣うように更に距離を取って狙撃を継続。

しかし巨人も馬鹿ではなく、私のほうに目掛けて自身の拳大の氷塊を雨霰と飛ばして邪魔をして来た。どうやら完全にロックオンされてしまったらしい。

ジグザグに回避運動をしながら華麗に避けるノルンのお陰で掠り傷一つ負う事は無いけど、これではまともにダメージを与えることも出来ない。

ノルンの激しい回避行動にフードがはだけ、白銀の髪が舞う。

巨人の周囲では冒険者達も立ち回っているので、彼らが踏み潰されないように巨人の動きを邪魔する為の援護として、牽制射撃。

どうする? 『 炸裂弾(バーストダガー) 』を使う? あれなら確実にダメージを与えることが出来る筈だけど……。

そのまま牽制射撃を続けながら次の一手を思案していると、巨人から強い魔力を感じる。慌てて巨人の方に視線を向けると、巨人の周囲に氷雪の竜巻が発生し、自身の周辺を薙ぎ払っていた。

なんじゃそりゃあ!?

巨人の周辺を吹き飛ばした竜巻は消える気配もなく、その巨体をすっぽりと覆い隠している。

様子見に岩石を飛ばして攻撃してみるも、弾き飛ばされてしまう。もっと大質量じゃないと抜けそうも無い……とは言え、余り巨大な岩を作っても効率よく飛ばせる気がしない。

となると強力な魔力を纏った 炸裂弾(バーストダガー) で一点突破するしかないか……とは言え余り遠距離から打ち込んでも弾かれそうな気がする。出来ればもっと接近して……

行動阻害としてはともかく、ダメージソースとしてはあまり効果が見られない牽制射撃を続けながらダガーを撃ち込む距離を考えていると、竜巻の向こうで巨人が両手を掲げるのが見えた。

あ、やべ。

このまま見てればまた城壁を攻撃されてしまう。あそこまで亀裂が入った城壁では流石に次の攻撃には耐えられないだろう。

巨人の手から放たれた氷塊に再びダガーを撃ち込み、爆砕。

再び邪魔をされた巨人は怒り心頭のご様子で、こちらに激しく氷の礫を降らせてくる。

これはもう覚悟を決めるしかないか。

MP回復(マジックヒーリング) ポーションを飲んで消耗したMPを全快させ、次に MP自動回復(マジックリジェネ) ポーションを飲んで戦闘継続能力も向上させる。

次に【ストレージ】から十本の 炸裂弾(バーストダガー) を取り出し、周辺の中空に滞空させる。

最後に【精神耐性】スキルを強く意識。それによりざわついた心が凪いで行く。

完全に意識を切り替えると巨人を見据え、大きく深呼吸を一つ。さあ、吶喊だ!

左右にステップを踏み、氷礫を回避しながら巨人に向ってノルンが駆ける。時折私に向ってくる氷の礫は全てベルが破壊してくれる。

ベルとダガーを引きつれ、真っ直ぐと巨人を目指し、ノルンが駆け抜ける。

そうしているうちにかなりの距離まで近づいたけど、まずはあの竜巻の防御を無力化しないといけない。

「『 炎の壁(ファイアウォール) 』!」

大量の魔力を注ぎ込み、巨大な炎の壁を発生させる。

【魔法効果増幅】により威力の増したそれは竜巻ごと巨人を囲み、瞬く間にその氷雪の竜巻を融解させた。

ごっそりと魔力を持っていかれた所為かぐらぐらと眩暈がする。少し無理をしすぎた。歯を食いしばって耐えていると、MP 自動回復(リジェネ) ポーションの効果でMPが徐々に回復し、楽になってくる。

くらくらする頭を軽く振り、視線を上げると炎に巻かれた巨人が地団駄を踏んで暴れている。急な展開に混乱しているらしい、うまく行った様だ。

巨人の注意が逸れている内に死角へ移動する。

反時計回りに巨人の背後へ移動すると、その隙だらけの背中目掛けて 炸裂弾(バーストダガー) を放つ。

巨人の背中に命中したダガーは爆砕し、破壊を撒き散らした……が、致命傷には至らなかったようだ。肉が爆ぜ、筋組織や肋骨が見え隠れしているけど、絶命にまでは至らない。どうやら体内に魔力を張り巡らせ、胴体部を守っているらしい。

とは言えもう3~4発撃ち込めば心臓を破壊できるかもしれない。が、相手も馬鹿じゃない。流石に何度も背中を晒してはくれそうにも無い。

どこか、弱点は……【魔力感知】を使い、防御の薄そうな所を探る。

手足は魔力が薄い。頭部は胴体部以上に濃い、けれど……よし、これで行こう。

ノルンの速度を更に上げ、巨人の周りをぐるぐると回りながら隙を窺う。巨人も私を視界に収めようとその場で回りだす。

当然『 炎の壁(ファイアウォール) 』は健在だ。三回ほど回ったあたりで目が回ったのかバランスを崩したのか、巨人は思いっきり炎の中に足を突っ込んだ。

足を焼かれて軽く飛び上がった巨人は正に隙だらけ。狙い放題だ。まずは完全に機動力を削ぐ為に右の膝裏目掛けてダガーを撃ち込み爆砕、膝から下を喪失させる。

片足を失った巨人はその場に倒れ込み、四つん這いの状態であまりの痛みに叫びを上げ始めた。

後は簡単だ。大きく開けたその口に 炸裂弾(バーストダガー) を三発も撃ち込めばいい。

一際大きな爆砕音と共に巨人の頭部が爆ぜ、後には巨大な首無し死体だけが残った。

暫くの沈黙の後、後ろの方で大歓声が上がった。

……はぁ、終わった……疲れた。

もうクタクタだ。一歩も動きたくない。早くお風呂に入って寝たい。

ノルンに乗ったまま周囲の状況を確認してみると、取り巻きの魔物はまだまだ沢山残っているようだ。でも流石にもう動きたくない、あとは全部任せよう。

あー……この巨人、どうしよう? 素材は色々使えるだろうし、Aランクの魔物の魔石となれば魔剣作成に大いに役に立ちそうだ。魔石だけでも欲しいなあ……

主の討伐隊が戻ってくる前に交渉して、それだけでも貰えないかな、等と勘定していたら、更に大きな歓声が上がった。

顔を上げてみてみると……げっ。

マジかー!? 討伐隊戻ってきちゃったじゃん! やべえ、逃げないと!

あの大勢の中からベクターさんだけ見つけて口裏あわせとか、ちょっと出来る気がしない。あああ、巨人の魔石……ああああああああ! クソッ! 諦めるしかない!

もうすっぱりと色々諦めて脱兎の如く戦場から離脱。森を目指して逃亡だ!

畜生! あんなに苦労したのに! あああああああああ! 魔石! 私の魔石ぃぃぃぃいいッ!