軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

775.全ての決着

『ほらほら、動きが鈍くなってるよ。ほらほら、ほらほらァ! アハハハハハ!』

アイノスが一方的に〚ヴォイドエッジ〛を放ってくる。

俺はそれを、懸命に致命傷を外しながら駆け回る。

別に当たっちまってもいい。

それで俺が、今ここで敗れさえしなければ。

大丈夫だ。

確実にチャンスはいずれ巡ってくる。

『キミはボクに一方的に嬲られ、今後数千年とボクの下僕となり虐殺を繰り返し、最後は世界崩壊の礎となって消える運命……。ねえ、イルシア、ボクに散々言い放ってくれた言葉、覚えてるかな? 今でも同じように言えるのかなぁ?』

俺は必死に歯を食いしばる。

アイツの性格は俺もわかってきた。

アイツは、どんな困難な状況でも屈さず立ち上がるような奴を見たら、その心を折らなければ気が済まないのだ。

そして自信家で慢心癖がある。

いや、事実、神に等しい力を持ってやがるんだから、慢心とは言えねぇかもだが。

だから、俺が虚勢を張ってりゃ、いずれ奴は余計な仕掛けを打ちたがる。

俺は……いや、俺達は、そこを狩る。

『ねえ、もしキミが今からでも無様に命乞いをしたら、お仲間の命だけは助けてあげてもいいよ。ボクは嘘が嫌いだから、約束を破るような真似は……』

んなわけがあるか。

テメェくらい嘘吐きで邪悪で軽薄な奴を、俺は生涯見たことがねぇ。

竜として生まれてまださほど時間は経ってねぇが、お陰様で散々濃い経験はさせてもらったから、生憎テメェが生粋のゴミクズヤローなのは確信が持てるぜ。

俺がみっともなく頭を下げたとしても、アイノスは適当な理由をあげつらって、俺の魂を使って地上の皆の虐殺を実行するだろう。

間違いなく確信がある。

アイツはそういう奴だ。

『テメェが楽しそうで何よりだよ。さっきまで、あんなにカリカリしてたのに。この先も、その態度がひっくり返らなきゃいいな。地方生まれの、アイノスちゃん』

俺はアイノスが理想郷イデアの出身ではないという仮説を基に、奴への皮肉を飛ばしてやった。

『この期に及んで減らず口を叩けるのは才能だね。一思いに殺してやるつもりだったけど、まずは四肢を奪ってやろうかな!』

アイノスが俺へ指先を向ける。

来た……〚エンパス〛だ! 目標の第一段階は突破した!

俺の精神の深くへと、アイノスのドス黒い思念が入り込んでくる。

ここだけ耐えろ!

ここを凌げば、これが最後だ!

『相方ぁ……代わってくれ! も、もう……耐えられねえ!』

『わ、わかった! オレに任せろ!』

相方が俺へと〚支配者の魔眼〛を向ける。

【特性スキル〖支配者の魔眼〗】

【目に魔力を込めた状態で目を合わせることで、対象の動きを数秒間封じる。】

【魔力差が大きい場合か波長が合っている場合には、動きを操ることができる。】

肉体の自由が相方へと移る。

相方操る俺の身体が、アイノスの〚ヴォイドエッジ〛を寸前で躱す。

俺は〖支配者の魔眼〗の効果を再確認する。

俺と相方は同一個体だ。

波長が合っているため、この〚支配者の魔眼〛で、ほんの少しの間であれば、身体を操る権利の奪取ができる。

『相方……』

俺は意識を振り絞り、大事な相棒へと声を掛ける。

『ンあ? 今、気ィ散ったら終わるんだが!』

『王都アルバンの、カオス・ウーズ戦……! あのとき、ほんの偶然だったんだろうが、よくアイツを止めてくれたよな!』

『オイ、何の話をしてやが……』

そこで相方が〚念話〛を止めた。

『ま、まさか……通るのか、アイツに!? 本当だろうなァ! 無駄撃ちだったら……!』

相方が俺の考えを察してくれたらしい。

話し過ぎればアイノスに察されるかと思って警戒していたが、さすがは俺の最高のパートナーだ。

大丈夫だ、相方。

駄目だったら、駄目で元々だ。

そのときは最初から勝ち目なんかなかったってだけだ。

失うもんなんてなんもねぇだろ?

気軽に行けよ。

でも、もし通ったら、アイツをぶっ倒せる。

この世界をひっくり返せる。

賭けとしては充分過ぎるだろ?

『バカだねえ。バトンタッチしたって、入れ替わった子にも撃てるんだから、不意を突けない今、何の意味もないのに!』

アイノスが相方へ〚エンパス〛を放つ。

その瞬間、相方はアイノスへと〚支配者の魔眼〛を放った。

赤い光がアイノスを捉える。

『はあ……?』

アイノスと相方の目が、ばっちりと合った。

そう、王都アルバンでのカオス・ウーズ戦。

あのとき、何故か格上かつ、完全状態異常耐性を有するカオス・ウーズに対して、〚支配者の魔眼〛が驚く程に綺麗に決まったのだ。

必死に戦っていたし、あのときも相方と主導権を入れ替えて戦っていた。

その最中で、何かの弾みでたまたまスライムの方を向いて誤爆しただけだろうが。

問題なのは、何故効いたのか、の方だ。

これは俺の仮説も入るが、カオス・ウーズの〚スキルテイク〛はスキルを奪うと同時に、一定の記憶……或いは、記憶に付随する精神を引き抜き、自身のものにする。

だからスライムは奪ったスキルを使いこなせたし、スキルを奪われた村の剣士ドーズや、薬屋の娘リュオンは廃人となった。

そしてスライムは、俺が卵の間に〚スキルテイク〛で、よりによって神聖スキルを引き抜いてくれている。

そのときに俺の記憶や精神の一部も、スライムの中に流れ込んでいたのではなかろうか。

だから〚支配者の魔眼〛の【波長が合っている場合】の条件を偶発的に満たしており、完全耐性と高い魔力を持つスライムの動きを数秒間縛ることができた。

そう仮説を立てられる。

だとして、今の状況はどうか。

〚エンパス〛は、自ら自身と相手の精神を同調させるスキルだ。

アイノスには〖状態異常無効〗があるが、この状態の〚支配者の魔眼〛が完全耐性を貫通することは、カオス・ウーズで証明済みである。

だが、これはあくまで可能性の話だ。

もしかしたら〚エンパス〛では止められないかもしれないし、そもそも止められたとして、ほんの刹那の間かもしれない。

だが、俺にはもう、ここに賭ける以外に道はない。

『ア、ア、ア……! これは、ナニ、が……ア……!』

アイノスが頭を押さえ、その動きを止める。

賭けには勝った……!

アイノスの〚エンパス〛に、相方の〚支配者の魔眼〛のカウンターが決まった!

肉体の主導権が俺へと帰ってきた。

俺は最後のMPを用いて、〚闇払う一閃〛を発動する。

聖なる光が〚神叛のラグナロク〛の刃に漲る。

【通常スキル〖闇払う一閃〗】

【剣に聖なる光を込め、敵を斬る。】

【この一閃の前では、あらゆるまやかしは意味をなさない。】

【耐性スキル・特性スキル・通常スキル・特殊状態によるダメージ軽減・無効を無視した大ダメージを与える。】

地面を蹴り、アイノスへと跳ぶ。

『ガ……あ……あ……!』

アイノスは俺を睨みつけ、前脚をわなわなと震わせていた。

〚支配者の魔眼〛の通りが、思ったより悪い。

今にでも解けちまいそうだ。

いや、だとしても、ここを叩くしかねえ!

『んがぁあああああああっ!』

アイノスが、相方のような声を上げ、同時に両前脚を振り上げた。

綺麗に決まってやがる……!

アイノスは振り上げた両前脚を、勢いよく自身の胸部へと深々と突き立てた。

奴の凶爪は、自身の強靭な体表を貫き、骨を穿つ。

アイノスは前屈みになり血反吐を吐き出すと、憎悪の籠った目で俺を睨む。

『イル……シア……!』

アイノスの周囲に、三重に分厚い光の壁が展開される。

〚大賢者の盾〛だ。

どうやら肉体の主導権を取り戻し、俺を跳ね除けるのに必死なのだろう。

あらゆるダメージを無効化する無敵のバリア、〚大賢者の盾〛。

それは〖闇払う一閃〗を前に、あまりにも脆く砕け散っていった。

このスキルは、あらゆるまやかしを打ち消し、確実にダメージを与えてくれる。

一枚、二枚、そして三枚目。

あれほど俺の手を焼いてくれた絶対防御の盾は、薄氷の如く脆く砕け散っていった。

アイノスの胸部へ〚闇払う一閃〛の横薙ぎの一撃をお見舞した。

手に、確かな手応えがあった。

奴の血肉や肉体が、青い光の粒となって消えていく。

『やめろ……やめ、やめろ! ボクは理想郷イデアへ……本物の世界へ行くんだ! そのために、こんな嘘っぱちな虚構の世界で、何の目的もなく……無意味な時間を送り続けてきたんだぞ! 二万年……二万年と、三千年だ! キミのようなちっぽけな存在には想像もつかないだろう! その間、破綻しないよう、世界法則を整え、文明を整え続けてやった! ボクが、どれだけの命が生きられる環境を整え、世界の理を守ってきてやったと思っている! 今こうしてこの世界が安定してるのは、かつてのボクが、人柱となり管理してやったからこそだ……!』

アイノスが地面へ蹲り、俺へと必死に呼び掛ける。

『ボクはこの世界の管理者、この世界の命は全てボクのものだ! ここに生きる者は皆、それだけで、その生では返し切れない程のボクへの大恩がある! 仮に何千億人、ボクの都合で殺そうが、それはボクの勝手だろうが! ボクはこの世界の管理者、神そのものだ! ボクの願いの礎、ボクの悦びとして死ねることに、この世界の住人は感謝すべきだ! 全部、ボクがいたからこそ……!』

『聞くに堪えねえよ』

俺は息を荒らげながら、アイノスへ再び刃を向ける。

『ひっ、あ……!』

アイノスが、身体を起こそうともがき、懸命に俺から逃げようとする。

『わ、わかった、ボクの負けだ! 降参……降参だよ! ボクの力なら、この世界の全てが思いのままだ! キミを人間にするのだってお手の物だ! そうだ……トレント! トレント君を蘇らせてあげよう! ほうら、キミだって、彼に会いたいんじゃないのかい? それに、こんなに全面降伏して、命乞いしている相手を、まさか一方的に殺すことなんてできないよね? そうだろう? だってボクは、キミのことを、世界で誰よりも理解している……!』

俺は飛び上がり、〖闇払う一閃〗の縦の一撃をアイノスへとお見舞した。

アイノスの竜化した巨躯が、真っ二つになった。

アイノスだった残骸が青い光へ変わっていき、空気に溶けるように消えていく。

【神聖スキル〖天道:Lv--〗を得ました。】