軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

761.絶望

「つくづくキミは面白い! いいさ、その魂の輝きの全てを以て、全力で抗ってみせるといい! バアルやミーアなんかよりはボクを楽しませてくれよ!」

神の声……いや、六大賢者アイノスの周囲に、七つの魔法陣が展開される。

それらは素早く、七つ各々の大きな魔法球を浮かび上がらせる。

スフィア系統の魔法スキルらしい。

炎、水、土、風、雷、闇、光……。

スフィア系スキルのフルコースだ。

七つの別々の魔法スキルの複数展開。

今更この程度のことには驚かねえが、こんなこともできんのか。

正面から突っ切るのは危険過ぎる。

奴のステータスは【魔法力:50000】だ。

どんな下級スキルでも、まともに受ければ万全のアポカリプスでも一撃で持っていかれる程の威力になる。

そういう意味では、HPが万全じゃないことなんて、この戦いにおいては些事かもしれねえ。

俺は尾で地面を叩き、とにかく反対方向へと飛んだ。

まずはステータスには出ないアイノスの情報を暴く必要がある。

ひとまず距離を取り、奴がどういった戦い方を取って来るのかを見極める。

巨大な炎球が、俺のすぐ横を掠める。

高熱が俺の鱗を溶かす。

魔法球の速度が速すぎる。

全力で逆側に飛んだのに、一瞬で追い抜いて来やがった。

炎球は奇妙な軌道を描き、俺の先に落ちて爆炎を上げた。

別の六つの魔法球もそれぞれが周囲に炸裂し、轟音と共に多様な色の爆炎を上げていた。

各々の爆炎の残した衝撃波と、砕け散った地面の粉塵が、俺の方にまですぐさま昇ってくる。

刹那、それに意識を向けていた内に、アイノスが俺の目前へと移動していた。

「それで、ボクを倒すための素敵な作戦が浮かんだり、不思議な力に目覚めたりはしそうかな?」

アイノスは既に腕を振り上げおり、その先に大きな魔法陣を展開している。

移動の全てが、俺からしてみれば瞬間移動だ。

速度の差を考えれば仕方ねぇが、これじゃまともな勝負になりはしねぇ。

「〖ダークネスレイン〗」

アイノスが俺へと腕を振り下ろす。

視界いっぱいに無数の紫の光が広がった。

蠅の王ベルゼバブが用いていたスキルだ。

俺を一撃で屠れるレベルの魔力の塊が、名の通り雨が如く降り注いできている。

俺は脳をフル回転させる。

素のステータスだけで避け切れるか?

いや、不可能だ。

だが、〖竜の鏡〗で小さくなれば、紫の光の合間を抜けられるはずだ。

しかし……それでは駄目だ。

当たり前だが、俺は勝ちを諦めたわけじゃねえ。

このステータス差で相手を倒すためには、意表を突けるスキルが重要になる。

俺のスキル構成を奴は知っているとはいえ、〖竜の鏡〗は応用次第ではアイノスを出し抜けるポテンシャルがある。

少しでもこのスキルへと意識を高めさせるわけにはいかない。

俺は全速力でアイノスへと距離を詰め、身体を翻して尾を勢いよく奴へと打ち付けた。

凄まじい轟音と共に血飛沫が舞う。

同時に尾へと激痛が走る。

奴が滞空している位置は全く変わらない。

舞った血飛沫は、肉が削げた俺の尾からだった。

アイノスは平然とした様子で、左腕を伸ばして身体を守っていた。

まるで熱された金属の塊にぶつかったかのような感触だった。

あんな子供みてぇなナリした奴一人ぶっ飛ばせねえなんて、今更だがステータスのなんと理不尽なことか。

ただ、俺は元々攻撃は目的ではなかった。

目的は反動での〖ダークネスレイン〗の射程範囲内からの離脱だ。

翻した身体をそのままに再び反対方向へと逃げる。

俺は飛行しながら身体を側転させ、紫の光を紙一重で尽く躱していく。

空から降り注ぐ無数の光。

俺は自分の周囲に落ちてくる、全ての光の軌道が目に見えていた。

興奮で集中力が研ぎ澄まされているのもあるが、自身より格上のバアルとの極限の命の削り合いが、明らかに俺を一段階成長させていた。

避け切りつつ、〖ダークネスレイン〗の射程範囲内から逃げられる!

そう確信を持った直後だった。

身体を曲げて視界に映ったアイノスの指先が、妖しげな光を帯びていた。

脳が、揺らされる。

視界が真っ白になり、俺の思考が途切れた。

ミーアが最も警戒していた、正体不明の精神干渉攻撃……!

俺の全身に高熱が走り、巨大な鈍器で殴られたような衝撃が襲い来る。

気が付いたとき、俺は地面の上で突っ伏していた。

まだ脳が悲鳴を上げており、状況が整理できねえ。

目線を己の身体へと落とす。

……左翼と、左前脚が吹き飛ばされている。

俺は奴の精神干渉を受けた刹那、咄嗟に魔法を返す〖ミラーカウンター〗を展開し、〖ダークネスレイン〗から我が身を守った。

だが、その上でこの威力か。

一発掠めただけでここまで響くとは。

「キミはまだボクに勝てるつもりでいるかな? 考えを改めてボクに従う気になったかい? それとも、楽に終わらせてくれるよう、ボクに懇願してみるかい?」

遥か頭上から、アイノスが俺を見下す。

薄れる視界に、微かに奴の邪悪な笑みが見えた。

……アイノスの奴は、俺がどちらを取ってもいいのだ。

俺が抗い続けて意志の強さを示せば、それに対するラプラスへの影響を観測できる。

服従を申し出て邪神フォーレン復活の鍵になれば、それこそ願ったり叶ったりのはずだ。

とにかく翼は必要だ。

俺は突っ伏しているフリをして身体を休め、〖自己再生〗で左翼を再生させ、左前脚や横っ腹を止血していく。

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〖イルシア〗

種族:アポカリプス

状態:通常

Lv :175/175(MAX)

HP :454/15371

MP :696/12440

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連戦のせいでMPに余裕がなさすぎる。

翼以外の再生は諦める。

すぐさま地面を蹴って空中へと飛び、アイノスとは逆方向へと飛んだ。

考えろ、とにかく考えろ。

アイノスは俺を殺すつもりなら、いつでも殺せる。

そうしないのは、俺が死力を尽くして抗うことで、ラプラスに対して何かしらの影響を及ぼせないかを最後に確認しておきたいためだ。

奴が口にしていた通り、ただの暇潰しのお遊びの側面もあるのかもしれないが。

だが、俺がそれを読んでの魔力温存に出れば、即座に俺の始末に出てくるはずだ。

実際、スフィア系スキルの七連発も、今の〖ダークネスレイン〗も、俺が少しでも気を緩めていれば命を落としていた。

まるでこちらが決定打を与えられる隙はない。

だが、進展していることはある。

アイノスの戦闘へのスタンスや、奴の能力について、朧げながらに掴めつつある。

各スキルを確認していたが、アイノスの謎の精神干渉攻撃の正体は掴めなかった。

何かしらのスキルの応用なのか、或いはラプラスに干渉して特異現象を引き起こしている可能性がある。

ただ、あの攻撃手段については、何かと疑問が残る。

アイノスの強さを支える武器の一つであることには間違いないが、だとすれば気軽に連発していることの説明が付かないのだ。

以前、最東の異境地で出会ったとき、俺はアレを二発受けている。

そしてミーアが石板に残していたことから、彼女も複数回あのスキルの洗礼を受けている。

アイノスのステータスを思えば、切り札を見せびらかす理由はないはずだ。

俺達を警戒していないにしても、全魔法スキル使用可能という手札がある中、あのスキルに拘る理由は薄いように思える。

ただ奴の気紛れのようなものかもしれないが、貴重な奴の情報だ。

何かそこに、意味のある秘密が隠されているのかもしれねえ。

一応頭に入れておいて損はねえだろう。

「威勢はよかったのに逃げ回るだけかな?」

飛行する俺のすぐ後方にアイノスが現れる。

俺は瞬間目を瞑り、精神を落ち着かせる。

チマチマやっても仕方ねえ。

ここで一気に勝負に出てやる。

『〖カースナイト〗!』

俺は魔法陣を展開し、四つの青白い光をアイノスへと飛ばす。

放たれた光は、下半身が馬の騎士の姿を模して、各々に宙を駆けてアイノスへと迫っていく。

「〖カースナイト〗」

アイノスが素早く魔法陣を展開する。

現れた四体の青白い騎士が、俺の展開した〖カースナイト〗と衝突する。

相殺し、青白い爆炎を残して消えていった。

魔法の展開速度が速すぎる。

後出しで被せて完全に潰しやがった。

明らかに俺の心を折るためだけに、手間を掛けた対処を選んでいやがる。

〖カースナイト〗は敵と接触すればその時点で爆発する性質がある。

アイノスならば一方的にこちらの〖カースナイト〗を吹き飛ばし、そのまま俺にぶつけるような魔法も発動できたはずだ。

「どうかな、次は何を……」

俺はアイノスの言葉を待たず、〖次元爪〗を奴へと叩き付けた。

今更魔法スキルの一つや二つが完全に対応されたところで、んなもんにいちいちビビってる程、こっちはウブじゃねえ。

「はは、凄い凄い! ちゃんとダメージが通ってるじゃないか」

アイノスは俺の放った〖次元爪〗を、左腕で身体を庇って防いでいた。

奴の左腕の〖次元爪〗を受けた部分に、小さな罅が走っていた。

だが、それも瞬きをする間に再生していく。

俺は余裕振っているアイノス目掛けて、〖病魔の息〗を吹き掛けた。

呪いの瘴気をぶつけるブレス攻撃。

魔力の節約は考えない。

とにかく濃く、広範囲にぶつけることを重視する。

そしてそのまま自身の呪いの瘴気を突っ切り、その先のアイノス目掛けて自身の尾の一撃を振り下ろす。

「〖シルフカッター〗」

アイノスが魔法陣を展開する。

突如現れた巨大な風の刃が、俺の尾と、後ろ脚を根元から切断した。

自身の真っ赤な体液が宙に舞う。

身体のバランスを失った不自由さに、俺の体勢が大きく傾く。

「必死に打開策を練ってるのかと思ったけど、最後は自棄になっての特攻か。まあ、こんなものか」

アイノスが醒めた目を浮かべる。

そのとき、宙を舞う切り離された俺の尾が蠢く。

形を変えて一体の小さな子竜となり、アイノスの死角へと回り込む。

「うん?」

「ギィイイイイッ!」

一瞬、アイノスの反応が遅れた。

〖病魔の息〗で視界を妨げ、〖フェイクライフ〗で自身の肉体からドラゴンを生み出す準備をしておいたのだ。

正面から振り翳した尾は、そのための囮だ。

「なるほど、面白いけど、これ、何か意味あるのかな?」

アイノスは後方へ腕を振るい、俺の生み出した子竜の身体を手刀で抉った。

上下に分断された子竜の残骸が落ちていく。

「ほらほら、このままじゃ、何の面白味もないままキミを殺して終わりにするけど……」

アイノスは続けて俺へと腕を向けようとして、そこで動きを静止させた。

目を怪訝げに細め、周囲を見回す。

「うん? どこへ……」

アイノスがぽつりと呟く。

奴でも、今の俺は捕捉できねえらしい。

そう、俺は〖病魔の息〗で視界を妨げ、その隙に〖竜の鏡〗の応用で、自身の存在を完全に消していた。

少々MPが嵩むが、〖竜の鏡〗は姿を変えるだけではなく、完全に自分を消すこともできる。

もっとも、すぐに再び姿を晒すことにはなるが。

〖病魔の息〗で視界を潰して〖フェイクライフ〗で意表を突いて意識を逸らし、そのまま視界が悪い中で〖竜の鏡〗で自分の存在を消し去る。

自身の力に絶対的な自信を持っていたアイノスは、何が起きたかわからない目前の状況に、少なからず動揺するはずだ。

そして己の存在を消した俺は、その状態で二つの魔法陣を紡いでいた。

一つ目は範囲魔法の〖ヘルゲート〗だ。

本来発動に時間が掛かるが、〖竜の鏡〗との併用で姿を見せたと同時に発動し、一瞬の内に周囲一帯を地獄の炎で包むことができる。

そして二つ目は〖リンボ〗だ。

【通常スキル〖リンボ〗】

【聖神教において、教神、及びそれに準ずる存在が、生きることも死ぬことも許されないものを救うために行使する魔法だとされている。】

【かつて一人だけ〖リンボ〗の習得に至った聖女が存在したという。】

【対象を時間や空間の概念の存在しない次元の狭間へと落とす魔法スキル。】

【射程は短く、発動も遅い。ただ、当たれば外敵を永劫に異次元へ閉じ込めることができる。】

終末の竜アポカリプスの習得したスキル。

当たれば相手を問答無用で異空間へ封じ込めることができる。

俺がアイノスに勝てる見込みのある、唯一のスキルだ。

〖ヘルゲート〗を囮にこいつをぶつける。

アイノス、万年単位の神様ごっこを続ける憐れなテメェを、俺がこの魔法で終わらせてやるよ。

MPもない。

〖リンボ〗もネタが割れれば次は警戒される。

〖フェイクライフ〗や〖竜の鏡〗の手品も通用しない。

そうなればこんな発動の遅いスキル、絶対に当たりはしない。

これが奴をぶっ倒す最後のチャンスだ。

アイノスだって、消去法で〖竜の鏡〗だとすぐに気が付く。

奴が冷静に考える前に一気に畳み掛けるしかねえ。

「フフ、本当に面白いよ! 正面戦闘で、このボクを一瞬とはいえ出し抜くなんて! やはりキミはボクが探し求めていた、この世界で唯一無二の逸材……!」

俺は奴のすぐ背後に姿を現した。

これが恐らく、本当に最初で最後のチャンスだ。