軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

758.最後の戦いへ

【まさか、あんな木偶の玩具と相打ちになるなんてね】

その言葉を聞いて、俺は自分の頭が真っ白になるのを感じた。

こいつは……何を言っているんだ……?

【〖世界喰らい〗なんて、とんだ名前負けだと思わないかい?】

【面白い見世物だったけど】

【キミの肥やしにもならない、次代にも継げないなんて、大損だよ】

【経験値はもう不要でも、何かのカンフル剤にはなり得てくれると思っていたんだけど、その器でさえなかったなんて】

神の声は、俺を挑発するように言葉を紡ぐ。

『もういい……黙れ』

【おや、知りたくないのかい? キミの部下の、最期をさ】

『白々しいんだよ』

俺の返しに、神の声の言葉が途切れる。

『お前の言動はちぐはぐだ。感情的に見えて冷めやすく、場当たり的に見えて一貫性がある。根本的にお前が興味あんのはラプラスの力……もっといえば、〖ラプラス干渉権限〗そのものである神聖スキル。それだけなんだろ?』

俺が四つの神聖スキルを集めたとき、神の声は俺との対話に応じた。

そのとき俺の言葉に逆上した神の声は、俺をンガイの森へ閉じ込め、表の世界を〖スピリット・サーヴァント〗に襲わせるという暴挙に出た。

……というのは、奴が作った建前に過ぎない。

実際俺をンガイの森に幽閉したのはレベルを上げさせ、ミーアの持つ五つ目の神聖スキル〖地獄道〗を俺に回収させることだった。

表の世界を襲撃させたのは、俺やリリクシーラへの罰や当てつけ、行動の牽制が目的ではなかったはずだ。

結果だけ見れば合理的過ぎる。

俺はあのとき、神の声の怒りを買って、世界を巻き込んだ責任を感じて躍起になっていた。

ただ、あんなものは、俺が自らの意志で強さを求めて、ンガイの森で必死にレベルを上げるための誘導でしかなかった。

神の声の計画は最初から、俺を最強の魔物に仕立て上げることだ。

奴が最初にスキルを介して強引にメッセージを送りつけてきたときからそうだった。

俺が最強の魔物になること、それは六つの神聖スキルの器の完成を意味する。

俺の〖ラプラス干渉権限〗のレベルを上げ、かつて封印された邪神フォーレンを復活させてこの世界を消し去ることが奴の目的だ。

そして神の声は、それが自身の故郷である理想郷イデアとやらの復活に繋がると考えている。

つまり、神の声が俺を挑発し、時に己の激情を装うのは、俺が強さを求めて前に進み続けるように発破を掛けているに過ぎない。

いい加減、奴の手の内はわかっている。

それに何度も乗せられるほど不快なことはない。

なあ、神の声。

そんなことをされなくたって俺は強くなってやるし、身勝手に世界を玩具扱いするテメェをぶっ潰してやりたくて仕方がねえんだよ。

つまんねぇ小細工はいい加減終わりにしようぜ。

【関心があるのは神聖スキルだけ、ね。その言い方は心外かな。ボクは神聖スキルに直接繋がるものでなくとも、ボクの悠久の時間の暇潰しになってくれるものには興味がある。キミ達には理解できないだろうが、生物の枠を外れ、長く生きていると、何かしらの刺激を与えてくれる存在全般の優先順位が上がる】

『俺達はテメェのゲームの駒じゃねえよ』

【ま、キミが余計な駆け引きをしたくないというのは理解したよ】

俺は目を瞑り、ゆっくりとトレントのことを考えた。

神の声は木偶の玩具と相打ちになった、と言った。

順当に考えれば、アロは生き延びることができたはずだ。

トレントは自らの命と引き換えに、ノアの森と、アロのことを守ってくれた。

トレントはちょっと冴えない奴だった。

だが、誰よりも明るくて、真っ直ぐで、何より仲間想いな奴だった。

きっと皆を守って魔獣王を討伐したことを、トレントは誇りに思っているはずだ。

本当はありがとうと、よくやってくれたと、そう言ってやるべきなのかもしれない。

でもよ、トレント……。

お前がいないと、やっぱり俺は辛ぇよ。

俺は皆で揃って、まるでなんでもなかったみてぇに笑い合える、そんな結末を夢見ていた。

『神の声、俺を……』

そこまで言って、俺は〖念話〗を途切れさせた。

アロに会わせてほしいと、そう言おうとしたのだ。

アロもきっと辛いはずだ。

それに、トレントの最期について、彼女の口から聞きたかった。

それがトレントへと弔いにもなる、と。

だが、神の声は、トレントの仇だ。

そして、これからこの世界の全てを賭けて、奴と戦う必要がある。

俺は絶対にこの世界を救って、生きて帰ってくる。

だから、止めろ。

自分が帰れなかったときのために、仇に縋るような真似は。

『俺を、テメェの目前へ連れていけ。俺はお前の求める、史上最強の魔物になったはずだ。ツラ見て話すくらいの資格はあんだろ?』

別次元から一方的に話されてちゃ埒が明かねぇ。

決着つけようぜ、神の声。

こっちは圧倒的に不利な状況なんだ。

せめて俺の鉤爪に喉許晒すくらいのサービスをしてもらわねぇと話にならねぇ。

【いいね。元々そのつもりだったけど、キミから言われるとゾクゾクするよ。ようやくボクの、幾星霜の悲願が叶う。キミはそのための大事な鍵だからね】

神の声が言い終わると、俺の背後に巨大な黒い魔法陣が浮かび上がった。

俺はこれに見覚えがあった。

神の声が俺をンガイの森へ転移しやがった〖異界送り〗のスキルだ。

「これは最東の異境地で、神の声が展開して見せたスキル……!」

ウムカヒメが魔法陣を見て慄く。

【一人で来るといい】

【別に前のときみたいにお仲間を連れてきてもいいけど】

【今度は一秒と掛けずに皆殺しにするからそのつもりでね】

脅しではないだろう。

神の声にはそれだけの力があるし、警告を曲げてまで見逃してくれるようなことはないだろう。

神の声は、神聖スキルの器となっている俺以外には興味がねえ。

俺の仲間達に対しても、せいぜい次代の神聖スキル持ちの経験値になってくれればいい程度にしか捉えてはいないはずだ。

【この前はつい感情的になってできなかった、キミにとっても悪くない話の続きをしよう。ボク達の故郷についてね】

よくもまあ、そんな白々しいことが言える。

悪いがこっちは、邪神にもお前の故郷に興味はねぇ。

スライムやリリクシーラの姿が脳裏を過ぎる。

かつては憎くて仕方なかったあいつらも、神の声に利用されていただけだった。

続いて、塔の番人ヘカトンケイル、聖女ヨルネス、勇者アーレス、そしてミーアのことを思い出す。

俺は神の声に利用され、使い潰されていった過去の神聖スキル持ち達の悲願を背負っている。

永きに亘る、神の声の妄執による負の因縁。

俺がその全てを終わらせないといけねぇ。

最後に、楽しげに笑う、トレントとアロの顔が脳裏に浮かんできた。

俺は深呼吸をし、興奮しそうになる自身の気持ちを落ち着ける。

トレントの死をゆっくりと悼むのも、これからのことを考えるのも、全ては神の声との決着がついてからだ。

俺は黒い魔法陣へと一歩進む。

『……悪い、一人で行かせてくれ。ちょっくら世界救ってくるわ』

何の保証も、策もない。

神の声が何を目論んでいやがるのかも、細かいことは全部ノープランだ。

だが、ここまで来て、足踏みするわけにはいかねぇ。

ハッピーエンド目指して突っ走るしかねぇ。

「イルシアさん! きっと……いえ、絶対、帰ってきてくださいね!」

背にミリアの声がした。

俺は頷くと、黒い魔法陣の上へと乗った。

周囲の視界が、白に塗り潰されて何も見えなくなっていく。

神の声の〖異界送り〗だ。

気が付くと、俺は薄暗く、ただっぴろい空間に立っていた。

周囲に何もなく、空にも果てがない。

床はつるりとしていて平面で、なんだか得体が知れない。

その先に、宙に浮かんでいる椅子に、子供が座っていた。

俺に背を向けているが、その姿には見覚えがあった。

体躯は青白く仄かに発光している。

簡素な布を衣服代わりに纏っており、背からは両翼が伸びている。

そして前回見たときと同様に、奴の左半身は、不具合が生じた立体映像のように崩れていた。

『よう』

椅子が回り、俺の方へと向き直る。

神の声は薄笑いを浮かべていた。

「よく来てくれたね。実はここまで招いたのはキミが初めてなんだ。大したおもてなしができなくて申し訳ない」

その幼さの残る容姿とは裏腹に、その瞳は以前から変わらず、闇を綯い交ぜにしたような、見る者を不快にさせる、淀んだ色をしていた。