軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

737.キマイラの対応(side:トレント)

二体のアロ殿の分身が、我々の後方にぴったりとくっ付く。

「さっきまでみたいに、分身体から距離を取るのは止めようと思う」

アロ殿がそう話す。

先程までは、アロ殿の分身は我々から距離を取って、離れた位置でキマイラの進行妨害と討伐を行っていた。

『何故ですか、アロ殿? 距離を置いた方が、〖暗闇万華鏡〗を突破された際の立て直しが……』

私の言葉にアロ殿が首を横に振った。

「次に〖暗闇万華鏡〗を抜かれたら、そのときが私達の最後だと思う」

『……そう、ですな』

確かにそれは否定できなかった。

次に分身体が突破されれば、これ以上は〖暗闇万華鏡〗を使うことができない。

そうなっては立て直しなど、どの道不可能である。

「だから私達で、〖暗闇万華鏡〗の分身体二体の補佐する。あの二体が極力魔力を消耗せずに立ち回りつつ、キマイラの群れを牽制できるように」

『なるほど……』

そう聞けば、筋が通っているように思える。

『もう、連中の手のひらは見えましたからな。魔獣王はまだ何か持っている気はしますが……これだけ距離が開いている状態では、取れる手立てはそう多くないはずです。少なくとも現状で有効に使える、奴のスキルは大方確認できたと思っていいはず。そして相手の動きが想定できるのならば、こちらは極力魔力消耗を抑えながら、計算尽くで立ち向かっているはず……ではありますな』

ただの理想論である。

言うのは簡単だが、行うのは難しい。

だが、その理想論を万全に実行できなければ、我々は魔力切れでキマイラの群れに嬲り殺されることになる。

『その策で行きましょう、アロ殿』

私とアロ殿は、分身体二体の、五メートル前を先行する位置取りとなった。

また次々にキマイラ達が迫ってくる。

『き、来ておりますぞ、どうしますかなアロ殿?』

「何もせず引き付けるのも手だけど……」

アロ殿が思案する。

『それは危険過ぎませんかな? 十近いキマイラに同時に襲い掛かられることになりますぞ』

「……ただ、遠距離での牽制にスキルを使えるほど、魔力にもう余裕がないの」

アロ殿が苦々しげに答える。

『そ、そこまでですか』

「使えないこともないけど、それじゃすぐに限界が来ると思う。今は凌げても、魔獣王から逃げ切れない」

アロ殿の言うこともわかるが、キマイラの群れに襲い掛かられて無傷で切り抜けられるとは思えない。

対応を誤れば、後続のキマイラから袋叩きにされてお終いである。

『そうですアロ殿! 〖ゲール〗を、広く、弱く撃ってもらうことはできますかな!』

「〖ゲール〗を……? 多少移動速度は落とせるだろうけど、その程度じゃ焼け石に水……」

アロ殿は私を抱えているとは逆の手を口許に当たる。

それからはっと気が付いたように目を見開いた。

「そっか……! 同時に掛かられたら対応できないなら、襲って来るタイミングをズラせばいいんだ!」

『行けそうですかな、この策は?』

アロ殿が大きく頷いた。

「行けると思う! あの四つ目獣達自身は、そこまで賢くないみたいだった。足並み揃えずに、最短で追い掛けてくると思う」

私が考えたのは、暴風を巻き起こす〖ゲール〗を威力を抑えて飛行妨害に用いて、キマイラ達の到達するタイミングをズラす、というものであった。

〖暗闇万華鏡〗を数に入れれば、こちらはA級上位が五体である。

アロ殿のステータスは魔法力特化であるが、攻撃力もそれなりには高い。

五対一の構図さえ作り出せれば、袋叩きにして撃墜することは充分にできるはずである。

「二人共、話の通りにお願い! 魔力消耗を抑えつつ、〖亡者の霧〗と〖ゲール〗で遅延を図って!」

アロ殿の分身体二体が頷いた。

分身体の周囲を濃霧が覆い尽くす。

「〖ゲール〗!」

風に煽られて濃霧が飛んでいき、我々の後方が広範囲に渡って視界が潰れた。

『なるほど、これならより効果的ですな!』

キマイラ達はまず連携を取れない。

その後も分身体二体が、〖亡者の霧〗と〖ゲール〗を適度にばら撒いていく。

〖ゲール〗はあくまでもなく攻撃目的ではなく、風を乱して飛行を妨害するためである。

元々強風で敵を刻んで攻撃するスキルであるため、飛行の遅延程度であればさほど魔力も使わなくて済むようであった。

「アアアアァッ!」

霧と風の妨害を突破して、一体のキマイラが我々へと迫って来た。

だが、単体であれば望むところである。

「〖ミラージュ〗」

一体のアロ殿が幻惑の光を発する。

キマイラはアロ殿のすぐ横へと喰らいついて、大きく空振った。

「この視界の悪い霧の中なら、幻影がよく通る!」

腕から鉤爪を伸ばした分身体の一体が、キマイラの胸部を素早く切り裂いた。

「アァッ!」

『〖クレイスフィア〗ですぞ!』

私の放った土塊の球体が、キマイラの頭部を捉えた。

キマイラの身体がぐらつく。

その上に、二体目のアロ殿の分身が乗っかった。

「いただきまぁーす!」

アロ殿の分身が口に大きな牙を生やして、キマイラの翼の付け根を噛み千切った。

同時にキマイラの背を蹴り飛ばす。

鮮血が飛び散って、キマイラは歪に回転しながら地上へと落ちていった。

「アッ、アアァアアッ!」

その叫び声を聞きながら、私は落ちていくキマイラを見送った。

『なるほど、別に倒さなくても再起不能にしてしまえば問題ありませんからな』

魔力の節約という面では、そちらの方が遥かに理に適っている。

だが、私達が一体の相手に専念している間に、三体のキマイラが同時に接近してくる。

「三体……! ここで崩れたら、一気に全滅させられる……」

『アロ殿! 霧と〖ミラージュ〗をお願いしますぞ!』

「えっ? う、うん」

私の言葉に、アロ殿が不安げに頷いた。

三体のアロ殿が綺麗に連携を取って、〖亡者の霧〗を撒き散らし、〖ミラージュ〗の幻影で三体の視界を狂わせる。

「でも、ステータスの開きもさほどないから、攻撃の妨害は多少できても、すぐに感覚を掴まれて……」

『〖バーサーク〗ですぞ!』

私は三体の内の真ん中のキマイラ目掛けて、魔法スキルを放った。

相手を過度の興奮状態にして、攻撃力を引き上げる代わりに正気を失わせるスキルである。

「アアアアアアッ!」

〖バーサーク〗を受けたキマイラは、幻影に囚われたまま我武者羅に牙を振るう。

仲間のキマイラの尻へと噛みついた。

攻撃を受けたキマイラは尻尾で殴りつけて反撃し、続けて爪で反撃した。

空中での仲間割れが発生した。

〖バーサーク〗の被害から免れていた一体が、アロ殿の分身体へと襲い掛かる。

だが、相手はまだ〖ミラージュ〗と〖亡者の霧〗の影響で視界が万全ではない。

分身体は華麗に攻撃を躱し、鉤爪の一撃をお返しする。

「アグッ……!」

体勢が崩れた隙を突き、背後に回り込んでいたもう一体の分身体が、その背中の翼をまた噛み千切った。

「ア、アァ……!」

どうにか立て直そうとしたキマイラを、アロ殿の分身体が挟み撃ちにして爪で引き裂く。

身体から血を撒き散らしながら落ちて行った。

〖バーサーク〗と〖ミラージュ〗のせいで仲間割れにしている二体はそのまま残し、我々は素早く前へと方向転換する。

『ギ、ギリギリでどうにかなっていますぞ……! これなら魔獣王が〖死神の種〗で潰れるまで、逃げ切れるかもしれません!』

MPは使わされてこそいるものの、大幅に消耗は抑えられている。

数を相手している内に、キマイラの対応にも慣れつつある。

この調子であれば、〖ゲール〗と〖亡者の霧〗と肉弾戦だけでどうにかなるかもしれない。

そして我々がキマイラにさえ完全に対応できれば、魔獣王は手出しをする術を完全に失うことになる。

この戦い……まだか細い、ギリギリの道ではあるものの、勝ち筋が見えつつあった。