軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

730.魔獣王接近(side:トレント)

朱厭殿と話した後、私とアロ殿は、リトヴェアル族の拠点近辺の四つ目獣を狩って回っていた。

『〖地響き〗ですぞ!』

私は高く跳び上がった後、地面目掛けて頭突きを放つ。

周囲の地面が揺れ、辺りの四つ目獣達がひっくり返った。

その隙に、宙に浮いていたアロ殿が、一気に四つ目獣の群れへと突撃する。

禍々しい爪を纏った大きな右腕を振るい、連中の身体を引き裂いていった。

あの右腕は、ワルプルギスの肉体変形能力によって作りだしたものである。

私が〖地響き〗で動きを止め、アロ殿がその隙を突いて攻撃する。

HPやMPの消耗を抑えるにはこの方法が一番であったのだ。

アロ殿のスキルは基本的にMP消耗が激しい。

周囲の四つ目獣達が片付いた後、アロ殿は地面に降り立ち、私の横へと降りてきた。

「トレントさん、充分に辺りの四つ目獣は減らしたと思う」

『……そう、ですな。後は朱厭殿達にお任せして、我々はあやつの相手に移りますか』

私は顔を上げる。

視線の先には、山の如く巨体を有する魔物の姿があった。

顔の先についた、四つの大きな眼球。

そして下にある、巨体いっぱいに広がった口。

大木を、地面ごとまるで小魚のように喰らっている。

あれがこの世界の、史上最強格の一体……。

神の声の〖スピリット・サーヴァント〗、魔獣王。

『アロ殿……』

私の呼び掛けに、アロ殿が私を見る。

本当は、考え直すつもりはないかと、そう聞きたかった。

この戦い……無事に生還できる可能性は、本当に低い。

増してや、二人揃ってなど、奇跡でも起きなければ不可能だろう。

だが、アロ殿の真っ直ぐな目を見ていると、今私がそれを口にすれば、彼女は一人で向かってしまいそうな気がした。

『生き残りましょう、アロ殿』

「うん」

アロ殿が静かに頷く。

アロ殿が私を抱えて、黒い翼を伸ばして地面を蹴う。

空を飛びながら、魔獣王の前方へと向かった。

近づけば近づくほど、魔獣王はその大きさを際限なく増していく。

魔獣王の周囲には、四つ目の鳥達が飛んでいた。

この高さであれば四つ目獣達は無視して魔獣王だけに意識を向けられるかもしれないと考えていたが、そう甘くはなかったようだ。

「アアアアッ!」

こちらに気が付いた四つ目の鳥が、私達の許へと向かってきた。

「思ってたより、速い……!」

『速度型なら脆いはずですぞ! 〖クレイスフィア〗!』

私は魔法で、土の塊を鳥へとぶつける。

「アァァッ!」

鳥は土塊がぶつかった衝撃で高度を落とし、身体から血を流していたものの、すぐに体勢を整えてこちらへと突進してきた。

『た、体力もあるようですな』

「この距離だと、逃げ切れない……!」

私は身体から木の枝を根のように展開し、盾にして鳥の攻撃を受け止めた。

スキル〖樹籠の鎧〗である。

「アオッ!」

「ありがとう、トレントさん!」

アロ殿が私を抱えるのとは逆の腕の爪を伸ばし、鳥の胸部を引き裂いた。

ようやく鳥が絶命し、地上へと落ちていく。

『……あの素早さに、あのタフさ……攻撃力もそれなりにあったようです。どうやらこれまでの個体より、随分とレベルが高いようですな』

「魔獣王の周囲の四つ目獣は、レベルが高い……?」

『そう仮定しておいた方がよいかもしれません。奴らが来ますぞ、アロ殿!』

先の好戦を目にして、魔獣王周辺の四つ目の鳥達が、私とアロ殿の許へと向かって来る。

一体一体を正直に相手していればキリがない。

アロ殿は方向転換して、鳥達から距離を置く。

素早さ的には、さすがに私達の方が上回っているようであった。

逃げることに専念すれば、捕らえられることはなさそうである。

ただ、魔獣王の周囲を飛び回っている以上、逃げるに従って敵の数が増え、回り込まれるようになっていくだけである。

肝心の魔獣王は、私とアロ殿に全く関心を向けていない。

私達と四つ目鳥の交戦を無視して、ただ真っ直ぐにリトヴェアル族の拠点の方向へと向かいながら、森の木々を喰い荒らしている。

まずは最初の目標であった、魔獣王を刺激して敵の注意を引くところから入らなければならない。

「トレントさん……」

アロ殿がちらりと私へ目をやる。

アロ殿は魔獣王への攻撃に出るつもりのようであった。

そのため、私に敵の反撃に備えておいてほしい……或いは、覚悟を決めておいてほしい、という合図である。

魔獣王が私達に意識を向ければ、もしかしたら次の瞬間には揃って殺されていてもおかしくはないのだ。

『……ええ、お願いしますぞ、アロ殿』

私が言うと、アロ殿は右腕を宙へと構えた。

魔法陣が展開され、彼女の手に紫の光が宿る。

「〖ダークスフィア〗!」

アロ殿の闇の魔弾は、こちらへ向かって来る四つ目鳥達の間をすり抜けて、魔獣王目掛けて飛んでいく。

そうして魔獣王の顔面へと飛んでいき、その目に向かって着弾した。

紫の爆炎が広がる。

『あ、当たった……!』

私は身構える。

魔獣王に何か動きがあれば、最悪の場合は即座に世界樹サイズに戻って、アロ殿の盾となるつもりであった。

だが、魔獣王は動かなかった。

爆炎が晴れれば、アロ殿が攻撃した魔獣王の目だけ、瞼が閉じているのが見えた。

魔獣王の瞼には傷一つついてない。

パチパチと、魔獣王が瞬きをした。

魔獣王はこちらを見ることさえしなかった。

森を喰い荒らす口の動きも、まるで止まる様子がない。

我々になど、全く何の注意も払っていないようであった。

「私の魔法が……瞬きで、止められた……」

アロ殿が呆然とそう漏らす。

大きさもそうだが、ステータスが違い過ぎる……。

こと防御力に関しては主殿さえ大きく凌ぐのではないだろうか。

もう少し真っ当な戦いになるのではないかと考えていたが、生物としての格があまりに違い過ぎる。

正に蟻と象である。

戦いにならないどころか、魔獣王の気を引くことさえできやしない。