軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

653.〖エクリプス〗の強み

俺は宙で翻り、〖エクリプス〗の黒い光線を躱す。

だが、腕から肩に掛けて体表が削られ、血が流れ出ていた。

〖エクリプス〗自体が速すぎる。

とてもじゃないが、安定して避けられるものじゃねえ。

ミーアは黒い光に包まれたまま全く出てこねえ。

〖次元爪〗でビクともしなかった以上、アレを壊せるのは〖闇払う一閃〗くらいかもしれない。

だが、光線の発生源であるミーアへと接近して、動作の大きいあのスキルを使うのは現実的ではない。

『い、一度、塔の外に撤退しては……?』

「それ、どうなんだろう……。あのスキルを使われるたびに、射程外まで逃げて仕切り直すの? 確かに有効かもしれないけど」

『駄目ですかな……?』

「駄目とは言わないけど、あんまり聞いたことないなって……」

俺が考えこみながら回避に徹している間にも、トレントとアロが打開策を話し合っていた。

確かに戦闘中、スキルを使われるたびに一回一回遠くまで逃げて仕切り直すなんて、聞いたことがねえ。

あまり格好いいとも言えない。

だが、確かに有効だ。

あのスキルの維持にはさすがにかなりMPを使っているはずだ。

逃げて仕切り直されると分かれば何度も使えるものではないし、そうしてくれるのならミーアのMPがなくなるまで逃げ切ればいいだけだ。

『トレント、いい考えだ! それで行こう!』

『本当ですか!』

トレントが嬉しそうに答える。

『だが……塔の外は無理だ』

俺は塔の扉をちらりと見る。

扉はそこまで大きくはない。

あんなところからノコノコ出ていこうものなら、間違いなく〖エクリプス〗の直撃で貫かれる。

一撃もらう覚悟があれば不可能ではないかもしれないが、使われる度に一撃もらって対処していれば、間違いなくこっちが先にバテることになる。

『では、どちらへ……?』

『上に行く! 充分に距離が取れれば、〖エクリプス〗を避けるのは難しくねえはずだ!』

俺は高度を一気に上昇させた。

元々ミーアは〖エクリプス〗の使用前に高度を引き上げていた。

それを俺は、〖グラビドン〗のダメージを回復するために、俺から距離を取りたがっているのだと思っていた。

だが、そうではなかった。

ミーアは俺が簡単に上へと逃げられないように、俺の上を取ったのだ。

スキル使用間のミーアを止める術がなくて、対策が距離を取るしかないのであれば、当然といえば当然のことだ。

だが、ミーアの高度に近づいたとき、一気に黒い光線が苛烈になった。

直撃を受けそうになり、俺は〖グラビティ〗で高度を大幅に落としながら身体を側転させ、ギリギリのところで回避に成功した。

ミーアと同じ高度が一番本体に近づくため、〖エクリプス〗の動きを読むのが一気に難しくなる。

ミーアもここを越えられたら追い切るのが難しくなるのがわかっているためか、魔力を割いて確実な阻止を狙ってくる。

俺の巨体と飛行能力じゃ、こんなもんどう頑張ったって避けられそうにない。

『トレント、根を引っ込めておいてくれ!』

『え?』

俺の〖念話〗に対して、トレントが俺の身体中に這わせた根を引っ込めていく。

俺は壁を蹴って身体を丸め、素早く〖転がる〗へと移行した。

塔の壁を垂直に駆け登り、そのまま内周の螺旋階段へと着地し、〖転がる〗を続行して昇っていく。

無数の〖エクリプス〗が追ってくるが、〖転がる〗の最高速度を見せたのは初めてなので意表を突けたらしい。

光線が間に合っていない。

『このまま一気に昇るぞ!』

『痛い痛い痛い! 痛いですぞぉっ!』

……トレントの負担は大きいが、悪いが引っ込めて準備をしている余裕はなかった。

んなことをしてたら、絶対ミーアに見抜かれちまう。

そもそもその隙を貫かれちまっていただろう。

極太の光線が先の階段を打ち抜き、そのまま照準をずらして俺へと迫ってくる。

確実に進路を潰しに来やがった。

だが、当然、こうなることは予測していた。

俺は尾で壁をぶっ叩き、空中へと脱出した。

「そこまで逃げられちゃ、これ以上は意味がない、か」

ミーアの放っていた、無数の黒い光線が消えていった。

彼女を覆う、黒い光の球体も薄れて消えていく。

やはり、上を取られれば維持している意味がないと、ミーア自身もそう考えているようだった。

『攻略法が見えましたな、さすが主殿! これならなるべく上を取って立ち回れば使われる心配はありませんし、仮に使われても、さっさと上に移動してしまえば……』

『……いや、それだけの問題じゃねえ』

ミーアの切り札を、ほとんどダメージなく凌ぐことができたのは大きい。

だが、問題はそれだけではない。

〖エクリプス〗の光線は速いが、不意打ちで咄嗟に撃てるものではないため、避け続けるのは不可能ではなかった。

発動中、ミーア本体は動けないようでもあった。

強力なスキルではあるが、応用の余地がないため、避けられる相手にはそこまでとなる。

ここだけ切り取れば、こちらが使われれば逃げるを徹底している限りは、機動力のある相手にはあまり意味のないスキルであるともいえる。

だが、このスキルの真価は、攻撃手段だけではない。

『〖自己再生〗と〖ダークレスト〗で回復してやがる……』

そう、〖グラビドン〗で削ったHPが既に完全に回復されていた。

ミーア相手に削り合いで勝利するのは現実的ではない。

俺単体ではミーアに及ばない。

そしてトレントもアロも、確実に俺より遥かに先にMPに限界が来る。

そうなったとき、ミーア相手にまともに太刀打ちできなくなってしまう。

だから俺達は短期決戦を臨む必要があった。

大ダメージを与えた後は、多少無理をしてでも強引に攻め切り、回復の隙を許さずに倒し切る必要があった。

だが、〖エクリプス〗をぶつけられ、むしろこっちから逃げる必要に迫られちまった。

次に俺達が大ダメージを与えることに成功したとしても、また〖エクリプス〗で回復の時間を稼がれちまうはずだ。

「そ、それじゃあ、倒しようがない……」

「私、温存目に戦った方がいいですか?」

「やっぱり〖ワームホール〗でどうにか崩すしかないんじゃ……」

アロ達が俺の口の中で議論する。

『……温存して戦える相手じゃねえ。一気に行くぞ。やれるかわかんねぇけど……〖エクリプス〗は、発動時の隙を突いてどうにか止めてみせる。初見じゃ様子見のために離れるしかなかったが、あのスキルについてはよくわかった』

互いのMP限界まで戦うやり方は、実力差が明確に出る。

俺もミーアも基本的に近接タイプな上に、互いに大技を数発ぶつければ、回復を許さずに倒し切れるステータスだ。

持久戦ならアロとトレントのMP切れリタイアも避けられないため、短期決戦に持ち込まない理由はない。