軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

594.ケサランパサラン鍋

俺はアロが〖クレイ〗で作ってくれた大鍋を焼き上げて固め、それを用いてケサランパサランの肉を煮込むことにした。

水はトレントが〖アクアスフィア〗を用いて用意してくれた。

俺は〖人化の術〗を用いて人の姿になり、水の張った鍋の中へとケサランパサランの肉の残骸を投下していく。

……あっという間に、鍋の水が深緑色に染まっていった。

ケサランパサランを鍋に突っ込んでから、明らかに脂が浮き始めている。

俺は目を細めて、鍋に浮いた脂を睨む。

このケサランパサラン肉、マジでどうなってるんだよ。

こ、これ、本当に食えるのか?

『主殿っ! 野菜も入れますぞ!』

トレントが手に、キノコや花、真っ赤な葡萄擬きを抱えている。

俺はその中にある黄土色の歪なキノコ、金丹茸へと目を向けた。

アレ、本当に入れていいんだろうか……。

「ま、大丈夫か」

俺は顎に手を当てながら、そう呟いた。

『主殿?』

「深く考えても仕方ねえな。トレント、放り込んでおいてくれ」

『任せてくだされ!』

トレントはトトトと大鍋へと走り、羽で抱えていた具材を一気に投下した。

「〖ディメンション〗」

俺の手に、土製の小さな入れ物が現れた。

最東の異境地で用意して、〖ディメンション〗で保管しておいたものだ。

中には塩が入っている。

俺は入れ物を逆さにして、鍋の中へと塩を投下した。

加減がまったくわからねぇが、こんなものでいいだろう。

『ふむ、変わった色をしておりますな、主殿』

トレントが大鍋の中を覗いて、悪気なさそうにそう漏らした。

俺もちらりと大鍋の中を見る。

……鍋はケサランパサランの深緑の脂に、赤い果実汁、そして金丹茸から滲み出たらしい黄土色の液体の三色に分かれていた。

「信号かよ……」

『どうなさいましたか?』

「いや……ちょっと混ぜてみよう。そうしたら多少はマシになるかもしれない」

トレントが羽を動かし、自分の身体を掻くようにごそごそとし始めた。

何事かと見守っていると、綺麗な木の枝を取り出した。

『どうぞ』

「お、おう、センキューな」

そ、そんなことできたのか……。

今まで見たことなかったぞ、その特技。

……とりあえず、大鍋ができあがった。

俺達は大鍋を囲み、食事を始めることにした。

ンガイの森の木は固すぎてまともに加工できなかったので、トレントに出してもらった木材を爪で切って簡単に加工して食器の代わりにした。

俺は皿に盛った鍋へと目を落とす。

結局三色は混ざりきらず、雑に扱われた絵の具受けのパレットみたいな色彩になっていた。

おまけにケサランパサランの緑の脂が膜を張っている。

ケサランパサラン……お前はいったいなんなんだ。

どういう生き物なんだよこれは。

完全に未知の食材過ぎて使い方を誤った気がする。

このンガイの森にはゲテモノしかない。

マシそうな食材をシンプルに焼いて食すのが一番だったかもしれない。

せっかくのアロが味覚を楽しめる久々の食事が、謎肉の信号鍋になってしまった。

「りゅっ、竜神さま、おいしそうですね!」

アロが必死の笑顔を浮かべて両手の拳をぐっと握りしめ、冷や汗を垂らしながらそう言った。

アロと視線が合う。

アロはじっと俺の目を見ていたが、そのまま三秒ほど経過するとそっと下へと逸らされた。

……ありがとう、アロ。

そのフォローは嬉しいが、アロの天性の素直さが全てを雄弁に物語っている。

「……悪い、アロ」

「あっ、謝らないでください! 私、竜神さまが気遣って料理してくれただけで、すごく嬉しいですから!」

トレントは俺とアロのやり取りを尻目に、皿へとそっと口許を近づけていた。

『うむ! 芸術的な見栄えといい、この芳醇な香りといい、素晴らしい出来ですな!』

「ト、トレント、そう気を遣ってくれなくても……」

『どうしたのですかな? 早くいただきましょう』

トレントは不思議そうに首を傾げる。

ま、まさかトレントの奴、本気でこの信号鍋の外観を気にしてねぇのか!?

トレントはアロ以上に嘘を吐けねえ性分だ。

「トレントォ、ありがとうな、愛してるぞ!」

俺は手に持っていた皿を置き、トレントへと抱き着いた。

『わわっ、どうしたのですか主殿!? 零れますぞ! 後にしてくだされ!』

トレントが皿を死守するようしがみつく。

アロは俺とトレントの様子を、冷たい目で見つめていた。

トレントから離れ、食事を再開する。

俺はスプーンで皿内を乱し、ケサランパサランの脂の膜を散らした。

そうっと顔を近づける。

なるほど、匂いは意外と悪くないのかもしれない。

鳳凰花の香りが強いな。

あれを入れたのに助けられたか。

俺は三色のスープを見つめた後、目を瞑って一気に流し込んだ。

「むぐっ!」

意外と辛い。

どうやら鳳凰花のようだ。

辛さの中に、ケサランパサランの濃厚な脂と、赤い葡萄擬きの甘みが合わさり、独特なコクを生み出していた。

飲み切れば、金丹茸の芳醇な香りが喉の奥から香ってくるのがわかる。

う、旨い!

これいけるじゃねえか!

俺はケサランパサランの肉をスプーンで掬い、スープと共に口の中へと運んだ。

肉が舌の上で潰れ、濃厚なスープと混ざる。

熱い肉汁が口の中へ広がった。

ケ、ケサランパサラン、旨いぞこれ。

これまで食べた肉の中で一番美味しいかもしれない。

「竜神さま! このお鍋、凄くおいしいです! 見かけによらず!」

「そ、そうだな」

……やっぱりアロ的にも、見かけはアウトだったらしい。

当たり前だが。

食事が終わった。

休息がしっかりと取れたところで、今後の動き方と方針についてアロ達に話すことにした。

ケサランパサランとの戦いによって、アロは【Lv:1/130】から【Lv:61/130】へと上がっていた。

トレントは【Lv:66/85】から【Lv:71/85】へと上がっていた。

……アロの上り幅がとんでもない。

これ、下手したらトレントが周回遅れになるんじゃないのか……?

しかし今回は、トレントもしっかりとレベルアップができていた方だ。

ほとんどダメージが通っていないように見えていたので、これだけ上がったのは充分快挙といえる。

……だが、毎回進化が見えてきたあたりでレベルは一気に上がりづらくなるのだ。

このペースだと、トレントの進化は間に合わない。

『わ、私が、ふがいないばかりに……』

トレントがよろめき、羽を地面についた。

「んなことねぇよ。トレントは、しっかりやってくれてる。……ただ、元々トレントのステータスは、レベル上げに向いてねぇんだ」

俺はトレントの肩に手を置いた。

『主殿……』

「ただ、今回はあんまりしっかり時間を掛けてはいられねぇんだ。わかるか?」

『……はい、重々承知しておりますぞ。今回、私は引っ込んでおこうと……』

「だから、トレントのレベル上げを最優先で行う。そのついでで、天を貫く塔の調査に向かう」

『主殿!? 御冗談でしょう!?』

トレントがびくりと背を震わせ、立ち上がった。

「俺のレベル上げも大事だが、俺はまだ〖最終進化者〗だ。これを解除できるかどうかは怪しい。オリジンマターや、それ以上の相手を突破するために戦力を強化するには、トレントに進化してもらうのが一番早くて確実なんだ」

『それは、そうかもしれませんが……しかし……』

「空の上に、頑丈な相手と、トレントにとって前回は不利な相手だった。それでもしっかりレベルを上げられたんだ。不可能じゃねえ。だが、強引なレベルアップは大きな危険を伴うことになっちまう。……やってくれるか、トレント」

トレントは少し黙ったが、ぐっと羽を広げて士気を示した。

『ま、任せてくだされ主殿! このトレント、全力で挑ませてもらいますぞ!』