軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

577.最大の隙

俺はアロ達と共に、霧に覆われた山の上を目指す。

以前、ウムカヒメがうろついていた辺りには気配がなかった。

更に上にいるのかもしれねぇ。

以前、〖クレイブレイブ〗と戦った山の上を目指すことにした。

山の上に近づくと、霧の奥に大きな石板が見えてきた。

勇者ミーアの石碑だ。

この場所は俺が〖クレイブレイブ〗との戦闘で散々荒らしちまっていたが、今は地面も平たくなっていた。

石板も真っすぐに立てられている。

さすがに花畑は戻っていなかったが、以前に比べればぽつぽつと草が生え始めている。

ここの植物も、普通のものより遥かに生命力が高いのかもしれない。

俺は周囲を見回し、ウムカヒメの気配があった場所へと目を向けた。

「戦いを終えたか」

空間が揺らぎ、着物姿の黒髪の女が現れる。

ウムカヒメだ。

アロと黒蜥蜴が、さっと俺の前に出てウムカヒメを睨む。

以前、ウムカヒメを倒して俺と〖クレイブレイブ〗の戦いを見に行こうとして、彼女に止められたのを根に持っているのだろう。

トレントさんは木霊状態でアロの背後に隠れながら、翼をしゅっしゅっと伸ばしてシャドーボクシングをしていた。

……こ、怖いなら無理しなくていいんだぞ。

ウムカヒメは呆れたようにトレントを眺めていたが、すぐに俺へと目線を戻した。

「無事に、奴の狂信者に勝利したようでなによりだ」

『……リリクシーラは、奴を妄信しているわけじゃあなかったのかもしれねぇ』

俺が言うと、ウムカヒメは目を細める。

「神の声に歯向かおうとせず、従おうとしていたことに変わりはないのであろう? 大事なのは、その点だけであろうに」

……やっぱり、こいつは意地でも神の声と戦うつもりなんだな。

『それで、俺がどうやったら、神の声に敵うっつうんだ。その方法があるのなら、教えてくれ。ゆっくり仲間を増やせ、なんてゴメンだぜ。それでお前らは失敗したんだろ?』

ウムカヒメが眉間に皺を寄せる。

『……言い方が悪かったな。だが、避けて通れる話じゃねえだろ。もうちょっと探りながら言おうかと悩んでいたが、俺は、勝算のねぇ戦いには乗れない。それに邪神フォーレンだとか、世界の法則ラプラスだとか、規模が大きすぎてピンとこねぇんだ。今までもずっと、目の前のもん守るので精一杯だったんだからよ』

ウムカヒメが無言で俺の顔を見る。

やや剣呑な空気が広がった。

トレントが、そっとアロの隣に出た。

ウムカヒメが彼らを手で制し、それから目を瞑って腕を組んだ。

「妾も、その石碑を見直し、既存の考えと繋げて色々と考え直したことがある」

ウムカヒメも、勇者ミーアが自身の全てを書いた石板は、これまで目に通したことがないという話であった。

ミーアは神の声が、他者の得た情報を盗み見できると考えていたためだ。

石板の情報を必要な相手に確実に渡すため、神の声から守るための苦肉の策であった。

実際には、俺達が見つけた後も、神の声はこの石板を堂々とここに残している。

今や神聖スキルを持っている者は俺しかいない。

もしかしたら単に潰す手立てがなかったのかもしれないが、それは希望的観測にすぎる。

残していても影響がない、と考えられている可能性の方がずっと高い。

「神の声は、殺せる。妾はこの石碑を読み返し、そう確信した」

『……本当なのか?』

「ああ、奴が目的を果たそうとするその瞬間こそが、あいつの最大の隙となるはずだ」

神の声の、目的……。

それはミーアの石碑によれば、ラプラスに深く関わる権利を持った存在……即ち高レベルの〖ラプラス干渉権限〗を保有した個体を造り出すことで、ラプラスが封印している化け物を蘇らせ、この世界を消し飛ばす、というものだった。

『なぜ、それが隙になるんだ?』

「ラプラスに関わることのできる条件に、強さが関係しているのはそちもわかっておろう。そして、神の声の持っている権限では、フォーレンの解放には至らぬのだ。それができれば、とうに自分でやっているはずであるからの」

『つまり……神の声は最終的に、自分より強い個体を作って、自分ではできない、フォーレンとやらの解放をさせようとしている……?』

ウムカヒメが頷く。

「ああ、そうであろうの。奴の思惑に従っていれば、いずれ奴を超えることになる。少なくとも……アルキミア様は、そうお考えであったようだ」

……ただ、そこで問題なのは、神の声は自分に逆らうつもりのある者が自身に近づけば、その経緯を次代の神聖スキル持ちの参考にし、当代の神聖スキル持ちをあっさり処分するであろう、ということだ。

神の声を欺けるとは思えない。

ならば、神の声がうっかり調整を間違えるのを待つことくらいしかできない。

さすがに俺は、その程度の勝算であれば乗っかる気にはなれない……。

『そもそも、どうすれば俺がこれ以上強くなれるんだ? レベル最大までは、確かにもう少しあるが……』

「四つの神聖スキルを集めたのであろう? であれば、既にそちの進化上限は解除されてはおらんのか?」

で、伝説級より上があったのか!?

何らかの条件が噛み合い称号スキルの〖最終進化者〗が消えることがあるようだが、どうやらその際には神の声の連絡が来ないようなのだ。

だ、だが、一応確認はしているが、それらしいことは起こっていないはずなんだがな……。

俺は自身のステータスを再確認してみた。

しかし、〖最終進化者〗は残っている。

『あ、あるぞ。〖最終進化者〗は、しっかりと残っていやがる。なあ、本当に、伝説級より上なんて、存在するのか?』

「ふむ……」

ウムカヒメが口許を手で隠す。

『……俺の限界が、今なんじゃねえのか? 神の声も、散々これまで試して、ちょっとでも強さを引き上げようと苦心してるんだろ? 勝者である俺が失敗だったとしても、おかしくはねぇと思うんだが……』

……問題なのは、だとしたらどうなるか、ということだ。

俺を失敗作と見て神の声が干渉を止めてくれるのであれば、俺としてはそれに越したことはない。

俺が神聖スキルを無駄に所持しているのが邪魔だと思い、神の声が消しに来る可能性は残っているかもしれねぇが……。

「それは早計であろうに。他に、条件があるのかもしれぬ。神の声は、何かそちに言っていないのか? そちが勝者になったのであれば、真っ先に、何か吹き込もうとしてくるはずであろう」

『い、いや、何も言って来ねぇが……。俺も、おかしいと思ってるんだよ。俺が〖修羅道〗を獲得したときは大燥ぎで一方的にメッセージを送りつけてきてやがったのに、今回に限っては沈黙してやがるんだ』

ウムカヒメの口許が歪んだ。

俺も言っていて気が付いた。

まさか……マジで、神の声は俺を成長限界と察して見限ったのか?

思えば、どっちかといえば神の声はリリクシーラに肩入れしていたようであった。

彼女が勝つこと前提で事を進めていたのではなかろうか。

だとしたら、だとしたら……え、これ、マジでどうなるんだ?

ウムカヒメと俺の間で、気まずい沈黙が流れる。

神の声が急いで俺を処分しないのであれば、失敗作であったとしても俺はそれでいい。

神の声に期待されたって、何のいいこともないのはわかっている。

だが、ウムカヒメは違う。

俺が主の仇を討ち、神の声から世界を解放する救世主になるはずだと、そう信じていたのだろう。

無言の圧力が重い。

【安心しなよ。】

【ちょっとばかり、キミに余計なことを考えずに休める時間をプレゼントしてあげたかったのさ。】

【ボクって意外と親切だろう?】

そのとき、突然、頭にメッセージが走った。

間違いなく、神の声のメッセージだった。