軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

575.ひとときの平穏

トレントが懸命に根っこの足を持ち上げ、迫りくるフェンリルの群れから逃げる。

『何故、何故こんなことに……!』

……それはトレントさんが、HPもギリギリなのに危険な地のど真ん中で大型サイズになってぴょんぴょん飛び跳ねてたからだぞ。

俺はトレントと、フェンリルの群れの間に降り立った。

『主殿……!』

トレントがぴんと幹を伸ばし、感動したように左右に巨体を揺らした。

俺は前脚を振るい、爪で地面に大きな傷跡をつけた。

『どうする、フェンリル? 俺は今疲れてるんだが、どうしてもやるなら相手になってやるぜ?』

俺が睨むと、フェンリルはびくりと身体を震えさせ、各々に別の方角へと消えていった。

俺は溜息を吐いた。

やってやれねぇことはないだろうが、向こうから去ってくれて助かった。

今のHPとMPでは余計な戦いをしたくねぇ。

『主殿ォッ! よくぞ、よくぞ、御無事で!』

トレントがどたどたと駆けて来た。

『……とりあえず木霊状態になってもらっていいか?』

『あ……はい』

俺の言葉を受けて、トレントが〖木霊化〗を使ってどんどんと小さくなっていった。

ちょこんと緑のペンギンお化けが現れる。

うむ、これで余計な魔物を引き付けずに済む。

『アロ達は……』

俺が言いかけたとき、近くの土壁の狭間からアロが顔を覗かせていた。

俺と目が合うと、アロが顔を輝かせる。

「りゅっ、竜神さま! アトラナート! 竜神さま! 竜神さまが戻ってきた!」

アロに続いて、アトラナートが姿を現す。

『ア、アトラナート!』

トレントの様子から無事なのは察していたが、実際に自分の目で見て確定すると凄く気持ちが楽になった。

よかった……こうして全員、誰か一体でも欠けることなく全員揃うことができた。

「リリクシーラ、殺セタノカ?」

アトラナートが声を掛けて来る。

俺はゆっくりと頷いた。

『ああ……そうだ、殺した』

俺の様子に何かを察したのか、アトラナートが顔を伏せた。

『……ソウカ』

「竜神さま……あの、神の声は、何か?」

アロが俺の前脚に手を触れて体重を預け、俺を見上げる。

不安そうな顔をしていた。

俺は静かに首を振った。

『俺も何か言って来るかと思ったんだが、まるで連絡がねぇんだ』

あいつにとって、予想外だったことでも起こっているのだろうか。

あれからたったの一言もねぇのはやっぱり妙だ。

『山の方に行くか。ウムカヒメの奴にも、現状を連絡しておいた方がいいだろう』

「奴に会うのか? リリクシーラとの戦いで力を貸してくれるならありがたかったが、今更奴と接触する利点がお前にあるのか?」

ヴォルクが俺へと尋ねてきた。

「あれは、お前の言うところの神の声とやらと戦いたいと口にしていたな。今あの魔物と接触すれば、確実に神の声とやらを敵に回すことになるのであろう?」

『それはそうなんだが……神の声は、どうにも俺に関心があるらしい。どの道、一生神の声と関わらないでいよう、なんてことは不可能みてぇなんだ。だったら、ウムカヒメの知識と力を貸してもらった方がいいんじゃねえかなと俺は考えている』

「そうか……。まぁ、あの魔物一体であれば、最悪の場合でも、お前ならば負けはせんだろうからな。万が一互いに都合が悪くなって敵対したとしても、そこまで痛手にはなるまい」

……ウムカヒメと敵対、か。

それは、ウムカヒメを最悪殺す、ということでもある。

ヴォルクに指摘されるまで、考えもしなかった。

だが、ウムカヒメと利害が不一致になる可能性はないわけじゃあねぇ。

その際にウムカヒメが過激な手段を取って来ることは充分に考えられる。

リリクシーラは次元が違うから絶対に敵わないと言っていた。

しかし、ウムカヒメは神の声を殺すつもりでいるようだった。

ウムカヒメのかつての主である勇者ミーアも、石碑では『神の声を殺すことは不可能ではないはずだ』と刻んでいた。

だが、正直俺には、ミーアが恨みを募らせて無謀な戦いを挑んだようにしか思えない。

ミーアと、彼女の想いを継いだウムカヒメの決意は、相当のもののようだった。

神の声と戦うことは避けたいと逃げ腰になれば、その時点でウムカヒメから大きな反感を買うことに繋がるかもしれない。

俺達は一旦、休息を取ることにした。

このままウムカヒメの元へと向かい、今の疲弊した状態のままで万が一にでも交戦になれば、厄介なことになる。

俺はアロと黒蜥蜴と戯れ、トレントと共に日向ぼっこをした。

その後、アロと海沿いを歩いていると蜘蛛の糸で釣りを楽しんでいるアトラナートを見つけたので竿を作って三人で並んで釣りを行った。

夕方になって滝の洞窟前に戻れば、ヴォルクから剣の模擬戦をやらないか、と誘われた。

〖人化の術〗を使えばできないことはない。

どうやらヴォルクは俺の理想の武器を生み出すスキル、〖アイディアルウェポン〗が随分と気になっているようだった。

俺はアロ達が見守る中、しばらくヴォルクと剣の模擬戦をやった。

さすがにステータスが違うため、ほとんどは俺の圧勝であった。

だが、回数を増すごとに、ヴォルクの動きがどんどんと鋭くなるのを感じていた。

俺には剣のことはよくはわからねぇが、ヴォルクはハウグレーとの戦いを経て、剣士としての技量が大きく上がっているように思えた。

「本当に強いな……さすがイルシアだ。これでなお〖人化の術〗のせいで力が大幅に減少しているというのだから、底が知れない」

ヴォルクが草原の上で仰向けに寝転がりながら、満足げにそう零した。

粘られて二十回以上やることになっちまった。

俺はともかく、ヴォルクは明日には本当に疲労が抜けてるんだろうか……?

少なくとも彼は、今日ハウグレーと戦ってきたばかりのはずなのだが……。

しかし、底が知れないのはヴォルクの方だ。

剣術では圧倒的にヴォルクに分があるとはいえ、まさか一本取られることになるとは思わなかった。

このまま極めて行ったら、いつかはハウグレーのようになるのだろうか……。