軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

572.決着

リリクシーラが崖底へと消えていく。

少しの間……俺は〖オネイロスライゼム〗を手に、ただその場に滞空してリリクシーラの姿を眺めていた。

傷があまりに酷過ぎて、意識が朦朧としていたせいだろう。

俺は〖オネイロスライゼム〗を手から離す。

落下していく大剣が、空中で光になって消えていった。

それから〖竜の鏡〗を解除して、武器を持つために腕の形状にしていた前脚を元に戻した。

崖底から大きな音が聞こえてきた。

リリクシーラが落ちた音だろう。

それを聞いた俺は、ようやくはっとした。

万が一でも、ここまで来てアイツを取り逃がすわけにはいかねぇ。

相方の仇を取って、俺は平穏を取り戻すんだ。

【神聖スキル〖餓鬼道:Lv--〗を得ました。】

【神聖スキル〖畜生道:Lv--〗を得ました。】

頭にメッセージが響いて来る。

〖餓鬼道〗が聖女の神聖スキルで、〖畜生道〗が魔獣王の神聖スキルだ。

現状確認できている全ての神聖スキルがこれで俺の元に渡ったことになる。

それが何を意味しているのかは、俺にはさっぱりわからねぇが。

このメッセージが来たということは……俺の勝利が確定した、ということか?

以前、神の声の奴から聞かされたことによれば、神聖スキルの継承が起きるのは、ラプラスが死の確定を判断したときだけだという。

事実、勇者イルシアは継承の直後にアドフに殺されて死んだ。

魔王スライムは部下のサーマルに連れられて逃走したが、あの時点ですぐに死ぬことが確定した。

あのスライムはレベル上限の引き下げを利用した進化で〖ルイン〗になり、必ず死に至る状態異常〖崩神〗を抱えることになったからだ。

ただ、スライムの例があるからこそ、神聖スキルの継承終了後に何かをやらかす可能性がある。

神の声の言うことだって信用ならねぇ。

そもそもラプラス自体、神の声が使っている何かの力、ということ以外さっぱりわかっちゃいねぇ。

【特性スキル〖神の声〗のLvが7から8へと上がりました。】

【称号スキル〖ラプラス干渉権限〗のLvが4から7へと上がりました。】

続けて頭にメッセージが響いてくる。

……一気に妙なもんのレベルが上がっちまった。

変なことに巻き込まれる前兆じゃなきゃいいんだけどな。

俺は自動回復で戻った魔力を〖ハイレスト〗に当てて回復しつつ、崖の底へと向かった。

経験値取得はまだ来ていない。

リリクシーラの奴と、完全な決着をつける。

相方……やっと、お前の仇が討てるよ。

崖底に降り立った。

〖気配感知〗で、すぐにリリクシーラを見つけることができた。

リリクシーラは血塗れで崖底に落下していた。

仰向けになっており、顔には明らかに生気がない。

俺が斬った腹の部分は傷がまだ癒えておらず、身体が千切れかかっていた。

加えて、身体全身が黒ずんでいる。

恐らく神聖スキルを失ったためだろう。

進化やスライムの件を思うに、恐らく神聖スキルには生物を上位の存在に進化させ、またその状態を維持する力がある。

そして、神聖スキルを失ったときに、魔物はその身体を維持できなくなる。

勇者イルシアは最大レベルが大幅に減少した。

魔王スライムは劣化体となってステータスが大幅に減少し、強引に進化を重ねて〖崩神〗の状態異常に掛かることになった。

『……さすがのお前も、もうこうなっちまったら何もできそうにねぇな』

俺はリリクシーラへと声を掛ける。

リリクシーラは瞳だけをこちらに向けた後、崖狭間の奥の空へと目をやった。

「……ああ、そうですか。私は、負けたのですね」

どこか他人事のようにリリクシーラはそう零した。

或いは、感情を表に出すだけの気力ももう残っちゃいなかったのかもしれなかった。

それくらい憔悴した様子だった。

「盾のことは、わかっていたのに……あんな子供騙しに引っ掛かるなんて。貴方が使用者だったので、少し油断していたのかもしれませんね」

『……何が見えた?』

すぐ殺すつもりだった。

なのに俺はリリクシーラを殺すために掲げた前脚を持て余すように前に突き出したまま、自然に彼女と問答を行っていた。

勝敗がついたことが明らかだからだろうか。

あれほど憎んでいたはずのリリクシーラの命を前に、不思議と俺は冷静だった。

戦いの規模が大きくなり過ぎていたせいで、俺はリリクシーラではなく、自分の中で積み上げてきたリリクシーラの幻影を恨んでいたのかもしれねぇ。

元より俺は、リリクシーラの目的も何も知らないまま、突然裏切られて流されるがままに対立していたのだ。

リリクシーラは少し迷うように沈黙した後、小さく口を開いた。

「あの子に、二度も刃を向けることになるとは思っていませんでした」

その言葉を聞いて、俺は察した。

〖オネイロスフリューゲル〗は、リリクシーラにアルヒスの幻影を見せたのだ。

リリクシーラが何を見れば思わず剣を下げるのか、あのときはさっぱりわからなかった。

……だが、アルヒスならば納得がいく。

序盤では徹底して堅実に動いていたリリクシーラが、終盤では段々と粗い行動が目立ってきた。

〖チャクラ覚醒〗によるHPとMPの持続的な減少によるタイムリミットのために攻めざるを得なくなっていたのだろうとあのときは考えていたが、それだけでは説明がつかない。

最後の最後では、リリクシーラは敢えて隙を晒すことで何か狙っているのではないかと、俺が邪推しちまったくらいだ。

今思えば、アルヒスが出て来てから、明らかにリリクシーラは崩れていた。

彼女を自分で殺してからはそれが更に顕著になっていた。

アレがなければ、病的に堅実な戦い方を徹底していたリリクシーラに、あれだけ攻撃を通すことはできなかったかもしれない。

『んな大事だったなら、連れて来なけりゃよかったじゃねぇか! よりによって、なんであんな……』

「彼女は優秀な人間で、何より聖騎士です。彼女自身が、そう生きることを望んでいました。このようなことになることも、覚悟していたはずです」

『だからって……!』

「これまで万の犠牲を築いてきた私が、親友は特別だから犠牲にしたくはないだのと、そんな身勝手な世迷言を口にできるわけがないでしょう。命の重さに貴賤はないのですから」

俺はリリクシーラの言葉を聞いて、ただ茫然としていた。

少しばかり時間を掛けてその言葉を脳で咀嚼し、俺は掲げていた前脚をやや下げた。

『……そう、か』

そうして俺は、弱々しく相槌を返した。