軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

554.〖極楽独楽〗(side:ヴォルク)

我はハウグレーの〖極楽独楽〗を警戒し、固まった。

この剣の化け物相手に我が立ち回れているのは、身体能力の圧倒的な優位があるからこそに他ならない。

ハウグレーの〖極楽独楽〗は、その差を覆しかねない。

ハウグレーが短剣を前へと蹴り飛ばす。

凄まじい速度で回転する短剣が我へと向かって来る。

回避では無理だ、戻ってくる。

弾き飛ばすのが正解だ。

我は前に出て、大剣で短剣を受け止め、そのまま払い飛ばそうとした。

思いの外に、短剣が重い。

スキルによってか、短剣の軌道を維持しようとする強い力が働いているようだ。

どうにか横へ飛ばしたつもりが、ハウグレーのいた方へと戻っていく。

「当然、ワシはこの隙を見逃してやりはしない」

ハウグレーは前に跳んで短剣を掴み、大剣を振り切った姿勢の状態の我に対して刺突を放ってきた。

我は身体を大きく退いてそれを避けた。

続けざまに、ハウグレーが大剣の一撃を放ってくる。

我は大剣を戻して受け止めた。

ハウグレーは剣を振ると見せかけて止め、我の大剣を蹴って自身を宙へと跳ね上げた。

「これは凌げるか!」

ハウグレーが宙で自身の短剣を蹴った。

短剣が、回転しながら飛来して来る。

だが、それだけでハウグレーの攻撃が終わるわけがない。

ハウグレーの姿がブレ、急接近してきた。

自身の放った〖極楽独楽〗に対して〖影狐〗で追いつくことで、同時攻撃を仕掛けて来る算段だ。

相手がハウグレーでなければ、こんなとんでもない狙いがあるとは疑うことさえしなかったであろう。

しかし、狙いを早く見切ることができたのは大きい。

〖極楽独楽〗を活かすように動くならば、〖影狐〗の目的地点は大きく絞ることができる。

「ここか!」

我は素早く安全地帯へ跳び、ハウグレーが来るであろう座標へ大剣を振るう。

大きく、空振った。

「読み合いだけで〖影狐〗の位置を絞るなど、何度も続くわけがなかろう。ワシ主導で動いている限り、ワシに有利な読み合いになると、そのことはわかっているであろう?」

ハウグレーは大剣を手に、我の前へと立っていた。

読みを、ズラされた。

我がハウグレーの動きをここまで読めると、そうわかっていたというのか!?

「お前は、自身で思っているよりもずっと恐ろしい剣士だ。竜狩り、ワシはお前の様に、お前を過小評価したりはせん。それは、お前自身よりもお前を正確に認識できているということだ」

背後に跳ぶ。

しかし、間に合うはずがない。

肩から腰に掛けて、深々と斬られた。

熱に似た鋭い痛みが走り、鮮血が舞った。

意識が、霞む。

だが、ここで倒れるわけにはいかない。

あと一歩なのだ。

絶対的な読みに加え、三つの反則技。

同じ剣士でしか土俵に立てない相手であったが、まさかその先に剣士同士の戦いに置いて大きく有利に働く〖極楽独楽〗まで備えているとは思っていなかった。

しかし、ハウグレーとて、さすがにもう手札はないはずだ。

……〖自己再生〗が、完全には追いつかなかった。

我の身体も、もう限界が来ている。

次に決定打をもらえばお終いだ。

ハウグレーは負傷した我に対し、追撃は仕掛けて来なかった。

自身の投げた短剣を確実に回収していた。

今となっては……〖夢狼〗、〖影狐〗、〖護り貝〗の三つの反則技より、〖極楽独楽〗の方が恐ろしい。

ただの投擲スキルであり、あの三種の技より効果自体は大人しいが、ハウグレー程の達人に優位に動かれ続ければ付け入る隙がまるで見えてこない。

こちらの選択肢は短剣に阻害されて縛られ、逆にハウグレーの選択肢は無限に増える。

こんなもの、対応できるわけがない。

今までの正体不明の壁とは違う。

〖極楽独楽〗は、明確に我とハウグレーの間に越えられない壁があることを示していた。

周囲一帯の危険領域が濃くなっているのを感じる。

我の本能も、〖極楽独楽〗の危険性を訴えている。

しかし……ハウグレーよりも、彼からやや間合いを置いたところの方が、危険性が濃くなっていた。

本能に遅れ、〖極楽独楽〗の対処法に気が付いた。

ハウグレーが短剣を横に構え、足を上げる。

我はその瞬間、前へと飛び出して大剣を振り下ろした。

ハウグレーが足を降ろして半歩退き、大剣の方で我が攻撃を受け流した。

距離を取ろうとするハウグレーを追い続け、大剣を振り続ける。

ハウグレーは右へ左へと攻撃を往なしながら下がる。

「投げさせはせんぞ、ハウグレー!」

〖極楽独楽〗は予備動作が特徴的である。

短剣を横にしっかりと構えた上で、足を密着させてから前方へと蹴り飛ばす必要がある。

我から攻め続ければ、それだけでハウグレーは〖極楽独楽〗を使う機会を失う。

もっともそれは、ハウグレー相手に牽制を控える必要があり、後の先を許しやすくなるということでもある。

だが、ハウグレーの〖極楽独楽〗は、我の技量では発動を許した時点でほぼ対応不可能に陥る。

それを許して確実に詰まれるくらいならば、まだこちらの方が勝機がある。

ハウグレーは短長異なる二本の剣の違いを最大に活かし、我の攻撃を尽く受け流していく。

我が振るう度に〖刻命のレーヴァテイン〗が輝きを増していく。

その妖気に吸われ、残り少ない我の体力が剥がされていくのを感じる。

だが、その度に我が剣技は鋭さを増していく。

短期決戦は望むところだ。

長引く程、地力の差が出て来る。

況してや、ハウグレー相手に攻め続けるなど、長く持つはずがない。

〖刻命のレーヴァテイン〗の生命力と引き換えの強化を用いて、この連撃でハウグレーを沈める。

血が舞った。

連撃の中で、ハウグレーの腹部を我が大剣が掠めていた。

ハウグレーが目を見張る。

「……一度、距離を取り直すか」

ハウグレーが無防備になった。

大剣の一撃が、彼の胸部へと当たった。

だが、血は出なかった。

また〖護り貝〗だ。

恐らく敢えて受けることで、反動を利用して距離を取るつもりだ。

……そして、そこから〖極楽独楽〗を撃ってくる。

一度撃たせれば、次また我に安易に距離を詰めさせてくれるとは思えない。

〖極楽独楽〗で戦況を確実に制圧し続けながら迫ってくるはずだ。

我は全力で地を蹴り、真っ直ぐに大剣の刺突を放った。

勝算はあった。

だが、ほとんど賭けのようなものだった。

〖護り貝〗の反動で高速で遠ざかるハウグレーの胸部に、大剣の先端が突き刺さった。

ハウグレーが初めて、愕然とした表情を見せた。

我はそのまま地面の上に転がった。

膝を突き、身体を起こす。