軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

549.成長(side:ヴォルク)

我はハウグレーへと駆ける。

ハウグレーの周囲には依然、死の予感が漂っている。

……見えてはいるが、あまりに危険領域が多すぎて、避けて戦うことは不可能だ。

普通であれば、戦うこと自体を避けるべき相手だ。

我は戦いの中で果てるのであれば本望だと考えていたが……これが戦いだといえるのかは、我にはわからない。

あまりにもハウグレーの影が大きすぎる。

まるで火山口へと飛び込んでいるような気分であった。

「力量差がわかってなお、自身から飛び込む気力があるとはの」

ハウグレーも前に出る。

気が付くと、ハウグレーは短剣の間合いまで接近していた。

脳裏に次にハウグレーがどう仕掛けて来るかの予測が浮かぶ。

ハウグレーのレベル自体がそこまで高くないことを思えば、取れる手は限られてくるはずなのだ。

選択肢の多い我が最善で動けば、必ずハウグレーは動きに破綻を見せざるを得なくなる。

一手、二手先だけでは駄目なのだ。

考えよ……完全に、ハウグレーを詰め切れる太刀筋を!

短剣と大剣がぶつかり、金属音を打ち鳴らす。

一手打ち合うごとに脳内麻薬が駆け巡る。

ハウグレーは大剣の威力を逸らし、質量と腕力の差を丁寧に補って対処している。

「……剣筋まで、戦いの中で凄まじい速度で成長している。これまで自身より格上の相手と打ち合ったことがなかったため、才覚が燻っておったのだな。〖竜狩り〗……お前は本当に恐ろしい男だ」

ハウグレーが上方から打ち込んできた短剣を腕で受け切った。

興奮のためか痛みはない。

腕を斬りつけられたことよりも、至近距離で連続してハウグレーと戦えていることへの歓喜があった。

潜り込もうとするハウグレーを返す刃で牽制し、素早く蹴りを放って退かせる。

ハウグレーを〖破壊神ドルディナ〗の間合いに移動させられた。

奴の短剣の刃から遥かに遠い、我にとって理想の間合いだ。

「そこから動かさぬぞ!」

頭で十手先を常に考え続け、ハウグレーがこの間合いから抜けられる型を確実に潰す様に正確に大剣を振っていく。

刹那の破綻もあれば、ハウグレーはこの牢から抜け出してしまう。

脳を酷使し、正確に剣撃を放ち続ける。

間違いなく、我の人生における最高の連続攻撃であった。

ハウグレーは表情こそ変えないが、我の連撃に完全に後手に回り、動けなくなっている。

「いい剣筋である。正当な剣士として、正面から勝負してやりたがったが……これは試合ではなく、殺し合いなのでな」

ハウグレーの身体が急激に速度を増し、あり得ない速さで横へと移動した。

極限までに高まった我の集中力は、その動きをゆっくりと正確に捉えてはいたが、既に振るった剣の軌道を修正することはできなかった。

ハウグレーの謎の動き……上空であろうが自身の位置を瞬時に変えることのできる技、ブレであった。

速さもそうだが、動きに脈絡がなさ過ぎて到底対応できるものではない。

なまじ捉えきれそうだっただけに、この動きの反則さがわかる。

ハウグレーは小細工の一切通用しない完成された剣士であり、距離を取っての攻撃ではまず仕留められないだろう。

故にハウグレーの得意とする近接戦闘で挑むしかないのだが……仮に剣技で押し切れそうになっても、ハウグレーのこの奇妙な動きがある限り、いつでも自在に形勢をひっくり返されてしまうのだ。

しかし……至近距離から集中して視認し、我はハウグレーのブレに奇妙な感覚を覚えていた。

既視感である。

我は全く別の相手から、これと重なる動きを見たことがあったように思えてならなかった。

我は大剣を振り降ろしていく。

その動きの間にハウグレーは短剣を構えて角度をつけ、我が大剣へと刺突を放った。

「〖鎧通し〗」

ハウグレーの短剣が、大剣の刃を貫通した。

ドラゴンの一撃さえ防ぐ刃全体に罅が走る。

「まさか……有り得ぬ!」

「堅く薄い物など、弱点を通せばこんなものだ。少なくともワシ相手にはもっと剣を護る様に立ち回るべきだったな。それを盾として用いるなど、以ての外」

ハウグレーが、折れた大剣を手にする我へと斬り掛かってきた。

我はとにかく背後に逃れる。

ハウグレーの短剣が立て続けに我の身体を浅く刻んでいく。

ハウグレーの二度目の斬撃は、深く斬られなければ発生しないようであった。

とにかく我は逃れながら腕や脚などダメージが少なく済む部分を斬らせつつ、折れた大剣を投げ付けて距離を稼いだ。

……すまない、〖破壊神ドルディナ〗……我の力量が及ばぬばかりに、〖月穿つ一振りレラル〗と同じ末路を辿らせてしまった。

距離を取れたところで、我は〖自己再生〗で斬られた部位を再生させていく。

完全に治す必要はない。

動くことさえできればいい。

……ハウグレーを相手取るに当たって、小細工なしで技量で戦う〖破壊神ドルディナ〗は最も適している武器であっただろう。

そのリーチと軽さを活かし、ハウグレーに対して我が強みとして持てるものを最上の形でぶつけることができた。

だが、泣き言を口にする余裕はない。

「〖ディメンション〗!」

我は叫び、腕を掲げる。

手に赤と青に彩られた、禍々しい形状の一振りの大剣が握られた。

「〖燻り狂う牙バンダースナッチ〗、か……〖破壊神ドルディナ〗に続いてこんなものまで持ち出すとは、随分と剣の収集が好きらしいと見える。勇者ミーアの死後行方知れずになっていた、値の付けられぬ魔剣……まさか、それをお前が持っているとは」

ハウグレーが呟く。

確かに〖燻り狂う牙バンダースナッチ〗は〖破壊神ドルディナ〗以上の名剣ではある。

……だが、ハウグレーのステータスを考えれば、剣の威力が上がったとしても変わりはない。

元々ただ一撃さえ入れることができれば、ハウグレーはその時点で戦闘不能に陥るはずなのだ。

武骨で小回りの利かない〖燻り狂う牙バンダースナッチ〗は、ハウグレー相手であれば本来ならば避けるべきであった。

それに、〖燻り狂う牙バンダースナッチ〗は……担い手にバンダースナッチの狂気が移る。

勢い任せでどうにかなる相手ではない。

しかし、他に扱える剣を持っていない以上、〖燻り狂う牙バンダースナッチ〗に懸けるしかないのだ。