軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

541.一撃必殺(side:トレント)

アロ殿の前方の地面より、二体のアロ殿を象った土の像が現れた。

やはりアルアネの牽制には〖土人形〗を用いるつもりでいるらしい。

アルアネは向かって来る土人形に対して、凝固した血で象られた禍々しい爪を構える。

オウルが押さえられている以上、正面突破で土人形を蹴散らして接近してくるつもりであるらしい。

……土人形二体では、アルアネの高ステータスの相手はできないことは、先刻でアロ殿も理解しているはずである。

中に〖未練の縄〗を仕込んで意表を突く手も、二度連続ではとても成功するとは思えない。

アロ殿はオウルの動きを抱き着いて押さえ付けながら、目を閉じて深く呼吸をし、再びアルアネを見据えた。

表情が硬い。アロ殿も、緊張しているようであった。

オウルを捕らえ、アルアネの焦りを誘うことができたとしても、我々の圧倒的不利は何ら変わらない。

……アルアネにまともな攻撃を許せば、私もアロ殿もすぐに戦闘不能へ追い込まれるのだから。

「……アルアネに〖ガードロスト〗、通せる?」

『や、やってみますぞ』

……〖ガードロスト〗は、私が進化した際に覚えた魔法スキルである。

対象の防御力を下げ、攻撃力を上げる効果を持つ。

この状況でアルアネに使用するのは危険ではあるが……どの道、倒しきれなければ全滅は免れないであろう。

そうであれば、多少攻撃力が上がっても戦況にさしたる影響は出ないはずだ。

私はアルアネが二体の土人形へと攻撃を行う隙を狙い、〖ガードロスト〗を放った。

魔力の光の球がアルアネへと飛来する。

アルアネはちらりと見たが、避けるよりも被弾しながら土人形を始末する方を選んだ様であった。

〖ガードロスト〗が当たった。

……これで、少しはアルアネに叩き込めるダメージが上がったはずである。

だが、ただでさえ恐ろしかったアルアネの攻撃力がこれで上がったことも事実である。

――その瞬間、アロ殿が肥大化させた左腕で私を鷲掴みにした。

『ア、アロ殿……もしかして私、何か致命的な失敗を……?』

てっきり怒っているのかと思い振り返ってそう声を掛けたが、アロ殿は深刻な表情を浮かべてアルアネを睨んでいるばかりであった。

「……トレント、きっとチャンスは一回だけだから……絶対に、躊躇わないでね」

『は、はい……?』

アロ殿が、私を宙へとぶん投げた。

『ア、アロ殿ゥッ!?』

自分の身体が宙に放り投げられた時、丁度アルアネが爪でアロ殿の二体の土人形をバラバラにしたところであった。

アロ殿は押さえていたオウルを地面に叩きつけ、素早く両腕を前へと突き出した。

アロ殿の腕に魔力の光が迸っていた。

いつも以上に魔力を込めている。

「最大出力〖ゲール〗!」

竜巻が巻き起こり、私の身体が更に上へと跳ね上げられた。

『うぷっ!?』

回る視界の中、私はどうにかアルアネを捉えた。

奴を見失うわけにはいかない。

アロ殿が風魔法を放ったのと同時に、アルアネはそこへ飛び込む様に前へと跳んでいた。

……いや、違う、アルアネが飛び込む位置へ、アロ殿は〖ゲール〗を撃ったのである。

アルアネはオウル奪還に急いており、加えて〖土人形〗と〖未練の縄〗のコンボを警戒している。

土人形を始末すれば、急いで前に出ざるを得ない状況であったのだ。

「きゃああっ! あああ! 痛いよ、痛いの、痛い……!」

アルアネの身体が〖ゲール〗に刻まれる。

アルアネは今、〖ガードロスト〗で防御能力が下がっている。

その甲斐あってしっかりとダメージが通っているようであった。

行ける……ここで、〖ゲール〗でダメージを負っているアルアネへ、私が追撃を入れる!

ここでアルアネを倒せなければ、アロ殿にも私にももう後がない。

アロ殿が、知略を尽くして整えてくれた状況である。ここで、なんとしてでも、当てる!

私は素早く〖木霊化〗を解き、巨大な木の姿へと戻る。

〖ファイアスフィア〗を自爆させて全体に燃え広げ、それをすかざす〖スタチュー〗による全体の鋼鉄化によって妨げる。

燃え上がる巨大な鉄樹の出来上がりであった。

私の〖メテオスタンプ〗で、〖ゲール〗のダメージの抜けていないアルアネを押し潰す!

アルアネも宙に打ち上げられた私を意識の端には添えていただろうが、まさか巨大化した上に鋼鉄化し、炎を纏って空から高速で落ちて来るとは考えてはいないはずだ。

ここで終わらせ……。

「ごめんね、ごめん……アルアネのために、アルアネに対抗するために必死で考えた策だったんだろうけど……ごめんね、知ってたよ、知ってたの」

アルアネは〖ゲール〗に刻まれながら顔を上げて宙にいる私を冷静な目で見つめ、わざとらしく哀れむような声で言った。

アルアネの目が見開く。

「アルアネにはね、アルアネのこの目には、全部見えるの。だから乗ってあげるふりをして、最後の一つを外すだけでいい」

心を見透かされるような、そんな目であった。

駄目だ……この技は、当たらない。

当てるには〖ゲール〗に意識を取られているところを突くしかなかった。

だが、アルアネは、これから私がしようとしていることを既に知っているようであった。

「ごめん、ごめんね、アルアネも、負けてあげるわけにはいかな……」

そこまで言って、アルアネの表情が曇った。

アロ殿が、〖ゲール〗の暴風で自身を弾き飛ばし、傷だらけになりながらアルアネへと飛び掛かっていった。

アロ殿が肥大化させた左腕を暴風に任せてアルアネに打ち付ける。

アルアネは風に逆らって舞う様に動き、カウンター気味に爪でアロ殿の大腕を切断して跳ね飛ばした。

アロ殿はそのままアルアネに飛びつき、彼女の華奢な腕へと噛みついた。

「ひ、きゃあっ!」

アルアネがアロ殿の予想外の猛攻に隙を晒した。

そこに、アロ殿の身体から生えた無数の〖未練の縄〗の腕が、アルアネへと絡みついた。

このまま私が落ちれば、アロ殿は無事では済まない。

しかし、私が落ちなければ、アロ殿はすぐにアルアネに引き裂かれて殺されてしまうであろう。

しかし……しかし、どうすればいいのか、私にはわからない。

脳裏に、先程のアロ殿の言葉が過ぎった。

『……トレント、きっとチャンスは一回だけだから……絶対に、躊躇わないでね』

……アロ殿は、こうなるとわかっていたわけではないであろう。

今も我武者羅に飛び込んで、どうにかアルアネを押さえることに成功した、という様子であった。

だが、自分が犠牲になるかもしれない可能性は考えていたのかもしれない。

『……申し訳ございませぬ、申し訳ございませぬ、アロ殿……!』

私は〖グラビティ〗で、自身の落下速度を引き上げた。