軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

521.悪魔(side:トレント)

アレクシオの負傷を契機に、戦いは消耗戦へと変わっていた。

私とアロ殿は、徹底的に魔法スキルで上から来た竜騎兵を攻撃し、上へと追い返す。

アレクシオの危機と見て強引に接近を試みる竜騎兵はアロ殿が〖ゲール〗で誘導し、強化した腕で確実に仕留めに掛かった。

アトラナート殿は攻撃の速い〖断糸〗でアレクシオへと攻撃を続け、確実に相手の体力を削いでいく。

アトラナート殿はレチェルタ殿ほどではないが、高い毒性を有している。

負傷する度にアレクシオの動きはどんどん遅く、粗くなっていった。

その間にも、竜騎兵が一人、また一人と減っていく。

二十以上いた竜騎兵も、ついにその数を十程度まで減らしていた。

アレクシオも限界が来てか、その場に膝を突く。

「こ、ここまで、だというのか? 余は、余は聖国一の剣士、アレクシオ・オズロードであるぞ……!」

アレクシオが頭上を仰ぎ、大声で叫ぶ。

「だ、誰か、余の許まで降りて来るのだ! 早くせぬか!」

ついに、決着が着いたのだ。

さすがアトラナート殿である。

ナイトメアから進化を遂げて以来、身体能力面は無論のこと、戦い方にトリッキーさが増している。

シンプルに動きが速く、力の強いアレクシオは脅威ではあった。

だが、アレクシオは変わった攻撃手段を持たず正面から戦う正統派の剣士であるため、糸の搦め手で戦うアトラナート殿にとっては戦いやすい相手であったのかもしれない。

私が勝利の確信を抱いたとき……アロ殿の〖ゲール〗の妨害を抜け、上から向かって来る騎竜の姿があった。

む……これまで敵を上手く遠ざけさせてきたアロ殿が、しくじったのであろうか?

アロ殿も、そろそろ魔力の限界が近づいているのかもしれない。

そう思い空へと目を向ければ、その騎竜の色が妙なことに気が付いた。

騎竜の全身に妙な赤い斑点があり、目は焦点が合っていない。

やせ衰えており、体表は皺だらけで、骨にへばりつているかのようであった。

首元には獣に噛まれた様な痛々しい傷が目立つ。

しかしそのくせ、他の騎竜よりも明らかに速いのである。

あの速度であれば、アロ殿の〖ゲール〗を抜けられたのも不思議ではない。

「……あの騎竜、もう、死んでる」

アロ殿は空を舞う異様な騎竜を見つめ、そう口にした。

『な、なぜ、死んでいる騎竜が動くのです?』

私はアロ殿へと問うたが、返答はなかった。

アロ殿の顔を見れば、彼女とて困惑しているようであった。

何か、特殊なスキルによるものであろうか……?

アレクシオへトドメを刺そうとしていたアトラナート殿が、一気に背後へ退いた。

頭上では、屍の騎竜から一人の少女が飛び降りたところであった。

彼女は一直線に落下し、アレクシオの側へと着地した。

乗り手を失った騎竜の方は、地面に頭から突っ込んで首がへし折れ、派手に転倒した。

今度こそ動かない死体へと戻っていた。

突然現れたのは、暗色のドレスを纏った緑髪の少女であった。

おおよそ戦士の風貌としてはふさわしくないように見える。

だが、尋常ではない身体能力を有していることは、先程の着地からも明らかであった。

……それに、それなりの高さから落ちていたはずなのに、怪我一つ見当たらない。

少女から漂う気配も……それこそ死体の様な、嫌な感じであった。

「〖大監獄の悪魔〗……なぜ、こっちへ来たのだ」

「聖女様は、アレは邪竜を直接叩くのに使うと……」

竜騎兵達の雰囲気も、おかしい。

危機に援軍が来たというのに、むしろ不穏な空気であった。

「き、貴殿は……アルアネ殿、であったか。助けられた」

アレクシオが、恐る恐ると彼女へと尋ねる。

アルアネと呼ばれた緑髪の少女は、そこで初めてアレクシオに気が付いた様にきょとんとした表情を浮かべ、それから得体の知れない笑みを浮かべた。

「まだ三人目だから、いいかな、いいよね? 聖女様は、五人まで、許してくれたもの。アルアネはね、アルアネね、お腹が空いちゃうとね、本当ダメなの。ね、だからね、いいよね? どうせ団長様、死にかけみたいだし。ね? そっちの方が、きっと聖女様の役にも立てるもの。ね?」

「な、何を……」

アレクシオは不気味に思ってか、身体を引き摺って後ずさる。

アルアネは素早くアレクシオの背後へと回り、首に歯を立てた。

一瞬のことであった。

アレクシオは振り解こうともがくが、少女はびくともしない。

弱っているとはいえ、ヴォルク殿と互角以上に打ち合っていた男が、少女のか細い腕を全く退けることができないでいるのだ。

ひと目見て異常な光景であった。

数秒の内に身体が痩せ細り、肌にはあの騎竜の様に赤い斑点が浮かび上がる。

それからこと切れた様に、地面の上へと崩れ落ちた。

「ああ、団長さんの血、おいし、かった。やっぱりね、ね、人間のじゃないと、満たされない」

アルアネが、手の甲で口の周りに着いたアレクシオの血を拭った。

目前の光景に、理解が及ばなかった。

私もアロ殿も、アトラナート殿も、その様子を呆然と見ていることしかできなかった。

アレは、リリクシーラの連れて来た人間ではなかったのであろうか。

「アレクシオ様が殺されたぞ!」

「だからアレを連れて来るのには反対したんだ!」

竜騎兵達が、悲鳴を上げて逃げていく。

アルアネはとろんとした目で、その数を指を曲げて数えていく。

「……九、十、ううん……。あんまり見られちゃいけない約束だったんだけど、緊急事態だったし、いいかな。いいよね? ね?」

アルアネは彼らを尻目に、ぽつりとそう漏らした。

アルアネが私達を見て、笑った。

その笑みを見て、私は気づかされた。

この人間は、いや、この化け物は、明らかに私達の手に負える類の相手ではない。