軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

419.竜狩りのプライド(side:ヴォルク)

竜が、戸惑い気味に、宴の間と、三騎士の逃げた先を交互に見る。

後を追うべきか、こちらに残るべきか、判断しかねているのだろう。

戦場において、考えて手を止めるなどあまりに愚行。

永遠を知る双頭竜、ウロボロスに似つかわしくない様子であった。

それが我の剣への不信感だというのならば、我が後を押さねばなるまい。

確かに、あの二つ顔の魔物、我との相性は最悪。

魔物としての質も、今まで我が斬り伏せてきたものよりも、一段は上を行く。

だが、ここで我を通せぬのならば、竜狩りの名は虚仮威しであろう。

我が訪れた先で、世界崩壊を目論む魔王の手先と相対するなど、またとない機会であろう。

もしかしたら我がこの先いくら旅を重ねようが、伝説の剣士ハウグレーとの邂逅は訪れないかもしれぬ。

薄々勘付いていたことだ。

だとすれば、我が剣を研ぎ澄ませてきたのは、このときのためだったのかもしれぬ。

今退くならば、剣のみに懸けた我が生涯は、何の意味も持たない。

「アレと雑魚共を片付けたら、我もすぐに追いつく」

剣を向ける先に立つは、異形の剣士、胸部に二つ目の顔を持つ、藍色髪の少女。

王女改め、魔王直属の部下三騎士の一人、『幻蝶の剣メフィスト』。

竜は我を見ると、片方の頭が僅かに礼をし、『絶死の剣サーマル』の潜った扉へと向かっていく。

この場は、我に任せられた。

「竜狩り、ね。随分、舐められたもの……」

メフィストの、一つ目の頭、無表情な少女の顔が淡々と呟く。

「アハ、バカねぇ、こっちは、アンタのスキルも、弱点も、もう一通り抑えた後だっていうのに! 竜狩りィ……アンタ如きが今まで生きて来れたのは、アンタと戦ってきたのが、アンタ同様に知性のない超バカだったってだけよ!」

胸部より伸びる、二つ目の頭が哄笑する。

水気のない伸びっぱなしにされた髪が顔を覆い隠してはおるが、わずかに覗く瞳からは、狂気が滲み出ている。

むしろ本体は、こちらの醜女と見るべきか。

「もう、百回やっても負けようがないけど? 大人しく泣きついた方がいいんじゃない? 情欲にかまけて女の子追いかけてないで、ボクちゃんを助けてくださいーって!」

竜の足が止まる音が聞こえた。

「すぐに追い掛けると言ったであろう。これ以上、我が腕を疑う様な真似は、貴様とて許さぬぞウロボロス」

我が言えば、再び竜の足音が響く。

「そう、それでいいのだ」

我は言いながら、我が友、『月穿つ一振りレラル』を握る手を強める。

『竜狩リ殿、相手ガ悪イ! 余ナラ、メフィストノ魔法ヲ弾クコトガデキル。ダガ、余デハ、三騎士ノ速度ニツイテイクコトハデキヌ!』

マギアタイトの魔物が、我へと〖念話〗を送ってくる。

「必要ない。お前は、周囲の者共を片付けろ。こいつは、我がやる」

元より、そのために残した。

あの魔金属の魔物は、兵を模したスライム共の対処が上手かった。

ただでさえ、メフィストは強敵。周囲の者に邪魔されては剣が届かぬ上に、興が削がれる。

「アハ! こっちはもうねぇ、さっきぶつかったときにわかってんのよ。アンタ、相当魔力低いでしょ? すぐに片付ける? よくもそんな半端なステータスで、このアタシ達相手に喧嘩を売れたわねぇ。すぐに片づけるぅ? やれるものなら、やってみなさいよ!」

メフィストが言いながら我へと駆けて来る。

確かに我には、魔法の才というものはなかった。

唯一使える魔法は〖ディメンション〗という、せいぜい手に持てる分程度の、旅の道具や剣を特異空間に入れて引き出すことができる空間魔法だけだ。

それでも、こちらから扱う分にはそれでも構わなかった。

剣以外を主体に戦うなど考えられなかった。

だが、敵から魔法をかけられた際には、致命傷となりうる。

昔は格下から向けられた魔法であろうとも、まともに受ければ抵抗ができなかった。

長く魔法を受ける訓練をして多少は改善されたが、それでも高位の魔術師が相手であれば、焼石に水であった。

昔、まだ駆け出しの冒険者であった頃も、散々言われたものだ。

お前は魔法への対処ができないので、一人で動くのは危険すぎる、と。

しかしながら、生まれ持った好戦的な気質故か、他の臆病で堅実な賢い冒険者共とは、どうしても相容れなかった。

どんな傷であろうがすぐに治る体質のせいもあろう。

育った村では、熊の魔物の強襲を退けた際に一人で応じた際に瀕死の重傷を負ったが、一夜と待たずに捥がれた腕ごとすっかりと治ったために、気味悪がられて追い出されたこともあったほどだ。

とにかく我は、一つの場所に留まることと、折り合いが悪かった。

「……〖ミラージュ〗」

メフィストの姿が三つにブレる。

幻惑魔法だ。これも、我が苦手とする魔法の一つだ。

直接受けずとも敵の優位となるため、回避を取るという対策も取れない。

見て、我が戦闘経験と照らし合わせて対処する。

それ以外に打開策がない。

「アハハハハ! さっきは見切れたでしょうけど、今度はどうかしらぁ? そして、これで終わりよ! これがアンタの、勝てない理由!」

三方向から、二つ目の顔が捲し立てる声が響く。

メフィストの剣から、黄色に濁った光が放たれた。

「〖コンフュージュ〗」

三つの光が、我へと向かう。

困惑の魔法。

まともに受ければ、一時的とはいえども正気を奪われる。

全てを回避し、向かって来る三つの影に対応するのは、我が身体能力を以ても不可能。

賭けに出ることはできるが、そんなことを繰り返していれば、いずれは負ける。

「図に乗るな、下衆が」

我はレラルを振るい、三つの光を斬った。

二つがすぐに消失し、残る一つが光を四散させて崩壊した。

我が技能、〖破魔の刃〗は、魔法さえも両断する一閃を放つ。

「なっ!」

メフィストが驚嘆する。

「確かに我には、剣しかない。だが、剣さえあれば、我はどこまでも戦える。随分、安易に近づいてくれたものだな」

更にもう一振りを放つ。

今、本物の〖コンフュージュ〗を放ったメフィストは、既に把握している。

剣先より生じた〖衝撃波〗が、本体のメフィストへ向かう。

「っ!」

メフィストが飛び跳ねて回避する。

一つ目の顔が顔を顰めれば、二つ目の顔が罵倒する。

「ちっ! もっとしっかり避けなさい! ああ! なんでこんな使えないボンクラが、アタシの相棒なのかしら! 兵共、アタシを補佐しなさい!」

だが、スライム兵共は、動き回り火球を放つ魔金属の魔物に振り回され、こちらへ意識を裂いている余裕はないようであった。

「マギアタイトォ! この、裏切り者がぁ!」

我はメフィストへ距離を詰め、相手の着地と同時に大剣を振りかぶった。

「……舐めないで、剣なら、私だって負けない」

下から掬い上げるような一閃。

悪くはない。充分、達人として通用する腕前だ。

「この我相手でなければ、だが」

「えっ?」

メフィストの右の手が、剣と共に落ちる。

宙で腕が粘液へと変わり、剣だけが地面に叩きつけられた。

「はぁあああああっ!」

横薙ぎの一閃。

メフィストの胸部の顔に抉れた線が生じ、軽々と遠くへ跳んでいく。

「きゃぁあっ!」「イヤァァアアァァアアッ!」

粘液を撒き散らしながら、壁へと小さな身体を叩きつける。

「竜、狩りイイィイイ! ニンゲンの分際で、ニンゲンの分際でぇぇえぇえっ!」

二つ目の顔が、抉れた目を見開いて叫ぶ。

顔面は、急速度で治癒されていく。

「もうっ、マジで行くわ! ほんっとうに頭に来たわ! アンタも、ぼさっとしてるんじゃないわよ! 〖分離〗なさい! 囲んで仕留めるわ!」

「……わかった、お姉ちゃん」

メフィストの顔が、ぐらりと揺れ、頭が落ちて、緑色へと変色する。

残った体も形が崩れて緑色となり、新しい形を象り直す。

メフィストが、スライム状の、二体の人間の上半身へと変化した。