軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

399.とある少女と王城の宴3(side:ミリア)

「ど、どうして、何が……」

ヴォルクさんに斬られた兵士の、上半身が床に叩きつけられる。

飛び散った血は、緑だった。

斬られた兵の身体も切断面から緑の透き通った色に代わり、身体が崩れ、鎧の隙間を抜けて崩れていく。

崩れた身体が、痙攣しながら動き、力尽きた様にぱしゃっと広がり、完全な液体に変わる。

この一瞬で、二度目の驚愕だった。

人間じゃ、ない。

周囲に並んでいた兵士が全員殺気立ち、それぞれに武器を抜いた。

「ちっ! やはりやり過ぎたのだ!」

「馬鹿が、このくらい王女様も想定しておられる。勘のいい連中がそろそろ動く、とな。予定通りに聖女も釣れた。すべては王女様の計画の範囲内だ」

「竜狩りは噂通り、獣の様な男だな。タイミングを計ることなく、駆け引きを飛ばして躊躇なく先手を打つとは。さすがに予想外だった。だが、我らが冒険者如きに、これ以上後れを取ることはない!」

兵士たちの顔色が次々に、緑色へと変色していき、目や口が消えて、やや窪みの残るだけののっぺらぼうになる。

身体の表面から緑の雫が垂れ、足元に水溜りができる。

鎧に包まれた、粘液状の異貌の兵士へと変わる。

異貌の兵士達が他の冒険者を一瞥し、内の三人が次々にヴォルクさんへと接近し、三方向から包囲した。

「奴だけは確実に行くぞ、〖アクアスフィア〗!」

兵士の伸ばした手の先で、水が高速回転しながら球体を模して、ヴォルクさんへと飛んでいく。

大剣の腹で防ぐヴォルクさんへと、二人目の兵士が別の角度から手を翳す。

「〖ウーズウィップ〗!」

兵士の腕が伸びてヴォルクさんを襲う。

だが、素早い体捌きで体勢を整え、大剣の柄で突いて弾く。

「むっ……?」

だが、弾かれた兵士の腕は、そのままベクトルを真横へ伸ばしてヴォルクさんを囲む様に回り、身体を一周、途端に収縮して縛り付ける。

「止めたぞ、やれ」

「取った! 〖無形の剣閃〗!」

三人目が離れた位置から剣を振るう。

剣の形が崩れて、兵士と同様の、透き通った緑色へと変わる。

そのまま剣の刃が伸び、間合いが急激に増した。ヴォルクさんの心臓目指して直進する。

介入する余地もない、一瞬の出来事だった。

異貌の兵は、尋常ではないコンビネーションで、強引に相手の隙を作り、不可避の攻撃を繰り出した。

これだけできれば、どんな相手にだって通用する。

一流の冒険者パーティーでも容易にできることではない。

「……あ?」

次の瞬間、ヴォルクさんを縛っていた兵の腕が、ヴォルクさんの力で強引に広げられ、解除されていた。

そのままま片手で剣を持ち、自身を縛っていた兵の腕を勢いよく振るう。

勢いに釣られ、兵の身体が豪速で宙を舞った。

「おごっ!」

「はぁぁぁっ!」

ヴォルクさんが片手で、二度大剣を振るう。

粘液の鞭越しに引き寄せられた兵士が、二太刀を浴びて宙で鎧が砕け、中身が爆散する。

「ガハァァァッ!?」

それだけでは留まらない。

大剣が描いた軌跡、二つの巨大な斬撃が、床を斬り進めて三人目の兵士へと向かう。

剣士の基本スキル、剣撃を起点とした〖衝撃波〗。

近接戦が主な剣士において、中距離間合いの攻撃を容易に可能にするこのスキルの有無は、剣術の広がりを大きく左右すると、メルティアさんも言っていた。

ただ本来、発動に僅かな準備を要すはずだが、そのタイムラグを一切感じなかった。

おまけに明らかに〖衝撃波〗が大きすぎる。

あれでは最早、魔術師の高位黒魔法をも超える。

身体能力の代わりに、魔力消耗の激しい中距離・遠距離の高威力魔術で戦う黒魔術師の存在を否定しかねない、完成された剣士の一撃だった。

「えっ」

伸びた刃との衝突と同時に〖衝撃波〗が爆ぜた。

伸びた剣の刃ごと、異貌の兵士が斬撃に沈む。砕けた鎧と緑の飛沫を残して、兵士の姿が消えた。

「雑魚では相手にならんぞ。王女を連れて来ることだな」

一瞬で二体の異貌の兵が、ヴォルクさんの前に敗れた。

兵士達の動きが止まる。動揺が広がっていた。

「に、人間如きが、こんな……!」

「さ、三騎士様を早く呼べ!」

噂では、少しだけ耳にしたことがあった。

クリス王女の宴に参加した冒険者が消える。

王女が、魔物と入れ替わっている、と。

だが、誰も心の底からは信じていない、不思議な行動を繰り返す変わり者の王女への、侮蔑の様なものだと思っていた。

ただ、この様を見たら、誰でもわかる。

「逃げるぞ、ミリア!」

メルティアさんが武器を構えて走る。

私も頷き、後へと続く。

「逃がすわけがあるまい」

異貌の剣士の一人が、メルティアさんの前へと姿を現す。

「〖ルナ・ルーチェン〗!」

メルティアさんが天井へと剣を翳す。

光の球が剣先に宿り、前を遮る兵士の兜へと直撃する。

「ぬぐっ!」

「隙ありだ!」

メルティアさんが跳び上がり、兵士の肩に足を掛け、体重をかけ、両手で握る剣で、首下の鎧の関節部より、胸部を貫く。

「よ、よし!」

「馬鹿だな。ダメージを抑えられるから鎧は本物だが……俺達には脆い他の人間共や魔物と違い、弱点の部位などない。おまけに、点の刺突なんて効くわけがないだろ?」

異貌の兵士の腕が、メルティアさんの剣の刃を掴み、素手で振るって引き抜くと同時に、メルティアさんの手から奪い、遠くへと放り投げた。

「ぐっ……」

「〖ウーズ・ウィップ〗」

宙へ浮いたメルティアさんの身体を、素早く伸びた異貌の兵士の腕が叩きのめす。

メルティアさんの身体が宙で叩きつけられ、くの字に身体が折れる。

「がはっ!」

「メルティアさん! くっ、〖クレイシールド〗!」

メルティアさんの前に土の盾が浮かび、宙に固定される。

クレイ系統の魔法の中でも、盾を作ることに特化した魔法。

対衝撃性能に優れていて、受けた威力を分散する効果がある。

稀少性が高く、実力が上の魔物へ集団へ挑む際の戦いで真価を発揮する魔法で有用性も高いと、冒険者ギルドで褒められたことがある。

ただ、続けて振るわれた触手の様な腕は、容易く一撃で〖クレイシールド〗を叩き割り、続く二撃目で再びメルティアさんをはね上げ、彼女の鎧を粉砕した。

「無駄だぁ! 竜狩りが少し善戦したからと、いい気になるなよ?」