軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

379.対話と条件

俺は壁にめり込んだマギアタイト・ハートへと呼び掛ける。

おい、マギアタイト・ハートよ。

先に攻撃を仕掛けて来たことを含めて見逃してやってもいいが、ちっと訊きたいことがある。

お前は長生きだし、それなりに知性もあるんだろう?

この鉱山において、危険視すべき魔物について教えろ。

壁にめり込んでいたマギアタイト・ハートの核が引き抜かれ、ぼてっと地面に落ちる。

それからぐるりとマギアタイト塊の身体が俺を振り返った。

俺は逃がさない様に距離を詰め、前脚で叩き潰す姿勢を取る。

トレントさんも、二本の枝を腕の様に伸ばし、コキコキと音を鳴らしながらマギアタイト・ハートへと近づく。

どこでそんな動き覚えたんだ。

『今更逃ゲラレルトモ思ワヌ、降参ダ。ダガ、双頭竜ヨ、貴様モ早クココヲ離レルコトダナ』

マギアタイト・ハートが、俺の思念へとそう返す。

おん?

なんだ? 何か、この先にあんのか?

『地底ノ竜ガ、蘇ッタノダ。コノ余ヲ退ケタ実力ハ認メルガ、主ラトテ無事デハ済ムマイ……』

……退けたもクソも、お前が逃げるために金属塊ぶつけて横を駆け抜けようとしただけだろ。

その無駄に尊大な態度と謎の自信はどこから湧いて来るんだ。

とりあえず、必要以上の敵対心は感じない。

やはり、俺からダッシュで逃げるつもりで先制攻撃を仕掛けて来ただけだったようだ。

『余ハ、コノ鉱山ノ魔物ノ調停者トシテ、不要な殺戮を繰り返す地底ノ竜ヲ止メニ来タノダ。ダガ、奴ハ……余ノ言葉ニ、聞ク耳ナド持タナカッタ』

……信じる信じないは別として、話を聞く限りは、結構いい奴っぽいな。

美味そうな外見じゃなくてよかった。問答無用で相方の餌になるところだったぞ。

『地底ノ竜ハ、ソレドコロカ、コノ余ヲ喰ラオウトシタタメ逃ゲテキタノダ……』

それだけは絶対にない。

単に、近くにいたから暴力の対象となっただけだろう。

『オマケニ……冒険者ガ、キテオル。ココ最近ハ、ニンゲンヲ見ルコトモ減ッテイタノダガ……恐ラク、奴ノ目的ハ先述ノ竜デアロウ。地底ノ竜ヲ単独デ狩ロウナド、タダモノデハナイ。英雄ノ範疇ヲ超エテ、勇者ノ領域ニマデ達シテオル』

ゆ、勇者相応……?

勇者に並ぶのは聖女くらいだと思うが、リリクシーラが先行して、俺の目的地で待ち伏せする意図がわからない。

それに、リリクシーラが王都に到着するまでには、まだ時間が掛かるはずだ。

地底の竜を狩りに来たらしいし、別人か?

『半裸ノ、銀ノ髪ヲ持ツ大男デアッタ。コノ余ガ、ニンゲン如キニ逃ゲルコトニナルトハ思ワンカッタ。恐ロシイ圧迫感ヲ放ッテオッタ……』

そう言い、マギアタイト・ハートは器用に核だけを振動させる。

勇者じゃ、ねぇよな……。

奴は俺が殺した。それに、外見も全く異なる。

奇しくも俺と同名だったあの外道野郎は、金髪女顔の、細身の男だった。

しかし、相方が人間の気配を感じたと言っていたが……そうか、その正体が、その銀髪か。

にしても、B-ランクのマギアタイト・ハートが恐怖する人間など、神聖スキル持ち以外に本当にあり得るのだろうか。

B-ランクを圧倒する人間となると、アドフやアザレアを遥かに超えている。

勇者か聖女なら、Aランクモンスター相手でもどうとでもできるだろうが……。

『モウイイカ?』

そろそろとマギアタイト・ハートが動くのを、ナイトメアが素早く立ち塞がる。

よくやった、ナイスだ。

珍しく理知的な先住民だ。

マギアタイト・ハートには悪いが、まだまだこっちには用がある。

『ナナ、ナンダ? ヤハリ、余ヲ喰ラウ……』

他に、ヤベェ魔物はいねぇのか?

その、地底の竜とデケー冒険者以外によ。

『……ヤバイ魔物カ。魔鉱蟻アダマンアントヲ滅ボシタ、魔金属ノ巨人・ゴルドギガントゴーレムガオッタガ……』

な、なんだその魔物!?

見てみねぇとわからねぇが、滅茶苦茶強そうじゃねぇか。

『余ガ、アイツト……イヤ、余ガ討伐シタタメ、今ハオラン。地底ノ竜ヲ除ケバ、余ガココ一帯デ一番強イデアロウ。主ラガ畏レルヨウナ魔物ハオラン』

……この爺臭い金属塊が、アルバン鉱山最強なのか……。

ま、まぁ、そうか。B-ランクもあれば、人間相手には充分無双できる強さだ。

王都近くであるアルバン鉱山に、そんなBランクがゴロゴロしてるわけねぇか。

魔境の森扱いされてたリトヴェアル族でも、B+ランクのマザーがぶっちぎりで最強だったわけだし……。

……それより、何か言い掛けてたが、アイツってなんだ?

『……ム? イ、イヤ、余ノ弟子ダ。モウコノ地ニハオラヌ』

どういうことだ?

死んだのか、どっか他所に行ったのか……?

『……知ラヌ。知ラヌシ、知リタクモナイ』

どうにも様子がおかしい。

……なんだ、喧嘩別れでもしたのだろうか?

まぁ、もう去った魔物だというのなら、わざわざ掘り下げて訊く理由もねぇか。

嘘が得意なタイプにも見えねぇ。

『デハ、余ハ、コノ辺リデ……』

そろりそろりと、マギアタイト・ハートが動く。

トレントが、マギアタイト・ハートの行く手を遮った。

マギアタイト・ハートの液体化した金属表面に小さな窪みが生じ、そこから紫の煙が直線的に放たれた。

煙を受けたトレントが、幹を横倒しにして根をもがかせた。

スキル〖毒毒〗だ。

俺は手を広げ、マギアタイト・ハートを押さえつけた。

テッ、テメェ! ウチの歩く観葉植物枠であるトレントさんになんてことをしやがる!

相方ァ! こいつ、喰っていいぞ!

『ス、スマヌ! スマヌ! 何故カ強イ苛立チト、抑エガタイ衝動ニ駆ラレタノダ! 威力ハ抑エタ!』

ナイトメアが回り込んだときはビビってたクセに、相手がトレントさんと見るに途端に強気に出やがって!

俺は警戒しつつも、前足をゆっくりと浮かす。

相方がトレントに〖ハイレスト〗を掛けてくれた。

トレントが、ゆっくりと起き上がる。

さて、トレントさんは遮ってくれたが、マギアタイト・ハートにもう特に用はない。

無害そうだし、ここらで解放してやってもいいか……いや、待てよ。

おい、マギアタイト・ハートよ。

少し交渉と行かねぇか?

『ナニ?』

俺が、その冒険者とやらを追い出して、地底の竜とやらも討伐してやる。

『ソレハ願ッテモナイガ……』

だが、その代わりに、俺が出かけている間、トレントさんを守ってくれないか?

『ナヌ?』

ああ、地底の竜さえいなければ、お前はここの魔物の仲介役で、トップクラスに強いんだろ?

お前が見ててくれるなら安心できる。

トレントだけここに残すのは、やっぱり不安が残るからな。

『アノ、トレントカ……マァ、ソレハ構ワヌ。利点ト恩ガアレバ、ソチラガ余ヲ襲ウ利モナクナルノデ安心デキル』

さすが〖鋼の賢人〗だ。

話がわかるじゃねぇか。

じゃあ、早速奥に乗り込ませてもらうぜ。

先へと進む、俺とアロ達の背を眺めながら、マギア・タイトハートが思念を零す。

『ダガ、コノ地アルバンニ、ソウマデシテ居着ク価値ハナイカモシレヌゾ……』

呟きに振り返るが、マギアタイト・ハートは、寂しげに露出させた核を俺へと向けているだけで、何も語らない。

どこか悲壮気な様子があった。

……ひょっとしてアイツ、王都で今起こっていることを、なんか知ってやがるのか?

しかし、あの様子を見るに、今は話してくれそうにない。

脅して訊くのも手だが、なるべくはよき協力関係でありたい。

トレントさんの受け渡しでしばしば接触の機会があるならば、また自然に聞き出す機会もあるはずだ。

俺はひとまず、地底の竜に会うべく、地下へと進むことにした。