軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

368.使役霊獣

「まずは私の、切り札を明かしておきましょう。私の頼みの綱の〖スピリット・サーヴァント〗は、称号スキル〖聖女:Lv5〗で身に着けることができる魔法です。一度、私のスキルを調べてみてください」

どうやら称号スキル〖勇者〗と同様に、〖聖女〗もスキルLvの上昇に従って覚えることのできるスキル、というものがあるそうだ。

俺はリリクシーラに言われた通り、〖スピリット・サーヴァント〗について神の声へと問いかけてみる。

すぐに見慣れたメッセージウィンドウが頭の中に浮かび上がった。

【通常スキル〖スピリット・サーヴァント〗】

【契約した魔物の魂を縛り、〖スピリット〗状態で使役することができる。】

続けて、〖スピリット〗とやらにも意識を向ける。

【状態異常〖スピリット〗】

【霊体化状態になる。経験値を得ることができなくなる。】

霊体化……ねぇ。

あっちの乗ってきた、聖竜セラピムさんがその使役霊獣ってわけか。

Aランクモンスターを好きなタイミングで出せるなら、便利ってなもんじゃねぇ。

制限がないとすれば、かなり凶悪なスキルだな。

「セラピムは、我が聖国の聖竜像に魂が封印されていました。石板によれば、次代の聖女が現れたときに〖スピリット・サーヴァント〗で使役できるよう、前の時代の方が準備していたそうです」

そしてそれに従い、リリクシーラが聖竜像から魂を取り出したのか。

……セラピムが好きなときに出せるから、実質、リリクシーラの戦力はAランク二体分ってことになるな。

とんでもねぇ。

いや、リリクシーラの称号スキルには、もう一個気になるものがあった。

〖聖竜に見込まれし者〗に並んで、〖魔獣王を従えし者〗がある。

もしかしたら、こっちも……。

「大体察しは付いているようですね。そうです、私が〖スピリット・サーヴァント〗で使役できるのは、聖竜セラピムだけではありません。〖スピリット・サーヴァント〗のレベルが最大になったとき、二体の霊獣を同時に使役できるようになりました。以前、私が聖騎士団の方々と共同で討伐した、凶悪な魔物、魔獣王ベルゼバブの魂も縛り付けています。とはいえこちらは扱いが難しく、本音で言えば極力使用したくないところではありますが」

リリクシーラ一人で、実質Aランク、三体分の戦力じゃねぇか……。

いや、話が本当ならば、その魔物はリリクシーラがセラピムと聖騎士団の力を借りて、ようやく倒した相手だ。

下手したら、リリクシーラ本体よりも強力な可能性もある。

俺の脳裏に、エルディア三体が仲良く並んでいる図が浮かんだ。

ぜ、絶対敵対できないぞ、これ。

対等な交渉に来たのかと思っていたが、ここまで戦力差があったら、実質ほとんど脅迫じゃねぇのか。

本当にアーデジア王国がそこまで窮地ならば、俺としては命を賭しても協力したいところではある。

アーデジアにはニーナと玉兎を残している。

それにアドフの話を聞くに、それなりの規模と影響力を持つ大国であるはずだ。

そこを魔物の王が占拠し、力を付けているとなると……今後、この世界全体を捲き込む争いになるであろうことは、容易に想像がつく。

それに味方側であるはずのリリクシーラは、強ければ強いほど、安心できる。

だがそれは、リリクシーラが信頼のおける人物ならば、と仮定した場合の話である。

〖神の声〗も悪称号も、全部レベルMAXのリリクシーラは、無条件に信用できる相手ではない。

アロ達のこともある。

おいていくのか、連れていくのか。

危険が付きまとうことは間違いないので俺単騎で出向きたいところだが、アロとナイトメアはそれを良しとはしないだろう。

リリクシーラは、戦力を素直に開示してくれたことは信用に値する。

深読みすれば脅しを掛けて俺に交渉を蹴り辛くさせている、とも取られる。

だが、二体目のスピリットは、あまりにも貴重なカードである。

真に俺と協力関係になろうというつもりがなければ、伏せておいた方が遥かに便利な切り札だ。

……因みに、聖女さんよ。

その、ベルゼバブとやらで、魔王を襲撃することはできねぇのか?

俺が念じて尋ねれば、リリクシーラはやや顔を俯かせ、ゆっくりと首を振った。

「聖竜セラピムは無論のこと……魔獣王ベルゼバブを私が討伐したということも、有名なことです。もし動かせば、私が嗾けたことは、すぐにわかるでしょう。どちらかを開放し、適当な魔物の魂を回収することも不可能ではありませんが、魔王は最低でもBランクの上位……襲撃への対策もあるはずです。下手な様子見は、相手の警戒を促すだけでしょう」

Bランク上位……そんくらいだったらいいんだが、Aは超えてるだろうな。

リリクシーラが伝えたかったのは、ここの部分の事か。

誤解があってはいけないから、手札を公開しておきたいとは、リリクシーラも最初に口にしていたことだ。

手数は多いが、現状彼女が動かせる駒はない。

「では、私の話はこれくらいにしておきましょう。次に……」

ちょっと待ってくれ。

その前に……俺は、リリクシーラの、神の声に対する認識を聞いておきたい。

俺が一番気にしているのは、言っちゃ悪いがその部分だ。

「…………」

リリクシーラは、僅かに逡巡する。

ここまで淀みなく喋っていた彼女にしては、意外な反応だった。

少し考える素振りを見せた後、ほう、と息を吐く。

「……我がリーアルム聖国では、かつて邪神を封印した六大賢者の内、四人がそれぞれ二組に分かれ、人間側と魔物側に助言を出しているのだと、そう教えられています。その各々の大賢者の力を引き継いだ存在が、私である聖女……勇者、魔獣王、魔王です。我が聖国の言うところの聖神様は、私についた大賢者の意思であると、そう定義されております」

エルディアの言っていたことと概ね一致する。

魔獣王、というのはベルゼバブのことだろう。

だが、それは事実ではないはずだ。ただの伝承に過ぎない。

リリクシーラは、勇者や魔獣王と接触したことがある。

俺でさえ感じている神の声の違和感に気付いていないはずがない。

だからリリクシーラも、他人事の様に語っているのだろう。

「ですが、それは誤りです。私の立場上、聖典の内容を表立って否定できませんが……神話がどうであれ、聖神様は一人です。私とてすべてを紐解いているわけではありません。ただわかっていることは、聖神様は、我々に時代の行く末をある程度委ねている、ということです」

ど、どういうことだよ。

急にんなことを言われても、まったくわけがわからねぇぞ。

「……やはり、イルシア様は、聖神様からは何もお聞きではないのですね。狙ってやったのではないかと懸念していたのですが、やはり〖人間道〗を取り込むことができたのは偶然……いえ、アナタの、天分だったのですね」

どこか呆れたようにリリクシーラは言う。

「我が国の地下聖堂の最奥部にて、聖神様の重大な秘密が示されております。アーデジアの偽王女の問題が片付きましたら、一度お招きいたしましょう。アナタには、知る権利があるべきです。元より、見返りの一つが、地下聖堂への招待のつもりでした。アナタが今まで思い悩んでいた答えの多くが、そこにあるはずです」

……〖神の声〗に関する、何らかの秘匿された事実がそこにはあるらしい。

とはいっても、俺はそこまで、その真相とやらに固執するつもりはないのだが。

「そして二つ目の見返りが、私の名の許の、アナタの身の保証です。問題なく魔王を討伐することができれば、王城への襲撃も許容され、アナタは世界の英雄となります。私はその事実を、周囲に捻じ曲げられない様に守ることができます。アナタの今までの話を聞けば、わかりますよ。その巨躯と恐ろしい力故に、多くの誤解に晒されてきたことでしょう」

びくり、俺は肩を動かした。

俺の仕草を、リリクシーラの目がじっと追っていた。