軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

352.浜辺の凶鳥

バジリスクのローストチキンを堪能した俺は、その後はゆっくりと休み、翌日にまた探索活動を再開した。

アロ、ナイトメア、トレントを引き連れて巨大樹の巣を降りて、森を歩く。

今日の目的は、俺の中でピペリスを超えたクセのある香辛料アドミラブ・マンドゴラの採取……そして、アロ達のレベル上げである。

アロ達のレベルは進化したてなので今は低い。

俺が援護して手伝えば、すぐに最大の三分の一くらいまでは上がるはずだ。

そうなったら……ようやく、大樹の下の、アダムの蔓延る巨大遺跡へと乗り込むことができる。

適度な魔物は見当たらなかったが、マンドゴラが埋まってねぇかと首をキョロキョロと回しながら周囲を観察する。

やがて森を抜け、浜辺へと出た。

ぐっと首を伸ばし、一面を見渡した。

綺麗な海原であるが、遠くには世界の淵が見える。

……ちっと不安にはなるが、まぁ悪い景色じゃあねぇな。

ただ、この辺りよりは、森の中の方が魔物がまだ多そうだ。

引き返そうか……と考えていると、三羽の人頭鳥、セイレーンが浜辺で何かに集っているのが見えた。

セイレーンの頭部……彫りの深い女の顔の目が、ギョロリと俺を睨んだ。長い髪は、地面にだらりと付いている。

口許からはダラダラと血が垂れ流しになっている。

相変わらず生理的嫌悪感を抱かせる容貌である。

ヤ、ヤベェ奴らだ。

見かけもそうだが、奴らは、あんな小さい身なりで一体一体がBランク……。

さっさと引き返さねば……と思っていたのだが、セイレーンに集られている何かに、肌色が見えた。

ふと、俺の脳裏に神の声のセイレーンの説明文が過った。

【〖セイレーン〗:Bランクモンスター】

【人間の女の頭部と、鳥の身体を持つモンスター。】

【〖セイレーン〗の歌声は、他の生物達を緩やかに死へと誘う。】

【陸近くの海によく生息しており、人肉を好んで喰らう。】

【船乗り達を歌声で魅了して呪い殺し、死体の肉を啄ばむ。】

【もしも浜辺で積み上げられた人骨の山を見つけたのならば、そこは〖セイレーン〗の狩り場である。】

――セイレーンは、人肉を、好んで喰らう。

そこで気が付いた。

セイレーンが引き摺り倒して海へと沈めようとしているのは、人間だ。

集られている人間は、ぐったりとしており、抵抗する様子を見せない。

もう、もう、死んでいるのかもしれない。

なぜここに人間が、と疑う猶予もなく、俺は素早く〖鎌鼬〗をセイレーン目掛けて放った。

とはいえ、あまり近すぎれば人間に当たるかもしれないので、やや外す位置へと狙いを付けた。

これで驚いて逃げてくれれば儲けものだが……そういうわけには、いかねぇだろうな。

三体のセイレーンの無表情が、一斉に恐ろしい、醜悪な怒りの顔へと変わる。

「グォオオオオオオッ!」

掛かってきやがれ化け物共! 全員まとめて相手してやらぁっ!

俺はセイレーンの関心を俺へと引きつけるために吠える。

『オ、オイ相方……』

相方が不満と不安の入り混じった顔を俺へと向ける。

わかってる。

お前の言いたいことはわかる。

だが、それでも、俺にはやっぱり見過ごせねぇ。

こうなった今でも、やっぱり俺の性根は人間だ。

それに……冷徹に考えても、悪くはねぇ選択肢なはずだ。

ここに人間がいるっていうことの意味は大きい。

俺は、それをはっきりとさせておきたい。もしかしたら、思いも寄らぬ真実が明らかになるかもしれねぇ。

『イヤ、ダガ……』

ああ、セイレーンは危険だ。

あんな小さいなりでB級相応……おまけに、三体もいやがる。

だが、されどB級だ。俺の本気の一撃をまともに受ければ、ほとんど動けなくなるはずだ。

それにこいつらぶっ飛ばせば、ヘルプで入ったアロたちのレベルも急激に上がる。

むしろ今持って来いの相手じゃねぇか。一体一体狩ってたらなかなかレベル上がんねぇからな。

向こうの攻撃はアロ達には危険だが、アロは状態異常が効かないし、俺も魔法力が高いから最悪の状態は避けられるはずだ。

崩れても建て直せる。

俺が近接攻撃兼盾役として立ち回る。

「アーハハハハハァァ!」

「アハ、アハハハハアッ!」

「ヒハ、アハハハハハハハハッ!」

セイレーン達は低空飛行しながら、三方向に分かれて俺を囲む様に突っ込んでくる。

やや甲高いが、その声は人間のものに近い。歌が得意なだけあって、透き通った綺麗な声であった。

掛かってきやがれ!

所詮Bランクモンスター……Aランクの俺を相手にどう戦うつもりか、見せてもらおうじゃねぇか!

ランク差の壁は厚いぞ! Aランクの意地を見せてやらぁ!

『オイ、アレ見ロ』

なんだ、さっきから?

相方が顎で示す先へと目を向ける。

セイレーンが飛び立った、集られていた人間が倒れている。

すでに血まみれで……何より、首から上がない。

やはり、遅かったか……そう考えた刹那、首から上に血が出ていないことに気が付いた。

あ……? あっ……!

波に押され、人の死体がごろんと回る。

腹に、ダンディな顔があった。恐らく死んでいるであろうはずなのに、生前と一切変わらぬ表情を浮かべているそれは、完全にアダムであった。

お、お前っ! Aランクの意地見せろよ!

昨日は別個体がバジリスクに石にされてたぞ。そんで今日はセイレーンの餌か!?

なんだ、実はあいつらそんなに強くねぇのか!?

手、手出すんじゃなかった!

ほっときゃよかった!

つーかあいつら人間が好物なんだろ? 似たようなバケモンで代用してんじゃねぇよ!

今から逃げ出すには、トレントさんが重すぎる。

今となっては不本意だが、迎え撃つしかない。

追いつかれるのが見えている以上、背中を晒すわけにはいかねぇ。

クソッ! 人だと思って焦っちまった!

俺が横目で相方を見ると、相方は無表情で口を開け、俺へと牙を晒していた。

わ、悪い……本当に悪い。