軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

319.決着

「ウォオオオオオオォオッ!」

半竜の化け物アザレアは、俺の前へと躍り出てきた。

腕と視線で牽制しながら、確実に俺の急所を突こうとしているようだった。

俺が反応して身体を振るわせれば、即座に身を屈めて首の下を狙って爪を振ってきた。

さして早い動きだったわけではない。

おまけに、威力だけを重視した、全体重を乗せた不格好なモーションの大振りだ。

だが、俺は避けきれなかった。

足が潰れ、魔力も薄く、意識が朦朧としていた。

立っているのがやっとだった。

鱗と皮が焼き切られて剥き出しになった胸部へと、深々と爪を突き立てられる羽目になった。

抉り出された血肉が舞い、鋭い痛みが走る。

「グォオッ!」「ガァァッ!」

俺と相方は、同時にアザレアへと首を伸ばして牙を向けた。

奴は最初からこちらの動きを読んでいたように距離を取り、爪を構え直す。

敵ももうMPはねぇはずだ。

それにアザレアのステータスを見るに、〖竜化の術〗のデメリットなのか、体力も大幅に下がり続けている。

竜が人になるよりも、人が竜になる方が負担が大きいようだ。

なのになぜああも平然と立ち回れるのか。

身体が重い。

このまま引き延ばしていれば自動回復の効果で今よりはマシになりそうだが、敵がそれを許してくれそうにねぇ。

元より、敵も竜化状態の維持に限界が来ているはずだ。

一層激しく攻撃を仕掛けてくるだろう。

まさか、部下とリトヴェアル族の子供共々俺を洞窟の下敷きにしようとしてきやがるとは思わなかった。

筋金入りのクソヤロウだ。かなり徹底してやがる。

土砂の中で自動回復をしようとして、そのせいで重い追撃をもらう羽目になったのも痛かった。

あれさえなければまだ余裕があった。

とっとと外に出てぶっ潰すべきだった。

ウロボロスになってからさして命の危機を感じたことがなかったため、久々に窮地に追い込まれたことで必要以上に臆病になり、無意識に安易な安全策を優先しちまったのかもしれねぇ。

確実な勝利を狙ったのが裏目に出ちまった。

勘も戦闘経験も、完全に相手の方が格上だ。

アザレアが再び俺へと飛び掛かってくるために爪を構えて、膝を曲げる。

「ウゥ、ウゥウウ……」

が、MP不足がたたってか、アザレアはそのまま膝を突いた。

向こうのMP切れが先だったかとほっとしたのも束の間、目に再び執念の光を宿し、ガクガクと震える膝を伸ばして持ち直しやがった。

「ウォオオォオオオオオオオッッ!」

そのまま己を鼓舞するかのように吠える。

とんでもねぇ精神力だ。

だが、それもここまでのはずだ。

次を凌げば、今度こそ奴のMP切れになる。

アザレアが俺の前に躍り出て、右腕を大きく振るう。

俺は身体を引き摺るように後退した。

アザレアが開いた間合いの分、腕を伸ばして補おうとする。

時間の余裕がなく、焦ったのだろう。あまりにも安直な動きだった。

「ガァァァァァァツ!」

相方がアザレアの右腕に喰らいついた。

そのまま深追いして肩にまで漕ぎつけ、首を勢いよく横に振った。

アザレアの右肩から先が引き千切れた。途中で相方が牙を緩め、腕を遠くへと投げ捨てる。

勝敗は決した――そう俺が安堵した瞬間には、アザレアはそのまま身を屈めて、俺の顎の下へと左の肩を突き出していた。

今のが決定打となると思っていた俺は、完全に不意を突かれた形になった。

これ以上はヤベェ。

MPを絞り出すように〖自己再生〗を試みながら、身体中の力を振り絞って前足を出鱈目に薙ぎ払った。

アザレアの方が早いはずだった。

だがアザレアは振り上げかけた左の腕を途中で降ろした。

俺から目を放し、呆然としたように自らの左の腕を凝視していた。

一瞬のことだったが、その様子が妙に印象深かった。

それから急速にアザレアの身体が縮んでいった。

MP切れだったのかもしれねぇ。そのまま振り抜いて身体をぶち抜こうとしたとき、アザレアの顔がふっと笑ったような気がした。

「生き辛い道を選んだな、化け物。私はたった一人理解者がいれば、それで満足だったというのに」

前足がアザレアの身体をぶち抜いた。

身体が上下に裂けた。やや距離を置いたところに、上半身がどさりと落ちた。

【経験値を784得ました。】

【称号スキル〖歩く卵:Lv--〗により、更に経験値を784得ました。】

【〖ウロボロス〗のLvが91から92へと上がりました。】

俺はどさりとその場に伏せた。

少し……HPとMPを、回復させておきたい。

できれば、怪我をした足やら胸も……翼は、後回しになりそうだが。

ふと、アザレアの上半身と目が合った。

そのまま数秒間じっと俺は固まっていた。

アザレアの最期の、俺を見透かしたような言葉が引っかかっていたのだ。

あいつは通常といい特性といい、珍しいスキルをあれこれと抱えていた。

ひょっとしたら、あいつも化け物として扱われていたことがあったのかもしれねぇ。

『……ドシタ?』

相方が思念で呼び掛けてくる。

いや、なんでもねぇよ。

俺はそう返すと、アザレアから目線を外した。

後は畏れ神に余計なことしかしねぇトールマンをとっ捕まえることか。

こっちもちんたらはしていられねぇ。なにせトールマンがどこにいるのかも見当がつかねぇ。

やっぱし〖自己再生〗でまずは翼を戻すべきなんじゃねぇのか……ん?

周囲を何となく見回していると、遠くの方に大きな煙が上がっているのが見えた。

もちろん森の範囲内である。

な、なんで……まさか、トールマンか?

嫌がらせで火でもつけていきやがったのか? それとも、火と奴らの目的に何か関りでもあったとでもいうのか?

理由はわからねぇが、こうなっちまったら手段は選んでいられねぇ。

チンタラしてたら取り返しの使ねぇことになっちまう。

俺は自動回復したMPを用いて〖自己再生〗で身体の部分部分を修復した後、崩壊した元洞窟の上へと戻り、人質にされていた子供達の縄を爪で断って解放し、俺の身体へと移動させた。

子供達は泣きじゃくりながら俺の首元へと抱き着いていた。

よほど不安だったのだろう。

それからちらりと、倒れているフェリス・ヒューマの剣士、ネルへと目をやった。

洞窟が倒壊したとき、動けない子供を庇って落下してきた岩を身体に受けたのが元で、今は昏睡状態になっている。

一応軽く応急処置程度に〖ハイレスト〗は使ってあるが、まだ意識が戻ってはいない。

「竜神様……その人……その、殺してしまうんですか?」

子供の一人が、躊躇いがちに俺へと尋ねてきた。

俺は静かに首を振った。

洞窟が崩れたとき、真っ先に子供の許へと戻った奴だ。

これ以上、リトヴェアル族に危害を加えることはねぇだろう。

倒壊した洞窟から脱した後、子供達を降ろした。

俺は集落の方へと首を向けてから、森から上がる不穏な煙へと目をやった。

子供達は不安そうにびくびくとしていたが、煙を見てただごとではないと理解したようで、こくこくと首を縦に振った。

本当は集落まで連れて行ってやりてぇところだが、今は時間の余裕がねぇ。

俺はすぅっと息を吸い込みながら下腹部に魔力を溜め、集落の方を向いて「グゥオオオオオオオオッ!」と咆哮を上げた。

森遠くまで咆哮が響き渡った。

これで事態に気が付いたリトヴェアル族かアロ辺りが助けに来てくれることだろう。

魔物も俺の声を聞けば、寄りついては来なくなるはずだ。

それから俺は子供達から距離を取り、尾で地面を弾いて転がった。

木を薙ぎ倒していくことになるが……仕方ねぇ。森が燃えちまうよりはよっぽどマシだ。

これならばさして身体の回復を待つ必要もねぇ。足がボロボロでだって、〖転がる〗だけならば問題ない。

向こうに到着する頃には、自動回復の効果で身体もいくらかはマシになっているはずだ。

時折尾で地面を弾いて、スピードを加速させた。

通り道の木が綺麗に倒れていく。見返せば、綺麗な一本の道が開いていることだろう。