軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

308.アロVSアザレア②(sideアザレア)

ハンズとジェイドの二人が左右に別れ、小柄な影へ回り込むように接近していく。

私もそれに続き、剣を構えながら影へと向かった。

恐らく……この霧の中には、隠された蜘蛛の糸と蜘蛛の魔物が配置されている。

先行したハンズとジェイドには伏兵をある程度暴いてもらい、アンデッドの気を引きつけさせる。

その隙に乗じて、本体は私が一気に仕留める。

アンデッドは生命力が高い傾向にあるが、仕留め損ねるつもりはない。

小柄な影に、動きはほとんど見られない。

距離がある間にまた魔法を使ってくるはずだと考えていたが……魔力切れだろうか。

あまり楽観はできないが、この規模の霧を維持するだけでもそれなりに魔力を要しているはずだ。

視界を悪くして近接戦闘に掛けているつもりなのかもしれない。

がさりと、ハンズの足許から音が鳴った。

「でっ、出たなぁっ!」

ハンズが足を止め、剣を振るう。

地面から這い出た三つの影がハンズを囲む。

恐らく、蜘蛛だろう。

ハンズが糸に搦め取られたのか、動きが鈍くなる。

「くそっ! くそぉっ! アザレア様ッ、アザレア様ー!」

伏兵は、あちらに作動したらしい。

焦って飛び出すとは、失敗したな。

アンデッドは多少頭が回るようではあったが、魔物を使っての罠では、細かいことには対応できまい。

冷静に動けば、充分その効力を貶めることができる。

これで本体の守りが少しは削がれたはずだ。

「おらぁっ!」

ジェイドの剣が、アンデッドの大きな片腕に防がれる。

その瞬間に、一気に速度を全速力に引き上げた。

この程度の距離ならば、一瞬で埋められる。

二人を先行させてアンデッドの不意を確実につくために、敢えて大幅に速度を落として走っていたのだ。

アンデッドへの距離を充分に縮めることに成功。

剣の間合いのすぐ外側まで入り込むことができた。

アンデッドは片腕でジェイドの剣を防いだ姿勢のまま、顔だけを私の方へと向けていた。

霧のため、表情は確認できない。

ただ茫然と私の方を見ており、私の身のこなしを想定していなかったのは明らかであった。

斜め後ろに、蜘蛛がこちらへ糸を吐こうと構えているのが見えた。

「邪魔だ」

振りかぶるために引いた剣で後方の地面を叩き付け、そのまま地面に当てがいながら円を描くように剣を持つ手を前へと伸ばす。

巻き上がった土煙が、後方にいた蜘蛛の目を潰した。

剣を伸ばしたとき、アンデッドはジェイドを跳ね除けて、分厚い土の腕をガードに回していた。

私はそのままその土の腕を剣で斬りつける。

土の腕はへし折れて爆ぜ、宙を舞った。

そのまま私は、無防備に空いた胸部を打ち砕いた。

ジェイドの剣と同様、私の剣も腕で防げると考えていたのだろう。

「ア、ア……」

アンデッドが呻き声を上げながら後退する。

だが、もう遅い。

魔法が得意だというのならば、出し惜しみなどせず距離を詰め切られる前にとっとと使ってしまえばよかったのに。

アンデッドが下がった分だけ私は前に進み、追撃に出る。

無論、一撃で引き下がるつもりはない。

このまま連撃で仕留める。

手始めにもう片方の腕を弾き飛ばし、完全なノーガードになった腹部、足、胸部へと連続して三連突きを放つ。

身体が抉れ、アンデッドの身体を構成している土が宙に舞う。

そのまま首へと向けて四発目を放ち、頭を飛ばした。

首のないアンデッドの身体が、その場へと倒れた。

頭が私のすぐそばに落ちて来る。

辺りを覆う霧が少し薄くなったようだった。

霧を作り出していたアンデッドが力尽きたことで、その効力がなくなったのだろう。

「ふう……終わったか」

しかし、楽観は決してできない。

このようなアンデッドが他にもいるのならば、今後にも大きな妨害となるだろう。

霧の攪乱がまともに決まれば、それだけで大部隊一つが壊滅しかねない。

トールマン閣下が向かった先にアンデッドが待ち伏せしていなければいいのだが……。

「さすがアザレア様! 分厚い土の腕を、あんな簡単に……」

「はぁ……はぁ……蜘蛛は追っ払えたみたいですが、糸が足に絡まっちまいました」

ハンズとジェイドも、無事のようだ。

視線を下げて、斬り落としたアンデッドの首を確認する。

表情のない、アンデッド特有の虚ろな顔つきをしている。

先ほど遠くから見たときは普通の人間と大差ないように感じていたが、近くで見てみれば肌は粗く土に化粧を塗ったかのようで、人間というよりもゴーレムに近いように思える。

それが小さな少女の輪郭を取っているのだから、不気味で仕方がない。

「さっき遠くから見たときは、もっと人間に近い顔立ちをしていたと思ったんだが……。視界もよくはなかった。単なる勘違い……」

そこまで口にして、違和感を覚えた。

何か見落としている。

違う。これは、最初に目にしたアンデッドとは別物だ。

突如、倒れていたアンデッドの胴体部分が裂け、中から細い糸が発射された。

「ぐっ!」

至近距離であり不意を突かれたこともあり、避けられず剣で斬って遮った。

意識が糸に向いたのと同時に、足許の土が変形して腕を象り、私の足首を掴んだ。

更にもう一本の腕が重なるように現れ、束縛を強固にしていく。

「ア、アザレア様っ!」

ジェイドが駆け寄って来る。

アンデッドの身体から出てきた蜘蛛が、素早く逃げていくのが見えた。

「早く離れろっ! 罠だ!」

私が叫ぶのと同時に、少し離れたところで地面を割り、少女が姿を現した。

先ほど目にした土塊とは違い、陶器のようなつるりとした綺麗な肌をしている。

やはり、濃霧の中で自分の作り出したアンデッドと入れ替わっていたのだ。

本体はクレイを使って地中に隠れていたようだ。

わざとらしいほどに大きな片腕は、それを印象付けて細かい変化に注意を向けないための罠であったか。

アンデッドの少女は、腕に蜘蛛を抱えていた。

白面を付けた、真っ黒な蜘蛛である。

アンデッドの腕に光が灯る。

「〖マナドレイン〗か!」

なぜ魔力が尽きないのか疑問だったが……魔力の高い蜘蛛の魔物を近くに待機させ、好きなタイミングで〖マナドレイン〗で引き出していたようだ。

今魔力を溜め直したということは、間違いなく、来る。

「〖ゲール〗!」

竜巻が巻き起こり、地面に線を引きながら直進して来る。

今までの竜巻よりも勢いが凄まじい。決めに掛かってきているようだ。

「このっ……」

足に力を込めて一気に引き抜き、土の腕から脱出する。

新たに現れた土の腕を小さく跳ねて避け、剣戟を叩き込んで粉砕した。

避けきれない……それに、私のすぐ近くには、私を助けに駆け寄ってきたジェイドと、未だに蜘蛛の糸に身体を拘束されているハンズがいる。

もう一度、〖レジスト〗を使うしかない。

剣を持つ手を伸ばして竜巻へと向けたところで……脳裏に先ほど見た、大きな青いドラゴンの姿が映った。

ここを乗り切った後は、あのドラゴンを倒しきらなければならない。

魔力は使えない。

あれがウロボロスならば、恐ろしくタフなはずだ。

ここを凌げなければドラゴンと戦うこともできないが……そもそも、こんなところで魔力を使わせられているようであれば、到底あのドラゴンを仕留めることなどできはしないだろう。

「うぐっ……」

私は剣を下ろした。

「アッ、アザレア様ッ! なぜっ!」

ハンズが私を非難する声が聞こえてきた。

私は降ろした剣をそのまま地面に突き立て、身体を縮込めて顔を下に向ける。

竜巻が私の背を刻んでいく。

暴風に跳ね飛ばされそうになりながらも、腕と足に力を込めて抗った。