軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

291.毒のルート

ヒビが死んだ。

聞き間違えかと思ったが、どうやらそういうわけではなさそうだった。

リトヴェアル族達の話を聞くに、ヒビが外に怪しい気配を感じてお供を連れて様子を見に行き、その先で殺されたそうだった。

頭の中が真っ白になった。

俺は集落の端で、ただ茫然と立ち尽くし、リトヴェアル族達の話を聞いていた。

『オイ……相方……』

…………。

『ソノ……トニカク、コイツラ回復サセタ方ガイインジャネェノカ』

……あ、ああ、そうだな。

瀕死の人もいるし……現状はわからねぇけど、とにかく、それが先だな。

リトヴェアル族と竜神の橋渡し役のヒビが……その、いなくなって、リトヴェアル族達も不安がってるだろうし。

安心させる意味でも、早く治療を始めねぇとな。

相方、頼んでいいか?

『ア、アア……』

俺は先ほどステータスを確認した、特に体調の悪そうな男……ロジへと近づいた。

ロジは目を閉じ、息を荒くしている。壁に置いている手を見れば、苦しげに爪を立てていた。

傍で彼の知人らしい女がオロオロとしている。

ロジは俺が近付いたことに気が付くと目を開け、涙を流した。

「お、俺なんかが、りゅ、竜神様に身を案じてもらえるなんて……」

ロジは満足そうに言い、手の力を弱めた。ロジの身体が傾き、頬が壁に叩き付けられる。

そのままロジは力なく膝を折り、地面に倒れ込んだ。

傍にいた女は悲鳴を上げ、ロジの上体を抱き起す。

他のリトヴェアル族達も、彼を見て心配そうにどよめき、駆け寄ってくる。

「だ、だから休んでろって言ったのに!」

「身内がしっかり止めるもんだろう!」

「仕方ないだろ! ロジの奴、竜神様が来たって聞いたら……」

相方に目で合図をすると、相方は小さく頷いた。

「ガァッ」

相方が〖ハイレスト〗を使った。

優しげな光がロジを包む。

ロジの肌の色が、見る見るうちによくなっていく。

リトヴェアル族達は息を呑んで見守っていたが、ロジが弱々しく目を開くと「おおっ」と歓声が起こった。

「俺は……生きてる、のか?」

ロジが目を丸くしながら起き上がる。

「も、もう、完全に駄目だと思ったのに……」

「すげぇ、さすが竜神様の治癒魔法だ!」

リトヴェアル族達がやや湧き立つ。

暗かった雰囲気が、多少はマシになった。

……ありがとよ相方、あんまま放心してたら、手遅れになっちまってたかもしれねぇ。

とにかく今は、早く集落中を回んねぇと。

それにしても、普段は人命を軽視気味の相方から言い出してくれるとは珍しい。

リトヴェアル族の集落に来て関わる機会が増えて、相方の中でも何か変化があったのかもしれねぇ。

『……オマエガココマデショック受ケテンノガ珍シカッタカラナ』

ああ……気遣ってくれたようで、ありがとうよ。

一応ステータスを確認してみたところ、〖毒〗〖麻痺〗が、〖毒(小)〗〖麻痺〗になっていた。

もう一度〖ハイレスト〗を使ってもらってから確認すると、〖毒(小)〗〖麻痺(小)〗へと変化する。更に重ねて掛ければ、状態異常は完全に消え去った。

〖ハイレスト〗を使えば、麻痺や毒も多少は軽減できるようだ。

〖レスト〗系統は生命力を与えて自然治癒力を活性化させるものなので、当然と言えば当然なのかもしれないが。

大きな発見ではあるが、最大HP以上に回復させなければならないというのは、少々燃費が悪い。

特に今は、何人治療しなきゃなんねぇのかもさっぱりわからねぇ。

リトヴェアル族達から話も聞いておきたいが……〖人化の術〗を、使うべきか否か……。

多分、俺が人間になったら集落中大パニックになるだろう。

時間を掛ければ呑み込んではくれるだろうが、MPが大切な今、膨大なMPを捨てる〖人化の術〗はなるべくならば使いたくねぇ。

ヒビのことや……それから、この謎の状態異常のこと……気になることはいっぱいあるが、とにかくはこれ以上死者を出さねぇことが大切だ。

俺は集落を回り、相方に〖ハイレスト〗で回復を続けてもらった。

状態異常は後回しで、MPの節約のために最小限の魔力で〖ハイレスト〗を行い、全回復ではなく症状の緩和を優先することにした。

この集落は、全体で大体三百人程度……どうやらその半数以上が、謎の症状に苦しんでいるようだった。

残りの半数もステータスを見れば状態異常が入っており、HPも削られつつあった。

じきに〖ハイレスト〗が必要になることは明らかである。

おまけに一度状態異常を取り払った奴も、後で様子を見に戻ったら再度苦しんでいたりする。

底なしのMPだと思ってたが、こうなると底が見えてくる。

なんでこんなことになっちまってんのか……。

回復して回っている間に〖ハイレスト〗がLv6からLv7へ、〖勇者〗がLv6からLv7へと上がった。

リトヴェアル族達の会話を聞いていると、新たに様々なことがわかってきた。

ヒビとお供の死体には剣で刺されたような傷口があり、更に引き摺って移動させられたような痕跡があるのだという。

明らかに外部の人間の仕業である。

リトヴェアル族の集落に剣の使い手はいない。

皆、槍を好んで使用する。

先日集落を訪れたデレクが怪しいのではないか、という話だった。

デレクは悪い奴には見えなかったのだが……こうなってしまった以上、偶然近くをうろついていただけだとは思えない。

急な外の人間の来訪……竜神の巫女であるヒビの殺害……謎の毒物……すべてに関連があると考えるべきだろう。

また、謎の毒物症状はリトヴェアル族達もさっぱりわかってはいねぇようだった。

ヒビの死体が見つかるのとほぼ同タイミングで、集落の者達が不調を訴え始めたらしい。

発症は身体の弱い者の方が速い傾向にあったものの、それ以外の共通点はなく、妙な場所へ向かったわけでなければ、何か変わったものを食べたわけでもないそうだ。

不規則に起きているとしか思えねぇ。

いったい、どこから……。

ふと、ヒビの死体が引き摺られていた、ということを思い出した。

……ヒビを殺した奴は、どこで殺したか、わかってほしくなかったということか?

ヒビは、集落近くまで来ていた不審な気配を察知して向かい、その先で殺された。

毒を仕込みに来ていた奴らだったのかもしれねぇ。

そいつらが殺した場所を知られたくなかったということは、その場所が毒を仕込んだ場所だったからじゃあねぇんだろうか。

だが、集落の外に毒を仕掛けていたとしたら、ここまでスムーズに毒が回るのはおかしい。

何かカラクリがあるはずだ。

人間は、全員が絶対に同じ食料を口にする、なんてことは滅多にない。

集落の人間が、必ず頻繁に口にするもの……まさか、水か?

ふと思いついて、俺は近くの水樽へと〖ステータス閲覧〗を使用した。

【〖呪われた水樽:価値F-〗】

【呪いを掛けられた水の詰まった樽。】

【中の水を口にすれば、様々の状態異常に苦しめられることになるだろう。】

やられてんのは、川、か……。

恐らく、ヒビも川辺で殺されたのだろう。

……目的は、リトヴェアル族自体なのだろう。

アドフが、リトヴェアル族は魔族だと恐れられている、と聞かされたことがあった。

リトヴェアル族は、旅人を捕まえてマンティコアへの生贄にしていたこともあったようだった。

恨みを買っていたとしても、おかしくはねぇ。

だが、それはマンティコアに命を脅かされて仕方がなくやったことだ。

集落からもかなりの数の生贄が出されていた。

それにリトヴェアル族は、マンティコアがいなくなってからは旅人に真摯に接している。

それはヒビのデレクへの態度からも明らかだった。

少し触れ合えば、噂のような恐ろしい連中ではなく、同じ血の通った人間であることはすぐにわかることだ。

きっとそういう面を見ようともせず、リトヴェアル族への憎しみで暴走している奴がいるのだろう。

戦闘意欲のなかったであろうヒビを斬り殺し、川に呪いを撒いて集落全体を衰弱させる。

あまりに残忍なやり口だ。

きっと首謀者は、身内の旅人をリトヴェアル族に誘拐された奴なのだろう。

許せない、仇を討ってやる。その気持ちがまったくわからねぇとまでは言わねぇ。

しかし、例えそうだったとして……悪いが、それでも怒りは、抑えきれそうにねぇ。

俺はやるせない気持ちの中、牙を噛み締めた。