軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

288.深淵崩壊

「ヴェェッ!」「ヴェエェェッッ!」

「ヴェッ!」「ヴェァッ!」「ヴェァァッ!」

マザーの前に、大量のアビスとヘビーアビス、マザーガードが集まる。

どんどんと積み重なっていき、それはやがてアビスの壁となった。

なんとしてもマザーを守り抜くつもりらしい。

大勢のアビスが犇めき合って壁を成しているその様はいちいち明言するまでもなくトラウマ級だったが、俺は感情を殺して突っ走った。

一刻も早く、この戦いを終わらせる。

俺の頭には、もうそのことしか残っていなかった。

今更アビスの壁ごときに躊躇うものか。

ついにアビスの壁にぶち当たった。

踏み抜いて進もうとすると、ブチブチとそれは潰れていく。

【経験値を144得ました。】

【称号スキル〖歩く卵:Lv--〗により、更に経験値を144得ました。】

【経験値を156得ました。】

【称号スキル〖歩く卵:Lv--〗により、更に経験値を156得ました。】

嫌な音で、嫌な感触だった。

この調子で、十回ほどメッセージウィンドウが連続的に浮かんでは消える。

【経験値を138得ました。】

【称号スキル〖歩く卵:Lv--〗により、更に経験値を138得ました。】

【〖ウロボロス〗のLvが83から84へと上がりました。】

おかしい……すげぇ順調にどんどんLvが上がんのに、なんかあんまし嬉しくねぇ。

しかし思ったよりもアビスの壁は質量があり、俺の回転はついに、壁を乗り越えたところで緩やかになっていき、やがては動きを止めた。

最悪だ。最悪のところで止まっちまった。

俺の身体に向かい、四方から一気にアビスが纏わりつてい来る。

「ヴェァァァァァァァアアッ!」

マザーが咆哮を上げる。

至近距離からぶっ放された触手鞭が、アビスの壁を貫いて俺の胸部を攻撃した。

モロに直撃である。

鱗が抉れ、血が飛んだ。

衝撃に負けて俺の身体が宙に浮いた。

俺は翼を広げて宙で身体を留めると同時にアビスを払い退けながら、マザーの触手に喰らい付く。

触手鞭の攻撃でぶっ飛ばされそうになっていたが、触手を糸代わりに凧のように宙にピンと浮き、どうにか遠くまで吹っ飛ばされるのを免れた。

がくんと、マザーの巨体が揺れる。

せっかくここまで接近できたんだ、一気にダメージを叩き込んでやる。

『コレ、一回ブッ飛バサレテ距離取ッタ方ガ……』

いや、こんまま行く。

マザーは肉壁に、それなりの数のマザーガードを動員させている。

そのマザーガードは、崩れた壁に呑まれて動けなくなってやがる。

立て直される前に、マザーを叩く。

『叩クッテ……』

〖 魂付加(フェイクライフ) 〗で奴らの度肝を抜いてやってくれ。

あんまし好きになれねぇスキルだけど、この状況で好みの話なんてしてらんねぇ。

『アビス、甦ラセッテカ? アンマシ効果ネェト思ウガ……』

いや、動かすのは、マザーの近くにある、竜神の骸だ。

「ガァッ!?」

アレの上には大量のマザーガードが陣取ってっからな。

とにかく、今すぐ頼む。

この機会を逃すわけにはいかねぇ。

「…………」

相方は頷き、マザーの真横にある竜神の骸へと〖 魂付加(フェイクライフ) 〗を使う。

竜神の骸は黒い光に包まれ、むくりと起き上がった。

「…………ッ?」

竜神の骸が、虚ろな眼窩でマザーへと目をやった。

上に乗っていたアビスやマザーガード達がずり落ちて錯乱する。

一部のアビスはわぁっと四方に掃けて逃げ惑う。

エリート精鋭部隊であるマザーガードは、動き出した骸を潰すべく我先にと飛び込んで行った。

当然、起き上がった竜神はLv1なのでマザーガードの敵ではない。

あっという間に崩れ落ち、再び崩れ落ちて眠りについた。

わざわざ起こしちまってすまねぇな。

だがこれで、一瞬の誤魔化しではあるが、マザーの守りが薄くなった。

俺は首を伸ばし、口を大きく開く。

口内にいたアロは、光を求めるように俺の舌の上を匍匐前進する。

そして目前の大惨状を見て一瞬怯みはしたものの、思いっ切り魔法をぶっ放してくれた。

「う、うぐ……。つ……土魔法〖クレイ〗!」

地面から突き出た無数の針は、マザーを貫きはしないものの足場を不安定なものへと変えた。

まだマザーの近くを這っていたマザーガード達も、体勢を崩してその場にひっくり返る。

〖転がる〗での強襲、竜神復活によるパニック、アロの〖クレイ〗。

この三連攻撃で、ようやくマザーの大きな隙を引き出すことができた。

この機を逃すわけにはいかねぇ。

俺はマザーの触手を引っぱり、その反動を利用してマザーへと飛び掛かった。

ブチィッと触手が引き千切れ、マザーの身体が怯んだ。

まずは俺の全体重を前足に込め、爪を立ててマザーの額を踏み抜いた。

「ヴェァァァアァァァァァッ!」

頭が割れて大きく拉げて、体液が飛び散る。

マザーの背に寄生していたアビスの幼体達が危機を察したのが、マザーの身体を伝ってわらわらと俺へ接近して来る。

き、気持ち悪ぃっ!

あいつらも戦えんのかよ!

あれこれと考えている内にも、周囲のマザーガードが体勢を立て直していく。

アロが俺の口から飛び降り、マザーの身体の上に乗った。

「風魔法〖ゲール〗!」

アビスの幼体の群れが、アロの風魔法で吹き飛ばされて落ちていく。

ナイスだアロ、これでマザーにトドメを刺すのに専念できる。

アビスの幼体が去った後の背がグロテスクな穴ぼこ塗れになっているが、俺は見なかったことにしてマザーへと意識を戻す。

俺はマザーを、両の前足で押さえつける。

相方、いっせーのーででこいつに噛みつくぞ、なるべく深くな!

『エッ……マ、マジデ言ッテンノカ?』

今逃したら、またアビス塗れになって戦うことになるぞ!

『…………』

相方は目を閉じ、右目だけを薄く開け直して再びマザーを見る。

『……ナァ、ヤッパ他ノ手』

はい、いっせーので!

相方が慌てたように口を開く。

俺も口を開き、ほぼ同時にマザーへと牙を突き刺した。

口内がドプっと苦みのある汁で満たされる。

口の中で何かが蠢ているような気がする。

錯覚であってほしい。そうあってください。

「ヴェァァァアァァァァァッ!」

ダン、ダン、ドン、ダンドン!

マザーの触手鞭が、俺の背を乱打する。

〖自己再生〗で回復しながら、俺は地面を蹴ってそのまま飛び上がった。

不安定ながら、どうにかマザーを咥えたまま空を飛ぶことに成功した。

アロはこのままだと巻き込まれると踏んだようで、マザーを蹴って地面へと飛び降りた。

宙でのマザーの必死の抵抗に対し、俺も前足で頭部をガンガン殴って対抗する。

触手の攻撃を尾で塞ぎながら、死力を振り絞って空を飛び続ける。

三十メートルほど飛んだところで、俺は宙で〖転がる〗を使って猛回転する。

重心が恐ろしく偏っていたので不安定な回転になったが、どうにか速度を上げて押し切った。

相方とタイミングを合わせ、口を開いてマザーを解放する。

下に勢いよく放り出されたマザーの背を、同じく遠心力の乗った尾で追撃する。

ベギッと凄まじい音が鳴り、マザーの巨体が落下していく。

【通常スキル〖天落とし〗のLvが3から4へと上がりました。】

そのまま翼をピンと張って、マザー目掛けて俺も落下する。

落下中に崖壁を蹴って加速し、マザーが地面に激突すると同時に前の両足で爪を立てて踏み抜いてやった。

ドシンと崖底全体が大きく揺れ、地面に大きな亀裂が入った。

マザーは衝撃に耐え切れず、口から体液を大量に噴出した。

【通常スキル〖地返し〗のLvが1から2へと上がりました。】

ぴくぴくと、マザーが巨体を痙攣させる。

さすがにもう、これで決まっただろう。

やっぱし〖天落とし〗と〖地返し〗のコンボは強いな。

あの勇者に感謝するつもりは微塵もないが。

「ヴェェェェェェ……」

マザーが力なく鳴き、脚を弱々しく這わせる。

アビスが一気にカサカサと集まってくる。

戦意はすでになく、ボスの敗北に唖然としているようだった。

「ヴェェェェェェェエェェエッ!」

と、そのとき、マザーが顔の近くに来たアビスへと牙を剥いた。

アビスは慌てて避けようとしたが、素早さが全然違う。

あっという間に牙に刈り取られ、三体のアビスがマザーに喰われた。

後には、アビスの脚と散らばった体液だけが残る。

え、えげつねぇ……。

そういやこいつ、〖食再生〗持ちか。

玉兎も持ってたが、確か喰ったら回復するんだったか。

マザーは潰れた身体を引き摺って、他のアビスを襲撃しようとする。

俺は前足に力を込めて動けないようにする。

マザーの牙がアビスを掠めるも、捕食するには数センチほど及ばない。

一気にアビスが散って逃げていった。

あ、あいつら……いや、もういいか。

これでとにかく、異常繁殖の元凶は潰えた。

「ヴェエェ……ヴェェェェエェ……」

マザーはまだ諦め悪く、ボロボロになった触手を近くのアビスへと伸ばそうとする。

その触手の生えている根元、マザーの頭部を俺は踏み抜いた。

触手や脚がプルプルと動き、ついにマザーは動かなくなった。

【経験値を3240得ました。】

【称号スキル〖歩く卵:Lv--〗により、更に経験値を3240得ました。】

【〖ウロボロス〗のLvが84から87へと上がりました。】

おおう……でっけぇ……。

【称号スキル〖勇者〗のLvが5から6へと上がりました。】

勇者が上がった?

なんかそろそろ、スキル来たり……?

【通常スキル〖ホーリー:Lv1〗を得ました。】

き、来たっ!

これ、呪い解除できる奴じゃねぇのか?

これさえあったら、もう〖竜鱗粉〗を気にする必要もねぇじゃん!

試しにやってみっか!

〖ホーリー〗! 〖ホーリー〗!

……あれ、なんか上手く行かねぇな?

「ガァッ」

相方が鳴くと、前方に穏やかな光の球が現れて、さぁっと優しげに四散した。

……ええ、あ、はい。

アロが歩いて、俺の傍までやってくる。

アロもどれくらいLv上がったのか、確認しておくか。

結構ばっさばっさアビス薙ぎ倒してたからな。

とはいえ、これからはもう戦闘に参加することもねぇかもしれないが……。

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

名前:アロ

種族:レヴァナ・ローリッチ

状態:呪い

Lv :24/65

HP :116/252

MP :32/276

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

い、一気に23も上がってる……。

結構な数のアビス、纏めて倒してたもんな。

俺は改めてマザーの死骸を確認してから、竜神の骸へと目を向ける。

アロが竜神の骸へと手を向けた。

「……〖クレイ〗」

土が盛り上がり、竜神の骸を覆い隠していく。

アロは首を前に倒して目を瞑り、埋葬した竜神の骸に祈るような姿勢を取った。

俺も真似をして、埋められた竜神の骸へと頭を下げて目を瞑った。

これでもう、アビス大量繁殖の元凶は去った。

……とりあえず、身体を洗いてぇところだな。

頭を上げると、小さな緑色の何かが、崖の上から俺を見下ろしていた。

目を凝らせば、それが十体の森小人であることがわかった。

森小人は、リトヴェアル族の集落の方を指差し、ふっと空気に混じるように消えていった。

な、なんだ?