軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

257.三度目のマンティコア

ヤルグが相方の腕をまた新たに縄で縛り直し、縄の先端を引っ張って囚人を連行するようにマンティコアの許へと向かった。

背後から、タタルクが相方の頭へと槍を突きつけている。

タタルクの槍を持つのと逆の手には、光る石の入ったカンテラのようなものを持っていた。

ヤルグはさっき蹴飛ばされたのがよほど堪えたのか、包帯でぐるぐる巻きになった手で時折鼻先を押さえていた。

タタルクが道中、何度も不安そうに相方をちらちらと見ていた。

相方がタタルクを睨み返すと、タタルクは気まずそうに目を逸らす。

目を逸らしてから、ぽつりと口を開く。

「……じきに、マンティコアの住居へとつく。向こうも、俺逹が日の沈んだ頃に来ることは知っている。今頃、祠でよだれを垂らしながら待っているはずだ」

そりゃ一日中一箇所にいる、なんて保証もねぇもんな。

その辺りは、〖念話〗の使える巫女の血持ちを通して交渉済みってわけか。

今ならマンティコアは、十分に油断して寝転がってやがるはずなわけだ。

リトヴェアル族に合わせてこの時間まで待った甲斐があった。

「おいタタルク、無駄話をするな」

「は、はい……」

タタルクはヤルグに睨まれて頭を下げながら、また相方へと目を向ける。

本当にマンティコアと戦う気なのかと、問いかけているようだった。

相方はタタルクの視線を無視し、黙ったままヤルグに引かれて歩いた。

やがて大きな洞穴の前へと到着した。

生贄の洞穴同様、岩山にできた空洞といった感じだ。

だが、あちらの洞穴よりも大分穴が大きく、奥行きも深そうだ。

入り口にはマンティコアを模した壁画が壁に刻まれている。

元々あった洞穴を、マンティコアのために見栄えをよくした、という感じだ。

マンティコアの機嫌を取ろうとあれこれ画策していたというのは本当らしい。

ヤルグは入り口の前で足を止め、相方を尻目で睨み、目を細めた。

あまりにも相方が抵抗しないので訝しんでいるようだった。

これまでの相方の言動を思えば、怪しむのも当然のことだろう。

ヤルグは相方に指を喰いちぎられ、身体を蹴飛ばされ、鼻先へし折られのコンボを決められてるからな。

「あ? どしたよ?」

「……調子の狂う」

「暴れてやった方がいいか?」

ヤルグは相方に睨まれ、負傷している腕へと一瞬視線を落とした。

顔には出さなかったが、指を噛まれた痛みを思い出したのだろう。

タタルクが手に持つカンテラの灯りを頼りに、洞穴奥へと進んでいく。

しかし、こんな馬鹿でかい洞穴だとは思わなかった。

幅も某蟻の巣並にあるし、思ったより長さもある。

これなら、ちょっとやそっとじゃ取り逃がさねぇで済みそうだ。

あと、気になんのは……。

「……この洞穴、先は行き止まりか?」

「そ、そうだ」

相方の呟きに、タタルクが答える。

うし、それを確認しておきたかった。

ありがとよ相方。

「なら、簡単には逃げられねぇな」

相方が舌舐めずりをしながら、洞穴の奥を睨む。

「おいタタルク! 無駄な会話をするなと何度言わせる!」

ヤルグがタタルクへと怒鳴る。

相方の口振りを『マンティコアに簡単には逃げられない』ではなく『マンティコアから簡単には逃げられない』と受け取ったのだろう。

まさかこっちがマンティコアを仕留めるつもりでいるとは思うまい。

相方が舌打ちを鳴らした。

その音が洞穴内に反響し、それに反応するように、奥から大きな物音が聞こえてくる。

何かが、身体を起こしたようだった。

巨大な獣の足音が近づいてくる。

「……マンティコアが、来るな」

ヤルグがそう呟く。

声が少し震えている。脅えているようだった。

そのとき、タタルクがカンテラを宙へ投げてから相方へと槍を向け、突進してきた。

「タッ、タタルク、何を……」

「ヤルグさん、退いてください! 退けぇっ!」

タタルクはヤルグの肩に体当たりをかました。

ヤルグは大きくよろけ、相方の縄の先から手を放す。

タタルクが、相方の腕の縄へと槍先を振るう。

相方はそれを、ひょいと後方に跳ねて避けた。

「あぁっ!」

相方の予想外の動きに、タタルクがつんのめってその場に転んだ。

タタルクからしてみれば、マンティコアが来る前に相方を自由にしようという決死の判断だったのだろう。

……ただ、マンティコアをなるべく油断させたいこっとちとしては、できることならば腕の縄はついたままの方がいい。

それにぶっちゃけ、いつでも外せるし。

「タタルクッ! 貴様、何を考えている! さっきからふざけた真似ばかり!」

ヤルグが吠えながら体勢を持ち直す。

「えっ、あ、いや……えっ?」

タタルクが混乱したように、相方とヤルグを交互に見る。

「……なぁ、ひょっとしてオレ、避けねぇ方が良かったのか?」

相方が俺に向けて言葉を零す。

い、いや、今のは避けてよかったというか……まぁ、仕方なかったというか。

少し拗れるかと思ったが、そんな猶予はなかった。

洞穴の奥から、大きな足音共に、見覚えのある巨大な化け物が姿を現したのだ。

「ゲバゲバゲバァッ!」

ようやくマンティコアとの再会だ。

人間よりも圧倒的に大きな身体に加え、豹に人間の表情を足したような顔つきが恐ろしい。

前に会ったときは同じ体格だったからさほど恐怖もなかったが、人間の目線から見るとこれはヤベェ。

マンティコアは相方を目にし、牙の合間から涎を垂れ流す。

ヤルグは走り、マンティコアから充分に距離をとったところで足を止め、向き直る。

「……い、生き餌を、生き餌を連れて参りました」

ヤルグは懇願するようにマンティコアへと言った。

だから殺さないでくれ、と暗に呼びかけているようにさえ感じる言い方であった。

それだけリトヴェアル族にとってマンティコアとは畏怖の対象なのだろう。