軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

251.生き餌

あの後、床に倒れ込んだ相方は、ナグロムによって大縄でぐるぐる巻きにされていた。

今は蓑虫のようになっている。

相方は不服そうにヤルグを睨んでいた。

「……本当に、これで大丈夫なのでしょうか」

ヤルグが心配そうに呟く。

「グ、グラファントを縛る縄であるぞ。大丈夫……の、はずだ。亜人種とはいえ、所詮は我らと同じ人間よ」

ナグロムが自分に言い聞かせるように言う。

グラファントは見たことはねぇが、きっと魔物か何かのことだろう。

相方はナグロムの話した内容を聞き、ぐっと腕に力を加える。

それにより、縄が軋む。

どうとでもなりそうだな、と相方が思ったのが伝わってくる。

……い、今この場で振り千切るのはやめてくれよ。

「でも……あれだけモルズの毒を飲んだのに、元気そうに見えるといいますか……」

「……少しばかり毒への耐性が強いだけであろう。亜人種の性質は、魔物以上に掴みづらいと儂の父も言っておったからな」

相方の視線は先ほどからヤルグにロックオンされている。

相方視点なので相方の顔は見えねぇが、ムスっとした表情でヤルグを睨んでいる相方の顔が容易に想像できた。

目が合うと、ヤルグの眼球がわずかに動いた。

目を逸らすのを意図的に堪えたようであった。罪悪感はあるのだろう。

「……ナグロム様、この亜人を生き餌にしたら、マンティコアに怪我を負わせませんか? 機嫌を損ねれば、また妙な要求をしてくるかもしれませんが」

「縄で縛ったままにしておけば大丈夫であろう」

やっぱし予想通り、マンティコアへの捧げもんか。

要求だのなんだの言っているところを聞くに、無差別に人を襲わない代わりに定期的に生贄を差し出すことを要求しているんじゃなかろうか。

そういや、マンティコアが竜神の祠に居座っているときも、ちっと妙だったんだよな。

祠にいた子供は面をつけていたはずだ。

あのときはリトヴェアル族の全員が付けているもんだと思っていたが、思い返せば面をつけていたのはあのときの子供と、俺への貢物を持って来た連中だけである。

竜神と関わりの深いものが面をつけると仮定しても、なぜあの子供達が面をつけていたのか疑問が残る。

……完全に推論になるが、生き餌にも面をつけていたんじゃねぇだろうか。

生贄として連れて行かれる子供の顔なんて、皆あまりまじまじとは見たくねぇはずだ。

こっちでも生贄を差し出してマンティコアが暴れるのを防いでいるとすれば、向こうの村でも同じことをやっていたと考えてもおかしくはねぇ。

だとしたら、アロも……生贄だったんだろうか。

そりゃ母親も憔悴するだろうな。

集落で取り決めたから、お前の子供を化け物に捧げろなんか言われたら。

マンティコアにとって、人間は食料の中で嗜好品なのかもしれねぇ。

食事の勢いで喰ってたら、この規模の集落ならばすぐに空っぽになっちまっているはずだ。

量の少ない子供ばかりを狙っていることからもそのことはなんとなく窺える。

だが、それも今日までだ。

マンティコアの前まで行ったらその場で〖人化の術〗を解いて、一気に噛み殺してやる。

「……がぁぁ」

相方が歯を喰いしばり、低く唸る。

……気持ちはわかるけど、その、ほどほどに頼む。

ヤルグは相方の鳴き声を聞き、何かを思い出したように右の手を逆の手でそっと押さえていた。

「ヤルグよ、別の者に頼むか?」

「い、いえ、連れてきたのは自分ですので」

「そうか。では、お前に頼むぞ。また手を噛まれぬようにな」

ヤルグの右手は、包帯でぐるぐる巻きにされている。

……あれ指、戻らねぇだろうな。

レストでもせいぜい止血と自然治癒速めるくらいの力しかねぇし。

お互い気まずいが、ちゃっちゃとマンティコアの場所へと連れて行ってもらおう。

ヤルグは一度屋敷奥へと行き、ちょうど人一人入りそうな麻袋と、円形の動物を模した面に布をくっつけた被り物を持って戻ってきた。

あの面、俺に被せるつもりかよ。

完全にビンゴじゃねぇか。

ヤルグが相方に面を被せようとしたとき、相方がガチガチと歯を鳴らした。

ヤルグの動きが一瞬止まったが、すぐに再開した。

面を被せてからは、相方を横に倒して袋へと入れる。

しかし、ここで不安なのは時間だな。

〖人化の術〗を使えるのはせいぜい後三十分程度だ。

それまでにマンティコアのところへ連れて行ってもらえねぇと困る。

時間が危なくなったらどうにか逃げる算段も考えとかねぇとな。

ヤルグは相方を袋に突っ込むと抱え上げ、歩き出した。

途中までは話し声や誰かの歩く音が聞こえてきていた。

しかし十分程経ったとき、ヤルグの足音以外の音がほとんど聞こえなくなってきていた。

そろそろマンティコアの元へと着いたところなのだろうか。

「おいタタルク、俺だ」

ヤルグが足を止め、誰かへ声を掛ける。

「ヤルグさん、その……そちらは?」

声が返ってきた。

敬語ではあるが声が低く、ヤルグよりも歳上であるように感じられた。

「旅の者だ。亜人で腕っ節が強い、縄を解かないよう注意しろ」

ついに到着したみてぇだな。

しっかし、MPすっからかんでマンティコアとぶつかることになっちまったな。

不意さえつけりゃ、肉弾戦だけでもどうにかはなると思うけど……。

「他の子達……生き餌が、縄を解きませんかね?」

「対魔物用縄だ。ナグロム様が、力を入れて縛った。衰弱した彼女達では、まず解くことはできんだろう」

「……それもそうですね」

ん? 他の生贄もいるのか?

どういうことだと考えていると、袋が地面へと置かれた。

ヤルグとタタルクが二人掛かりで相方を袋から出す。

ようやく辺りを見ることができるようになった。

前方には岩山が広がっていた。

灰色の岩の節目からは、ところどころ木が伸びている。

タタルクは予想通り、ヤルグよりも年上に見えた。

年齢は……わかりづれぇけど、三十歳ちょっと程度かな。

少しやつれているからか、老け顔なのか、痩せぎすで不健康そうな肌色をしており、年齢を上に見積もってしまいたくなるような顔つきであった。

ヤルグとタタルクは岩山へと近づき、大きな岩を二人掛かりで動かす。

岩が動くと、その下には穴が空いていた。

タタルクは穴の下をそうっと覗き、やるせなさそうに首を振った。

「余所者だから適任だとナグロム様は仰ったが、お前は生き餌の番には向かないようだな。俺から伝えておこう」

タタルクはヤルグから声を掛けられ、ピンと背筋を伸ばして彼を振り返った。

「そ、そんなことはありません。お任せください」

ヤルグはそんなタタルクを不信げに眺めていたが、すぐに彼から目を離して相方の近くへと戻ってきた。

相方の腰を押さえて立たせ、穴の前へと連れて行く。

「旅の者よ。恨みたければ、恨むがい……」

「ペッ」

相方は至近距離からヤルグの顔面に唾を吹きかけ、自分で穴へと飛び降りた。

そこまで高い距離ではなく、せいぜい2メートルといったところだった。

今の拘束されている状態でも、この身体能力なら容易に飛び乗れそうだ。

しかし、相方よ……。

その、駄目とは言わねぇんだけど……。

「ん、文句あっかよ?」

いや、ないです……。

すまん、むしろよく抑えてくれた。マジで感謝してる。

いつも俺の考え方に合わせてもらって悪い。

相方が周囲を見回す。

中は空洞が広がっており、入り口付近と比べて高さがあった。場所によってまちまちではあるが、3メートル近いところもあった。

辺り一面岩肌に囲まれてはいるが、上部には岩と岩の隙間が多く、光がところどころから差し込んでおりあまり暗くはない。

……洞窟内には、十人の女の子が囚われているのが目に入った。

だいたい六歳から十二歳の間くらいだろうか。

外見からしてリトヴェアル族には間違いない。

彼女達の周囲には、脱ぎ散らかされた例の面が置かれていた。

まだ律儀に面を付けている子も、三人ほど見かけた。

皆暗い顔をおり、洞窟の隅に敷かれている土に汚れた敷物の上に集まっていた。

こっちに気づいていないはずはないが、ほとんど反応を見せない。

「……おい。なんだ、ここは」

相方が声を掛ける。

少し間があってから先頭の女の子が顔を上げ、こちらに目をやった。

「おねーさんも、生き餌にされたの?」

「生き餌にされた? 違ぇよ、なってやったんだ」

「……そう?」

相方が吐き捨てるように言い、首を大きく振った。

面の被り物が地面へと落ちる。

子供は小さく首を傾けたが、それ以上は何も聞いてこなかった。

……想定してた中で、あんましよくねぇパターンだわこれ。

ここ、マンティコアがいるんじゃなくて、マンティコアへの生き餌を一旦閉じ込めてるところじゃねぇか。

人化もそろそろタイムオーバーだからな。

相方だけだったら人化解いてMP補給に徹せたんだが、人がいるとなると厳しい。

縄引きちぎって、一回逃げるか?

……それだとマンティコアの居場所はわかんねぇし、後で捜すにしてもまたこっちの集落の巫女に感知されるかもしれねぇし、そもそも不意を突ける確率も減るんだよな。

しかし、後三十分で案内してくれるってことはまずねぇだろうな。