軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

246.秘策

〖気配感知〗の外側に連中が逃げて行ってから、顎を地面に付けて舌を伸ばす。

アロが這い出てきた。

舌から落ちると、ごろんと地面の上を転がる。

アロは涎のせいか、身体中あちこちが溶けかかっている。

どうやらあの身体は水に弱いらしい。

正直、口の中洗いてぇ……。

「グォッ」

俺が声を掛けると、よろよろと起き上がったアロが俺を振り返る。

俺はさっきの奴らが逃げて行った方を睨み、それからアロへと目線を戻す。

俺は向こうに行くから、その間アロには隠れておいてほしい。

そう伝えたつもりだった。

アロは俺の意図を汲んだようではあったが、不安そうに俯く。

もう片っぽのリトヴェアル族の集落に関しては、情報が少なすぎる。

下手に動くのは避けたいところだが、知らなかったとはいえ、マンティコアを追い込んじまったのは俺だ。

もっと慎重に動きてぇし、人里の近くにアロを置いておくのも不安だ。

だが、これ以上放置したら、またマンティコアの被害者が増えちまう。

一刻も早く奴をどうにかしねぇといけない。

元々、俺がこっちにまで出向いてきたのはマンティコアの討伐が目的の一つでもある。

居場所がはっきりしたんだから、ここで決着をつけてやる。

俺は、奴らが去って行った方へとまた目線を戻す。

あの先に、もう一つのリトヴェアル族の集落と、マンティコアの奴がいるはずだ。

集落に入って話を聞きたいところだが、どうにもこっちでは竜神は攻撃対象らしい。

下手にドラゴンの姿では入れねぇ。

だったら〖人化の術〗しかねぇか。

俺の今のMPなら、〖MP自動回復:Lv6〗のスキルの力もあって、〖人化の術〗を一時間近く持たせることができる。

話を聞くだけなら充分だ。

旅人を装って〖人化の術〗で話を聞き、人間の姿でマンティコアの元へと向かう。

竜神信仰派のリトヴェアル族の集落は、人化したマンティコアに騙され、村で療養していた。

こっちの集落でも、外の人間に対しては温厚かもしれねぇ。

加えて、人間の姿ならマンティコアの油断を誘えるはずだ。

今のドラゴンの状態で会ったらあいつは即逃げ出すだろうだが、人間の姿で近づけば餌がやってきたと喜ぶはずだ。

その隙に一気に足へ致命傷を与え、トドメを刺す。

三度目の正直だ、今度こそぶっ殺してやる。

ただ、裸で村に入る必要があるが……それは仕方ねぇか。

水でも浴びてたら魔物に襲われて、そのまま逃げてきたことにしよう。

アロはじっと俺を見ていたが、それからすっともう一つの集落があるであろう方向へと目を向けた。

また俺に目線を戻し、こくりと小さく頷く。

「……ぱ、ぁ、……ねが、しマす……」

アロがぱくぱくと口を動かす。

喋るのは難しいらしく、言い終えた後、けほけほと咳き込んでいた。

口から土肉の粉が飛ぶ。

喉がすらすらと喋れるほど完全ではねぇのかもしれない。しんどそうだった。

ほとんど聞き取れなかったが、集落をお願いしますと、そう言っているように俺には感じた。

「グォッ」

俺は一声上げ、それからアロから離れた。

……アロは、竜神信仰の集落の出で、こっちの集落とは対立してる側だと思ってたんだが……違うんだろうか。

まぁでも、対立してるとはいえ親戚だもんな。

子供からしてみれば、割り切れねぇか。

俺はアロが見つからねぇか不安で、時折振り返った。

アロは木陰に座っていたが、俺に気が付くと立ち上がって両手を上げ、手を振ってくれた。

……大丈夫、だよな。

それからは〖気配感知〗で周囲への警戒を強めながら、反竜神派の集落を捜し始めた。

ざぁあっと川の音が聞こえたので、近くへと寄ってみることにした。

水のある近くで生活している、という可能性は高い。

木々を掻き分けて近づくと、俺がどっぷり浸れそうなくらい幅の広い川があった。

反対側の川沿いには、破れた服と底の抜けた木の桶が捨てられていた。

間違いねぇ、この近くに集落があるはずだ。

俺の推測がまた一つ裏付けられた。

反対側ってことは、近くに橋とかもありそうだな。

俺は軽く跳べば余裕で越えられるが。

気軽に洗濯に来れる距離だということは、もうかなり近づいているはずだ。

気を引き締めねぇとな。

さて川を越えるかと考えたとき、水面に映っている自分の顔が映っていることに気付いた。

そこでふと疑問が浮かび上がってくる。

さっきは〖人化の術〗で餌になった振りをしてマンティコアを仕留めようと考えていたが、よくよく考えてみれば、マンティコアは女の、それも子供ばっかり喰っていた気がする。

最初に俺が助けたのも女の子だったし、アロも女の子だ。

〖人化の術〗でなれるのは成人体であり、おまけに男である。

ドラゴンのときより油断は誘えるとは思うが……いや、待てよ。

体格は駄目かもしれんが、性別ならなんとかなるかもしれねぇ。

見知らぬ男が急に現れるより、女の方が警戒もされ難いはずだ。

村人の相手もこっちの方がいいかもしれねぇ。

俺は相方の顔を確認する。

「ガァ?」

相方は不思議そうに首を傾け、関節を鳴らす。

ウロボロスの種族説明は、確かこうだった。

【〖ウロボロス:ランクA〗】

【この世の理に反した、永遠を知るドラゴン。老いることがない。】

【雌雄同体の双頭竜。その存在自体が永遠と禁忌の象徴であるとされている。】

【神に背き、生命を冒涜するような魔法を操る。】

【HP、MP共に底知らず。回復魔法のエキスパート。】

そう、『雌雄同体』の双頭竜である。

普通に考えりゃ、雌雄両方の生殖能力を兼ね揃えているという意味だろう。

だが双頭竜にわざわざその性質があるのだ。

そう考えると、相方が雌型の可能性が生まれてくる。

〖意思疎通〗で伝えてきたのはオレ口調だったが、単に俺の言葉癖が移っただけならそれも頷ける。

今まで必要にもならなかったから考えたこともなかったが、試してみる価値はあるはずだ。

これが上手く行けば、マンティコア討伐も、反竜神信仰の集落での情報収集も、どちらも成功率が一気に跳ね上がる。