軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

17.執念の蜘蛛

走る。

俺はただひたすら走る。

背後から近づいてくる八足の足音に生命の危機を感じながら。

クソッ!

すぐに麻痺解けやがった! 俺が逃げる時間くらい稼いでくれよ!

背中に牙立てるより足の一本でも破壊してやればよかった!

厄病子竜に進化したときに得た〖飛行〗のスキルもあったんだけど、スキルLvが低いせいか浮くことすら満足にできなかった。

諦め悪く試行錯誤してたせいで余計に距離が縮められた。

なんか俺、ホントにいつも逃げてばっかしだな。

つっても格上相手にそれ以外どうしようもないんだけどさぁっ!

ぐんぐん近づいてくる。

普通に逃げててもすぐ捕まっちまうなコレ。

割とガチでヤバイ。

なんか、他のモンスターに押し付けたりできねぇかな。

俺は宙で足を抱えて丸くなり、〖転がる〗を使う。

走るよりこっちのが速い。細かい動きができなくなるのが辛いが。

足音は俺と一定の間隔を開けたままついてくるが、それ以上近づきはして来ない。

よしよし、なんだ普通に撒けそうじゃん。

ブチ切れて同スピードってことはスタミナ度外視で動いてるはずだし、すぐバテるだろ。

多分、憤怒状態も〖HP自動回復〗で回復したら解けるだろうし。

元よりあの怒りの源は火傷の痛みのはずだ。怪我が治ったら怒りも治まるだろ。

森の中を転がって駆け回ること早十分。

まったく向こうのスピードが衰える気配を見せない。

つーか、微妙に加速してる臭い。いや、俺が遅くなってきてんのか?

どっちにしろ、距離が詰められてきていることに変わりはない。

何あのバケモン? どっから湧いてんのあの無駄な根性。

【通常スキル〖転がる〗のLvが2から3に上がりました。】

はいキタァッ!

わずかではあるが、転がるスピードがアップする。

こんだけ全力で走り倒すことを強制されてりゃそりゃそうなるわな!

オッケー、グッドタイミング! まだ逃げられるぞコレ!

【称号スキル〖チキンランナー:Lv1〗を得ました。】

ビビリって言いてぇのか! 仕方ねぇだろ!

もうちっと勝ち目があったら俺だって勇敢に戦うわ!

つってもこれ……多分、逃走関連のスキルだよな?

ちょっとは逃げ足が速くなったってことか?

だったらどんなダサイ名前でも甘んじて受け入れるんだけど。命懸かってますし。

しかしこのプラス分があっても逃げ切るのは辛い。

〖転がる〗ってこんなに長時間ぶっ通しで使うスキルじゃねぇと思うんだよな。

なんかもう、本当にしんどい。

そろそろ諦めてくれよクソ蜘蛛。

って、ヤベ! 目の前崖じゃねぇか!

〖落下耐性〗はあるけど、ちょっとした段差って感じじゃない。

ガチ絶壁。

落ちたら下にメッチャ流れが強い川とかありそう。

絶対死ぬ奴。

手前でカーブするしかないか。

いや、あの崖さえ乗り越えられれば大蜘蛛はついて来られねぇんじゃね?

このまま大蜘蛛とデスレースを続けるとか嫌だもんな。いつか捕まる。

だったらここで、多少無理をしてでも崖を越えるべきなんじゃねぇのか?

とはいえ、向こう側まで10m近くあるんだよな。

どうやったら行けっかなぁ……ジャンプ台でもあったら、なんかこう華麗に乗り越えられそうな気もするんだけど。

ねぇわな、そんな丁度いいもん。

この大自然にジャンプ台なんかあったらむしろ怖いわ。

〖飛行〗もあれ、スキルLvのせいか、まともに浮くことすらできねぇし……。

いや、そもそも〖転がる〗解除してたらその隙に追いつかれるんだよなぁ……。

あれ、じゃあ解除しなきゃいいんじゃね?

結局俺はカーブせず、そのまま崖に突っ込むことを選ぶ。

崖っぷちで転がりながら全力で跳ね上がり、そのまま宙で身体を丸めたまま翼を伸ばす。

よし、上手く勢いを殺さず風に乗れた!

風がメッチャ気持ちいい。

いいなこれ、今度またやってみよう。

10mくらい余裕じゃん!

これでようやくあのクソ蜘蛛ともお別れよ。

Lv上げてからしばき回しに行ってやろう。

それまで覚えていやがれ、俺は陰湿なんだ。

向こう側についた。

高度を充分に降ろし、翼を畳みながら再び回転を始める。

地に着いてからはゆっくりとスピードを落としていき、〖転がる〗を解除する。

はい、逃げ切ったぁっ!

覚えたぞ、アイツのステは覚えたぞぉっ!

Lv上げて舐めプで倒せるようになったら戻ってくるからな! 忘れんじゃねぇぞクソ蜘蛛!

ああ……もう、本当に疲れた。

今日からLv上げようと思ってたけど中止だな。

明日だ、明日から本気出す。

今日は飯分だけ狩って、そんでそれ食って安心して寝れそうな洞穴かどっか探そう。

身体中筋肉痛だわマジで。

俺の大事な三半規管さんが死んじゃう。

ふと崖の方を振り返ったのに、特に深い意味はなかった。

なんか変な音を拾ったとか、嫌な予感がしたとか、引っかかるものがあったとか、別にそんなことはまったくない。

しいていえば、木々の隙間から差し込んできた日光が、まともに頭に当たって暑かった。

それくらいだ。

俺は背後、遥か上空にある太陽へと目を向ける。

それからゆっくりと目線を下に降ろしていく。

糸で小さな橋を作り、こちら側へと渡ってきている大蜘蛛の姿がそこにはあった。