軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

159.海辺の一騎打ち

再びアドフが俺へと突っ込んでくる。

どうする、もうフェイントは通じねぇぞ。

さっきのが成功しかかったのは、『まさかドラゴンがフェイントを仕掛けてなど来ないだろう』という思惑が向こうにあったからに違いない。

元よりフェイントはそう多用するものではない。

一回使ってからは、相手がフェイントの存在を意識から外すまで間を置くべきだ。

ただまともに正面からかち合うと、最小限のダメージでアドフを無力化する、というのはかなり難しくなってしまう。

ボコボコにした後、こっちから一方的に頼む形で交渉を進めなければならない。

悪印象の強く残る形で決着にはしたくない。

これ以上長引きそうなら、そう言ってもいられなくなるが。

正面からぶつかるのはなるべく避けたい。

しかしフェイントも駄目だ。

何か、他に相手の隙を突ける手段を考えなければ。

このオッサン……アドフは、ステータスが高いだけじゃなくてメンタルもかなり強そうだ。

やっぱし、崩すのなら騎手より土台だな。

馬を揺さぶった方が楽だ。

俺はすぅっと息を吸い込んでから、頭を下げて馬と目線を合わせる。

「グルワァァァァァァァァアアアッ!!」

砂面が俺の大声に撫でられ、ちょっとした砂風を巻き起こった。

アドフの乗っている馬が俺の〖咆哮〗に脅え、びくりと身体を震わせる。

砂嵐も演出に一役買ってくれたようだ。

一瞬、こっちへと向かってくる馬の動きが鈍った。その一瞬があれば充分だ。

この大男相手に、あんまり手を抜いてはいられねぇ。

ちっと痛いだろうが許せよ。

「グルァァッ!」

俺が腕を振りかぶると、アドフは手綱を横に引っ張る。

アドフは手綱を握るのとは逆の手で俺に大剣を向けて牽制しながら、しまったというふうに顔を顰めていた。

すぐに表情を引き締め直すが、心情が表情に漏れたのはしっぱいだったな。

アドフは殺気を放ちながら構えてはいるが、さっきの表情の変化を見るに、あくまであれは苦し紛れの牽制だ。

あわよくば、コンマ数秒でも俺が動きを躊躇うことを期待してのことだろう。

攻撃の意志を見せつけてくるかのような姿勢ではあるが、ちょっとわざとらしくも見える。

そもそも、この位置関係でカウンターを狙う余裕はないはずだ。

せいぜいあの大剣でガードするくらいのことしかできないだろう。

俺は腕を横薙ぎに払い、馬を真正面から思いっ切りぶん殴る。

機動力を奪えばかなり有利になる。

俺の腕が馬に当たる瞬間、アドフは手綱から手を離し、馬の上に足を乗せた。

「ギヒャインッ!」

俺にぶん殴られた馬が倒れ、哀れな声を上げながら転がる。

アドフは身体を丸めた馬を蹴って上に大きく跳び、俺の右肩へと着地した。

やべぇ、頭やられる。

来るであろう剣の軌道を予測しながら右肩へ顔を向け、大口を開ける。

歯に硬いものが触れたのを感じ、そのまま噛みつく。

アドフの大剣を、口で受けることに成功した。

俺は勢いよく左へと頭を向ける。

アドフの手から大剣が引き抜ける。

俺はそのまま、宙へと大剣をぶん投げる。

大剣は勢いよく地面に刺さり、砂を辺りに散らした。

握っていた大剣を引っ張られたアドフはバランスを崩し、肩から俺の目前へと落下する。

思ったよりコイツは強い。

ちょっとやそっとじゃ無力化できそうにねぇ。

一発重いダメージを与えておく必要がありそうだ。

〖レスト〗で回復させれば交渉はできる。

関係はしょっぱなからちょっと気まずくなるが、それは仕方がない。

ベストはお互いほとんど無傷だが、このまま力を抜きながら戦闘を続けていたら俺の首が持っていかれかねない。

俺は落下中のアドフを目掛け、上から下へと思いっ切り腕を振るう。

爪ではなく、手のひらで叩き落とす。これならまず死ぬことはないはずだ。

アドフは宙で身を丸めてくるりと上下を反転させ、俺の手のひらを蹴飛ばした。

それで勢いをつけて素早く地に着地し、受け身を取ってからそのまま前転へと繋げる。

俺の手が、そのすぐ後ろを叩く。

まだ、まだ粘るのか。

とはいえ、これで馬も武器も奪った。

機動力も攻撃力も、リーチもない。

さっきより状況は好転している。

起き上がったアドフと睨み合いになる。

この間合いなら、次で押さえつけられる。

俺が肩を動かすと、アドフが膝を曲げる。

「や、やめてくださいにゃ! ドラゴンさんは、ドラゴンさんは……」

俺の後ろから、ニーナの声がする。

それを聞いてか、アドフの目線が俺からニーナへと動いた。

ニーナは海の浅いところで横になっていたため、今までアドフからは見えなかったらしい。

「ひ、人がいる? なぜ……」

今なら交渉ができるかもしれねぇ。

俺は数歩下がり、俺に有利な間合いから外れてやる。

アドフも見逃されたのだと理解したらしく、緊迫していた空気がわずかながらに和らいだ。

アドフは自分の大剣の位置を横目で確認してから、素早く俺の後ろにいるニーナへと視線を戻す。

「お、おい、そこの女っ! 大丈夫か!」

「ド、ドラゴンさんは、ニーナを保護してくれていただけですにゃ!」

ニーナが掠れ声で叫ぶと、アドフは目を丸くして俺へと視線をやった。

今なら大丈夫だと思ったのか、玉兎が俺の足許へと耳を引き摺りながら走ってくる。

「ぺ、ぺふっ」

『一度、話、シタイ。ソウ、言ッテル』

アドフは玉兎が現れたことにも驚いていた。

玉兎自体に、というよりはドラゴンの横に玉兎が並んでいる光景が異様だったのかもしれない。

かなり面喰っていたようだったが、すぐに表情を元の面構えに戻す。

アドフは俺と玉兎、ニーナを見比べてから口を開く。

「わ、わかった。俺は、降参する。その話とやらを聞こう。それから……もう一人、俺の仲間がいる」

アドフは両手を上げ、これ以上闘う意思がないことを示す。

よし、上手く行った。

この人、前の兵に比べれば話が通じそうに見える。

ニーナのことも頼めるかもしれねぇ。

ただ奴隷への意識がわかんねぇから、脅しを掛けながらの交渉になるかもしれねぇな。

その辺りは向こうの価値観を探りながらになる。

玉兎翻訳を介すると細かいニュアンスがずれることがあるから、気をつけながら話を進めねぇと。

「イルシア、すまないが予定を変更し、剣を下げて出てきてくれ。少し、この竜と話がしてみたい」

アドフは俺の後ろを見ながら、声を出す。

……ん? あれ、え、イルシア?

なんで俺の名前知ってんだこの人。