軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

67.黒鳥の飛ぶ頃に 2

「え? 黒皇狼(オブシディアンウルフ) の討伐?」

リーダーたちは「朝メシ行ってきまーす」と早々に出ていこうとしたアインリーセを捕まえる。

朝食が終わってすぐ帰ってくるとは限らない。

リックスタインもアネモアも予定があるので、今話した方が早い。

不服の声がうるさいホルンには、アインリーセが「先に行って注文しといて」と厄介払いした。空腹時のホルンはいても邪魔なだけだ。空腹じゃなくてもあまりまともに会話できないが。

マイペースぶりではホルンにも負けないアインリーセだが、仕事の話は割とちゃんと聞く。

さっきまで寝起きで機嫌は悪そうだったが、その機嫌も椅子に座りリーダーたちと顔を合わせて仕事モードに入ると、気持ちも落ち着いたようだ。

まあ、それでも、だいぶ気の抜けたのんびりした態度だが。

「早くない? 正直自信ないんだけど」

アインリーセは、一年ほど前に「黒鳥」で請け負った黒皇狼の討伐に参加したことがある。

かつて自分の肌で感じたあの魔物の強さを知っているだけに、力量差もすぐに察する。

まだ自分たちが相手するには早い、と。

「あなたが主導するわけじゃないから大丈夫よ。グロックに任せるから」

「あ、そう。なら大丈夫かな」

アネモアの言葉に納得するアインリーセ。

彼女にとってもグロックへ寄せる信頼は厚い。あの人がいるなら充分に勝算はある。

「それとロロベルを付けるつもりだ」

「あーそう。ならイケそうだね」

リックスタインの補足に頷くアインリーセ。

ロロベル・ローラン。助っ人という形でいろんなパーティーに手を貸す、王都で腕利きの冒険者だ。

特定のパーティーやパートナーがいないので、一度切りだったり期限付きだったりの仕事には誘いやすい。むろん「黒鳥」のメンバーではないが。

しかしロロベルは、知る人ぞ知る、恐らく国使である。

国の密偵、または隠密でもあるかもしれない。

一部の者しか知らないし、正確な立場は誰もわからないが、恐らく間違いないだろうとリックスタインは読んでいる。

あえて確かめないし、ロロベルも悟られていることを確認もしない。

暗黙の関係を維持したまま、時に利用したり利用されたり、手を貸したり貸したり、借りや貸しを作ったり作らなかったりと、無理のない利害関係ありきの親交を結んでいる。

彼女は、ここナスティアラ王国の上の方に顔が利き、貴族たちとも通じ、冒険者ギルドからの信頼も厚く、もちろん一冒険者としても非常に優秀だ。

ロロベルを誘う理由――いや、利点は、色々あるが、やはり一番に考えられるのは。

「国境に近いの?」

魔物を追っていたらついつい国境を越え隣国まで行ってしまった。なんて、意外とよくある話なのだ。

その場合、たとえ魔物を討伐できたとしても、魔物の所有権を隣国に奪われたりする。

「獲物を渡せば不法入国には目をつむる」などと言われて、煮え湯を飲まされた冒険者は少なくない。

むしろそれを狙って魔物を監視する者もいなくはないのだ。大物であればあるほどに監視がついている可能性は高くなる。

そんな時、ナスティアラ王国の上役や冒険者ギルドの上の方に関わることができるロロベルは、心強い味方となる。貴族の名前を出せるだけでも充分牽制になる。

「近くはないが、念のためにな」

黒皇狼の行動範囲は広い。だから念のためだ。

魔物と戦っている最中に、時や場所を気にしている余裕があればいいのだが、大物となればそれも難しい。

「それに、恐らくは合同作戦になるだろうからな」

最寄りの街にある冒険者ギルドで、二ツ星か三ツ星の冒険者たちが声を掛けられるだろう。黒皇狼なら二十人くらい必要になるだろうか。

王都に近ければ「黒鳥」が独占できたかもしれないが、各地のギルドのメンツもある。王都に拠点がある「黒鳥」だけに大物の獲物を渡すことはないだろう。

そこでもロロベルの顔が役に立つ。

彼女は冒険者ギルドの責任者とも話ができる。

獲物を配分する時に、「よそ者の主張」などと言われて報酬を減らされる恐れもある。

ホームじゃない場所で活動する時は、どうしても地元民の味方が多くなるので、これも念のためだ。

「まあややこしいところはグロックさんが考えてくれるでしょ。わたしはホルンの面倒見てればいいよね?」

「今回はな」

今回のチームは、グロックに一任される。

アインリーセが任されるわけではないので、まあ言ってしまえば余計なことは考えずグロックの手足として役目を果たせばいいのだ。頭は彼なのだから。

「りょーかい。いつ出発したらいい?」

「ロロベルからの返事次第だな。早ければ早いほどいい」

獲物は早いもの勝ちだからな、とリックスタインはアインリーセを見据える。

「――失敗は許さん。そして死ぬことも許さん」

新入りなら必ずビビる怖いおっさんの眼光に晒され、しかしアインリーセはへらへら笑った。

「――はいはい。いつも通りだね」

言い変えれば、不器用な初老の精一杯の激励の言葉であるから。

ロロベルからの返答は早く、アインリーセらが朝食に行って戻ってきたら、すでに届いていた。

すぐにでも出られるとのことで、午後には出発が決定した。

今朝までのんびりしていたはずなのに、急になかなかタイトなスケジュールとなり、午前中は準備に方々走り回ることとなった。

長くなった金髪を後ろで結わえた無精ヒゲのグロックが冒険者ギルドで依頼を受け、今回限りの助っ人で呼ばれたロロベルが一緒に拠点に戻ってきたその足で、出発となった。

北門付近にある陸竜運送屋に向かい、四匹の陸竜を借りる。

陸竜。

大雑把に言ってしまえば二足歩行のトカゲである。色は緑から茶色と、野生にまぎれる保護色だ。

一人乗り用の馬に代わる魔物の一種で、馬より一回り大きく、足も速ければ体力もある。丸一日くらいなら余裕で走り続けることができる。

それに、あまり上下に揺れないことから、馬より騎乗するのが簡単で乗り手の負担が少なくて済む。賢いので「合図として覚えた指示」は聞くし、素人でもすぐ乗れる。

難点は肉食獣丸出しの竜顔が怖いことと、自分より強い魔物と遭遇したら逃げること。

そして、契約によって使役されているので半日も放置したら自分の契約者――この場合は借りた王都の陸竜運送――の下に勝手に帰ってしまうこと。

つまり、片道だけの乗り物ということだ。

まあ、どこぞの街まで走るだけなら充分ということである。

「ひさしぶりだなー陸竜肉。元気そうだなー」

ホルンは、顔を見せたらすぐ寄ってきた、借りる時は「いつもこいつ」と決めている陸竜の首を撫でる。

傍目には、陸竜はどれも同じに見える。

鱗の色や柄くらいでしか見分けがつかないが、ホルンは野生の勘のようなものですべて見分けがつく、らしい。感覚的なものなので実際見分けているわけではないかもしれないが。

「おい嬢ちゃん! 勝手な名前で呼ぶの本当にやめろ! てゆーか肉って呼ぶな!」

牧場で陸竜を育て、契約して使役している運送屋の中年男性は、常連客であるホルンが「陸竜肉」と呼ぶことが非常に気に障る。

愛情をこめて手塩にかけて育ててきた陸竜を、それも一番に使役して付き合いが長く一番自分に懐いていると自負する古株を、である。

もう二十年の付き合いになるパートナーを「肉」呼ばわりなんて許せない。サリーナという素敵な初恋の女の名前を付けているというのに。

ただし、ホルンに撫でられている「 陸竜肉(サリーナ) 」は、嬉しそうにグログロ喉を鳴らしているが。それもまた気に障る。契約している俺じゃなくてもいいのかと。主人は怒っているのにおまえは受け入れるのかと。誰でもいい女なのかと。おまえも俺を捨てるのかと。

「――では出発する!」

今回も運送屋のオヤジとひと悶着あったが、グロックの号令で四匹の陸竜は走り出した。

目指すはハイディーガの街である。