軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

446.メガネ君、ハリアタンとリッセに再会する

借りている部屋のベッドに座り、二枚の地図を見比べる。

「……うん」

これが、何日もバルバラント王都を調査した成果である。

自分で描いた地図と、市販されている街の地図を照らし合わせ、大きな間違いがないことをチェックする。

自分で描けるだけに、地図はもう頭の中に入っている。

そして、 仕掛け(・・・) もできた。

フロランタンから借りた、商業ギルドで売っているという街の地図は、商業ギルド公認の売り物だけに間違いはないだろう。

つまり、俺の頭には正確に入った、ということだ。

いや、もっと正確かもしれない。

区画として大雑把に区切られているスラム街も、鍛冶場街も、俺はちゃんと把握している。

そこまでの情報が必要になるかどうかはわからないが、情報は武器であり道具である。

必要な時にないとなると非常に困る。

あとは、調べられない場所だけが残っている。

バルバラント王城内。

犯罪者が収監されている坑道が幾つか。

あと、古い王城には必ずと言っていいほどあるという、王城と城下町を繋ぐ道。

緊急事態に備えて王族が逃げるための「王の抜け道」があると育成学校で習ったが、これも見つけていない。

まあ、そもそもあるかどうかもわからないが。

俺と同じように調査をしているだろうシュレンは、見つけただろうか?

…………

まあ必要ないか。

それが必要なのはたぶんハイドラだろうから。

「――あ、まずい」

すっかり陽が高くなっている。そろそろ行かないと。

――ちなみに、非情に残念ながら、ここの狩猟ギルドはすでになくなっていた。狩人業界の衰退は著しいものである。

部下経由でフロランタンに地図を返し、俺はそのまま大通りまで出た。

さて、リッセとハリアタンはどこにいるかな?

――考えるまでもない。彼らは冒険者だ、まずは冒険者ギルドに顔を出すだろう。

恐らく、到着は昨日の夕方から夜だろう。

もうすぐ昼だ。午前中は俺も休んでいたし、向こうもここまでの旅の疲れからさっさと休んだと思われる。

このくらいの時間なら、そろそろ向こうも活動しているはずだ。

というわけで、大通り沿いにある冒険者ギルドに顔を出してみた。

「――ヒュウ」

中に入ると冒険者たちが一斉に振り返り、なんか誰かに口笛を吹かれた。

うん、なんというか、女装している身なので、うまく化けられていると思えばいいのだろう。

ただ俺個人としては、複雑だが。

……くそっ、俺だって胸毛さえあれば……

「おい姉ちゃん、こっちで一緒に飲まねえか?」

しかも口笛を吹いた野郎が声を掛けて来やがった。軽薄そうに。くそっ、男らしい胸毛さえあれば俺だって……!

「――こっち見なさい。そして早く来なさいよ」

…………

目が合うと絡まれそうだと思い見なかったが。

その聞き覚えのある声には、振り向かずにはいられなかった。

「…………」

――探していた二人だった

軽薄そうな声で軽薄に誘って来たのは、ハリアタンだ。

二年前はまだ少年っぽさが残っていたが、背も伸び身体つきもよくなり、すっかり青年という感じである。サッシュ同様ちょっと男らしくなっている。

もちろん、俺だとわかっていて声を掛けてきている。

そして、青年ハリアタンと一緒にいる赤毛の女性は、リッセか。

……うわ、すごいな。めちゃくちゃ強そうだ。

「素養・闇狩りの剣」という資質もあったせいか、元々戦闘能力は高かった彼女は、この二年でしっかり実力を伸ばしてきたようだ。

見た目はそう変わらないけど。

いや、やっぱりちょっと顔立ちが精悍になっている気がする。

あと、俺を睨んでいる。すごく睨んでいる。

「――来い。早く」

一瞬このまま引き返したくなった俺の心境を呼んだかのように、リッセは俺をテーブルに呼ぶ。

……このままでは悪目立ちしてしまう。

仕方ない、行くか。

「久しぶり」

と、空いた椅子に座る。

「おう、久しぶりだな。……今はエルでいいんだよな?」

そう言うハリアタンには、頷きながら「〇点でもいいけど」と返す。

「おまえが素ならそっちで呼ぶよ」

どうやら変装中なので気を遣ってくれているようだ。

「なんか飲むか?」

「君たちは酒?」

テーブルには、ジョッキと料理が並んでいる。

「ああ――ここにいりゃ同期が来るだろうって相談してな。飲みながら待ってた。まあ予想以上に早かったけどな」

そうか。

まあ、見たところまだ酔ってはいないみたいだから、話はできるか。

「場所を移そう」

「やっぱそう来るよな」

うん。日中の冒険者ギルドは人の出入りが多すぎるし、曲者も多い。聞き耳を立てている者も普通にいると思う。

俺たちが関わる案件は、ここでできる話じゃない。

「じゃあ飯だけ食っちまうから、少し待ってくれ。リッセもそれでいいよな?」

「――なんで黙って消えたの?」

……さっきからずーっと睨んでいると思えば、ハリアタンの言葉に応えることなく、リッセは俺にこんなことを言い出した。怖い。

「卒業したから帰ろうと思って」

「なんの挨拶もなく?」

「おいちょっと待て、リッセ。 内輪の話(・・・・) に関わるなら場所を移してからだ」

「ちょっと黙っててくれる?」

「いや無理だろ。いくらエルがおまえより美人で色っぽくなってるからってそういう絡み方は痛ぇな!」

パーンと音が鳴るまで、ハリアタンが殴られたことに気づかなかった。

うわこわ……リッセのあの見えない平手が、二年の時を越えてもっと見えない速度になってる……というか今本当に殴ったか? 目の前で起こったはずなのに、本当に影さえ見えなかった。

「私の方が美人でしょ?」

「お、おう……すいません失言でした……」

え、そこ? そこで殴ったの?

ただの冗談だろ。ハリアタンはあんな速度で殴られるほどのことは言ってないだろ。

――ただ、あの平手を食らうのは、俺は絶対嫌だ。

ただでさえ殴られたら落ち込むのに、あんな強烈なの貰ったら……しばらく引きずりそうだ。

「――で? なんで?」

怖いこっち見るな。

「冒険だの旅だのなんだの、誘われたら断る自信がなかったからだよ」

何がリッセの逆鱗に触れるかわからないので、もう正直に話すことにした。

再会した時にベルジュにも責められたので、きっと、俺には弁明の義務があるのだろう。

「――私にとっては、リッセも、他のメンバーも、別れがたい相手になっていたから。たぶん面と向かって何かに誘われたら、一緒に行きたいと願ってしまうから。

だから顔を合わせずに消えた。とにかく一度は故郷に戻らないとと思っていたから」

これで説明に…………

「へえ? 私も別れがたい相手だったの?」

「うん。特にリッセなんかは、なんだかんだで付き合いも長くなってたしね」

……説明に、なったようだ。

イライラが止まらなかったらしいリッセが、ニヤニヤし出したから。ちょっと機嫌が直ったらしい。

よかった。あの平手は本当に食らいたくない。