軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

426.メガネ君、最後の集会に参加する

レース結果を鑑みて、ジジュラの目論見は問題なく成功した。

勝者はリッセではあるが、誰が勝ってもおかしくないほどに張り合ったアヴァントトとサキュリリンのおかげで、「ゴーグル」の有用性が証明された形となり。

「――ちっ、仕方ねえな……」

渋々という感丸出しの戦士長の言葉で、戦士たちに「ゴーグル」が受け入れられる形となった。

なお、俺が個人的に絡まれている時にこそっと聞いたところによると、ジジュラ個人には「ゴーグル」に対する嫌悪感や忌避感は特になかったそうだ。

目を守る防具であるなら受け入れない理由はない、と。

ただ、立場的な問題もあったので、どんな形で流入してきたとしても一度はごねていただろう、とのことだ。

この辺りは竜人族の文化と歴史に抵触するだろうから、俺から言うことはない。

まあ、面倒臭いな、とは思うが。

身分ある人って大変だよね。

レース及び祭りの日が終わり、まだ渡していなかった古参たちへの「ゴーグル」の受け渡しも終わった。

次に、予備分の補填と、目が悪い元戦士たちへの「メガネ」の引き渡しも進み、いよいよ俺の仕事は終わろうとしていた。

――そんなある日の夜のことだった。

「近い内に撤収しようと思う」

集めた調査隊メンバーと久しぶりに全員揃った夕食を取り、彼のテントに移動したところで、サジータは切り出した。

リッセ、リオダイン、セリエ、ベルジュ、カロフェロン。

そして俺とサジータ。

里に来た面子は誰一人欠けるなく、撤収の日を迎えようとしていた。

つまり、調査任務はもうすぐ終了ということだ。

なおネロはこの場にいない。

いたら俺とカロフェロンの気が逸れるから。――たぶん今頃は長老宅でゴロゴロしていると思う。夜は高確率であそこにいるから。広いし温かいし。やたらエサも貰っているみたいだし。ちょっと太りだしてるし。

「予定していた期間の経過と、それなりの成果があったからね。ここらで一旦終了にしようと思ってる」

厳密に言うと、竜人族の里に来た理由は、もうなくなっているのだ。

今回は「ゴーグル」絡みで呼ばれて、つい先日その辺の仕事が無事完了したから。

「メガネ」と「ゴーグル」の調整には終わりはなさそうだが、大筋もう完了していると言っていいだろう。

こだわり続けたら切りがないしね。

「結果的には上手くいったのですか? 内容についてはまったく聞いていなかったので……」

基本「調査には触れず好きなように過ごせ」と言われていたメンバーなので、ベルジュを筆頭に、その辺の疑問は当然だろう。

「上々だね」

そんなベルジュを始めとしたメンバーに、サジータは強く頷いて見せる。

「率直に言って、調査が一歩進むだけでも充分で、進まない可能性の方が高いと思っていたから。

それが予想に反して百歩くらいは進んだ。僕は完全勝利レベルの成功だと思うよ」

へえ、そうなんだ。

俺もある程度はサジータと情報を共有しているが、調査対象についてすべてを把握していたわけではないのだと思う。

ドラゴン周辺のことを調べる、というのは最優先だったと思う。

だが、じゃあ他の情報は必要ないのか、と言われればそうではないだろうから。

だから、どれが有用な情報でどれがそうじゃないかなんて、厳選できない。

それができるのは深く調査に拘わる彼だけだ。

しかしまあ、「完全勝利レベル」とまで言うのであれば、サジータにとっては価値ある情報がたくさん集まったのだろう。

成功だと言うのであれば、俺も一安心だ。

ワイズに命じられた仕事を不足なくやり遂げられたのであれば、来た甲斐があったというものだ。

「それはよかったです。はっきり言って私は何もしてないですし」

セリエのその言葉に、リオダインとリッセも自分たちもだとばかりに頷く。

「いいや、貴重な情報を拾ってきているよ。切りがないからいちいち上げることはしないけど、僕にとっては無駄じゃない。

確かにカロフェロンのように実績があればわかりやすいけど、君たちも得難い情報をたくさん持ってきているよ。いなくていい人員は一人もいなかったと思う」

カロフェロンの実績と言うと、例の毒に効く目薬を開発したことだな。

「あ、あ、あの、レシピ、渡しておきますので……好きに……」

「ありがとう。活用させてもらうよ」

彼女が差し出した紙を、サジータが受け取る――なんでも錬金術による調合なので、普通の薬剤調合では解毒の目薬は作れないそうだ。

竜人族の里には錬金術に通じている人がいないので、俺たちがここに来る前に滞在したハルハの街辺りで調達することになりそうだが……まあその辺は長老が決めることである。

「さっきも言ったけど、調査は大成功だ。この辺で一区切りつけて解散しようと思う」

調査隊責任者の解散宣言が出た。

俺は主導役を任されていたけど、リーダーはやっぱりサジータだったと思う。

彼が引き際だと言うなら、文句なんてあるはずもない。

「あの、どうしても気になることがあるんですけど」

リオダインが控えめな挙手に、サジータはどうぞと答える。

「あの毒のドラゴンと骨の正体って、結局わかったんですか?」

あ、そうだ。

すっかり忘れていた。

計らずとも「夜明けの黒鳥」と共闘することになった、あの黒いドラゴンと、そのドラゴンが持っていた骨の正体。

今回の調査任務に直接の関係はないかもしれないと思っていた俺は、あれらのことはあまり考えることさえしなかった。

あの骨が毒を生むのではないか、なんて恐ろしい可能性も考えたが……結局どうだったんだろう。

「―― 始祖竜(アラアグラ・ジ) の骨らしいよ」

えっ。

「調べてたんですか?」

ほとんど行動を共にしていた俺が知らなかったので、思わず問うと。

「調べたっていうか、あれはもう長老に聞かないと答えはわからないと思って。二人きりの時に質問したら教えてくれたよ」

あ……ああ、なるほど、そうか。そうだね。

確かにあれは、もう知っている人に聞かないとわからない類の謎だもんね。

「と言っても、長老もはっきりはわからないって言ってたね。

さすがに同じ森に住んでるだけに、毒ドラゴンと謎の骨について把握はしてたみたいだけど。

でも、彼らも誰かに答えを貰えるわけじゃないから。

里に伝わる古いおとぎ話から、そうじゃないかって当たりを付けてるみたいだね」

そうか……つまりはっきりしたことはわからないのか。

「アラアグラ・ジ。

古い言葉で、『原初のドラゴン』って意味になるみたいだ。

はるか昔、全てのドラゴンの始まりのドラゴンとも言われる 始祖竜(アラアグラ・ジ) が、この地で死んだ。

死してなお膨大な魔力はこの世に残り、その魔力から数多のドラゴンが生まれた。

生まれたドラゴンは各地に飛び立ち生息地を広げたり、またこの地に留まったりした。

それが、この森にドラゴンが多く生息する理由らしいよ。

いわゆる先住生物ってことだね。ドラゴンが多いというか、ドラゴンが生まれた場所がここって話だよ」

……ふうん。

おとぎ話からの推測だけに、信じていいやら悪いやら。

そして、その話が正解なのかどうかも、わからないわけだ。

「で、例の骨は 始祖竜(アラアグラ・ジ) のものだと言われていて、不思議な力を持っているんだ。これは確かな情報だよ」

「不思議って、毒を生み出すってことですか?」

「いや、逆だね。地面に置くと周辺から草が生えてくるんだ。実際この目で見たよ。なんていえばいいのか……生命が誕生する、とでも言えばいいのかな」

草が生える?

生命が誕生する?

……あ、そうか。

「だから森か」

草なら、生命なら、里の周りに果てなく広がっているではないか。

始祖竜(アラアグラ・ジ) が死んだ当時、ここはかつて荒れ地だったのかもしれない。

骨……というか 始祖竜(アラアグラ・ジ) の血肉が、ここら一帯を緑化し、それと同時にドラゴンが誕生したとか、そういうことになるのかな。

それこそおとぎ話にしか思えないけど……

でも、ドラゴンがたくさん棲む森ってだけでも、現存するおとぎ話って感じだしなぁ。

「ごめんね。僕も知っていることなら教えたいんだけど、ここに関してはわからないことしかないから」

何百年、もしかしたら何千年単位での過去の話である。

大昔と言っていい。

さすがに当時のことを知る者なんて、この時代にはいないだろう。

――ちなみに 始祖竜(アラアグラ・ジ) の骨は、やはりこの森や毒と関係があるようで、サジータは長老に引き渡したそうだ。

確かなことがわからない。

その上、森や毒と関係がある。

つまり、ドラゴンと関係がある。

不確かな要素にかなりの危険をはらんでいるので、この森から大きく引き離すのはやはりまずいだろうと考えたそうだ。

万が一にもこの森のドラゴンが拡散したら、いくつも街が滅ぶだろうから。

骨を持ち帰って本格的な調査を……とも考えたらしいが、もしかしたらのリスクが高すぎるのでそこは諦めた、と。

正しい判断をしたと、俺は思う。