軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

417.ドラゴンレース 4

「――あいつこけてたよ。序盤で」

周りを見ていたサキュリリンにそう言ったのは、横を走る女戦士だった。

サキュリリンが何を見ているのか――誰を探しているのか、多少付き合いがある戦士ならすぐにわかる。

最初こそ、三十に近い 四足紅竜(ラウジオ) が一つの生き物のように群れていたが、今ではかなりまばらである。

血気盛んな戦士はすでに邪魔者を蹴落とし始めているし、障害物の多い荒れた獣道では、騎乗技術の拙い者がはっきりと遅れたのだ。

「序盤?」

――ああそうだ、とサキュリリンは頷く。

そうだ、邪魔なジジュラが脇に移動し 誰か(・・) を獣道の外に追い出そうとしていたのは見ていた。

あれで落としたのが、あいつ――リッセだったのだろう。

明らかに先んじてくる誰かを、見せしめの誰かを待っていたジジュラを警戒していたら、無警戒で一気に先頭に飛び出してきた者が、確かにいた。

思い返せばあれがリッセだったのだろう。

ジジュラが蹴落としに掛かったその隙を突いて、サキュリリンを先頭にした女戦士三人は、ほかの戦士たちと一緒に前に出たのだ。

サキュリリン率いる女戦士四人組は、現在トップ集団の中にいる。

だが、まだレースは半分も終わっていない。

この先どうなるかはわからないが――しかし。

「――呆気ないな」

年長の女戦士が言った。

そう、確かに呆気ない。

余所者ではあるが、リッセは戦士の訓練に普通に付いてくるような強者だった。

男の戦士にも引けを取らないサキュリリンと並ぶくらいに強かった。

性格も明るく、からっとしていて付き合いやすかった。

少なくとも、何かと行動を共にすることが多かった女戦士たちとリッセは、かなり仲が良くなっていた。

だからこそ、当然のように誘ったのだ。

――今度のレースでは共に走らないか、と。

戦士しか参加しないのであれば、どうせ荒っぽいものになると思っていた。

実際荒っぽいことになっている。

ジジュラは歳を考えろ、少しは自重という言葉を憶えろと思わずにはいられないくらいだ。

――そのジジュラはいつの間にか追いつき、また先頭を走っているが。今度は見せしめの誘いではなく、本気で走っている。さすがに速い。

面倒臭い、煩わしい蹴落とし行為は、群れになることである程度は防げる――グループだけに、一人に仕掛けられたら全員でやり返すことができる。

レース後半こそきちんと勝負するつもりだが、それまでは仲間として、自衛を兼ねて共に駆けようと約束し、女戦士たちは結託した。

男の戦士たちの強さ、苛烈さを知っているがゆえの対策である。

やり方が汚いだのなんだの賛否両論あるかもしれないが、これはこれで勝率を上げるための知略である。

首の上にある物が飾りじゃないなら使って当然というものである、と。そう割り切った。

しかし、リッセはサキュリリンたちの誘いを断った。

――「そんな走りで風になれるの?」

正直何言ってるか全然わからなかったが、断っている雰囲気だけは伝わってきた。それで交渉は決裂した。

――「安っぽいスリルでもいいんだよ。熱くなれればさ」

なおも何か言いたげだったリッセを放置して、サキュリリンたちはレースに向けて準備をするのだった。

そんなこんなで、レース当日。

リッセは序盤で蹴落とされてしまったそうだ。

「……確かに呆気ないな」

――これで終われば。

サキュリリンには、これでレースが……リッセが終わるとは、まったく思えなかった。

そんなに簡単な女なら、友にはなれていないと思う。

往生際の悪さも強さの内だ、そう簡単に勝負事を諦めるようなリッセではない。最近 四足紅竜(ラウジオ) に乗ってからちょっとおかしくなってはいたが。本質は変わっていないはずだ。

だが、空けられた距離は簡単には覆らないだろう。

里が見えてきた。

ここを通ればほぼ半分である。

「――ハーハッハッハァァッッ!!」

出た。

大物狩りを終えた戦士長ジジュラが、里の民に力を誇示する、腕組をして駆ける手離しウイニングランである。

戦士長は里の槍である。

戦士長は里の力である。

戦士の長は、何者よりも強い存在である。

勝負の行方を予想し、レースに注目している里の民が、一番人気であろう戦士長の勇姿にわっと湧く。

――トップを走るジジュラを追うようにして、先頭集団は中間地点を駆け抜けていった。

「――なんだ!?」

ようやく彼方に里が見えてきた頃、戦士は彼女らの射程距離に入ってしまった。

単独で先頭集団を追っていた戦士が、背後から猛スピードで追い上げてきたリッセに気付き驚く。

基本的に、 四足紅竜(ラウジオ) はどれもが速い。

全速力で走っているなら尚更だ。

さっき抜けた荒れ地のような、減速する要因がない限り、なかなか追いつけるものではない。

――なのに、追い上げてきた。

ほかの成体と比べると、一回り小さな 四足紅竜(ラウジオ) 「黒鱗」。

速いことは知っていたが、まさかここまで速いとは思わなかった。

レースが始まる直前に思った「こいつを先に行かせてはならない」という回答が、俄然当たっていたことを今になって悟る。

顔を隠すような「ゴーグル」を着けた赤毛の少女にじりじりと距離を詰められ、戦士に焦燥感が募る。

もうすぐ里を通過する。

このままでは、余所者に抜かれる瞬間を民に――いや、あの娘に見せてしまう。

今日のレースに勝って、結婚するつもりだった。

それはつまり、戦士長や古参たちに勝つという大それた宣言をしたことになる。

まあ結婚を申し込んだ相手も、引く手数多で大それた女性である。

気立ても見目も良く、料理上手で、同年代の男には狙っている者も多い。

そして最近では、余所者の料理人などという怪しげな男と仲が良いと聞いて焦っていた、というのもある。

告白に弾みをつけるために、大それたことを言った。

実際本気で勝つつもりで走ってきたが、現実は残酷である。実力の差が如実に現れてしまった。

……この際負けるのはまだいい。

ジジュラや古参、若者の代表格であるアヴァントト辺りは、かなり先に行ってしまっている。

それだけならまだしも、女戦士たちさえ先行している状態である。

この時点で、すでに追いつける気がしない。

でも、だが。

しかし、しかしだ。

同じ戦士に負けるのはまだいいが、余所者にだけは負けたくない。

怪しい料理人を連れてきた今回の余所者にだけは、絶対に負けたくない。

しかも、このままではただ負けるだけではなく、負ける瞬間を見られることになりかねない。

――こうなったらやるしかない。

――蹴落とすしかない。

そんな覚悟を決めた戦士に、ついに赤毛の少女が追いついた。

「――なっ、なんだとっ!?」

そして驚いた。

一頭じゃなかった。

前を走る「黒鱗」の真後ろにピッタリと張り付くようにして、もう一頭が隠れていた。

――先んじる一頭を風除けにして、速度を上げて付いてきていたのだ。

気づいた瞬間、後ろの一頭――同じような変わった「ゴーグル」を着けた少年、たぶん余所者のあいつが横に滑り、赤毛とは反対側に戦士と並んだ。

一瞬で挟まれた。

この形はまずい。

仕掛けてくる――そう思う間もなく視界が回った。

中間地点である里に入る直前で、一人の戦士が転落した。

――参加者二十八人、十三位と十四位。

ここまででほぼ半数を抜いてきたリッセとエイルは、最速で中間地点を駆け抜ける。