軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

41.メガネ君、様子見に山へ行く

御者のおっさんと別れて、宛てがわれた宿……寮?に戻ると、寮の前に金髪の女と白い髪の女がいた。

セリエとフロランタンだ。

どうやら猫と遊んでいるようだ。

……猫だよな? すごく大きいけど。

「あ、エイル君。おはようございます」

俺に気づいたセリエは呑気に挨拶してくるが、俺は行儀よく座ったまま、大人しく撫でられている猫が気になる。機嫌は悪くなさそうだが……

「おはよう。それは猫でいいの?」

俺には通常サイズの猫には見えないのだが。

なんというか……大型の犬くらい大きいんだけど。

美しい白い毛並みに黒い斑模様が入っており、瞳は緑色。猫らしく綺麗好きなのかつややかである。……猫なのか? 座っている段階で小柄なフロランタンの背丈と同じくらい大きいんだが。猫と言い張るには大きすぎないか?

「うむ。ただの大きい猫じゃろう」

フロランタンは断言した。猫を撫でながら。なぜ断言できるのだろう。俺には猫には見えないんだが。

まあ別にいいか。

ここにいるということは、村の猫ではあるんだろうから。だったらそう危険なものではないのだろう。村には子供もいるみたいだし、危険があるなら放置はされていないはず。

……にしても猫かなぁ? 猫科ではあるんだろうけど、猫の大きさじゃないと思うけどなぁ。

まあいいか。猫のことは置いておこう。

まず朝飯を食って、それからおっさんから受け取った図鑑を見て、昼から近くの山に行ってみることにする。

いそいそと朝食の準備を始める。薄く切ったイノシシ肉を串に刺している俺に、女二人の視線が集まる。

「私の分、ありますか?」

セリエの質問に振り返らず答える。

「俺はもう自給自足の洗礼を受けたから。ただでは何も上げられないよ」

次はフロランタンだ。

「この猫をやろう。何か食い物をよこせ」

「フロランタンの猫じゃないだろ。というか君の分はある。焼こうか?」

「お、おおう。うちのだけあるんか。じゃあ頼む」

「え、なんでフロちゃんだけ?」

「昨日イノシシ運んでくれたから。その分け前がまだまだあるよ」

もっとちゃんと厳密に分けたいところだが、フロランタンは解体ができないし、生肉だのの扱いもわからないらしいから、こっちで管理している。

とりあえずこの朝食分を抜いた俺の分の肉と革は、御者のおっさんに行くことになる。

つまり俺の狩猟はわりと急務ということになる。俺の肉がないのだから。肉がない生活なんて耐えられない。

「うちの分だけない的な意地悪はようされとったから驚いたわ。おう、うちの分の肉、少しセリエに回してたってくれや」

「ああそう。わかった」

それが持ち主の要望なら、聞くだけである。

「フロちゃんありがとう」

「気にすな。ただの貸しじゃけぇ」

「……あ、そう。シビアなんですね」

「おう、うちだけじゃのうて現実は厳しいど。貴族の娘にはわからんかもしらんがな」

まあそういうことである。厳しいかどうかは別として、決して現実は優しくはないから。

そんなフロランタンの分の肉は、半分がなくなった。

「よう食うわ……」

肉を欲しがった猫に上げたからだ。……イノシシ肉を喜んで食うのか。あれはほんとに猫なんだろうか。

朝食を済ませて、部屋に戻った。

狭くとも個室である。やはり周囲に誰もいない環境は落ち着く。

ここなら落ち着いて本を読むことができるだろう。

まあ、まだ旅の疲れが残っているのか、少し寝てしまったが。それでも流し読みでパラパラと捲ってみた。

二つ気になったことがある。

まず、特定のページが開きやすくなっていること。

そして、特定のページだけ手垢が付いていること。

考えるに、特定のページを何度も何度も見返したってことだ。手垢が付くほど何度も何度も読み返したのだろう。汚れているのはその痕跡だ。

この本、もしかしたら俺たちと同じように、暗殺者育成学校にやってきた生徒が何人も手にしてきたのかもしれない。

特定のページだけ開きやすい、何度も見た痕跡があるってことは、その人にとってはそのページにはそれだけ頻繁に見るべき重要な情報が載っていたってことになる。

たぶん、開きやすいページの魔物が、近辺で出るってことなんだろう。

――惜しむらくは、難しい字があるおかげで、半分は読めなかったってことだ。俺はもう少し文字を学んだ方が良さそうだ。

昼を過ぎた頃、俺は準備を整えて、山に向かうことにした。

まだ様子見ではあるが、とにかく一度狩場を見ないと。

ついでに何羽か鳥やウサギを狩れればいいけど。肉がない生活なんて耐えられないから。

「…………」

それにしても魔物が多い。

山に入ってしばし。

見渡す限り、近辺には魔物が多い。縄張りとかどうなっているんだろう。共存しているのか?

しかもその魔物たちは、ふらっと村の方向へ行こうとすると、なぜか急に後ずさりし、どこぞへと走り去るのだ。

明らかに、暗殺者の村を恐れている。一定以上の距離に近づこうとしない。

実際に危険な人がたくさんいるのは確かだが。

人間にはない感覚で、本能的な恐怖を感じるのかもしれない。

それはそれとして、やはりというか案の定というか、獲物がいない。

魔物の存在が、動物などを遠ざけるのだ。奴らのエサになる場合もあるし、ただただ外敵として避けられることもある。

狩人の基本知識として、魔物がいるところに獲物はいないというのは常識だ。

……にしても、魔物が多いんだよな。

食える魔物もいるはずだが、肝心の図鑑が半分は読めなかったからな。

「肉はうまい」というフレーズがあった魔物がいるので、ちょっと狩れるかどうか探してみようかな。

試しに、一番近い魔物……大きな昆虫っぽい魔物の「数字」を見ている。

――そして、驚愕の事実を知ることになる。

「おいおい……」

見渡す限り、数字は「1」を示していた。

つまり、俺がこの山で狩れる魔物は、ほぼいないらしい。