軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

375.朱蜻蛉突破録 5

「――わかりました。では共闘しましょう」

話し合いの末に出した共闘の選択に、全員が異を唱えないことを確認して、サジータ経由で「黒鳥」に伝えてもらった。

「で、俺が指示を出すリーダー役ってことで本当にいいんですね? 前に出ろと命じることもあると思いますが」

「覚悟の上の提案です。我々にとっても必要な戦闘ですので、遠慮なく指示を出してください」

裏のリーダー・エイルの意見により、現場や戦闘中に混乱しないよう、グロックに指揮権を譲渡した。

せっかくの共闘だが、親しくもない者同士である。

息など合うわけがない。

むしろ邪魔になりかねない。

互いが互いを邪魔するような動きは、絶対にしてはならない。

だからこその命令系統の一本化である。

そして、ここから問題になりそうな部分も、すでに相談済みである。

なので、こちら側の提案を手短にグロックに伝えることができた。

今使える時間は限られているのだ。

まず、サジータ、カロフェロン、セリエは後方で分析と回収役だ。

戦闘には加わらず、離れた場所から黒いドラゴンを観察して、必要なら口を出す。

また、あまりあってほしくはないが、やられて動けなくなった者を回収して後ろに下がらせ、治療や応急処置を行う役目を担う。

――この時点では話す必要はないが、カロフェロンはすでに毒消し薬を造り始めている。

当人は「未知の毒にどれほどの効果があるかはわからない」とは言っていたが、手持ちの高価かつ希少な薬品を惜しみなく使うと言っていた。

あまり宛てにしたくはないが、いざという時に助かる可能性は、一応あるということだ。

使わないに越したことはないが。

それとセリエも、今毒消し用の「浄化の魔法陣」を用意している。

しかし、これがまた効果が弱いそうだ。

即効性はなく、即死するような毒にはあまり効果はなく、少し延命ができる程度だと考えてほしい、と言っていた。

まあ、これもないよりマシだ。

「わかりました。うちのアインリーセも同じくらい後方にいると思いますが、接触はしないようにしてください。あまりまとまっていると目立って襲われかねない」

親善団体の個々が、何ができるかわからないので、グロックとしてもすでに役割を決めて進言してくれるのはありがたかった。

「リオダインは魔術師で、風の魔法が使えます。タイミングを見て発動すれば、毒霧は防げるでしょう」

リオダインが使用できる魔術はかなり多いが、全部説明するには時間が掛かるので、ここでは風属性一本のみにしぼっておく。

どうせ乱戦の色が強くなってくれば、仲間を巻き込むような大規模魔術なんて使えないのだ。

――ちなみに、数百を超えるゾンビ兵団を消し去った、伝説の魔法「 聖華光(セルフィ・レイ) 」は準備不足で使えない。

黒いドラゴンの正体が死霊だの悪霊であるなら、低く見積もっても一定の効果はあると思われるが、あの魔法は大掛かりな事前準備が必要なのだ。突発的には使用できない。

「そうか、魔術師がいるのか。しかも風とは好都合です」

「好都合?」

「俺たちの中にも魔術師がいて、開戦前にちょっとデカいのをブチ込んでやろうと思ってたんですよ。

だが問題は火属性だってことです。実際やるかどうか迷ってたんですよ。火が飛び散る可能性もありますし」

何せ森が近いのだ。

多少の火なら大丈夫だとは思うが――しかし万が一森に火が広がったら、大変なことになる。

火災的な意味でも、森に住んでいるドラゴンという生物の動向にも。もちろん森の奥地に住んでいる竜人族にもだ。

黒いドラゴンの毒や霧が、可燃性である可能性もあるのだ。

油のような燃える液体だって存在するし、ドラゴンの毒液が燃えないとは限らない。

燃えるだけならまだしも、爆発して火を広めたりしたらシャレにならない。

「ああ、なるほど。風が使えればもしもの時に対処できそうですね」

リオダインは、「黒鳥」の魔術師ライラと打ち合わせをしにいく。

グロックがリオダインにどう指示を出すかはまだわからないが、魔術師同士で話したいこともあるのだろう。

「あとはエルとベルジュとリッセですが。

エルは回避が得意なので、最前線で囮として動きたいそうです」

ついでにエイルの役割は、毒のサンプルの回収である。――「素養」を駆使すれば無理ではないと判断した。

「ベルジュとリッセは光属性持ちで、毒がやや効きづらい体質です。武器はメイスと剣。なので近接組になりますが……あのドラゴンとはちょっと相性が悪いかもしれません」

「確かに相性が悪そうだ。相手は毒の塊みたいな奴ですからね……まあ、ありがたく隊員は預からせていただきます」

これで簡単な話し合いが終わった。

グロック自身、まだ黒いドラゴンとどう戦うか決めていない。

いや、黒いドラゴンの情報がなさすぎて、まだ作戦を組み立てられない状態にある。

しばらくは様子を見ながら、討伐に向けての構想を詰めていくことになりそうだ。

――初手で終われば楽なんだがな、とは思うが。

後方に控える予定のサジータ、カロフェロン、セリエを残し。

エイル、ベルジュ、リッセはグロックに付いて「黒鳥」メンバーと合流する。

「……?」

が――エイルは、黒いドラゴンを巧みに誘導しているアインリーセに手招きされた。

「ああ、行っていい。囮ならおまえの役割に説明も段取りもいらないだろ」

同じくそれを見ていたグロックがエイルに許可を出すと、あまり気は進まないが、エイルはアインリーセの元へ向かい――

「――何やってるの弟くん?」

手招きされた時点で嫌な予感はしていたが、アインリーセは一点の曇りもないド直球で嫌な予感を放り込んできた。

ちなみに近くには誰もいないので、やや声を抑えている程度のものである。

傍目には普通に話しているようにしかみえないだろう。秘密の話とは思うまい。

「――なんのことでしょう?」

一応エイルはエルとして返答をしてみるが。

「君、狩人でしょ。私も狩人みたいな修行をしてきたんだよ。冒険者歴はまだ短いけど、弓を使い始めてから十年以上経ってる。もちろん狩り歴もね」

黒いドラゴンの動向を見つつ、あえてまともに当てないようにして黒いドラゴンを移動させつつ、アインリーセはのんびりした口調で言う。

「同類ならわかると思うけど、どうしても生き物の癖とか探しちゃうんだよね。習性とかさ。

初めて見た時から、君は知ってる人と似てたから。見た目は全然違うけどね。

で、君は弟くんだよね?」

完全にバレている。

もはや言い訳は通用しないだろう。

「秘密にしといてもらえませんかね?」

「んーまあ、ホルンと会うと面倒ってのはわかるからねー。別にいいよー」

――それにしてもだ。

「すごい腕ですね。私の師匠並です」

アインリーセは話しながら、長弓を引き続けている。

この長距離で、常に黒いドラゴンの頭に かすめる(・・・・) ようにして矢を当てている。向こうからすればかなり鬱陶しいだろう。

エイルは長弓を使えないこともあり、長距離を狙うことはなかった。――そもそも修業時代は目が悪かったので、遠距離なんて見えなかったのだから仕方ない。

「今日は風があんまりないからねー。狙いやすいだけだよー。――あ、見つかったかも」

本当だ。

黒いドラゴンは、動かず、ただ一点を……矢を飛ばしているこちらをじっと見ている。

そして、動き出した。

まっすぐこちらに向かってくる。――やはり気付かれたのだ。

「――グロックさーん。バレたー」

「――わかった!」

ゆったりしたアインリーセに、グロックは即座に答えた。

「ライラ、やれ! 坊主、火が飛び散ったら風の魔法頼むぜ!」

と、グロックが指示を出す。

戦闘開始は近い。

四足の黒いドラゴンだが、その動きはやや遅い。

形はほぼ同じである 四足紅竜(ラウジオ) の速度は、かなりのものだったが――血肉を持つ存在ではないから、かもしれない。

「そういえば、弟くんはライラと狩りに行ったことがあるんだよね?」

「え? ああ、はい」

田舎の村から王都ナスティアラに到着し、すぐのことだ。

魔術師ライラと一緒に、赤熊を狩りに行った。

――もうずいぶん昔のことのように思えるが、まだあれから一年経っていないのだ。

赤熊も狩れなかったあのライラが今ここにいる、というのも驚くが。

ドラゴンとの開戦の狼煙を彼女が上げる、というのも、また驚くべきことだろう。

「あの頃と比べたらかなり腕を上げてるよ。見て驚くといいよ」

「そうだといいですね」

と、エイルが答えた瞬間――ライラは高らかに、力を帯びた言葉を発した。

「――忌み呪い罰せよ! 貪欲の罪炎(グリード・フレイム) !!」

ゴッ!! オオオオオオオオオオオオ!!!!

ライラの言葉で、黒いドラゴンは一瞬にして炎に包まれた。

炎は高く高く火柱のように立ち上る。

空気を食んで轟音を上げ、うねり、廻り、歪み、取り巻く周囲のものごと黒いドラゴンを焼いていく。

…………

「……そういえば言ってたな」

まだ距離はあるのに、ものすごい熱気が伝わってくる中――エイルはポツリと呟いた。

そう、確かにライラは言っていた。

エイルが赤熊を狩った後、確かに言っていた。

――私は「火炎球」が得意だ、とかなんとか。

あの時は苦し紛れの言い訳だとしか思えなかったが、本当に彼女には火属性の才があったのだろう。

それはそうか。

ライラは、王都でトップクラスの「夜明けの黒鳥」が欲しがった人材である。

当時は駆け出しの冒険者でしかなかったかもしれないが、いつまでも駆け出しのわけがない。

……まあ、少々、才能があり過ぎな気もしないでもないが。